「一種の無常観?」
「行く川の流れは絶えずして」
「もののあわれ的な世界観の自己適用」
「いつの時代にもある月並みな作法だね」
「本当はそれ自体規範的なものじゃない」
「審美的なものかな」
「ルサンチマンや不遇感の単なるリアクションということもある」
「俗塵の息苦しさが最後に引き抜くジョーカー」
「ジャパネスクな観照的態度とも自讃されている」
「大和心」
「独特の洗練された表現形式もある」
「それは究極的にはボトムがないということへの気づきかもしれない」
「気づきがあっても、世界が変化するわけではない」
「変化はしないけど意味性が変わる」
「意味が変わるとして、問題はどんな行為がそこに接続されるかだね」
「気づきがどう世界の色合いを変えるのか」
「現実の振舞いはさまざまに分岐する」
「コンビニエントな諦念として機能することもあるね」
「世俗的なコードや道徳の乗り越えツールにも使える」
「ご都合主義的に、逸脱や犯罪を正当化できるかもしれない」
「いきなり超越項へジャンプするという可能性もある」
「究極のパンツね」
「しかし、そこから利他的である必然性はない」
「利己的になる必然性もない」
「現世否定でも現世肯定でもある必然性もない」
「融通無碍」
「結果的にいろいろなものと結託できるということか」
「たとえば、ゼニがすべてという公然たるパフォーマンスもある」
「偽善が幅をきかせるようにみえる世界では、むしろ潔いとされることもある」
「しかしアウトプットが何に帰結するかは一義的には決められない」
「能動的ニヒリズムの実践という矜持もあったりする」
「一回こっきりの人生」
「死んだらお仕舞いよ」
「一場の夢」
「ただ旨いものはたらふく食っておこう」
「カラスの勝手でしょ」
「月並みだね」
「月並みだけど、ビジネス上の推進力として機能することもある」
「一方には隠遁生活といったものもある」
「しかし、ギンギラギンの現世の重力は強力だ」
「ギンギラギンでさりげなく」
「おいしい生活は一杯ある」
「くだらないものもふんだんにある」
「ほしいものがほしい、とか」
「結局はあちこちめぐりめぐって現世に着地するというのが定番かな」
「無常観はそこには行使されない」
「そこまで徹底して行使されることは奇跡的なことかもしれない」
「そして現実一本で事態は推移していく」
「その外は存在しないかのように振る舞うことが、ゲームへの参加資格になっている」
「お約束だね」
「もののあわれや無常観への対抗としての文明ゲームともいえる」
「神亡き後の対処戦略か」
「神サマがいても同時並行可能だ」
「でも亡くなったという近代の診断は確定している」
「クリーンアップされたノッペラボウの現世をいかに生きるか」
「そのためにさらにシステムは増強されてきた」
「外部抹消を前提に、すべてはマーケットへと収れんしていく?」
「総がかりの大伽藍の建築が進行している」
「バベルの塔ですか」
「理屈からいえば、マーケットを否認すれば何も残らないことになっている」
「結局、無常は腹の足しにならない」
「まさに」
「外はない」
「それ以外想定しようにも想定できない」
「近代化という名の壮大なプロジェクトね」
「だけど外部は必ず浮上する」
「ロジカルに浮上する」
「ただ、リアルワールドそのものが宗教ともいえる」
「ニンゲンは本来宗教的存在でしょ」
「それは消せないね」
「というより本質的には宗教というものが手当てされてきた」
「何に?」
「ニンゲンの営みが分泌するもののあわれ的なものに」
「世界が分泌するのではなくて?」
「順番からいえばニンゲンの営みが先にある」
「自然界に宗教があったわけじゃない」
「後にも先にもね」
「いわば脳ミソの内燃機関でもある?」
「みずからそうであらぬところのものへの志向」
「世界表象のゼロ記号的なメカニズム」
「内属する空とか無とかね」
「それが宗教と呼ばれるものの根っ子にあるわけか」
「振り払おうにも振り払えない」
「それを何かで埋めようとする営為が、否が応でも神々を分泌する」
「自然の圧倒的な脅威もあった」
「豊かな恵みも与えてくれた」
「内なる煩悩もある」
「内なる自然」
「つまり内なる外部ね」
「それが導く悲惨や不幸も腐るほどあった」
「そこから味わえるエロスも一杯あった」
「まさに苦は楽のタネ、楽は苦のタネ」
「なるほど」
「その全体を説明するのに現世のロジックだけでは追いつかないからあの世が想定された」
「それでスッキリするわけか」
「ただ、サイドエフェクトとしての不幸や惨劇はあまりにも過剰だった」
「そこからの自由を志向したとき、もう一度ゼロ記号への帰還が目指されたりしたわけか」
「ごく例外的にいえばね」
「プリミティブな時代はちがったでしょ」
「人馬一体的に人と自然と神々による包摂が、自己完結的にコスモスを作っていた」
「しかし、ある時点からあるエリアでは神格のビルドアップが目指された」
「人類的なプロジェクトXへの発進」
「どんな部族も例外なく宗教プロジェクトを推進してきた」
「歴史多発的にね」
「コンセプトのちがうプロジェクト同士の激突も起きた」
「ビルドアップを目指せば、そこから甚大な破綻や代償も顕在化する」
「こりごりだということも起きた」
「だから別様の対処法も模索された」
「さしあたり文明化プロジェクトということになるのかな」
「現世一本で勝負するということか」
「現世利益的なもので腹が膨れれば、宗教プロジェクトは出番がない」
「だけど膨れることはありえないから屋上屋が重ねられることになる」
「ゼロに駆動されながら、ゼロを埋めようという究極のマッチポンプか」
「実際にはすべてそれに尽きるかもしれない」
「正しくはプロジェクト・ゼロ」
「それがニンゲンの歴史か」
「単純にいえば人類の壮大なパンツをめぐる歴史ね」
「自己完結できないように出来ているからパンツは要る」
「ゼロの現前に対するニンゲンの応答が、宗教という形式で表現されたわけか」
「同時に機能的にはそれが文明化という形式をとったということかな」
「ゼロへの気づきがニンゲンの思考を発動したともいえるね」
「インド人のゼロ発見が数学発展を起爆させたようにね」
「ゼロ記号がなければニンゲンは思考できない」
「虚数的にニンゲンの生のリビドーは発動されるわけか」
「しかし、いまや宗教は胡散臭さの代表にされてもいる」
「この国ではね」
「リアル・ワールドの動かし難さがあるとしても、それは一つのプロジェクトだという了解があるかないか」
「その了解があるかないかが決定的だ」
「一つの試行ね」
「だけどイノチがかかっている」
「ただし試行でしかない」
「にもかかわらずイノチがかかっている」
「無限に循環するけど、どっちが本当ということもないね」
「そこに分岐点があるわけだ」
「彼我の認識のちがいがね」
「面倒だけど相反するものの両義的認知があるかどうか」
「そうした構造は子供じゃわからない」
「子供はどっちか決め手ほしい」
「我慢できないし、機微がわからないから思考が洗練されない」
「もののあわれをモチーフにした表現は腐るほどあるけどね」
「わびさび」
「枯山水」
「いろはにほへと」
「独自の表現形式を洗練させてきたけれども、現実の振舞いとは無関連化しているということか」
「だから子供だらけのように見える」
「そう思う」
「どういうこと」
「この国は子供の王国にみえる」
「子供には失礼かもしれない」
「恥もなくビューティフルランドとのたまう阿呆がトップにいる」
「薄々気づいている子もいる」
「この国の表現の伝統に照らしたら、最初に落とされるレベルだね」
「ただ、メディアの前はチャイルドシートだらけでしょ」
「そのレベルにピッタリとはまる」
「いやメディア世界がそうなっているだけで、画角の外には一人前の大人たちもいる」
「万人に向かって自分のツラを晒す恥ずかしさを知っている人もいるということか」
「マーケティングは狙いやすい子供だけしか相手にしない」
「メディア的には感情の表出が優先されている」
「作為的な井戸端空間があちこちに出来上がっている」
「煽りと感情の表出合戦がパブリックな空間全域を埋め尽くしているようにみえる」
「ちょっと奥さん聞いたぁ的な話法やキャラが耳目を集める」
「大袈裟に驚いてみせなければいけない」
「ボソボソゆっくり話すヤツは使えない」
「使えるけど突っ込んでやる必要がある」
「カマトト・ゲームね」
「あらぁ」
「ちょっと、ちょっと」
「いけないんだぁ」
「あっぱれ」
「なりきりゲームか」
「サルの軍団的なギャラリー演出もある」
「いいとも!」
「それはそれでバカバカしくて楽しい」
「バカバカしいのはいいけどさ」
「最高の議決機関でも同じ現象が起こっている」
「まったく同じ」
「場のノリがすべてに優先される」
「国全体が井戸端的なカマトト空間になっているのか」
「それを承知でやっております」
「たとえばビジネスといえば格好よさげだけど、本質的にはカマトト・ゲームのバージョンでしょ」
「たとえば?」
「誤解を招いたことをお詫びします」
「誤解じゃねえだろ」
「はい、本当は誤解じゃありません」
「誤解じゃなくて、ワタシが阿呆で悪党で、みなさんは正解で、ですのでお詫び申し上げます」
「それが正しい言い方だ」
「成熟を迂回するための代替物もあふれている」
「どんな形で?」
「めくらまし的な快楽装置群の巨大な連合がある」
「それ自体は問題ないでしょ」
「ない。その一つ一つにはね」
「ジェットコースター的歓楽マシンや感情垂れ流し兼吸収装置はたくさんある」
「それらが単独では純然たるエンタの仕掛けだとしても、群としては別の作用を始める」
「結果として、子供でありつづけるためのワンダーランドが全域を覆うということかな」
「眩惑に満ちためくらまし空間ね」
「メディアではその場の思いつき的な社会正義もまぶされる」
「ワタクシが時代の理性の代表ですというキャラがギャラをどかんと貰う」
「わたしが良識を代表しております」
「その実態はひどいものだけど、舞台裏にはカメラは入らない」
「誰もが知っているけど、誰もが知らないことになっている」
「建て前としての公正中立正義その他もろもの金看板がある一方、そこには十九世紀的労働収奪によって下支えする下部構造もちゃっかり機能している」
「貴族と奴隷の古代的世界とも言える」
「もっとひどいかもしれない」
「そして、じつはビューティフルランドは誰一人として信じてはいない」
「誰もが信じるかもしれないと誰もが信じたふりをすることで、結果的にアンタッチャブルなシンボルのまま使われてしまう」
「人を眩惑できる属性は何一つ備えていないけどね」
「にもかかわらずこの社会に内属して生きるしかないけど、あるともないとも言葉では明示できないけど外部は存在している」
「現にいまここにあるものだ」
「だけどそれが真実の世界だとも言えない」
「うん。ホントのホントということは成り立たないけどさ」
「ただ、そのことに無自覚で無防備でノー天気である貧しさには気づいたほうがいい」
「なぜでしょう」
「なぜだろうね」
「成熟したほうがいいから?」
「成熟とは何かな」
「一ついえるのは、徹底的に個人がアトマイズされているということかな」
「されっぱなし」
「そしてそれを現実のすべてだと思い込ませて利用する輩がいるということだね」
「命令に従いやすい子供のままの状態に置いておいたほうが都合のいい連中がいる」
「確実にいる」
「そこは互換的だけどね」
「固定された関係ではなくて入れ替わり自由でもある」
「ただ、全体としてそのように作動しているシステムのメカニズムがある」
「そう。システムのパーツにされるバカバカしさがあるとして、そしてそういう位相を生きざるをえないのがリアル・ワールドの限界だとしても、別の位相では自由への希求がある」
「その希求が台無しにされているということか」
「そのことに気づかないのが子供ということだね」
「文化的伝統というはっきりした理由もないわけではない」
「そうした希求の受け皿はシステム内には用意されていない」
「補完的にはふんだんにある」
「形骸化した宗教空間や儀式ももろもろある」
「懐の深いシステムでないことは確かだ」
「感情の国か?」
「メディア的には感情の表出のほうが旨みがある」
「悪しき井戸端空間の拡大生産」
「煽れば煽るだけ黒字は増える」
「短期的にはね」
「長期的にはこの国の自滅に通じるかもしれない」
「ストッパーがないということかな」
「ストッパーやそれを制御可能にするものがない」
「感情以外の伝統的な人間関係のリソースがその機能を果たすあり方もある」
「どの国?」
「知らないけど、オトナがたくさんいる国」
「理屈優先ということ?」
「いや、感情にまかせちゃロクなことはないという認知がある」
「過去にさんざん痛い目に遭ってきて、こりごりだという歴史があるわけだ」
「無数の歴史的な惨劇の経験が骨身に沁みている」
「歴史があるだけじゃだめで、それがみんなに記憶されているということね」
「記憶されるための対話空間やメカニズムが社会に組み込まれている」
「だったらいいな」
「それがナショナルな共有財産として自覚されているというわけか」
「オトナたちの思考にはそれが刻印されている、ということだったらいいね」
「冷静に論理を立てながら、いい加減にしなさいといえるオトナがたくさんいる国ね」
「そう。当然、感情がないということじゃない。感情が劣ったものだというのでもない」
「むしろ、感情は伸びやかなものになるかもしれない」
「感情をゲームとして遊ぶ余裕も生まれる」
「そうした土俵が共有されればね」
「感情の表出競争だけが展開するような場所では、反対に感情は腐食していくでしょ」
「ただ、この国では別種のストッパーやコントローラーが働く」
「何でしょ」
「対抗的な集団感情」
「ある感情を抑えるために対置されるもう一つの感情というパターンね」
「にんげんだもの」
「同じにんげんだろ」
「キサマ、それでもにんげんか」
「ニッポンジンかぁという言い方もある」
「それに類するものはふんだんにある」
「いろいろと代入可能だ」
「場の空気によってにんげんの中味も自在に変化する」
「立場によっても自在に解釈変更が可能だ」
「いざとなれば国のために死ぬのがヤマト魂と言い出しかねない」
「悪いけどみんなのためにここは死んでくれという言い方は今もある」
「それがビューティフルという言葉の最終的な指示内容かもしれない」
「ことだまね」
「一丸となって」
「最後には敵も味方もなくなって、同一性が確認されればそれで安心というね」
「それがある種の究極の中和装置、融和装置として働く」
「この国ではそうした装置の活用法に長けた人間がタイジンと称されてきた」
「感情の誘導芸ね」
「腹芸師、裏芸師、寝技師」
「比較的コストが低くて済む手法かもしれない」
「言質が明示されるわけじゃないから、比較的責任も伴わない」
「つまり、以心伝心でお望みどおりの自発性が調達されるわけね」
「わかってるだろ、な、うん、いやぁ、じゃあ、という空気感染が起こる」
「それがこの国のオトナ世界の作法の一つでもあった」
「それでもだめなら、それでもオマエはニッポンジンか」
「恥を知れ、とか」
「罪を知れとはいわない」
「論理を積み上げるにはコストが掛かるし」
「あうんの呼吸的根回しの知恵はふんだんにある」
「それが一概に悪いともいえない面もある」
「ただ、少なくとも感情は忘れやすい」
「都合よく忘れることができる」
「忘れたということも忘れる」
「ナショナルな風土病だな」
「つまり、リセット機能が装備されている国ということか」
「一夜にして別に国になれる国でもある」
「そのことが、ポストモダンの最前線を疾走する国といわれている理由の一つでもあるかもしれない」
「スーパーフラットで、デジタル空間との相性は抜群ではある」
「感情はすっきりしたい方向に動きやすいね」
「すっきりしたい方向はサルでもわかる」
「かゆみと同じ」
「かゆいのはしかたがない」
「実感の論理ね」
「ワタシの実感をどうしてくれるのよ」
「知るか、とはいえない空間が出来上がる」
「誰かがかいてあげないといけない」
「かゆいワタシをどうしてくれるの」
「冷たく突き放すという作法には人気がない」
「情の国か」
「情の人というのは右でも左でも最大級の褒め言葉だ」
「情にもいろいろあるけどさ」
「結局、一度かくだけでいいんだから」
「誰かがかいてくれるだけで十分というところが面白い」
「それはオマエの実感だろ、という言い方もあるけどね」
「オマエのかゆいのはよぉくわかる。わかりすぎるほどわかる」
「だろ」
「うん。オレもかゆい」
「オマエっていいやつだな」
「かゆみを知らないヤツとはつきあえないな」
「そうだ、そうだ」
「どこがかいゆいんだ?」
「ここか、あそこか」
「いいねえ」
「でも、一晩たったらぜんぶ忘れてる」
「おまえ誰だっけ」
「感情補強的に理屈がこねくりまわされることも多い」
「議論の場ではそうしたことが永遠に反復される」
「だから資源が蓄積されない」
「オトナの知恵がね」
「つまり、成熟できない」
「やっぱり子供の国か」
「感情には論理よりも感染力があるのは確か」
「カタルシスもある」
「スッキリするという果実には抗えない」
「むき出しの感情には負ける」
「負けたらおしまいでしょ」
「感情がいったん励起すると、こちらの感情も励起される」
「しかたなくね」
「確かに揺さぶるものがある」
「共鳴装置的に波立ちが引き起こされる」
「場合によってはそれが増幅されて、国家レベルの感情のレゾナンスが起こる」
「ナショナルなお祭りか」
「一体感とか、壮大な共生感が生まれることもあるかもしれない」
「それで恍惚状態のまま全員が死んでしまえば万事めでたしめでたし」
「それは昔の話でしょ」
「どうかな」
「臨時ニュースを申し上げます」
「なに?」
「ニイタカヤマノボレ」
「マジ?」
「聞いてないよ、なんてこともゼロじゃない」
「限りなくゼロに近いけどね」
「それが何かわからないけど、後戻りできない地点に立たされているということはありうるね」
「この国のプランナーはいるわけか」
「日々活動していることは確か」
「それが海の外にいる連中である可能性もある」
「行く川の流れは絶えずして」
「もののあわれ的な世界観の自己適用」
「いつの時代にもある月並みな作法だね」
「本当はそれ自体規範的なものじゃない」
「審美的なものかな」
「ルサンチマンや不遇感の単なるリアクションということもある」
「俗塵の息苦しさが最後に引き抜くジョーカー」
「ジャパネスクな観照的態度とも自讃されている」
「大和心」
「独特の洗練された表現形式もある」
「それは究極的にはボトムがないということへの気づきかもしれない」
「気づきがあっても、世界が変化するわけではない」
「変化はしないけど意味性が変わる」
「意味が変わるとして、問題はどんな行為がそこに接続されるかだね」
「気づきがどう世界の色合いを変えるのか」
「現実の振舞いはさまざまに分岐する」
「コンビニエントな諦念として機能することもあるね」
「世俗的なコードや道徳の乗り越えツールにも使える」
「ご都合主義的に、逸脱や犯罪を正当化できるかもしれない」
「いきなり超越項へジャンプするという可能性もある」
「究極のパンツね」
「しかし、そこから利他的である必然性はない」
「利己的になる必然性もない」
「現世否定でも現世肯定でもある必然性もない」
「融通無碍」
「結果的にいろいろなものと結託できるということか」
「たとえば、ゼニがすべてという公然たるパフォーマンスもある」
「偽善が幅をきかせるようにみえる世界では、むしろ潔いとされることもある」
「しかしアウトプットが何に帰結するかは一義的には決められない」
「能動的ニヒリズムの実践という矜持もあったりする」
「一回こっきりの人生」
「死んだらお仕舞いよ」
「一場の夢」
「ただ旨いものはたらふく食っておこう」
「カラスの勝手でしょ」
「月並みだね」
「月並みだけど、ビジネス上の推進力として機能することもある」
「一方には隠遁生活といったものもある」
「しかし、ギンギラギンの現世の重力は強力だ」
「ギンギラギンでさりげなく」
「おいしい生活は一杯ある」
「くだらないものもふんだんにある」
「ほしいものがほしい、とか」
「結局はあちこちめぐりめぐって現世に着地するというのが定番かな」
「無常観はそこには行使されない」
「そこまで徹底して行使されることは奇跡的なことかもしれない」
「そして現実一本で事態は推移していく」
「その外は存在しないかのように振る舞うことが、ゲームへの参加資格になっている」
「お約束だね」
「もののあわれや無常観への対抗としての文明ゲームともいえる」
「神亡き後の対処戦略か」
「神サマがいても同時並行可能だ」
「でも亡くなったという近代の診断は確定している」
「クリーンアップされたノッペラボウの現世をいかに生きるか」
「そのためにさらにシステムは増強されてきた」
「外部抹消を前提に、すべてはマーケットへと収れんしていく?」
「総がかりの大伽藍の建築が進行している」
「バベルの塔ですか」
「理屈からいえば、マーケットを否認すれば何も残らないことになっている」
「結局、無常は腹の足しにならない」
「まさに」
「外はない」
「それ以外想定しようにも想定できない」
「近代化という名の壮大なプロジェクトね」
「だけど外部は必ず浮上する」
「ロジカルに浮上する」
「ただ、リアルワールドそのものが宗教ともいえる」
「ニンゲンは本来宗教的存在でしょ」
「それは消せないね」
「というより本質的には宗教というものが手当てされてきた」
「何に?」
「ニンゲンの営みが分泌するもののあわれ的なものに」
「世界が分泌するのではなくて?」
「順番からいえばニンゲンの営みが先にある」
「自然界に宗教があったわけじゃない」
「後にも先にもね」
「いわば脳ミソの内燃機関でもある?」
「みずからそうであらぬところのものへの志向」
「世界表象のゼロ記号的なメカニズム」
「内属する空とか無とかね」
「それが宗教と呼ばれるものの根っ子にあるわけか」
「振り払おうにも振り払えない」
「それを何かで埋めようとする営為が、否が応でも神々を分泌する」
「自然の圧倒的な脅威もあった」
「豊かな恵みも与えてくれた」
「内なる煩悩もある」
「内なる自然」
「つまり内なる外部ね」
「それが導く悲惨や不幸も腐るほどあった」
「そこから味わえるエロスも一杯あった」
「まさに苦は楽のタネ、楽は苦のタネ」
「なるほど」
「その全体を説明するのに現世のロジックだけでは追いつかないからあの世が想定された」
「それでスッキリするわけか」
「ただ、サイドエフェクトとしての不幸や惨劇はあまりにも過剰だった」
「そこからの自由を志向したとき、もう一度ゼロ記号への帰還が目指されたりしたわけか」
「ごく例外的にいえばね」
「プリミティブな時代はちがったでしょ」
「人馬一体的に人と自然と神々による包摂が、自己完結的にコスモスを作っていた」
「しかし、ある時点からあるエリアでは神格のビルドアップが目指された」
「人類的なプロジェクトXへの発進」
「どんな部族も例外なく宗教プロジェクトを推進してきた」
「歴史多発的にね」
「コンセプトのちがうプロジェクト同士の激突も起きた」
「ビルドアップを目指せば、そこから甚大な破綻や代償も顕在化する」
「こりごりだということも起きた」
「だから別様の対処法も模索された」
「さしあたり文明化プロジェクトということになるのかな」
「現世一本で勝負するということか」
「現世利益的なもので腹が膨れれば、宗教プロジェクトは出番がない」
「だけど膨れることはありえないから屋上屋が重ねられることになる」
「ゼロに駆動されながら、ゼロを埋めようという究極のマッチポンプか」
「実際にはすべてそれに尽きるかもしれない」
「正しくはプロジェクト・ゼロ」
「それがニンゲンの歴史か」
「単純にいえば人類の壮大なパンツをめぐる歴史ね」
「自己完結できないように出来ているからパンツは要る」
「ゼロの現前に対するニンゲンの応答が、宗教という形式で表現されたわけか」
「同時に機能的にはそれが文明化という形式をとったということかな」
「ゼロへの気づきがニンゲンの思考を発動したともいえるね」
「インド人のゼロ発見が数学発展を起爆させたようにね」
「ゼロ記号がなければニンゲンは思考できない」
「虚数的にニンゲンの生のリビドーは発動されるわけか」
「しかし、いまや宗教は胡散臭さの代表にされてもいる」
「この国ではね」
「リアル・ワールドの動かし難さがあるとしても、それは一つのプロジェクトだという了解があるかないか」
「その了解があるかないかが決定的だ」
「一つの試行ね」
「だけどイノチがかかっている」
「ただし試行でしかない」
「にもかかわらずイノチがかかっている」
「無限に循環するけど、どっちが本当ということもないね」
「そこに分岐点があるわけだ」
「彼我の認識のちがいがね」
「面倒だけど相反するものの両義的認知があるかどうか」
「そうした構造は子供じゃわからない」
「子供はどっちか決め手ほしい」
「我慢できないし、機微がわからないから思考が洗練されない」
「もののあわれをモチーフにした表現は腐るほどあるけどね」
「わびさび」
「枯山水」
「いろはにほへと」
「独自の表現形式を洗練させてきたけれども、現実の振舞いとは無関連化しているということか」
「だから子供だらけのように見える」
「そう思う」
「どういうこと」
「この国は子供の王国にみえる」
「子供には失礼かもしれない」
「恥もなくビューティフルランドとのたまう阿呆がトップにいる」
「薄々気づいている子もいる」
「この国の表現の伝統に照らしたら、最初に落とされるレベルだね」
「ただ、メディアの前はチャイルドシートだらけでしょ」
「そのレベルにピッタリとはまる」
「いやメディア世界がそうなっているだけで、画角の外には一人前の大人たちもいる」
「万人に向かって自分のツラを晒す恥ずかしさを知っている人もいるということか」
「マーケティングは狙いやすい子供だけしか相手にしない」
「メディア的には感情の表出が優先されている」
「作為的な井戸端空間があちこちに出来上がっている」
「煽りと感情の表出合戦がパブリックな空間全域を埋め尽くしているようにみえる」
「ちょっと奥さん聞いたぁ的な話法やキャラが耳目を集める」
「大袈裟に驚いてみせなければいけない」
「ボソボソゆっくり話すヤツは使えない」
「使えるけど突っ込んでやる必要がある」
「カマトト・ゲームね」
「あらぁ」
「ちょっと、ちょっと」
「いけないんだぁ」
「あっぱれ」
「なりきりゲームか」
「サルの軍団的なギャラリー演出もある」
「いいとも!」
「それはそれでバカバカしくて楽しい」
「バカバカしいのはいいけどさ」
「最高の議決機関でも同じ現象が起こっている」
「まったく同じ」
「場のノリがすべてに優先される」
「国全体が井戸端的なカマトト空間になっているのか」
「それを承知でやっております」
「たとえばビジネスといえば格好よさげだけど、本質的にはカマトト・ゲームのバージョンでしょ」
「たとえば?」
「誤解を招いたことをお詫びします」
「誤解じゃねえだろ」
「はい、本当は誤解じゃありません」
「誤解じゃなくて、ワタシが阿呆で悪党で、みなさんは正解で、ですのでお詫び申し上げます」
「それが正しい言い方だ」
「成熟を迂回するための代替物もあふれている」
「どんな形で?」
「めくらまし的な快楽装置群の巨大な連合がある」
「それ自体は問題ないでしょ」
「ない。その一つ一つにはね」
「ジェットコースター的歓楽マシンや感情垂れ流し兼吸収装置はたくさんある」
「それらが単独では純然たるエンタの仕掛けだとしても、群としては別の作用を始める」
「結果として、子供でありつづけるためのワンダーランドが全域を覆うということかな」
「眩惑に満ちためくらまし空間ね」
「メディアではその場の思いつき的な社会正義もまぶされる」
「ワタクシが時代の理性の代表ですというキャラがギャラをどかんと貰う」
「わたしが良識を代表しております」
「その実態はひどいものだけど、舞台裏にはカメラは入らない」
「誰もが知っているけど、誰もが知らないことになっている」
「建て前としての公正中立正義その他もろもの金看板がある一方、そこには十九世紀的労働収奪によって下支えする下部構造もちゃっかり機能している」
「貴族と奴隷の古代的世界とも言える」
「もっとひどいかもしれない」
「そして、じつはビューティフルランドは誰一人として信じてはいない」
「誰もが信じるかもしれないと誰もが信じたふりをすることで、結果的にアンタッチャブルなシンボルのまま使われてしまう」
「人を眩惑できる属性は何一つ備えていないけどね」
「にもかかわらずこの社会に内属して生きるしかないけど、あるともないとも言葉では明示できないけど外部は存在している」
「現にいまここにあるものだ」
「だけどそれが真実の世界だとも言えない」
「うん。ホントのホントということは成り立たないけどさ」
「ただ、そのことに無自覚で無防備でノー天気である貧しさには気づいたほうがいい」
「なぜでしょう」
「なぜだろうね」
「成熟したほうがいいから?」
「成熟とは何かな」
「一ついえるのは、徹底的に個人がアトマイズされているということかな」
「されっぱなし」
「そしてそれを現実のすべてだと思い込ませて利用する輩がいるということだね」
「命令に従いやすい子供のままの状態に置いておいたほうが都合のいい連中がいる」
「確実にいる」
「そこは互換的だけどね」
「固定された関係ではなくて入れ替わり自由でもある」
「ただ、全体としてそのように作動しているシステムのメカニズムがある」
「そう。システムのパーツにされるバカバカしさがあるとして、そしてそういう位相を生きざるをえないのがリアル・ワールドの限界だとしても、別の位相では自由への希求がある」
「その希求が台無しにされているということか」
「そのことに気づかないのが子供ということだね」
「文化的伝統というはっきりした理由もないわけではない」
「そうした希求の受け皿はシステム内には用意されていない」
「補完的にはふんだんにある」
「形骸化した宗教空間や儀式ももろもろある」
「懐の深いシステムでないことは確かだ」
「感情の国か?」
「メディア的には感情の表出のほうが旨みがある」
「悪しき井戸端空間の拡大生産」
「煽れば煽るだけ黒字は増える」
「短期的にはね」
「長期的にはこの国の自滅に通じるかもしれない」
「ストッパーがないということかな」
「ストッパーやそれを制御可能にするものがない」
「感情以外の伝統的な人間関係のリソースがその機能を果たすあり方もある」
「どの国?」
「知らないけど、オトナがたくさんいる国」
「理屈優先ということ?」
「いや、感情にまかせちゃロクなことはないという認知がある」
「過去にさんざん痛い目に遭ってきて、こりごりだという歴史があるわけだ」
「無数の歴史的な惨劇の経験が骨身に沁みている」
「歴史があるだけじゃだめで、それがみんなに記憶されているということね」
「記憶されるための対話空間やメカニズムが社会に組み込まれている」
「だったらいいな」
「それがナショナルな共有財産として自覚されているというわけか」
「オトナたちの思考にはそれが刻印されている、ということだったらいいね」
「冷静に論理を立てながら、いい加減にしなさいといえるオトナがたくさんいる国ね」
「そう。当然、感情がないということじゃない。感情が劣ったものだというのでもない」
「むしろ、感情は伸びやかなものになるかもしれない」
「感情をゲームとして遊ぶ余裕も生まれる」
「そうした土俵が共有されればね」
「感情の表出競争だけが展開するような場所では、反対に感情は腐食していくでしょ」
「ただ、この国では別種のストッパーやコントローラーが働く」
「何でしょ」
「対抗的な集団感情」
「ある感情を抑えるために対置されるもう一つの感情というパターンね」
「にんげんだもの」
「同じにんげんだろ」
「キサマ、それでもにんげんか」
「ニッポンジンかぁという言い方もある」
「それに類するものはふんだんにある」
「いろいろと代入可能だ」
「場の空気によってにんげんの中味も自在に変化する」
「立場によっても自在に解釈変更が可能だ」
「いざとなれば国のために死ぬのがヤマト魂と言い出しかねない」
「悪いけどみんなのためにここは死んでくれという言い方は今もある」
「それがビューティフルという言葉の最終的な指示内容かもしれない」
「ことだまね」
「一丸となって」
「最後には敵も味方もなくなって、同一性が確認されればそれで安心というね」
「それがある種の究極の中和装置、融和装置として働く」
「この国ではそうした装置の活用法に長けた人間がタイジンと称されてきた」
「感情の誘導芸ね」
「腹芸師、裏芸師、寝技師」
「比較的コストが低くて済む手法かもしれない」
「言質が明示されるわけじゃないから、比較的責任も伴わない」
「つまり、以心伝心でお望みどおりの自発性が調達されるわけね」
「わかってるだろ、な、うん、いやぁ、じゃあ、という空気感染が起こる」
「それがこの国のオトナ世界の作法の一つでもあった」
「それでもだめなら、それでもオマエはニッポンジンか」
「恥を知れ、とか」
「罪を知れとはいわない」
「論理を積み上げるにはコストが掛かるし」
「あうんの呼吸的根回しの知恵はふんだんにある」
「それが一概に悪いともいえない面もある」
「ただ、少なくとも感情は忘れやすい」
「都合よく忘れることができる」
「忘れたということも忘れる」
「ナショナルな風土病だな」
「つまり、リセット機能が装備されている国ということか」
「一夜にして別に国になれる国でもある」
「そのことが、ポストモダンの最前線を疾走する国といわれている理由の一つでもあるかもしれない」
「スーパーフラットで、デジタル空間との相性は抜群ではある」
「感情はすっきりしたい方向に動きやすいね」
「すっきりしたい方向はサルでもわかる」
「かゆみと同じ」
「かゆいのはしかたがない」
「実感の論理ね」
「ワタシの実感をどうしてくれるのよ」
「知るか、とはいえない空間が出来上がる」
「誰かがかいてあげないといけない」
「かゆいワタシをどうしてくれるの」
「冷たく突き放すという作法には人気がない」
「情の国か」
「情の人というのは右でも左でも最大級の褒め言葉だ」
「情にもいろいろあるけどさ」
「結局、一度かくだけでいいんだから」
「誰かがかいてくれるだけで十分というところが面白い」
「それはオマエの実感だろ、という言い方もあるけどね」
「オマエのかゆいのはよぉくわかる。わかりすぎるほどわかる」
「だろ」
「うん。オレもかゆい」
「オマエっていいやつだな」
「かゆみを知らないヤツとはつきあえないな」
「そうだ、そうだ」
「どこがかいゆいんだ?」
「ここか、あそこか」
「いいねえ」
「でも、一晩たったらぜんぶ忘れてる」
「おまえ誰だっけ」
「感情補強的に理屈がこねくりまわされることも多い」
「議論の場ではそうしたことが永遠に反復される」
「だから資源が蓄積されない」
「オトナの知恵がね」
「つまり、成熟できない」
「やっぱり子供の国か」
「感情には論理よりも感染力があるのは確か」
「カタルシスもある」
「スッキリするという果実には抗えない」
「むき出しの感情には負ける」
「負けたらおしまいでしょ」
「感情がいったん励起すると、こちらの感情も励起される」
「しかたなくね」
「確かに揺さぶるものがある」
「共鳴装置的に波立ちが引き起こされる」
「場合によってはそれが増幅されて、国家レベルの感情のレゾナンスが起こる」
「ナショナルなお祭りか」
「一体感とか、壮大な共生感が生まれることもあるかもしれない」
「それで恍惚状態のまま全員が死んでしまえば万事めでたしめでたし」
「それは昔の話でしょ」
「どうかな」
「臨時ニュースを申し上げます」
「なに?」
「ニイタカヤマノボレ」
「マジ?」
「聞いてないよ、なんてこともゼロじゃない」
「限りなくゼロに近いけどね」
「それが何かわからないけど、後戻りできない地点に立たされているということはありうるね」
「この国のプランナーはいるわけか」
「日々活動していることは確か」
「それが海の外にいる連中である可能性もある」