Ⅰ
すりかえられた物語の愛撫に襲われないために
希釈された世界の対立に慰められないために
事件がはじまるときに告げるものがあった
濁った風が吹くとき
予感された純潔を消せ
集められた廃疾の物語をまえに
未来を語るな
Ⅱ
悦びが悲しみに担われないときに
こころがまだおまえじしんであるときに
おまえが加担してしまう未来は
即自に凍りついている
おまえはモノのように手続きを踏んで
慰められるために
慰めのコトバを配布する
決裂がおそろしいとき
解体されるおまえの姿がある
みつめられるじぶんを感じるとき
かすめとられたおまえの姿がある
街に光が満ちて
だれかがおまえを呼んでいる
配布されたコトバをたしかめるために
だれかがおまえを脅迫しているのかもしれない
Ⅲ
くらい夢遊病者の善意と妄想が
ゴツゴツした地べたを苦く嘗めている
しじまに漂う追憶の天使たち
黄昏にうまれ
暁に死ぬと定ったイノチたち
儚い夢に濡れ
星をデッサンするこころ
いっさいが許されたとおもわれるような夕べ
寛容と祝福に満ちた台所に
無数の幸福が眠っているのか
Ⅳ
嘆きが霧のように部屋を占領し
おまえの白い手がふるえだし
こころをしめつける暗い影がうごきだすとき
風景を凝固させる
カンテンのような戒律が
どこかでほくそ笑んでいないか
閉じ込められた壁からはみだした
おまえの白い指から
透きとおる涙がこぼれていないか
Ⅴ
街の灯りに誘われて歩きだした者の飢渇が
ネオンサインの冗談にからかわれている
ここにくればこころが解き放たれる
とはいったい何か
おまえは僕を知らず
僕はおまえを知らず
ただからかわれた記憶と現実に
憎しみをとおして結ばれるだけだ
それがふたりをどこへ導いていくのか
亀裂を過激に開いてみせるものかもしれない
ひとびとを不当にはずかしめ
不幸を肥大させるかもしれない憎悪は
風景の片隅でしずかに
窒息させなくてはならないのか
その儀式はひとびとの寛容に看取られなくてはならないのか
そうして息を殺して
祖霊たちが謡いつづけた
忍辱の民謡に涙を流すのでなくてはならないのか
Ⅵ
田園にはまるまるとした雲が流れ
午睡のオジたちやオバたちが
握り飯とタクアンで腹を満たした畦道に
白い蝶が舞い
川遊びの子どもたちの声が
大地の精霊であり
山端の向こうに描かれた
欠伸の出るような偉大な神話が
血族と村びとの真実であり
清みきった青空と大地をむすんで
〈色の欠けた虹の橋〉が
透明な陰影をつくった故郷で
おまえは風景に埋め込まれた重力に
あたたかくこころをゆだね
老婆に引かれた子牛のように
幼い時間のすべてが
そこから乳を吸ったのか
Ⅶ
みいだされなかった不幸が幸福なら
薄められた対立が平和なら
故郷の夕暮れは
忘却の愛撫に深く抱かれている
意味のわからない民謡に
いっさいが委ねられるように
賄いの台所から湯気が立ちのぼり
星々のきらめきに祝福されるように
木々にとばりが落ち
子どものおまえは小さな膝に傷をつけて
涙をぬぐってもらうために
泣かされた相手の素性を語るために
いつでもここに帰ってくるのだろうか
Ⅷ
不幸がおまえと仲間に共有されるとき
物語はほどよい安堵を
パブのカウンターか
あるいは湿ったテーブルの上に突き出しているのか
それとも透きとおるような屈辱と慈愛が
薄暗い室内にはりつめているのか
遠くを見やるそのまなざしが
孤独の形態なら
そのまなざしは世界を
心臓深く刺し貫くものであるのか
それとも太古への追憶とともに
忍辱の民謡はかならずここに
訪れているのでなくてはならないのか
おまえの古代をなつかしむこころが
おまえの事件をなかったことにするかもしれない
無償の饒舌に担われたあらゆるコムパは
そのことを望んでいるのかもしれなかった
Ⅸ
訣別がおまえに憎悪をおくり
そのやさしげな裏切りで
こころを満たしたそれは
かなしみに満ちたせつなさで
おまえにおくられた憎悪をふさぐそれは
化石するおまえを嘲笑するものであるのか
おまえのまえには依然として先達があるのか
そのことはおまえを悦ばせない
なるほどと何度もうなずきながら
唇はそこに向かわない
天候をわかたず天を染め抜いて
挑発しつづけるものがたしかにあり
疑問符を冗談のように見せつけながら
不可能はその正体を現わしていたのか
冷酷な朝が沈黙を堰きとめるとき
おまえは過去を並べて廃疾のいまを蝕ませる
そのときおまえはたしかに
みずからを供犠へと捧げていた
振りかえるそぶりが満ちて
なにかが失われつつある
温愛に満ちて訣別が手招きしている
Ⅹ
草の息がひそむ場所は神聖だ
湿ったイノチの戦慄は終らない
おまえの心臓がそこにあり
おまえの季節への感情は
絶望のように輝く
悲しみを供犠するひとびとのために
おまえはおまえだけの勇気にになわれ
そこに滅びていく者のひとりとして
出ていかなくてはならなかった
そこは誰も知らない
知らされないその土地は
おまえの彷徨が導く場所に限られている
じぶんがここにあるということ
それだけのために
おまえの言葉ははじまっている
風景ははじめから
おまえと和解しなかったから
おまえは風景の知らない影にしめつけられている
おまえはおまえの不幸に祝福され
風景に傷を入れるために街に入る
そこでおまえは
永遠に訣別を知らない者にならなければならなかった
それは訣別によって盗まれつづけるものを
何度でも奪いつづけることを意味していた
すりかえられた物語の愛撫に襲われないために
希釈された世界の対立に慰められないために
事件がはじまるときに告げるものがあった
濁った風が吹くとき
予感された純潔を消せ
集められた廃疾の物語をまえに
未来を語るな
Ⅱ
悦びが悲しみに担われないときに
こころがまだおまえじしんであるときに
おまえが加担してしまう未来は
即自に凍りついている
おまえはモノのように手続きを踏んで
慰められるために
慰めのコトバを配布する
決裂がおそろしいとき
解体されるおまえの姿がある
みつめられるじぶんを感じるとき
かすめとられたおまえの姿がある
街に光が満ちて
だれかがおまえを呼んでいる
配布されたコトバをたしかめるために
だれかがおまえを脅迫しているのかもしれない
Ⅲ
くらい夢遊病者の善意と妄想が
ゴツゴツした地べたを苦く嘗めている
しじまに漂う追憶の天使たち
黄昏にうまれ
暁に死ぬと定ったイノチたち
儚い夢に濡れ
星をデッサンするこころ
いっさいが許されたとおもわれるような夕べ
寛容と祝福に満ちた台所に
無数の幸福が眠っているのか
Ⅳ
嘆きが霧のように部屋を占領し
おまえの白い手がふるえだし
こころをしめつける暗い影がうごきだすとき
風景を凝固させる
カンテンのような戒律が
どこかでほくそ笑んでいないか
閉じ込められた壁からはみだした
おまえの白い指から
透きとおる涙がこぼれていないか
Ⅴ
街の灯りに誘われて歩きだした者の飢渇が
ネオンサインの冗談にからかわれている
ここにくればこころが解き放たれる
とはいったい何か
おまえは僕を知らず
僕はおまえを知らず
ただからかわれた記憶と現実に
憎しみをとおして結ばれるだけだ
それがふたりをどこへ導いていくのか
亀裂を過激に開いてみせるものかもしれない
ひとびとを不当にはずかしめ
不幸を肥大させるかもしれない憎悪は
風景の片隅でしずかに
窒息させなくてはならないのか
その儀式はひとびとの寛容に看取られなくてはならないのか
そうして息を殺して
祖霊たちが謡いつづけた
忍辱の民謡に涙を流すのでなくてはならないのか
Ⅵ
田園にはまるまるとした雲が流れ
午睡のオジたちやオバたちが
握り飯とタクアンで腹を満たした畦道に
白い蝶が舞い
川遊びの子どもたちの声が
大地の精霊であり
山端の向こうに描かれた
欠伸の出るような偉大な神話が
血族と村びとの真実であり
清みきった青空と大地をむすんで
〈色の欠けた虹の橋〉が
透明な陰影をつくった故郷で
おまえは風景に埋め込まれた重力に
あたたかくこころをゆだね
老婆に引かれた子牛のように
幼い時間のすべてが
そこから乳を吸ったのか
Ⅶ
みいだされなかった不幸が幸福なら
薄められた対立が平和なら
故郷の夕暮れは
忘却の愛撫に深く抱かれている
意味のわからない民謡に
いっさいが委ねられるように
賄いの台所から湯気が立ちのぼり
星々のきらめきに祝福されるように
木々にとばりが落ち
子どものおまえは小さな膝に傷をつけて
涙をぬぐってもらうために
泣かされた相手の素性を語るために
いつでもここに帰ってくるのだろうか
Ⅷ
不幸がおまえと仲間に共有されるとき
物語はほどよい安堵を
パブのカウンターか
あるいは湿ったテーブルの上に突き出しているのか
それとも透きとおるような屈辱と慈愛が
薄暗い室内にはりつめているのか
遠くを見やるそのまなざしが
孤独の形態なら
そのまなざしは世界を
心臓深く刺し貫くものであるのか
それとも太古への追憶とともに
忍辱の民謡はかならずここに
訪れているのでなくてはならないのか
おまえの古代をなつかしむこころが
おまえの事件をなかったことにするかもしれない
無償の饒舌に担われたあらゆるコムパは
そのことを望んでいるのかもしれなかった
Ⅸ
訣別がおまえに憎悪をおくり
そのやさしげな裏切りで
こころを満たしたそれは
かなしみに満ちたせつなさで
おまえにおくられた憎悪をふさぐそれは
化石するおまえを嘲笑するものであるのか
おまえのまえには依然として先達があるのか
そのことはおまえを悦ばせない
なるほどと何度もうなずきながら
唇はそこに向かわない
天候をわかたず天を染め抜いて
挑発しつづけるものがたしかにあり
疑問符を冗談のように見せつけながら
不可能はその正体を現わしていたのか
冷酷な朝が沈黙を堰きとめるとき
おまえは過去を並べて廃疾のいまを蝕ませる
そのときおまえはたしかに
みずからを供犠へと捧げていた
振りかえるそぶりが満ちて
なにかが失われつつある
温愛に満ちて訣別が手招きしている
Ⅹ
草の息がひそむ場所は神聖だ
湿ったイノチの戦慄は終らない
おまえの心臓がそこにあり
おまえの季節への感情は
絶望のように輝く
悲しみを供犠するひとびとのために
おまえはおまえだけの勇気にになわれ
そこに滅びていく者のひとりとして
出ていかなくてはならなかった
そこは誰も知らない
知らされないその土地は
おまえの彷徨が導く場所に限られている
じぶんがここにあるということ
それだけのために
おまえの言葉ははじまっている
風景ははじめから
おまえと和解しなかったから
おまえは風景の知らない影にしめつけられている
おまえはおまえの不幸に祝福され
風景に傷を入れるために街に入る
そこでおまえは
永遠に訣別を知らない者にならなければならなかった
それは訣別によって盗まれつづけるものを
何度でも奪いつづけることを意味していた