ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

2006 変わりゆく空Ⅱ

2007-06-25 | Weblog
   *

透明な神殿を戴くエリアXには
猛烈な解体の嵐が吹き荒んでいる

神殿を取り巻く有象無象は祭司や神民として連なり
巨大な伽藍の運営にあらん限りの精励を尽くす

酷薄な眩惑と誘引に満ちたその大伽藍が
絶滅のエロスに輝くオレたちの故郷だ

   *

いま、変わりゆく空の下で
どんな残照も消し去るように
解体の嵐は巨大な渦巻きとなって
最後の光芒へ向かって日々拡大している

神殿の更新スピードは加速し
オレたちが記憶し制御する速度を陵駕しながら
新たなコードがぞくぞくと名乗りを上げていく

神民においては無意識へと撤退することは許されない
どんな苛酷に出会っても
どんな陶酔に出会っても
ただ、強いられた覚醒を生きることができるだけである

   *

キミには信じられないかもしれないが
オレたちはみずから望んで表層を疾走し
われにもあらず深層には寂滅の光景を広げている

抱かれた希望や夢や善意は
惑星を一周めぐると悪夢に変わっているかもしれない

求められた平安や礼節が殺戮や拷問を準備することもある
理想がたどる道は絶滅へ通じているかもしれない

もっと遠くへとまなざしを凝らしたオレたちは
地上の幸福を酷薄に見捨てる可能性もあった

   *

めざすべき達成はいつも眼前にぶら下がり
それが本当に望まれたものかどうかはわからないが
神殿を埋め尽した果実たちは
永遠の憧れにも等しくオレたちを眩惑し続けている

加担することなく加担し
悪意することなく悪意し
共犯することなく共犯し

一切は推定無罪の裁定において
善き心の蝟集とその帰結において
絶滅への驀走を暗示している

  *

巨大な渦巻きはすでに最後の光芒に放つように
オレたちの街の風景を煉獄として照らし出し
エリアXは限界をこえた煩悶に身を捩っている

状況は想像を絶しているが
零れる闇の正体は不明だが
すべては必然の途上にあるように嵐は拡大している

 *

オレたちが生息する惑星において
どの時代も生存の厳しさは等しく人間を包むが
苦悩と慰安はいつも破格のバリエーションにおいて現われる

オレたちの経験は感慨を結ぶ前にゴミ化し
燃えるものと燃えないものに分別される前に
正体の知れない回収車に投げ入れられる

むごたらしくも懐かしい記憶は寂滅に染まり
あの空を満たした感情は虫の息のまま焼かれていくが
速やかに酩酊とエクスタシーが接続される

風景は鮮やかにクリーンアップされ
ただ、オレたちの生存を祝福するように
祝祭のトランスだけが持続していく

   *

エリアXとは何か
オレたちの勇気と悲しみと孤独を駆動した
一度も語られたことのない最後の圏域だ

   *

キミには見えないかもしれないが
なにもないあの空の下には神がいる
君臨する神は仮称的にMと呼ばれる

Mは命令しない
威圧も脅迫も教唆もない
ウルトラの戒律において
ただ、決済する

腕を捩じ上げる理不尽な暴力も
忍従を強いる地獄のエージェントも存在しない
ただ、自動化された神民の精励が持続しているだけだ

   *

「どこかにあると信じていた?」

   *

いつからかオレたちの儚い夢は
巨大なMの視覚の中心に向かって吸い込まれ
粉砕され 原形を失い 攪拌されながら
次なる再結合のマテリアルへと変換されていく

至るところにうず高く積まれた瓦礫は
新たな生成の回路へ向けて待機の状態に入っていく
この循環のスピードは猛烈に加速している

順番を待つ瓦礫は数え切れないから
渦巻きが回転するための調達コストは限りなくゼロに近い

滅ぼす力は同時に生成の栄光を讃えられ
みずからとみずからに関係する数多の血族に対する
蹂躙と殲滅の軌跡が同時に希望へと接続される

汲みつくせない希望の泉はどこか
オレたちの絶望や辛苦はあの空の向こう側で
永遠に正体を現わさないMへの憧れに変換されていく

   *

Mの戒律は神民の日常にくまなく遍在し
戒律することなく戒律し
断罪することなく断罪しながら
Mの大御心の太っ腹の裁定において
一切はなかったことにされて不問に付される

周到に準備された世界創出のイメージがあるわけではない
回帰すべき過去が祭壇を飾るわけでもない
ただ、内部調達されたエネルギーが前方へと直列されていく

妙なる媚薬は惜しみなく伽藍に振り撒かれ
猛烈な解体と再結合の目のくらむような循環のサイクルが
絶滅のオーガズムめがけて驀進していく

背信と異端と瀆神に向かっては
容赦なく排除と駆除のメカニズムが作動し
速やかにリサイクルの方策が手当てされる

   *

「いま、キミはどこにいるのだろう」

   *

なにもない空の向こうに心は深く交わり
赤く染まる時間を悲しく受け入れながら
オレたちは投げる言葉をもたなかった

オレたちが感慨を結ぶより先に季節は移ろい
流れる雲はいつの間にかオレたちを追い抜いていった

   *

定位された日常のプログラムの進行は厳格である
厳格であるが柔軟である
柔軟であるが酷薄である

オレたちはいつも吹きさらしの中で
指定されたやすらいの場所でやすらい
指定された方法で疲れた情動を慰撫する

自動化された祭司と神民の生活は決して外部を教えない
Mの準則に殉じる神臣という自覚もなく
神殿の巨大な伽藍の内側で虫のような生涯を閉じていく

   *

神意は偉大である
オレたちのエネルギーの回路は制御されるが
それは明示された託宣に従うからではない
神意はただ忖度され、ただ自発の従属が調達される

神殿を埋め尽くす万能の媚薬は霧となり
普遍の駆動装置と慰安装置が同時に作動させている

神殿に連なることごとくは
Mの決済へ向けて組織され
強制された覚醒の最大化を促すように
決済のオノは打ち下ろされ
オレたちは新たな物神の創出へ向けて蝟集していく

   *

かくしてエリアXは惑星の運航に従うがごとく
限りなく物理に接近し

惑星の四季は大御心のままに
生誕から消滅へ向かう営為の一切が
システム化されたエネルギーの波動に准じていく

惑星を貫通する神殿の力動においては
滅ぼすチカラも生かすチカラも巨大である

あらゆる現象はリミッターを振り切り
偉大さもバカさ加減も度をこえて増幅される

増幅メカニズムにおいて
理想化された生存のカタチは不在だが
逸脱のボーダーだけは確定されている

神殿に刻まれた準則はシンプルである
永遠のフリーダム
永遠のフェアネス
永遠のジャスティス

Mの裁定に黙示の時は示されないが
そして最後の時は永遠にやってこないが
最後の時はいつかどこかで
オレたちの永遠の憧れへと転位するかもしれなかった

   *

「私のこと忘れないでね」
   
   *

「きっと」

   *

「ありがとう」
  
   *

「ありがとう」




コメント

2005 東京スケッチ

2007-06-22 | Weblog
アナタが同意すると、ひとつの現実が生まれる。
アナタが否定すると、ひとつの現実が壊れる。

ワタシの現実は人の意見によって、
猫の目のように生きたり死んだりする。

なだめたりすかしたり、
引っ掻いたり、なでたりつねったり。
もてあそぶ余裕があるとき、
現実は一つのオモチャになる。

「いいじゃない。そんなおふざけの気分になるときがあっても」
「オモチャにされちゃ堪らないわ」
「そうかしら?」
「弁解するようなことでもないわね」
「だいたいそんなものでしょ」

組み立てたり壊したり、
どうにでもなるというのともちがう。

「どうせなるようにしかならないのだからさ」
「人の揺らぎは見えないものだからね」
「見えないのはお互いさまでしょ」
「でもないかもよ」
「だったらどうなるというのだろう」

自信がないわけじゃない。
さしあたり深刻な不安があるわけでもない。
でもいつも揺らいでいる。
きもちよく揺らいでいたいけど、そうは問屋が卸さない。

現実は揺らぐことでリスクとともに可能性を担保される。
そんな余裕がかませるのには、もちろん条件がある。
いい気なものだと思うけど、そのことをいまは考えたくない。

「だからね、いつも揺らでいるということでしょ」
「しかたないじゃないというより、それがいつものことなら、いつものこととして生きることが前提になるわけでしょ」
「そうか。そうよね」
「いやに簡単じゃない?」
「そうじゃなくてさ、信念が揺るがないようなフリをしないということ」
「ようするにですか」
「そんなふうなヤツが多すぎると思わない?」
「最近は減ってきたように感じるけどね」
「どうかな」

「どうしてだろう?」
「答えはカンタン。世間の視線がそれだけさもしいということ」
「さもしさにも理由があるわけでしょ」
「それにしてもせつなくない?」
「いいのよ。せつなくて」
「当然でしょ」
「そうかしら。もっと、しっかりしなよ」
「せつなくて、苦しくて、バカバカしくて」
「そして、楽しいこともなくはない」
「でもさ、泣きを入れたいときだってあるじゃない?」
「いいのよ。その相手がいればそれだけで御の字でね。まことに古い言い方ですが」
「いなくったって、それはそれでということでさ」

「意味なんて考えるから、無意味さが際立つわけでしょ」
「はじめから意味を考える無意味さに気づくことね」
「バカみたい」
「だけど、意味を考えないでいられるのかな?」
「それができればオーケーだけどね」

「ようするに優れたオスとメスの獲得という問題かも」
「大きく出たわね」
「つがいになるということが最大の目標かしら」
「だから、代替物はいくらでもあるわけ。人間の場合にはね」
「一筋縄じゃいかないのね」
「国を乗っ取ったヤツもいるくらいだからさ。よくわからないけど」
「それはそれでたいしたものじゃない?」
「英雄伝説とか、大量殺人とか、聖人とかさ」
「ほんとかな」
「持ち上げるもの、持ち下げるのも、ほどほどにということでしょ」
「当っているかも」

「昔、大きく悩んで、皆でっかく儲けた、なんてキャッチコピーもあった。ちがったっけ」
「ようするに金儲けのツールにもなるということね」
「なでもかんでも、ことごとくね」
「でも真実の愛とか、悪くないかも。真理の探究とか」
「終わっている」
「そうかな?」
「そう。だいたいが、大見得を切るみたいで、恥ずかしすぎる。ザンネン、というやつ」
「でもさ、そんなのばっかじゃないでしょ?」
「露骨にバカにするつもりはないけどさ」
「それで十分だと思う」
「もっと言えばさ、巻き込むんだよ。大見得を切るヤツらは」
「だれを?」
「みんなを。どいつもこいつも、オレについて来いとかさ」
「その傾向が強いと言えるかも」
「傾向だけじゃすまないから、問題なんだよね」
「巻き込まれたがっているおバカも少なからずいるかも」
「ぜんぶがぜんぶとは言わないよ、もちろん」
「一方には、品格とか、清貧とか言い出す、品のない大バカ野郎もいるけどね」

「春が来たらまた一緒に桜の花を見にいきたいな」
「いいね」
「そのまえに、皆でラーメン食べに行こう」
「マジ?」
「マジ。絶品のくまもとラーメン。無理にとは言わないけど」
「考えるまでもないわね」



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2007 believing&unbelieving15

2007-06-17 |  conversation

「なぜ感情があるかは答えられない」
「永遠のナゾ?」
「原理的にそれ以上の問いは無効になる」
「思考の限界点に突き当たるわけね」
「逆にいえば、そこがすべての起点でもある」
「行き止まり地点が同時にスタート地点か」
「我感情す、故に我あり」
「言い換えると、第一次的世界経験の位相」
「そしてこの問いは、すべての由来や起源に対する問いに置換できる」
「執拗に問えばそうなる」
「世界の存在そのものへの問いに?」
「そう」
「意味の問題も浮上する」
「手に負えない設問だ」
「そこまで行くね」
「とことん追跡しまくれば、必然のように何かが分泌される?」
「うん」
「最終解は彼岸にある、というパターン」
「無理やりでも、それがないと困る」
「救われない」
「此岸に答えはない。しかし彼岸にはある」
「ここから先は信心ということになるのかな」
「答えなき耐え難さが前提にある」
「答えを想定しなければ、あまりにも救われない現実があった」
「いまもね」
「感情がそうした径路をたどるという機制がある」
「そして彼岸が表象化される」
「それが超越項か」
「本質的には究極のジンテーゼ」
「だけどホントを言えば、そこから先はすべてオトギ話でしょ」
「オトギ話でしか答えられない」
「サイエンスも?」
「オトギ話ではないかのような一種の説明体系ね」
「いつか突き崩される危うさが同伴している」
「それも信心の対象になりうるわけか」
「オトギ話はまぎれもなく人為だけど、それ以上のものとして存在しはじめる境界がある」
「何だろう」
「人知れず出来上がったとか、太古からの言い伝えだとか、神意による啓示だとか」
「そういう神秘性が重なるわけか」
「絶対の真理や法則というものもある」
「ひっくるめれば萌えの発生ね」
「つまり、フィクションとしての人為性が脱色されると位相が変化する」
「人為であることは変らないけどね」
「上手く相転位できれば推進力が俄然増大する」
「それが権威を構成するわけか」
「魔術的な感染作用が起こる」
「人為の恣意性の脱色も人為だけれど、そのプロセスは見通せないようなやり方で脱色される」
「特定の誰かや勢力による仕掛けであることは自明だけど、その自明性は伏せられる」
「なぜか」
「権威の超越性を担保するためにね」
「やはり、そこには恣意性云々とは別に、フィクションへのニーズが厳然とあるわけでしょ」
「オトギ話、つまり神話の生成には必然がある」
「生存の意味全体にかかわる問題」
「それなしでは世界が回らないという類的ニーズですか」
「どうしようもないバカバカしさも同伴するけどね」
「でもそれは言わないお約束になっている」
「暴けばペナルティが下る」
「暴かれないための防衛体制もある」
「権威と権力による縛りは超ストロング」
「そうあることが望まれる」
「結局、簡単に代替案は出せないわけね」
「オトギ話には人類史的な知恵が結集しているから簡単には覆されない」
「ただ、いろんなバリエーションがあるでしょ」
「歴史的文化的な物語資源に従って?」
「うん。環境とのトータルな関係に条件づけられたように浮上する」
「そして浮上したものが現実のシステムの設計原理になる」
「生活世界のグランドデザインの方向が決まる」
「世界観や人生観」
「来歴と未来、善きこと、悪しきこと、当為、人の道、この世とあの世との関係」
「現世来世のすべてを照らす光」
「形式はいろいろだけどね」
「たとえば唯一絶対の意思的な超越項という形式もある」
「天孫神話もある」
「浄土や地獄もある」
「見えざるブラフマンとか」
「太陽、大地、海、山、川、一木一草」
「八百万の神々もクオリファイされる」
「何に対してかな?」
「堪え難き現実に対する説明原理としてね」
「説明のし方はさまざまだけど、普遍的堪え難さという前提がある」
「問いの絶対性と解答の絶対性、そこから絶対的な救済原理も装備される」
「つまり、究極の答えを求めて探索すれば、臨界点で必ず何かが起爆する」
「それを問わざるをえないニンゲンの性ね」
「そしてある時、どこかに聖性を帯びた領域が分泌される。そう?」
「あるいは何かに聖性を付与せずにはおられないニンゲンの普遍的なあり方がみえる」
「そして起爆エネルギーが世界の駆動原理を析出する」
「それがオトギ話になる」
「さらに構成原理となって社会システムをつくり上げていく」
「そう考えることで了解できる現実があるね」
「善し悪しは別だけど」
「フィクションのリアリティは圧倒的」
「なぜでしょ」
「やはり圧倒的な現実と直結したものだからでしょ」
「現実の圧倒的な苛酷さが、圧倒的なリアリティに満ちたオトギ話をアウトプットする」
「しかし現実を動かすには、究極の問いにいったんピリオドを打つ必要もある」
「やるべきことは沢山ある」
「うん。いつまでもみんなで哲学や宗教の教室にいるわけにはいかない」
「外に出て日々の精励に赴かなくてはならない」
「たとえば絶対でオールマイティのザ・ロードが表象化されると同時に、それ以上の設問は一切キャンセルできるということか」
「そこから先を自力で思考する負担は免除できる」
「神のみぞ知る」
「それで一息つける?」
「時に応じてオトギ話、つまり神意を参照すればいい」
「一件落着」
「知らぬが仏」
「機能的には世界の解釈装置ということになる?」
「ニンゲンの思惟の限界をこえて作動する世界の解釈装置かつ駆動原理」
「という信憑、ということね」
「後知恵的にいえばね」
「そう。だけど、どんな時代もオトギ話のリアリティから自由になれないところが本質的」
「解釈しないでは一歩も踏み出せない」
「必須のデバイスね」
「言い換えると、究極の問いを委託する一種のエージェントが創出される」
「自力で手に負えないからアウトソースするわけね」
「畏れおおきエージェント」
「それがニンゲンという種の特有の作法らしい」
「エージェント創出によるアウトソーシングは太古から脈々と継続している」
「ただ、委託先は単なる業者ではなくて、委託される同時に世界構成の主体になる」
「発注元であるニンゲンは、その主体によって客体化されるわけね」
「吹けば飛ぶような客体」
「ホントは客体化されるのではなく、自ら客体化するわけだけど」
「精神のありえない超絶のアクロバットが起こる」
「倒錯的だ」
「しかもどこにもありえないかもしれない超越項に向かって」
「そうしないと身がもたない」
「まさに魔術的な相転位が自作自演的に起こるわけだ」
「だからオトギ話に作者はいないことになっている」
「自作自演がバレたら成り立たない」
「このからくりは普遍的」
「プロセスは多様に分岐するけど、図式としてはシンプルだね」
「しかも究極のエージェント創出の機序には、沢山の応用編がある」
「幅広のグラデーションを描くように広がるエージェント群」
「つまり、その世俗的応用もあるわけか」
「そう。このプログラムはいろんなカタチで日常的に応用されてもいる」
「思考の回路として?」
「絶対的な超越性をもたない対象であってもね」
「まちがいない」
「委託先としての必要な属性、つまり微弱であっても権威を帯びるものならそれなりに成立する」
「利害集団、党派、理念、ピンからキリまでのカリスマ、民族、歴史、御国全体など、応用範囲はいろいろある」
「絶対的なエージェントならざる、相対的なエージェントはごまんとある」
「単純に社会的な階梯の上方に向かう、無意識の尊崇や拝跪という形式も一般的だ」
「盲目的なお上志向といったものもある」
「エージェントとしての資格審査や属性チェックはザルだけどね」
「エージェントのエージェントのエージェントのエージェントという無限連結もある」
「階梯を下るほど威光は希釈されるけど、そういう機能としては似ている」
「われ知らずエージェントの役割を担っていたりする」
「エージェント同士の関係は輻輳しながら複雑に絡み合う」
「システム全体がそれで回っていると言ってもいい」
「ある種のまなざしには、下々のエージェント志向がお手軽な利用資源に映る」
「疑似エージェントにとってね」
「そして、この構図全体から生臭いコミュニケーションも開発される」
「現実にはマネーを媒介してね」
「お宝争奪戦」
「お宝争奪戦は下流に向かってどんどん突き進んでいるようにみえる」
「日々刻々」
「活用資源はいろいろだけどね」
「地域ごとの環境特性によってアフォードされるものは分岐する」
「たとえば、ジャパネスクな謙虚さや奥ゆかしさは、疑似エージェントからは大変なごちそうになりうるでしょ」
「よく言えば謙虚さや奥ゆかしさね」
「主体委譲的な存在形式の危うさ」
「地域特性からいえば、委譲先は大仰な超越項でなくてもいいというのがポイント」
「そう。だから八百万の神々がいたわけだ」
「世間という実体の曖昧な参照対象も厳然と機能してきた」
「現実がそれほど苛酷ではなかったのかもしれない」
「相対的にね」
「平和や協調を享受できる環境にあったということかな」
「絶対的エージェントを召喚させるほどの圧倒的なニーズがなかった」
「複数分散型のエージェント体制」
「そう。脱中心型、分権タイプともいえる」
「たとえば山川草木、花鳥風月ごとに、プチな超越項への入口がふんだんに用意されていた」
「コンビニエンス・ストア的に遍在していた」
「無限分割された変種のエージェント体制だ」
「そのぶん、個々のエージェントは強度が足りないともいえる」
「そして現世における生き方の作法伝授は、世間サマが担当した」
「なるほど」
「功罪いろいろ言われるけれどね」
「要するに、エージェント機能のバラエティ化があったわけだ」
「それで上手く回った社会があった」
「親しい自然の移ろいとともにあるエージェント群。それらに包摂された世間に包摂された集団に包摂された家族に包摂されて生きる個人」
「幾重にも包摂された存在の形式が、絶対神を召喚するような究極の問いを遠ざけていたともいえる」
「独特の居心地のよさのようなものがあったのかもしれない」
「国破れても山河は悠久」
「バーバリアンが攻めてくることもなかった」
「劇的な社会環境の変化も少なかった」
「四季の移ろいも想定内に収まった」
「死ねばホトケサマにもなれたし」
「そうした相対的に安楽な装置が、自分が生まれた風景と一体化していた」
「帰るべき場所が厳然とあったわけね」
「懐かしい場所だ」
「そうした資源がシラミ潰しに消されてきたのが現在ですか」
「風景や社会の激変とともにね」
「もともとジャパンのエージェント群は、絶対的な強度をもたない脆弱さや曖昧さを特徴にしていた」
「絶対の審判を下す絶対者ではなかった」
「だけど脆弱だったから、環境の激変という大嵐によってエージェント群はどこかに吹き飛ばされてしまった」
「風景が消えると同時に中味も消えた」
「いまやぺんぺん草も生えていないのが現在?」
「ある意味ではそう」
「誰かのせいでなくて、自分たちでそうしてきたのだけどね」
「ただ実感としては、いつの間にかそうなっていた」
「そして超多忙で過酷な日常と、主体委譲的な傾向性だけが残った」
「身についた精励の美徳もある」
「そして、自称エージェント群が我こそ委託先一番を名乗り合って光景が広がっている」
「絶対神はもともと不在だから召喚できない」
「だから裁定するエージェントが不在ということになっている」
「擬似的な有象無象が入り乱れている」
「実質的には、疑似エージェントたちの収奪対象としてのジャパンの民ということだけは明確にある」
「収奪の勢いは物凄いものがある」
「結局、絵に描いたようなバカという構図?」
「その帰結から見ればね」
「主観的には善人そのもので、客観的にはバカそのもの?」
「それだけじゃない」
「比喩的にいえば、ジャパンの冠たる生産力や競争力はオトギ話としても機能している」
「社会のしくみ全体に対する信心」
「国力ですか」
「それとは関係なく、収奪の構造は堅固に築かれつつある」
「それなりに享受できるブツや時空も用意されている」
「少なくとも飢え死にする心配はない」
「だけど、新たなエージェント創出は自力では無理」
「疑似エージェントたちの属性や資格を問うにはコストもかかる」
「問うだけでは変化も生れないし」
「バカかもしれないけど、進んで悪は為していないし」
「主体を委譲した立場からいえば、すべての責任は委譲先にあるし」
「ただし、委譲先は次々にリレーされてどこにも主体が結ばれない」
「主語のない国ですか」
「ネイションの主体性も太平洋の向こうの国家に委託されている」
「つまり、意志決定の主体も責任の主体も不在」
「ジャパンの伝統は今もダイナミックに息づいているわけか」
「おまけに堂々たる自称無宗教」
「海の向う側の国がエージェント機能を果たしている」
「オー・マイ・ガッド」
「しかしそこそこ上手く回っている?」
「少なくとも非難されるいわれはない」
「いいけど、現在のしくみから帰結するものにもちゃんと目を向けよう」
「どんな帰結だろう」
「それがわからない」
「素人にも玄人にも手に負えない問題が山積している」
「確かに」
「機会費用ということもある」
「目を向ける対象も方角も方法も五里霧中」
「そもそもそうする動機をどこから調達してくればいいのか」
「システムはあまりにも巨大で複雑だ」
「ニンゲンはあまりにも卑小で無力だ」
「全体は見通せない」
「めざすゴールもみえないから、ミッションもみえない」
「すべてはインポッシブル」
「それが同時に疑似エージェントたちの恣意的な振舞いを許している」
「思うつぼでズブズブ」
「我がもの顔で跋扈している時代だね」
「言いたい放題、やりたい放題」
「知らぬが仏の構造が利用され尽くされている」
「悪い循環が加速している」
「ただ肯定的な自己像だけはどこかに堅持したい」
「少なくとも悪人ではない自分は担保される、と妄想していたい」
「感情で対応できない問題が山積みされていくのに、感情だけが点火する」
「手っ取り早い方法として、依存できるエージェントを探す」
「すると疑似的エージェント群がてぐすね引いて待ち構えている」
「甘い言葉だけはふんだんにある」
「そして美しい自己像が他者を経由して妄想される」
「ビューティフル・ランドのビューティフル・ピープル」
「誰も信じていない」
「だけど選択肢もない」
「付いて行けば大丈夫かも」
「そう思いたい」
「だったら良かったけどね」
「むしろ期待とは正反対の方向にシステムは舵を切っているようにみえる」
「居心地の悪さが広がっている」
「一方で、疑似的エージェント群は一段上の高みにいることは確か」
「知恵もスキルもアイデアも独占できる立場にある」
「暴力装置を独占しながら、余裕で俯瞰できる」
「ただ、狙いはお宝争奪戦における勝利だけだけどね」
「ゲームは単純化されている」
「駆け引きの巧みさだけ希求される」
「お宝の中味を問う以前に、上も下も全体が単純化されたゲームに巻き込まれているわけだ」
「空虚さが社会を包んでいる」
「ネイション全体が浮遊しているように思える」
「そしてその帰結は誰も読めない」
「いい方向に向かっているとは口が裂けても言えない」
「たとえば、60年以上前、向う三軒両隣こぞってバンザイ三唱して、若者たちを地獄へ送り出した歴史があった」
「粒よりの極悪人たちに領導されたわけじゃなかった」
「一つの時代の善き心と日々の精励の結実が地獄を用意した」
「同朋、異朋合わせて一千万人以上の生命で購われた歴史ね」
「このからくりは今も持続しているようにみえる」
コメント

2007 believing&unbelieving14

2007-06-05 |  conversation
「感情の国といえば、どの国も同じでしょ」
「当然ね」
「同じといえば同じ」
「感情はただ訪れる?」
「感情を意思することはできない」
「つまり、感情を感情することはできない」
「怒り、愛情、憎悪、不安、気分」
「恣意性から一番遠いわけだ」
「自由にならないものね」
「こんなワタシをどうしてくれるの」
「無罪性が意識されるわけか」
「そこに逃げ込もうという機制も働く」
「ニンゲンはそれらの訪れにいつも晒されている受動的存在ですか」
「受苦的?」
「それも含めて世界体験を色づけるものでしょ」
「というよりそのものでしょ」
「天変地異の訪れとも類比できる」
「我知らず」
「あずかり知らぬ天の配剤」
「だから、ホントをいえば、訪れた感情の善悪、正邪を、当のニンゲンに帰責することはできないことになる」
「天変地異による災厄を、被災者個人に帰責することができないと同じ?」
「理屈からいえばまさしく」
「日本の中世の宗教者は、そのことに気づいていたわけか」
「縁起」
「機縁とか?」
「まったきイノセントである、となるのかな」
「だから、悪党だろうが何だろうが、あまねく浄土へ赴くと言い切った」
「一人の存在だけを取り上げればそうかもしれないけど、迷惑やとばっちりを受ける他のニンゲンは堪らない」
「現実にはかなり無理があるけど、極限的に思考すれば必ずそうなるということでしょ」
「生身のニンゲンはそんな思考には耐えられない」
「どうしてくれるのよ、という帰責する対象を指弾することになるね」
「感情の訪れが完全に人為から切断されたものであるかどうかという疑義もある」
「コントロールされたものである側面も少なからずある」
「本人が気づかない形でね」
「ただ、感情をこめて歌うともいうこともある」
「感情の出し入れやコントロールができる?」
「ふりはできる」
「ビジネス上の必要とか、説得の手段にも使える」
「感情操作は今も昔も日常茶飯でしょ」
「ここを押せばこんな感情がアウトプットされる、という知恵は集積している」
「どんな個人にも組織にもね」
「現象としての感情はコード化されて、いろんな社会的振る舞いを解釈したり、新たに組織したりする装置として日々使われている」
「あらゆるポリティクスやアドバタイジングがそれを資源にしている」
「操作可能性は疑えないね」
「たとえば、あらゆる表現活動は、そうした資源を存分に活用するわけでしょ」
「まさに」
「縦横無尽に活用しながら、相手の財布の紐を緩めさせたりできる」
「騙されたと知りながら、愉しめるかどうか」
「そうね」
「パブロフのワンちゃん的に反応するのか、それともメタなレベルに立って愉しむか」
「愉しむには、一定の距離化が必要だ」
「ただ、距離化のためには別の蓄積が前提になる」
「そこに一国の文化や伝統の懐の深さ浅さがあるわけか」
「大袈裟にいえばね」
「たとえば、若い頃に悪さをしてさんざん痛い目にもあってきたニンゲンは、聖人君子的に純粋培養されたニンゲンより、そうしたポテンシャルが高いだろうということはある」
「シンプルにいえばね」
「だけど、いちがいに感情の国だから悪いとはいえないでしょ」
「いいも悪いもないけどね」
「ただ、子供っぽいとはいえる」
「感情体験そのものは、ウソ体験もホント体験もない」
「ウソもホントもなく、ただ端的な事実として血流が沸騰したり凍ったりする」
「そこにイノセント性が読み込めるわけか」
「民族の血全体が沸騰することもある」
「単独では味わえない稀有な陶酔のステージに駆け上ることもある」
「その快感に身を捧げるニンゲンが出てきても不思議じゃない」
「ただ、感情には持続性がない」
「持続性がなくて忘れやすい」
「だから懲りないという傾向が強いね」
「持続させるには人為的な操作や按配が要る」
「逆に、忘れやすいけど、すぐに起爆させることもできる」
「だから、シンボル操作が機能しやすいということがあるね」
「権力奪取や大衆操作の最重要ツールの一つでもある」
「一丸となってというのは得意中の得意だ」
「やむごとなき象徴はいまもその結節点として機能できるのかな」
「ご本人はそれを望んでいないようにみえるね」
「そろそろ降りたいということも仄見える」
「ただ、人為に従うだけでもないでしょ」
「そもそも歴史や文化や経済といったもろもろ社会的な資源配置によって、思考や感情の規模や質が決まるということになっている」
「歴史的人為的に配分された環境要因に従属しているようにみえるね」
「成育環境。生存環境」
「環境世界ね」
「だから、ホントは主体があるとはいえないことにもなっている」
「いえないけど、あるというフィクションで近代的な社会は動いてきたわけだ」
「近代的自我ですか」
「主体的に考え、選択し、行動する近代的自我」
「それでも、感情が彼岸からやってくるものであることは変わらない」
「そう。ただし、近代的な社会を回すには、このフィクションを維持する必要がある」
「結果、個人に帰責することは不可避」
「イノセントであるにしても、当然ながら、侵犯行為にはペナルティが下る」
「帰責するシステムが法ですか」
「それにしても、この国の感情表出は単純すぎないか」
「第一印象的には大人しい民族」
「礼儀正しく他者への配慮が行き届いた国」
「ホスピタリティの国」
「外人さんのそうした言い方はわかるけど、彼らは確実に子供だと思っているでしょ」
「ホンネではね」
「かつて占領軍のトップが平均年齢は13歳と判定したことがあった」
「変わっていないかな」
「国をあげて小学校の教室のような雰囲気があるね」
「パチンコ玉のように、床が傾いたら一斉に同じ方角に転がっていく」
「70年前も今も変わっていないかも」
「その傾向に添って、あらゆる組織の行動原理が組み立てられている」
「理論的表出より、感情的表出が全面に出てくる」
「喜怒哀楽を露骨かつ巧妙に表出できるニンゲンにリーダーシップに附与されたりする」
「とくに大手メディアの看板たちね」
「感情マイスター」
「なるほど」
「確実にニーズがあって、そのニーズの裏には感情のエネルギーを溜め込んでいる大衆的鬱屈がある」
「自力ではそれを処理できないから、期待するわけね」
「そう。エネルギーの放出回路が与えられると、そのあとは一気呵成」
「カイカン!」
「民族的な快感メカニズムが確立しているわけだ」
「まさに主体は存在しないことになるね」
「そう考えると理解できる現象は少なからずある」
「主体は、おのれならざる何か。たとえば、外圧だったりする」
「ガバナンスにとっては最大の資源になる」
「一元化できる装置が厳然と存在しているわけだ」
「じゃあ、そうじゃないあり方とは?」
「感情への対応で分岐する」
「感情をどうもてなすか」
「天変地異に対する配慮ね」
「たとえば、当事者かつ観察者であるようなあり方も想定できる」
「イメージはできる」
「自覚的な経験の積み上げがないとそれは無理だ」
「民族的な快感メカニズムとは別の、試行錯誤の積み上げね」
「コストもかかるけどね」
「コストを払って古代的社会を脱した国もあるわけだ」
「たとえばどんな流儀になるのかな」
「たとえば、感情のやりとりをしながら、同時に全体をモニターできるとか」
「ふたつのゲームの同時進行か」
「でも、そのふたつは非対称でしょ」
「同じ地平に乗っかっているわけじゃない」
「順番としては、感情のゲームが最初にある」
「それが原事実という言い方になるのかな」
「当り前の話だけど、感情が自分と世界との接触面での第一次のスパークであることは確か」
「世界体験そのもの」
「豊かさ貧しさ、善きこと悪しきことのみなもとね」
「生活世界という言い方もあるね」
「つねに初原的な世界生成がそこにあるわけか」
「感情は裏切れない」
「裏切る裏切らない以前の問題ね」
「実存という言い方もある」
「世界はいつも感性的に色づけられている」
「無色透明ということはありえない」
「世界は感情相関的に出現するわけだ」
「喜怒哀楽、不安、気分、情状性」
「即時的に」
「感情に色づけられて新しい風景が次々と開示される」
「ある意味で、我々は赤ん坊と同じかも」
「生れてからの経験の累積が別の相関をつくるけどね」
「ただ、そのつど更新された世界が出現するという意味では同じかな」
「悟性、理性とったものの出番はその次になる」
「本質的には感情が何に由来するかはわからない」
「まさに第一原理」
「それ以上遡行不可能」
「ニンゲンに搭載された世界開示機能ですか」
「ある意味で創世機能でもある」
「そのセンサーが示すものは、端的な事実として出現する」
「事後的に詮索はできるけれどね」
「つまり、認識が及ぶ突き当たりになる」
「感情が?」
「由来を訊ねることはできない」
「世界の究極のナゾですか」
「そう。なぜ感情があるかは答えられない」
「推論は自由だけど」
「あと知恵でひと通りの説明はできても、なぜそれが訪れるかはいえない」
「そこから先の設問は、かつては神々に委ねられるわけね」
「神サマの御計らい」
「世界全体を包摂かするような超越的なものが、必然のように想定されるわけか」
「ニンゲンに答えられないものを一括して担当する畏れの対象」
「超越項という言い方もある」
「それを忖度することがニンゲンの仕事になるわけか」
「忖度、邪推、独断、妄想、でっちあげ。いろいろね」
「そういう専門職もいた」
「そうした知恵の累積から、基本的な世界構成のフレームがでっち上げられた」
「それはニンゲンが求めたからでしょ」
「そう。だから、でっち上げであっても、必要なでっち上げだった」
「でっち上げの事実にはみんな気づいてきたわけでしょ」
「最初に気づいたのは、必要からでっち上げたものが逆にニンゲンの可能性を奪う原因になっちゃったから」
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「動機」と「推進力」(参)

2007-06-03 | 参照

(『シモーヌ・ヴェーユ著作集Ⅲ』「重力と恩寵」渡辺義愛訳・1968年春秋社)より

「ペトロの否み。キリストに対して、「私はあなたにいつまでも忠実を守ります」ということは、すでにキリストを否んだことになる。なぜなら、それは忠実のみなもとを恩寵のなかではなく、自己のうちにあるものとみなしたことだから。」

「どんな行為も、その対象の面からではなく、推進力の面から考察すべきである。「どんな目的で?」ということではなく、「どこにみなもとを発するか?」が問題である。」

「完全に純粋な動機は外部にあるもののように見える。」




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