ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

運動形成1

2015-05-18 | Weblog


コーヒーを飲む───
 
意識が気づくより早く運動(プレー)の欲望が駆け出し、
意識に先んじて志向的に「プレー身体」の統一像が結ばれていく。
 
意識の関与はつねに部分的である。
 
プレーの組織化という要請と実行はつねに意識に先行し、
からだは意識が命じるより早く準備を開始している。
 
「コーヒーを飲もう」と最初に意識がプレー(運動)を決定するのではない。
コーヒーを飲みたいという欲望が意識に訪れる、そこからすべてが開始される。
 
つまり、「コーヒーを飲みたい」というメッセージが意識の水面に出現する。
この身体的な要請をメッセージとして受け取ったのちに、意識がおくれて動き出す。
 
「コーヒーを飲みたい」という内的な要請が先行して意識を〝襲い〟、
意識がそれを受け取り了解するプロセスを経てはじめて運動のトリガーが引かれる。
 
「コーヒーを飲もう」
 
コーヒーカップに手が伸びる。
伸びた手は、コーヒーカップの直前で勝手に減速し、
指先の動きはカップをとらえながら適切な握力にチューニングしている。
 
身体細部は複雑な組織化へ向けて一つの意思のもとに連動し、
コーヒーをこぼさないようにカップを手に取るという運動を完成させる。
 
このときなにが起きているのか。
意識は一連の動きのなかでどんな役割を担っているのか。
 
運動形成のプロセスを事後的にふりかえることはできる。
つまり、意識は出来事を結果から逆向きにトレースすることはできる。
 
しかしこのプロセスに意識の関与はつねに部分的である。
コーヒーをこぼしそうになったときだけ意識的な修正が喚起される。
 
コーヒーを飲むという一連の運動は、ほとんど自動化している。
そこに意識による制御は及んでいないように見える。
 
コーヒーを飲みたいという欲望は意識に先行して起動し、
意識が気づくより早くからだの組織化へ向けた運動イメージが創られる。
 
コーヒーカップをめがけるという身体動作の志向的な統合作用があり、
意識はこの統合作用の中心にいるようにはみえない。
 
意識経験からこの一連のプロセスをトレースしてみると、
意識の理解を超えるような位相で運動は組織化されている。
 
コーヒーカップを動かしながら、ぼくは友人との会話に集中し、
片方の手でタバコを吸い、BGMに耳を傾け、
からだは椅子のすわり心地を調整したりしている。
 
横のテーブルから「もっと静かに話せないですか?」と声を掛けられ、
「あっ、ごめんなさい」と答える。
その間も、コーヒーカップをつかんだ手の動作が止まることはない。
 
こうしたからだの多重で複雑な運動形成全体のシークエンスに、
意識は中心的な制御の役割を果たしていないのは明らかであるように思える。
 
事後的に、運動の記憶をたどってそのプロセスを追うことはできる。
自分の行為のプロセスは、たしかに意識内部に記憶としてトレースされている。
だからそのプロセスを事後的に追って一応の説明づけは可能である。
しかしその全貌をこと細かに再現できるわけではない。
 
運動(プレー)の実現は、意識にとって不連続なジャンプを伴っている。
 
意識的なコントロールを超え出るように、いきなり自転車に乗れる自己は出現する。
鉄棒にぶらさがりながら練習を重ねると、いきなり逆上がりができる瞬間が出現する。
 
なぜ出来たのか。その理由を明確に答えることはできない。
体験の実感としては「なぜかできてしまった」というほかない。
 
運動能力の獲得という現象のビフォー・アフターにおいては、不連続なジャンプがある。
体験は、なぜかいきなり「乗れてしまった」「泳げてしまった」と教える。
ビフォーの身体性からアフターの身体性への移行には、説明できない境界と分断がある。
 
この不連続なプロセスの進行は、不可逆でもある。
このとき、からだと〈世界〉との関与性は大きく変化している。
 
こうした変身=メタモルフォーゼ(河本英夫)は不連続に起こり、不可逆のプロセスをたどる。
 
「自転車に乗れた自己」は、もはや「自転車に乗れなかった自己」に戻れない。
「クロールを覚えた身体」は、もはや「泳げない身体」には戻ることができない。
 
新たな経験の形成は、意識的な理解のしきい値を超え出るような、
身体の組織化の方法を全面的に作り替えていく作業を含んでいる。
 
自転車に乗れるようになることは、新たな身体の組織化の方法を見出すことを意味する。
この組織化のプロセスは、試行錯誤のはてに最後にジャップする。

このとき〈自己〉と〈世界〉の関係(結び合わせるパターン)が大きく変化している。

 

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2015-05-08 | 参照

 

 

 

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