この街のどこにも記されることのない
映し出す場所をもたない出来事がある
つぶやきだけが聴こえている
顔は見えない
ちぎれる寸前の透明なリンク
時と時をつなぎ合わせるふるえる手
姿を現わすことのない涙の痕跡
引き返せない境界を過ぎてから気づく
失われた光、取り返せない光、呼び戻したい光
かたちを定められないまま刻まれていく
語り尽くせない召喚ポイントがある
「偶然とは街」とだれかが語った
あらゆる偶然を紡ぎながら
必然として生きられていく
こどもたち、おとなたちの夜がある
同じ空の下で、おれとおまえが一つ一つ
すくい上げなければならないのは、かなしい夜
この街が知らず 教えることのない
どんな祭壇にも奉げられることのない かなしい夜がある (1982、箱崎)