事件がはじまるとき
一つのシグナルが明滅する
………………
濁った風が吹くとき
予感された純潔を消せ
集められた廃疾の物語をまえに
未来を語るな
事件は過去にも未来にもなく
ただ、いまここに、生きられている
………………
チカラへの加担が死を意味し
無力への加担が生を意味し
不可能が一つの風景を析出する
………………
遠くを見やるそのまなざしが
孤独と希望の形態なら
あなたのまなざしは世界を
心臓深く刺し貫くものであるのか
それとも古代への追憶とともに
忍辱の民謡がみちびかれ
忘却という対価が支払われ
葬送の儀式がくりかえされるのか
………………
希望を語ることが
虚偽に相転移する境界がある
忍辱の歌謡が奏でられるとき
悲しみを噛み殺しながら
埋葬を許さないものがいる
………………
パブのカウンターで二人が出会い
語りうる水準で語りあい
わかりあえる水準でわかりあう
語りえないことの語りえなさ
わかりあえないことのわかりえなさ
透明な了解のカケラがグラスを鳴らす
とかろうじて信じられたとき
儚い関係のテーブルが保たれる
………………
あなたの古代をなつかしむ心が
あなたと仲間たちの事件を
なかったことにするかもしれない
無償の饒舌に担われたあらゆるコムパは
心を慰めるものと引きかえに
一人一人の事件を供犠に捧げるように
いつもそのことを望んでいるのかもしれなかった
………………
草の息がひそむ場所は神聖だ
湿ったイノチの戦慄は終らない
………………
ふたたび事件がはじまるとき
一つのシグナルが明滅する
古代をほんとうに懐かしむために
あなたは永遠に
訣別を知らない者にならなければならなかった
それは訣別によって滅ぼされていくものを
なんどでも奪還することを意味した