「ニンゲンの思惟は世界をまるごと覆えませんね」
「もちろん」
「その意味で観念論や合理主義はアウトですか?」
「はい」
「でも世界への欲望は過剰です」
「無いものねだりの性向は普遍的です」
「最初からムリ筋だと?」
「ムリが通れば道理が引っ込むという事実は重要です」
「どういうことでしょう?」
「いわゆる理だけでは理を貫くことはできません」
「理屈だけではだめだと?」
「本当に理であるためには非理に対するセンスが肝要です」
「少なくとも限界の自覚はあります」
「しかし手持ちの資源だけでは展望が開かれません」
「はい」
「展望を開きたい欲求は生得的なものです」
「ナチュラル・ギフト?」
「まさしく」
「それで?」
「既知の内部に収束してしまうことに耐えられますか?」
「いいえ」
「いつも飽き足らないものが蠢いているでしょう」
「限界内に自足できない衝迫は感じます」
「そこに必然的に要請されるものがあるということです」
「推進力を生むために?」
「イエス」
「それは何ですか?」
「極限的にいえば、あらまほしきサムシング・グレート」
「いきなりそうなりますか」
「ある種の極を想定すると、その種のエージェントが浮上します」
「別の言い方では、全域を見通しているだろうはずの全知の思惟や精神」
「知らないことだらけだけど、何かしら〝全体性〟を統る地点はあるはずだと」
「まさしく」
「無知蒙昧にまみれながらも、寄り添うべき絶対の準拠点とかが必ずあるはずだと」
「それが前に進むための前提を構成します」
「いずれにしろ自己完結できないわけですか?」
「自己完結できないことが文明のエンジンです」
「悪いエンジンかもしれない」
「良し悪しは別にして類としての宿命と云えます」
「ところで自己完結とは?」
「自己完結の唯一無二の形式が死です」
「タナトス?」
「うるわしく自己完結したいのは山々でしょうが、できないからエージェントが召喚されます」
「そのへんを詳しく」
「いわば究極の権威そのものである代理人です」
「どこにいるのですか?」
「内になくて外にあるとされるものです」
「その外とは?」
「触知不可能、接近不可能、明示不可能。絶対的不可能性においてあるエージェントです」
「人知を超えている?」
「それが根源的指向対象になります」
「なぜですか?」
「理知や計算によるアクセス不能であることが権威を無限大にします」
「わからないな。比喩的にも語れませんか?」
「一切の比喩、思念、想像が触れることができないものです」
「エージェントとは神頼みですか?」
「それは世俗的応用ですね」
「頽落形態だと云うのですか?」
「いいえ。距離の問題です」
「全然わからない」
「例えば、なぜ世界はあるのか。その問いそのものが未踏の外部を浮上させます」
「だから図らずも推進力が生まれる?」
「ええ。位置のエネルギーが生まれます」
「無意識にそうした操作手順に従っている?」
「そうした駆動システムがビルトインされているということです」
「そんなことは意識しませんけどね」
「不在のサムシングに駆動される日々が現世をつくります」
「いいますね」
「それで?」
「それをめがけて思考を鍛えたり、競い合うということもあります」
「のんびりやりたい方なのですが」
「鍛えるつもりはなくても、いったん議論や紛争になれば自分が一番真理に近いという言い方はしたくなりますね」
「真理に近い?」
「そうです」
「でも真理は永遠に接近不能、明証不能」
「真理とか、善とか、本当の本当といった観念を産出する大本は前提されています」
「そればあろうがなかろうが?」
「あると信じなければ推進力が生まれない」
「だけど信じなければどうなりますか?」
「信じるように出来上がっているのがニンゲンです」
「不可知なのに信じられますか?」
「逆です。不可知だから信じるしかないのです」
「そんな馬鹿な!」
「つねにすでに存在は外部に浸潤されています」
「そうかな。わからないな」
*
「もちろん」
「その意味で観念論や合理主義はアウトですか?」
「はい」
「でも世界への欲望は過剰です」
「無いものねだりの性向は普遍的です」
「最初からムリ筋だと?」
「ムリが通れば道理が引っ込むという事実は重要です」
「どういうことでしょう?」
「いわゆる理だけでは理を貫くことはできません」
「理屈だけではだめだと?」
「本当に理であるためには非理に対するセンスが肝要です」
「少なくとも限界の自覚はあります」
「しかし手持ちの資源だけでは展望が開かれません」
「はい」
「展望を開きたい欲求は生得的なものです」
「ナチュラル・ギフト?」
「まさしく」
「それで?」
「既知の内部に収束してしまうことに耐えられますか?」
「いいえ」
「いつも飽き足らないものが蠢いているでしょう」
「限界内に自足できない衝迫は感じます」
「そこに必然的に要請されるものがあるということです」
「推進力を生むために?」
「イエス」
「それは何ですか?」
「極限的にいえば、あらまほしきサムシング・グレート」
「いきなりそうなりますか」
「ある種の極を想定すると、その種のエージェントが浮上します」
「別の言い方では、全域を見通しているだろうはずの全知の思惟や精神」
「知らないことだらけだけど、何かしら〝全体性〟を統る地点はあるはずだと」
「まさしく」
「無知蒙昧にまみれながらも、寄り添うべき絶対の準拠点とかが必ずあるはずだと」
「それが前に進むための前提を構成します」
「いずれにしろ自己完結できないわけですか?」
「自己完結できないことが文明のエンジンです」
「悪いエンジンかもしれない」
「良し悪しは別にして類としての宿命と云えます」
「ところで自己完結とは?」
「自己完結の唯一無二の形式が死です」
「タナトス?」
「うるわしく自己完結したいのは山々でしょうが、できないからエージェントが召喚されます」
「そのへんを詳しく」
「いわば究極の権威そのものである代理人です」
「どこにいるのですか?」
「内になくて外にあるとされるものです」
「その外とは?」
「触知不可能、接近不可能、明示不可能。絶対的不可能性においてあるエージェントです」
「人知を超えている?」
「それが根源的指向対象になります」
「なぜですか?」
「理知や計算によるアクセス不能であることが権威を無限大にします」
「わからないな。比喩的にも語れませんか?」
「一切の比喩、思念、想像が触れることができないものです」
「エージェントとは神頼みですか?」
「それは世俗的応用ですね」
「頽落形態だと云うのですか?」
「いいえ。距離の問題です」
「全然わからない」
「例えば、なぜ世界はあるのか。その問いそのものが未踏の外部を浮上させます」
「だから図らずも推進力が生まれる?」
「ええ。位置のエネルギーが生まれます」
「無意識にそうした操作手順に従っている?」
「そうした駆動システムがビルトインされているということです」
「そんなことは意識しませんけどね」
「不在のサムシングに駆動される日々が現世をつくります」
「いいますね」
「それで?」
「それをめがけて思考を鍛えたり、競い合うということもあります」
「のんびりやりたい方なのですが」
「鍛えるつもりはなくても、いったん議論や紛争になれば自分が一番真理に近いという言い方はしたくなりますね」
「真理に近い?」
「そうです」
「でも真理は永遠に接近不能、明証不能」
「真理とか、善とか、本当の本当といった観念を産出する大本は前提されています」
「そればあろうがなかろうが?」
「あると信じなければ推進力が生まれない」
「だけど信じなければどうなりますか?」
「信じるように出来上がっているのがニンゲンです」
「不可知なのに信じられますか?」
「逆です。不可知だから信じるしかないのです」
「そんな馬鹿な!」
「つねにすでに存在は外部に浸潤されています」
「そうかな。わからないな」
*