鍵盤上の指のうごきをめぐり
右手と左手が言い争いをしているあいだ
演奏は忘れられ、どんな旋律も奏でられない
放棄された演奏、聴かれなかったメロディ
砕け散った夢が眠る場所があって
その場所への帰還を導くように奏でられる音楽がある
鍵盤上の指のうごきをめぐり
右手と左手が言い争いをしているあいだ
演奏は忘れられ、どんな旋律も奏でられない
放棄された演奏、聴かれなかったメロディ
砕け散った夢が眠る場所があって
その場所への帰還を導くように奏でられる音楽がある
"I Wish I Knew" by Steph Johnson (youtube.com)
「こんばんは」
いきなりノラさんに遭遇にして思わず挨拶する
おそらく猫にとって聴くにあたいしない
意味を構成しないノイズにすぎない
(なんとも思わない)
ただ視線と視線がまじわり
ただ素通りするだけの音と響き──ことば
(この雑音には情動の奔流が流れ込んでいる)
ことばとことば、だれかとだれか、俺とおまえ
ときどき、しばしば、(あるいは永遠に)
互いが互いにとって〝猫〟であるかもしれない
サークル内の同質性が強まり高まるほど
異質なものの排除メカニズムが強く働きはじめる
同質/異質を仕分けるセンサーは感度を高め
微細な差異をさぐりあてるように精度を増していく
同質性の強度の亢進の背景には
不安という共有された心的機制が動いている
サークル内のメンバーシップ、資格要件
それが生存に対して脅迫的なまでに強化されるとき
そこからの没落不安が猖獗を極める場所において
資格要件の自己証明、不安の穴埋め、補償行為として
いじめ、差別、排斥という現象が多発することになる
世界を招き入れるエントランス
すべてが経由するターミナル
からだ
ここから出ていく
ここから入ってくる
出入りのたびにスイッチが入り
明滅するシグナル群
かなしい
うれしい
さみしい
たのしい
せつない
くるしい
さまざまな波形を描き、乱反射し、変幻する
エントランスを飾る情動のイルミネーション
個として生きる、類として生きる
ふたつの気圏を行き来する心のすみか
ことばを宿し孤独を宿し普遍を宿す地平、からだ
──グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』佐藤良明訳
重要なのは、国家間の相互作用のルールが変わっていくことではないでしょうか。
いま現在のルールの中でどう動くのがベストかということを思い悩むのではなく、
過去十年、二十年、われわれを縛りつけ動かしてきたルールから
どうすれば抜け出せるのかということを考えなくてはならない。
ことばに毒され汚染された世界をいったん横に置く
哲学のことばでは「エポケーする」と呼ばれている
*
どんなに否認のシグナルを浴びても
涙に暮れる日々がつづいたとしても
晴れ渡ったあおぞら、夜空のきらめき
かなしくも美しい光景を照らし出す
すべてはただ一つの光に由来する
光が生まれ、闇が生まれる、ふたつは一つ
世界の姿を編み上げる光と闇のdialectic
それは、いまここに生きている心の現前
それをそうとして告げる地上の光源に由来する
おまえのおかげで月は月でいられる
ひとりだけの空があり、だれかだけの空がある
つねに表情をほどこし色づけるように
はじまりの場所において世界ははじまりつづけている
すべてを照らす光源への帰還がそれを教える
ただ矛盾と希望を言い立てるだけの空しい言葉。
(竹田青嗣『哲学とは何か』)
あなた方のご託宣の背後には、悲惨な現実がある。
(ポール・ニザン『アデン、アラビア』篠田訳)
前提を埋め込んでせめぎあう
分別をこすりあわせて削りあう
此岸と彼岸、世界に分断線を引いて自足し
最終解を求め雌雄を決するかのように潰しあう
削りあい潰しあうだけのゲームにはどんな加点もない
全体収支はキープされない、ただ下落していく
チーム正義は知らない、だけではない
チーム編成の地平自体が分断線に支えられ、支えている
「悲惨な現実」の本質はこの地平から決して捉えることができない
お前は他人の何を愛するのか?
──私の希望をこそ。
お前にとって最も人間的なことは何か。
──誰をも恥ずかしい思いにさせないこと。
体得された自由の印は何か?
──もはや自分自身に恥じないこと。
(ニーチェ『悦ばしき知識』信太正三訳)
正義、真理、理想、善き心はこちら側にある
おそらく対岸にいるものたちもそう考えている
正義、真理、善をかわちあう素晴らしい関係世界
そう思うのは勝手だが対岸にも異なる関係世界がある
全能の神を持ちだしても対岸には別の神がいる
はやく気づいたほうがいいな
すでにルートは開通している
その安酒は向こう岸であつらえられ届けられたものだ
安酒の宴を断念する覚悟をもって
隔絶の淵をはさんで永遠に暮らすならそのままでいいだろう
もし谷を渡り、向こう岸へ出て何事かをなすつもりなら
対岸に届けられるものを手にしてそうしなければならない
相手がそうする
だからこっちもそうする
にっこりすればにっこりする
にらめばにらみかえす
ああ云えばこう云う
喰らえば喰らわせかえす
自然の文法がそうせよと命じる
贈与と応報、感情交換の根本原則
原始感情、原始のエコノミーが動いている
主題はすべて関係をめぐっている
絶対に外せないゲノムの刻印であるかのように
墨守すべき天命に服するかのように
やられたらやりかえす
ノシをつけておかえしする
ふりかえればどれもこれも似ている
同じ軌道上を同じ波形のまま動いている
展開のシルエットをみれば区別がつかない
どんな個もどんなクラスも周回軌道上にあって
同じところをグルグルグルグル回っている
どこにも行きつけない、思う壺の中の世界
あまりにもはまりすぎている、そう思わないか?
ちょっと外してみようか
未決の展開本質、両生類の神髄にふさわしく
もう少しましな生き物として生きることはできる
繰り返しのコードを外したその先に
巨大な未踏の展開フィールドが広がっている
すれちがうふたつの方角がある
求心性/遠心性
分岐をつくるそれぞれの生のかまえ
それぞれに積み上がった歴史と前提がある
愛へ向かう/愛から始める
どちらにもたしかな理由と根拠がある
不可抗のちからが働いている
往き道/還り道
ふたつのルートに別れながら
すれちがいをすれちがいとして
相互の歩みの必然を胸におさめながら
エールを交換するまなざしの合流点
それを手に入れることはできる
どうやってか?
どちらの方角にもない生きることのエロス
その源泉点をそこに見いだせば必ずそうなる
「こどもは小さな猛獣なんです」(田中角栄)
*
聖化され、御神体と化した「こども」
操作対象、調教対象と化した「こども」
まったく異質なこども像は本質を共有している
つまり、どちらもこどもから遠く
どんなこどももそこには生きていない
善意でも悪意でもおなじこと
わかりやすさの容器にケモノを閉じ込めたら
自然とつながる「野生のからだ」は滅びてしまう
(普遍性の〝地〟としての身体)
ほんとうにこどもと出会いたいのなら
知に毒され、知に汚染されたニンゲンであるまえに
ケモノであるおのれの姿に気づかなければならない
ことばに教わり、ことばに従うのではない
ことばには何より学ぶべきことがある
その姿は隠されているとしても
ことばが知らない、触れたことのない
ことばを懐胎し、陣痛に疼き、分娩する
ことばを運びつづける存在について
すべてはみなもとを同じくする
ことばに手をかけ、たずさえて生きることについて
学びきってはじめて歩みをともにする地平を見つける
そうして幼年期が終わる
たのしくおもしろくゆかいな心をほどく自由時間
ひとりひとり感覚をのびやかに表現できる経験
そういう場所をともにつくり時間と空間をともにする
「ああ、楽しかった、面白かった」(評価権は受け手にある)
そうした共同の体験を否定する理由はどこにもない
それは貴重な学びの経験、宝物になるにちがいない
けれど教育の本質を問うとき、決定的に足りないものがある
そこに教育の原点があると定めるとそこで行き止まりになる
そのことも明らかである
なぜか
端的にいえば、生徒でいるあいだだけではなく、それをたずさえ
この社会に参入し関係を刷新していく武器として使えるもの
やがてうつくしい想い出という場所に安置される経験ではなく
現実論理(競争原理・市場原理)が示す論理に駆逐されることのない
人と人の関係のありかたを拡張してゆける関係の知恵と技術
異者との交わりにおいて関係の合理を見いだすまなざしの獲得
いまここの現実に連結して使えるものを手にすること
つまり、おとなが作るこの社会が手にすべきものと同義のものです
わたしはわかっている
わたしはわかっていた
わたしは知っている
わたしは知っていた
わたしだけが知っている
真実、正義の使徒のつもりなのか
どこかで選ばれた賢人様なのか
最後にそう云いたいだけのチンピラの心
最後にそう云ってもらいたいだけの田吾作マインド
それだけはきっぱりと廃棄したほうがいいな
あるいはむしろ、廃棄処理して別のものに作り変える
(ほんとにことばを開いて使いたいのであれば)
このことを必須の、不可避の、第一の作業として
思考のメニューに書き加えるべきだろう
Los Incas- La Boliviana - YouTube
古代に連なるようなケーナの響き、叫び声
そこから立ち去る最後の日
ロス・インカスが奏でる音が下宿に鳴っていた
そしていまも同じ音が同じ鮮度で響いている
交信のチャンネルが完全に閉ざされたとき
すべては主体の思考、感情、ふるまいだけが試される
そう考えるほかに歩みを進める道はないことになる
ほんとにそうか
ああ、いまここに参集しているものすべてを連結して
そこにこみあげたものを生かすルートを切り開くように
ピリオドを打って墓場に安置したくなければそうするほかない