一人一人の顔を思い起こすように
過去を振り返っているものは何だろう
決して触れることができないみんなの顔は
俺たちの心の中にあって
あらゆる終局とはじまりの間に
衰亡と再生の歌がよみがえり
沸き立つ時間が隙間を埋める
連鎖する空虚は俺たちが望んだものとして
いつも最後のモチーフとして突きつけられている
懐かしさにおびえ
怖れに勇み立ち
余裕のない心が決意する
勝利とは何か
敗北とは何か
教唆するものがこの世界を隠匿している
教唆はテクノとして成熟をそそのかす
その規定された方角は
一人一人の大小の波乱を許容するまで組織されてはいない
俺たちは過酷さえ笑いの種となった
秩序の大船に乗っているわけではない
ほんとうの未知と出会うために
俺たちは明らかにしなければならない
人びとの集う祭壇の根拠を
小さな午後の平和を
恋人たちの独自の世界を
暴力と処刑のシステムを
緻密に積み上げられた階梯の一つ一つを
戦うことが生存の証になるとすれば
俺たちの意志をこの街の風景全体へと向けよう
チカラへの加担が死を意味し
無力への加担が生を意味し
不可能が一つの風景を析出する
文明のあらゆる変奏をインプットされたこの時代の装置は
メカニズムの小枝に無数の人間をぶら下げている
欠如が俺たちの解体された意識の原因であるとき
この街の風景はおのれの強制力を有効に作動させたことになる
朝と昼と夜と
憩いには崩壊を
不幸には呪縛を
諍いには疲労を
忘却には報酬を用意して
この街が肥大するとき
俺たちは何ものかの死滅を目撃している
俺たちが倒れないとすれば
風景全体へのまなざしを手離さないことによるのだ
六月は俺たちに具体的な戦いの方法を要求する
限定された生活の限度は
生活の内側から突き破るしかない
俺たちは出て行く場所も
ここよりほかに帰る場所もない風景の中で
唯一の覚悟をしなければならない
――あらゆる同行と共犯と訣別せよ
俺たちの戦う姿はたとえば林檎を剥く手振りに現れる
俺たちの覚悟はたとえば集金人への挨拶に現れる
俺たちはみずからの視覚に異和を投げ狂気を呼び入れるが
俺たちは戦いの目的を生活の重量と置き換えたりはしない
ニンゲンの歴史と現在をつらぬく
見えるもの 見えないもの
そのすべての営みへ向かうまなざしは
この街から教えられたものではない
この街の起伏をいつわりの物語へと収斂させないために
あらゆる距離を超越する俺たちの戦いは
この街の超越を許さないのである
一切の忘却から自由であるために
すりかえられた和解と戯れることをしないために
――連帯と孤独を屠るのである
単独に屈辱を組織した一人一人が
この風景に出て行くために
古代の調和は廃棄されたのである
馴致への拒否がこの街の反復を捉えるのである
白けきった装いのなかに見える一切の企みを
決して許容しない俺たちの戦いは
単独の風景を単独に位置づけるのである
忘却と和解への陥穽において人を絡めとるとき
風景は肥大した全身を高笑いによって揺さぶっているのである
どんな情緒も介入させない暴挙において風景が勝利したときから
俺たちの戦いははじまっていたのである
俺たちの戦いはあらゆる加担が無効へと転換される結節をさぐりあてるのである
分断を正当化しない俺たちの意志は整除する文脈を解体するのである
戦いの前線において現在と結ばれた血と肉を失わないのである
涙も憎しみも悦びも絶望も未来への希望も 如何なる祭壇にも捧げないのである
意味を特権化する秩序の巨大な策略を敵として見るのである
人びとを一色の階梯へと集わせるあらゆる水準の存在を拒否するのである
時間を文節する季節の陥穽を太陽の下で燃やしてしまうのである
ほとんどテクノと化した愛の言葉を物理として解析するのである
ほとんど反射運動へと変質した倫理をその権威の仮面から遠ざけるのである
細やかさを語る暴力を歴史の中枢へと持ち込んで殺戮の共犯を証すのである
風景に釘づけにされた事実性と裁断を受容から異和へと変質させるのである
未来へと供犠されつづける現在を再び生命の場所に連れ戻すのである
六月の最後の一日
俺たちは俺たちの時間を季節へと転化しないから
この日は終止符を打たれる一切の根拠をもたないのである