ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

2006 believing&unbelieving その5

2006-10-25 |  conversation
「ノスタルジー的に求められるものは、結局は社会全体が切り崩してきたものでしょ」
「自覚的だったかどうかは別にして、それらの否定の上に今があるよね」
「精一杯頑張ったその結果に直面して、愕然としているというね」
「結果ノーグッド」
「そこには自業自得的な歴史の積み重ねがあるわけでしょ」
「みんな海山や田舎より、アーバンライフの洗練を目指した」
「渋々か、それとも嬉々としてか」
「その両方あったかもしれない。だけど未来への期待は漠然とでも想定されていた」
「だから思い入れたっぷりに昔を懐かしむ光景というのは滑稽かもね」
「懐かしがっても何も変わらない。しかし、一時のガス抜きには使える」
「少なくともその残照を享受する喜びは捨てがたい」
「ただ現状は手つかずのままだ」
「そこで出てきたのが、美しいというキーワードですか」
「滑稽さに見合った言葉だね」
「そこにどんな意図があるのかな?」
「ノスタルジー的ニーズをくすぐることで結集を図る」
「何のために?」
「美しい国づくりでしょ」
「裏には、いまの社会はなんかヘンという感覚がある」
「ただ誰もそのヘンさをきれいに整理して説明できないから、受け皿として情緒的なツールが開発される」
「抑うつ感やら義憤やらもあるけど、焦点化できる明確な敵がみえないということかな」
「そこで社会的なゴミを一掃することでスッキリしたいということでしょ」
「国民的なゴミ掃除だ」
「だから条件として一応ゴミを特定しておく必要もある」
「敵?」
「うん。どこかに本当にダメで害虫のようなヤツがいて、そういう存在は矯正したり排除する必要がある。そうだそうだという感覚が雰囲気的に醸成されていく」
「同時に正当性とか正常性も保証される」
「心理的なチューニングが行われるということね」
「一方では法文に古典的な文句を書き込んで強制力をもたせようというバカも出てくる」
「古式ゆかしきご託宣だ」
「本人の言動をみればお里が知れるというヤツばかりでしょ」
「託宣だけならいいけど、私情や権益と結びついてナントカの刃物的に乱用される可能性もある」
「誰もが認める本当の害虫がみつかればいいけどね」
「めぐりめぐってそれが本人の足許を切り崩す可能性だってある」
「どこかにヘンなヤツがいるだろうと思っていたら、自分にお鉢が回ってきてびっくりっていうね」
「そうした見通しについてはほとんど無意識でしょ」
「そう思う。愚かだと思うけど、現実は少なからずそれで動いていく」
「社会そのものの自傷行為か」
「極論的にいえば、全体主義的的リストカット、あるいはナショナルな集団自殺」
「それはすでに歴史的に実験済みだよな」
「しかし広い意味では、誰もそういう誘惑から完全には逃げられないのかもしれない」
「その背景には劇的な環境の変化があるでしょ」
「日々の回転速度はすざまじい」
「熾烈な生存競争とそこで淘汰される恐怖。下りようとしても逃げ込める場所がない」
「それは世界サイズに拡大している」
「一言でいえばオプションのなさね」
「そういうものが回帰幻想の大量発生と結びついているじゃないか」
「怪奇現象ね」
「ないものネダリだけど理由はちゃんとあるわけだ」
「薄々わかってもいる」
「一方の日常は適応課題にあふれていて、もう一杯一杯」
「露骨に蹴落としてでもということはないけど、他人のことを考える余裕はない」
「むしろマジメな善人ばかりでしょ」
「そうした息苦しさが、現在の一応の平和や快適さを基底で支えてもいる」
「どんな平和だろ?」
「まあまあでボチボチということですか」
「システムが無難に回転する限り、ボチボチはキープできて安心ということはある」
「主観的には欲をかかず今の平穏を維持できればいいというね」
「あくせく働かずに左ウチワで暮らせたらもっといい」
「いいね」
「しかし苦役のような仕事は少なからずある」
「全体としてみれば切迫感が覆っているでしょ」
「知的技術的な上昇圧力にはすごいものがある」
「日々アップデートを強いられている」
「達成地点はすぐに乗り越えられて次々に新たな課題が浮上する」
「その動機が自分から発するものならいいけどさ、主体的な動機をもちようがない状況がある」
「アップデートの要請はいつも外からくるわけだ」
「主体の意志決定に先行してやってくる」
「オート待ちズム?」
「笑えない」
「外からというより、むしろ外そのものが内面化されている」
「動機が?」
「うん。自分であって自分でないというか。外部が身体的に組み込まれているというか」
「マシン化され自動化しているということ?」
「ある意味ではそう」
「そうするとどうしても鈍るよね」
「何が?」
「適応課題以外のものへの感度が」
「例えば?」
「異質な感受性や価値観、生活、環境、あるいは可能性としての自分のオプションとか」
「でもさ、昔の人間より知的だし情報ももっているでしょ。考える能力も幅もあり、センスもいい。集団を組織するノウハウもあったりする。ちがう?」
「確かに」
「昔のノリと今のノリを比べると、ずっとソフィストケイトされているとは思う」
「単純にそこだけ比較すればね」
「ただ、昔のほうが主体的だったとはいえないけど、今より充溢してたでしょ」
「喜びも苦しみもね。例えば、スキヤキを腹いっぱい食いたいとか皆思っていたらしい」
「同じスキヤキでも、昔のほうが格段に旨かったかもね」
「いまは分裂してるというか、拡散してるというか、全体に体温がヌルいとはいえるでしょ」
「人格システムとしての統合度がちがう?」
「課題を与えられればそれがプラスに働くけど、何かコアがない」
「そうね。主体としての思考や感受性は常にアイドリング状態にある」
「浮遊感か」
「確かに学習能力も高くてそのためのツールもふんだんにあるけど、簡単に言っちゃえば生き方の決済が外部化している」
「クラッチはいつも外から入る感じ?」
「それは不幸なことでしょ」
「一概にそうともいえない」
「なぜ?」
「全体の最適化の面から考えると自己選択よりマシな場合もあったりする」
「主体を委譲することが逆に心地いいとか?」
「苦役的側面もあるけど、一方でそれが出力する快適な暮らしというものは捨てがたい。トレードオフ的な関係だけど、快適面でたくさんお釣がくる」
「というか、まさにそうする以外の選択がないということでしょ」
「スキヤキが夢にまで出ることはない、という幸せかあるいは不幸か」
「もう一つは、そもそも回復すべき主体があるのか、それとも最初からそんなものはなかったのかどうか。わからないでしょ」
「かもね」
「しかもオプションとして何かが簡単に見つかるとも思えない」
「ボトムが消えたことが大きいのかも」
「やはり新しいパンツが必要ですか?」

(続)
コメント

2006 believing&unbelieving その4

2006-10-12 |  conversation
「究極的にはパンツへの帰依ということになるのかな」
「邪神やカルト」
「簡単にそこまでは行かないでしょ」
「比喩としての邪神やカルトね」
「ただそこに空隙があれば引力は働くよね」
「好みじゃないパンツを強制されるということ?」
「需要と供給があるということね」
「嫌々というより、甘美さもそこにはある」
「きっかけはごく日常的なことだったりするかも」
「例えば?」
「何でもいいけど、承認が得られたり、優しくしてもらったりすると心が動くでしょ。思わずホロリとしたり、親和性が高まって、一気に評価が上昇したりとか」
「たまたまスイートスポットに指が触れるとか」
「あるいは気がついたら別のパンツをはいていたということもあるかもしれない」
「単純に、現世利益が期待できるとか、仲間がみつかったと思えるだけでも嬉しい」
「それですべて終われば、一件落着だけどさ」
「やっぱり、とばっちりの問題が問題だな」
「累が及ぶということね」
「勢力拡大によって誰かが喰いモノにされるとか?」
「バタフライ効果ということもある」
「何ですか?」
「風が吹けば桶屋が儲かる式の負荷や不幸の拡大移転ということね」
「よくわからんけど」
「仮に邪神とかカルトが悪だとして、それを誰が判断するのさ?」
「キミやボク、一人一人」
「でも、その判断が常に正しいとは限らないよね」
「もっと言えば、何が正しいかという根本的な問題もある」
「じゃあ、それを分ける基準って何ですか?」
「結局、最終的な帰結から判断するしかないのかな」
「そんな悠長なことはできないでしょ」
「理屈から言えば、何が最終的帰結かも分からないぜ」
「うん」
「処置なしで、勝手にやってろということですか?」
「一応あるわけだろ、その社会や時代のスタンダードが。あるいは、かつてはあった」
「ものの道理、コモンセンス、人の道。あるいは世間とかいうもの?」
「邪神やカルトを見抜ける良識のようなものか」
「それもあやしいな」
「言い換えると、みんなが安心してはける平和主義的なパンツね」
「そうしたボトムが見えなくなっていて、みんな揺れてるわけでしょ」
「ボトムって何さ」
「ここだけは譲れないといったホームベースのようなものかな」
「信頼を寄せるに足るなにがしか。あるいは揺るぎない安心の場所とか」
「今やそれも人それぞれということになっている」
「それはそれで問題ないでしょ」
「そうかな。行き着く果ては、通じるのは日本語だけっていうことになるかもよ」
「でも、人それぞれっていうことで合意があるわけでしょ」
「実はそんな意見や見方も欲しかったんだよね、っていう言い方ね」
「うん。そんな分別がフルスロットルで回転している」
「ただ、その一言できれいに回収されてしまう状況がある」
「だから切々と感情や思いを語ることがダサイ?」
「いまや珍種の動物に見られるかもよ」
「まさに受け容れる余裕をプレゼンテーションすることも一つの必須アイテムになっているとか?」
「そういう芸を競い合うゲームね」
「何が大事かってじつに曖昧だ」
「一方では、全部まとめてお上が決めてくれるとかさ」
「すべてわかってくれてるというアテ先を夢想するということはある」
「ホンネをいえば、自分一人で全部考えるのは面倒くさいからね」
「分別より先に、身体が音をあげるということもある」
「一方のそれを回収する主体って何ですか」
「主体はないでしょ。ただ、そうしたメカニズムが稼動しているだけ」
「ということは、どこにも主体は存在しないわけだ」
「ノッペラボーの風景?」
「吹きさらしの酷薄な風景が広がっている」
「単純にそうともいえない。当り前だけど、それなりの機微というか、喜怒哀楽や物語もある」
「ただ、それがマーケット的な価値に換算されてしまうということかな」
「誰かが全体を操作的にそうするというより、それが内面化されているというね」
「常にそれが一人一人に組み込まれている状態か」
「単純にいえば、ウケるかどうか」
「それが一番の気がかりだ」
「決算書の奥付にはそうした評価軸について付帯事項がずらりと並んでいるかもよ」
「評価装置は緻密に洗練され、高度化していく」
「その洗練を競い合うためにホワイトカラーは頑張っているわけだ」
「それが自分の首を絞めるという現象も起こるのかな?」
「どういうこと?」
「短期的にはプロフィットを出力するけど、長期的にはめぐりめぐって自分が依って立つホームベースを浸食することも可能性としては十分あるでしょ」
「あるいはデフィシットの移転や付け替えもある」
「バタフライ効果を含め、地球規模で考えると全体収支は真っ赤っかとかね」
「それは誰も見通せないでしょ」
「見通せないことが領域を限定するとプラスになり、別の領域ではマイナスになる」
「でも頑張るね。みんな必死でしょ」
「合格不合格を気に悩みながら、日々受験生のように生きているようにもみえる」
「じゃあ、最後の合格っていうのは何ですか」
「終わりなき受験生の日常」
「そんな言い方していいのかな?」
「いいんじゃない」
「受験勉強そのものが目的的に機能していて、定期考査でいい点数をとることが大きな喜びになっている」
「だけど、受験の日は永遠に訪れない」
「そんなものは存在しないからね」
「全体の印象としては実に謙抑的だ」
「ただ、鬱憤や抑鬱感が溜まる一方だから、ガス抜きも必要になる」
「だからか、特別にツラの皮の厚い奴が真ん中に押し出されるということもある」
「何ですか?」
「世界の真ん中で強気に吠えてみせる。みんなの代わりにね」
「そうすると、断言的な物言いや素振りを見て刹那的にスカッとするということが起こる」
「例えば?」
「○○○をぶっ壊す!なんていうのはサイコーだろ」
「パチパチパチパチパチ!」
「みんな相当溜まっているということか」
「まちがいないでしょ」
「裏を返せば、判断停止でアタマの中は真っ白というということもあるんじゃないか」
「面倒くさいんだよ。日々何かに追われながらホトホト疲れ切ってるから」
「疲れた脳ミソは甘いお菓子が欲しくなる」
「これぞ唯一究極の正しいパンツのはき方、というものがあればねえ」
「まさにそういうアナタ任せの気分がじんわりと広がってるでしょ」
「少なくとも、現在のパンツのはき心地がいいわけじゃない?」
「それは明らかだと思う」
「にもかかわらず自分の実感に自信がもてない。それが正直なところかもよ」
「それがいまの実感なわけだ」
「そうした実感といもいえない実感にだらしなく引きずられている?」
「だから、ざっくばらんで威勢のいい啖呵や身ぶりが一定の磁力をもつということでしょ」
「自分にないからね」
「内容以前の問題だ」
「そこで美しいというキーワードですか」
「それはどうでもいいけどね」
「パンとサーカス。見世物的なカタルシス」
「これは理屈じゃないね」
「うん、身体や感情がその方向にオートマチックに動いていく」
「ある意味で、一定の合理性があるわけだ」
「でも、合理性は目的から遡行的に判断できるとすれば、その目的自体が収束して見えなくなっているでしょ」
「うん。それが何なのかわけがわからなくなっている」
「一言でいえば、一寸先はナントカ?」
「そうでもないよ。日々遂行すべきメニューは山ほどあるし、さしあたりのゴールも達成感もある」
「だけど、それを捧げる何かがないということ?あるいは分かち合えない?」
「それもあるかもしれないけど、ズバリ言えば、そこで梯子を外されたら何も残らないということじゃないかな。そういう不安とか漠然とした予感が全体を覆っているということはあると思う」
「一回転んだら立ち直れない、ペラペラで実に懐の浅い社会ができてきたということ?」
「簡単にはいえないな。昔のほうが重厚で懐が深かったってわけでもないだろ」
「いえてるね」
「少なくとも個人が抱えなくちゃならない負荷は増えてるでしょ?」
「そうそう。だから、現代の人間は昔に比べて若くみえるけど、逆にいえば成熟できない。一生受験生のようなものだからさ」
「まるごと自分の面倒は自分でみなくちゃならない世の中か?」
「ただ昔はさ、自分の代わりに自分を支えてくれるものがあったかもしれないね」
「何?」
「ウサギ追いしかの山、とかさ」
「小ブナ釣りしかの川」
「♪月が出たぁ、出たぁ、なんてのんびり歌ってたら身ぐるみ剥がれるとか」
「そういうシンボルがきれいに消えたことは確かだね」
「一切合財」
「ふるさとやホーム。ひいては家族国家とかさ」
「小さな草原の家というものもあった」
「そこに帰れば心が解き放てるという神聖な場所ですか?」
「実際にそういうものがあったかどうかは怪しいけれど、少なくともそういう幻想は存在した」
「あったと思うよ。だけど、それは何かに場所を譲った」
「言い換えると、そういうボトムがね」
「うん。本当は嘘っぱちでもそれが機能したことは確かだと思う」
「だから、そこに帰りたいと願う人たちもいるわけだ」
「巨大なニーズかもしれない」
「帰れればいいけど、みんなでということになると話がこんがらかってくる」
「でもムリでしょ」
「どうかな」
「一方では、そうしたニーズに応える商品やサービスの開発競争も熾烈だ」
「うん。感慨に浸る暇があったら、アイデアの一つでも出せ」
「喪失感が深いほど、そうしたものへのニーズも巨大化するからビジネスチャンスも拡大する」
「市場にとっては悦ばしいことか?」
「そのことが市場そのものを破壊しなければね」
「だから、持続可能といったキーワードもちゃんと用意されている」
「うん。補正する知恵はいつでも出てくる」
「だから、今後も万事上手く回転していくだろうって?」

(続)
コメント

2006 believing&unbelieving その3

2006-10-02 |  conversation
「それが希望の原理的な色彩をもって日常を支配しているということか」
「見えざる無数のパンツをめぐる戦争や平和」
「個人は滅ぶけど、パンツの歴史はどこまでも続く?」
「有限の個人は一人じゃ寂しいから、永続するパンツにつながりたい」
「だから、できるだけ見栄えがよくて、強そうで長持ちするパンツをはきたい」
「一人だけでパンツをはいていても意味がない?」
「そう出来上がっているかも」
「一人では生きていけないって、子供に向かってよくそんなこと言うね」
「子どもにしたら、そんなことわかってるって言うよ」
「大人は大人で、自分に言い聞かせたり、エクスキューズの意味もあったりする」
「独立自存、唯我独尊、なんていうのはハッタリだということかな?」
「そう思う」
「でもさ、個人の生き方としては大きなちがいじゃないの?」
「それだけじゃダメでしょ」
「なに?」
「自覚がいる」
「うん。ほんとは弱っちい動物にすぎないということをさ」
「自分がパンツをはいた存在だというという自覚ね」
「どこが問題だと言いたい?」
「さしあたり、立派なパンツをはいて安心していたいという悲しい性ね」
「デカパンをはいて癒されたい、守られたい」
「母なるパンツとか?」
「願わくは、保証書付の頼りになりそうなパンツで、時には見栄も張りたい」
「無敵の装甲パンツ」
「依存体質ということか。パンツ依存でパンツ中毒」
「わかっちゃいるけど止められない」
「パンツの背景には、一人じゃ振り払えない不安があるということかな?」
「不安と言えば誰しも不安だろうけどさ」
「年中ピーカンのヤツもいるな」
「ピーカンだからどうってこともないだろ」
「そうね」
「十人十色だから面白いことも起こるということもある」
「偉そうにいえばさ、一人の人間はピーカンの日もあるし、どしゃぶりの日もある」
「たまたま、ピーカンが目立つだけということね」
「結局、この不安というものが人間を駆動する本体かもよ」
「そう言い切れるのかな」
「だからパンツはからだの一部になった?」
「身体化したということね」
「究極的には死の不安、自分が消えてなくなるという不安ですか?」
「どうだろ」
「曖昧で漠然としたものだからどこまでも肥大化する」
「恐怖や危険だったら実体があって対処のしようがある」
「実体がなければ、最終処分のしようがないよな」
「不安の物語は永遠に不滅だ」
「それだけじゃなくて、やっぱり明日のオマンマと切実に結びついているからでしょ。その先には、生死にかかわるとかさ」
「うん。だから不安の解消、生存の保証や安心を与えてくれる何かを求める」
「至極当り前のことのように聞こえるけど?」
「問題は、その処理法が集団的にどう按配されて機能しているかということでしょ」
「そうね」
「パンツの支給システムもいろいろある。そこで一儲けしたヤツもいるし、マーケティングもある」
「パンツ需要、パンツ市場は不滅ということか」
「不安処理があまねくニンゲンにとっての大テーマですか?」
「一人じゃ困難だから、集団的につるんでやる」
「つるむこと自体は仕方がないだろ」
「そう思う」
「だから、パンツは個と個の接着剤の機能をもってる」
「集団的に何かをするためには、束ねるパンツが必要ということか」
「うん。集団で何かをするということと、デカパンをはくということは表裏一体になっている。この二つはわけられないよな」
「なるほど」
「そこでは、類は類を呼ぶということもあるな」
「だけど、自分を集団に開けば危うい場面にも遭遇するし、閉じても不安が増殖する」
「どっちに転んでも危うい?」
「でも、幸い敵とかライバルというものがいてくれるからさ」
「居なければ、仮想の敵や異種のパンツをでっち上げてもいい」
「外に不安の素を投影するということか?」
「敵の敵は味方という場合もあるな」
「ゾーニングすれば自分たちのポジションを明確にできる」
「それで安心スッキリということか?」
「とりあえずね。それでも、自分の正統性が担保された気分には浸れる」
「似たようなことは日常的にあるな」
「周りをバカにすれば、自分があたかも賢いかのごとく感じられるとか?」
「うん。笑えないけどな」
「しかも幸いというか生憎というか、そうだそうだという合唱が起こったりする」
「そうすれば仲間集団の求心力は高まるし、目標も定めやすくなる」
「パンツのモードや差別化も、方針も旗幟鮮明にできるな」
「でもそれはさ、本質的に言えばあくまでも差し当たりっていうことだろ?」
「そうね。実際にはそうやりながら行ったり来たりで、あれでもないこれでもないで一生を終えるわけでしょ」
「ただ、本人にそのつもりがなくても、周囲にいろいろととばっちりが及ぶこともある」
「一方には確信犯人もいる」
「じゃあ、究極の不安の解消ってあるの?」
「死ぬこと」
「死んでしまえば、不安もクソもないよな」

(続)
コメント