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ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

「エージェント」のゆくえ

2010-11-11 |  conversation
「ニンゲンの思惟は世界をまるごと覆えませんね」
「もちろん」
「その意味で観念論や合理主義はアウトですか?」
「はい」
「でも世界への欲望は過剰です」
「無いものねだりの性向は普遍的です」
「最初からムリ筋だと?」
「ムリが通れば道理が引っ込むという事実は重要です」
「どういうことでしょう?」
「いわゆる理だけでは理を貫くことはできません」
「理屈だけではだめだと?」
「本当に理であるためには非理に対するセンスが肝要です」
「少なくとも限界の自覚はあります」
「しかし手持ちの資源だけでは展望が開かれません」
「はい」
「展望を開きたい欲求は生得的なものです」
「ナチュラル・ギフト?」
「まさしく」
「それで?」
「既知の内部に収束してしまうことに耐えられますか?」
「いいえ」
「いつも飽き足らないものが蠢いているでしょう」
「限界内に自足できない衝迫は感じます」
「そこに必然的に要請されるものがあるということです」
「推進力を生むために?」
「イエス」
「それは何ですか?」
「極限的にいえば、あらまほしきサムシング・グレート」
「いきなりそうなりますか」
「ある種の極を想定すると、その種のエージェントが浮上します」

「別の言い方では、全域を見通しているだろうはずの全知の思惟や精神」
「知らないことだらけだけど、何かしら〝全体性〟を統る地点はあるはずだと」
「まさしく」
「無知蒙昧にまみれながらも、寄り添うべき絶対の準拠点とかが必ずあるはずだと」
「それが前に進むための前提を構成します」
「いずれにしろ自己完結できないわけですか?」
「自己完結できないことが文明のエンジンです」
「悪いエンジンかもしれない」
「良し悪しは別にして類としての宿命と云えます」
「ところで自己完結とは?」
「自己完結の唯一無二の形式が死です」
「タナトス?」
「うるわしく自己完結したいのは山々でしょうが、できないからエージェントが召喚されます」
「そのへんを詳しく」
「いわば究極の権威そのものである代理人です」
「どこにいるのですか?」
「内になくて外にあるとされるものです」
「その外とは?」
「触知不可能、接近不可能、明示不可能。絶対的不可能性においてあるエージェントです」
「人知を超えている?」
「それが根源的指向対象になります」
「なぜですか?」
「理知や計算によるアクセス不能であることが権威を無限大にします」
「わからないな。比喩的にも語れませんか?」
「一切の比喩、思念、想像が触れることができないものです」
「エージェントとは神頼みですか?」
「それは世俗的応用ですね」
「頽落形態だと云うのですか?」
「いいえ。距離の問題です」
「全然わからない」
「例えば、なぜ世界はあるのか。その問いそのものが未踏の外部を浮上させます」
「だから図らずも推進力が生まれる?」
「ええ。位置のエネルギーが生まれます」
「無意識にそうした操作手順に従っている?」
「そうした駆動システムがビルトインされているということです」
「そんなことは意識しませんけどね」
「不在のサムシングに駆動される日々が現世をつくります」
「いいますね」
「それで?」
「それをめがけて思考を鍛えたり、競い合うということもあります」
「のんびりやりたい方なのですが」
「鍛えるつもりはなくても、いったん議論や紛争になれば自分が一番真理に近いという言い方はしたくなりますね」
「真理に近い?」
「そうです」
「でも真理は永遠に接近不能、明証不能」
「真理とか、善とか、本当の本当といった観念を産出する大本は前提されています」
「そればあろうがなかろうが?」
「あると信じなければ推進力が生まれない」
「だけど信じなければどうなりますか?」
「信じるように出来上がっているのがニンゲンです」
「不可知なのに信じられますか?」
「逆です。不可知だから信じるしかないのです」
「そんな馬鹿な!」
「つねにすでに存在は外部に浸潤されています」
「そうかな。わからないな」

    *


コメント

2008 believing & unbelieving 18

2008-02-19 |  conversation
「この間、駅で落とした財布を拾って届けてくれた人がいた」
「ポリスに?」
「そう。自分にしたら大金が入っていた」
「お礼したの?」
「名なしの権兵衛さん」
「どんな気分?」」
「何か休戦地帯にいるような」
「ありがとうって?」
「うん。伝えようがないけど」
「雨上がりの虹ですか」
「匿名の善意にはちょっと痺れる」
「でもバトルは続いている?」
「バトルというほど恰好いいものじゃないね」
「もちろん戦意高揚の大義はないね」
「大義もクソもないローカル極まりない局地戦」
「敵はみえないし、いないかもしれない」
「前線も銃後もない」
「ただ目的の見えない行軍が続いている」
「ただしバブリーな充足感もないことはない」
「しかし全体としては不全感に浸潤されている?」
「バトルの継続だけが目的化している感じ」
「なぜかね」
「一元化されたサバイバルゲームに従っているように見える」
「攻めるも守るもくろがねの♪」
「差異生産へ向けたフォーマットが構造化していることは確か」
「社会的なものというより存在論的なものかな」
「両方でしょ」
「淘汰の果てに最後に残ったのが現在の形式ですか」
「ある意味で本来的なあり方に適っているのかも」
「歴史的変奏はあるにしてもね」
「本来的であることが幸せかどうかは別にしてね」
「うん。ニンゲンはいつもその変奏の中にある」
「そしてバトルゲームは全領域に及んでいる」
「いまやバトルが分けた日常と非日常の区分はない」
「フラット化ね。別の言い方をすればノッペラボー化」
「寝ても覚めてもゲーム空間にいる」
「少なくとも古式に則ったバトルの様式は滅んだ」
「ヤアヤア我こそはと名乗っている間に寝首を掻かれる」
「しかも恣意的なルール変更も可能になっている」
「補完的な絶えざるマニュアル更新もある」
「有象無象の状況論も日々生産される」
「ゲームのノウハウだけが前景化しているとも言える」
「ノウハウの習得は生存にとって必須になっている」
「誰がルールを書き換えているかはわからないけど」
「勝手にね」
「勝手なのか合意なのか」
「合意形成の範域は限定的でしょ」
「うん。そこに誰と誰が含まれるかが決定的」
「こぼれた連中はゲームに参加できない」
「範域確定の基準は既得権益的共同性に基づいている」
「正当な異議申し立てもそこに集中する」
「だけど気が付けば前提はいつも踏み固められている」
「前提を疑ったら一歩も進めないというね」
「疑えよ」
「だって世界は空っぽなんだもの」
「でもないぜ」
「そう断言してみたい?」
「あるいはね」
「大人になれよという言い方もある」
「つまり前提を疑うなということね」
「大人になれとガキが言う」

「しかし適応課題はいつも具体的」
「課題は山積みだけど自分で選んだものではない」
「時代が条件つきで据え膳を用意してくれる」
「カローラかレクサスか」
「それ以前に明日にも餓死するという苛酷な状況もある」
「そして適応と適応の齟齬や対立や抗争が常態化している」
「それが事業課題という形で個人にまで下りてくる」
「もちろん調停のメカニズムは働く」
「ただし調停は差異の解消を目指していない?」
「むしろ拡大へ向かっているかも」
「そうかな」
「現象的にはフラット化だけど、その推進力はアンチ・フラット化が担っている」
「アンチ・フラットが自らの予期を裏切って、全体としてフラット化を帰結する?」
「フラット化を目指してゲームに参入しているわけじゃない」
「見えざるガッドハンドは最初から存在しない」
「そしてゲームの最終的帰結はわからない」
「わからないけど、差異の生産へ向かうダイナミクスが、結果的にスーパーなフラット世界を用意していることは確かかも」
「そうね」
「一方では旧式の権威群が崩壊していくという側面もある」
「それは悪いことじゃないでしょ」
「悪いことじゃないけど、新たな権威や権益も生まれている」
「ただフラット化は疑えない?」
「疑えないけど、それが悪い方向に転ぶのかいい方向に転ぶのか」
「誰も全体を見通せないけどね」
「時代の用意した条件の中でどう振る舞うのか」
「自前で考えろということか」
「手掛かりがないのに?」
「そうだね。ただ変な希望は持つなということくらいかな」

「フラットといっても情報や資源のわずかな偏差や誤差の中に個人は生きている」
「小さなプライドや矜持の拠りどころもそこにある」
「手に入る資源は限定付きだけど、それが死命を決したりする」
「実際には、数十億人がそれぞれ思考も行動もバラバラのステージを生きているはずでしょ」
「近代的な社会ではそこに個人がいることになっていた」
「インディヴィデュアル」
「バラバラだけど自発的な参入によって共同性が支えられるというね」
「フラット化がどんなに進展しても最後の最後にはそれが残る?」
「尊厳という言葉で語られてきたものね」
「だけど個人は息絶え絶えで喘いでいる」
「多重人格的にTPOに応じて切り刻まれて生きている」
「機能分化したゲーム盤上では代替可能な駒でもある」
「相対化の嵐に晒されるわけね」
「うん。個としての生存が足許から揺らいで解体の危機にある」
「目元パッチリ輪郭クッキリの個人というものが本当に存在できるかどうかは怪しいけどね」
「もちろん居るわけがない」
「けど居ることになっていた」
「それを結節点にして近代的思考が回ってきたのは事実」
「だからいまさら虚構だったと言って告発してもしょうがない」
「そう。依然として有効なツールでもあるからね」
「一方じゃ、相対化は強力な敵を討つための方法でもあった」
「それは確か。封建独裁家父長的な敵たちを討つ道具でもあった」
「別の権威を対置するのじゃなくて?」
「うん。対置するだけなら何もしないのと同じ」
「相対化の行き着く果てに、ことごとく虚構ということだけはわかった」
「まさしく時代はやっとここまでやって来た」
「あとは、めいめいの御計らいで勝手にやってよ」
「動物として?」

「残念ながらいわゆる動物じゃないらしい」
「脳ミソはあぶくのように回転する」
「動物以上人間未満とか」
「同じニンゲン、みなさん兄弟ということは一面としてある」
「もちろん同一性が幻想されるから、差異の認知や調停や誤差の修正も企画される」
「ただ本質的に言えば、個体に流れる時間をすべて同期することはできない」
「もちろん。だけど同期できるかのような思い込みは未だに生きられている」
「それがないと社会の首が回らない」
「虚構にしろ、同じ船に乗っているという前提はある」
「そこから価値の偏差をめぐる表出や活動が駆動する」
「差異の探索や拡大が日々の目標として据えられる」
「そして差異の発見や創出や取引や流通や僭称が、時代意識を焦点化していく」
「差異は即時的に領土化されて、新たな差異増産への旅へ向かう」
「それはマーケットを軸とした全体の専権事項ね」
「この運動は文明にとって何を蓄積するのかな?」
「厖大なアーカイブス」
「それが極限的には一般意思の形成とかに行き着く?」
「わからない。良くなるとも悪くなるとも、視点の取り方次第で何とでも言えるからね」
「文明化作用というか、文明の自意識次第?」
「ニンゲン全体の欲望に聞いてみるしかない」
「子供たちの将来といった問題を持ち出してみるとか?」
「それが個体の生存にとってナンボのものかということもある」
「実存にとっては一回性しかない」
「サロン的なコミュニケーションではおいしいネタかもしれないけどね」
「自分を超えたものに価値を見出せるなら別だけど、そうした大義や超越性にはバッテンを付ける方向に文明はアクセルを踏んできたということね」
「古代に回帰したいという一部アナクロ族もいるけど、結局、無駄な抵抗」
「脱魔術化には抗えない」
「魔術が生きられる位相も確実にあるけどさ」
「スーパーネイチャーとか」
「というより、魔術的全体領域がまずあって、例外的に文明的営みがなされる位相があると考えたほうが生産的かもしれない」
「どんな現象もその根をほじくれば、そういう領域が露出することは確かだね」
「ただゲームに一喜一憂している間は忘れることができる」
「ずっと忘れていられれば問題ない?」
「忘れないほうがいいかも」
「なぜ?」
「故郷は遠きにありて思うべし」
「どういうことかな?」
「故郷があったほうが豊かに生きられるかもしれないでしょ」

「だけどゲームが動き出すとき、すでにゲームへの信が成り立っている」
「前提はつねにすでに生きられている」
「これで行こうということですべてが始まっている」
「前提が前意識化されることでゲームは円滑に流れていくわけか」
「もちろん、反省的意識が生まれることもあれば無意識の不気味な湧出もあるけど」
「だけど、時代的承認を受けたゲームのリアリティは圧倒的」
「つまり、前提のインストールがあって、そこではじめてバトルゲームが開始されている」
「どこまでも根は同じ穴のムジナ同士」
「同じゲーム盤に乗っているから敵も敵として存在できる」
「前提を共有する者たちということね」
「同じムジナだから近親としての愛憎も際どいものになる」
「そこにリビドー的エネルギーの源泉がある」
「権力への意思とか」
「ということは、ニンゲンはニンゲンにとってのエネルギーの源泉になっている?」
「相互強化か相互弱体化か、弱肉強食の淘汰ゲームかわからないけど、生のバトルの基軸は血族的関係をめぐっている」
「たとえば同じプラットフォームに乗っかっているから殺戮も起こる」
「さしあたり、他者より不幸せじゃないことが幸福であるとか」
「比較級の幸いと比較級の不幸せ」
「絶対級はありえない?」
「もちろん死にさえ直結した限界状況はある」
「ただゲームは比較級のロジックで展開する」
「そこで打ち立てられた価値階梯が位置のエネルギーを生むわけか」
「相互依存、共依存の関係においてね」
「このダイナミクスの上で富や禍福の配分をめぐるバトルゲームが持続している」
「差異生産が位置のエネルギーを再生産する」
「位置エネルギーが差異生産の源泉をつくる」
「そしてゲームの帰結はすべてゲームへと還流する」
「循環している」
「閉鎖系なら熱的な死へ向かということになるけど」
「第二法則ですか」
「だけど今のところ終わりそうもない」
「外部的なエネルギーの注入があるのかもしれない」
「普遍経済学ですか」

「最初から平等じゃ駄目なのか」
「平等が現実になれば差異への志向が全面展開し始める」
「そうかな」
「例外的に自足した現状維持の文明とか文化もあるかもしれないけどね」
「しかしそこでは神サマの実在が信じられていて、それが全体を吊り支えている」
「余剰や欠損や矛盾や軋轢をすべてまとめて引き受けてくれるアマテラス神格」
「うん。ヤクザなニンゲンの魂をなだめるものが要るかもね」
「肥沃で穏やかな自然の恵みも大事だ」
「結局、絶対的な均衡状態じゃ生きられないように出来ているわけか」
「最初から力も資源も動機も偏在している」
「スタートラインがぜんぶちがう」
「危機意識の注入もある」
「感情的な煽りもある」
「情報の偏差も巨大だ」
「そうした時代的歴史的資源配置の総がかりが差異創出のバトルゲームを展開している」
「バトルの起源を問えば、最初に同一性の認知があることになるね」
「そう。差異生産の意味も価値もすべて共同的な認知に支えられている」
「単独では意味も価値の無効化することになる」
「海や山に向かってオレは凄いだろと単独で叫んでもオレがいるだけ」
「一方では、差異生産の過剰を回避すべく、融和や和平という幻想も生きている」
「その幻想がないと差異化にストップが掛からない。つまり破局が予感される?」
「同一性という前提が壊れたらゲームオーバーになることが薄々気付かれてもいる」
「ただ幻想は永遠に先送りされる」
「うん。先送りされることで幻想は幻想として機能する」
「そこにさらに位置のエネルギーが生まれて循環が加速する」
「ゲームは複雑でますます複雑さの度合いを高めている」
「本質的には単純だけどルールや技術マニュアルは複雑化している」
「掛け金は生あるいは死?」
「それが商品やサービス群に代替されている」
「生の拡張と死の回避か」
「その意味付けや価値付けを他者の存在が媒介する」
「生産力や消費力の差異の認知は他者がいないと成立しない」
「オレにはできる」
「オマエにはできない」
「しかしオマエがいないと、できるオレの存在証明も壊れる」
「富や価値に近いほどポイントが高いという中間査定が下される」
「富にもいろいろあるけど」
「有形無形すべてひっくるめてね」
「本当は目糞鼻糞だけど、中間決算では雲泥の差も出る」
「それだけかな」
「ゲームを支えるのが正当性とか正統性」
「ルールの逸脱や侵犯をしないということ?」
「メタレベルもある」
「共同体の大義とか、人類愛とか、神々への貢献とか?」
「何らかの普遍的な希望の原理を見出したいという願望もある」
「ゲーム漬けじゃあ息が詰まる」
「有限な人間同士だけじゃ普遍を構成できないし」
「そうね」
「やはり何のためのゲームなのかと究極的な問いも間歇的に訪れる」
「いろんな幻想が呼び出されるわけだ」
「ケレド目ニ見エヌコノ商品ニハ、人間ノ血ガ通ッテイマス」
「そう言いたい向きもある」
「人間ノ未来ヘノ切ナイ望ミガコメラレテイマス」
「一つの主観的あり方は示される」
「愛情ヲコメルコトハデキマス、生命ヲフキコムコトハデキマス」
「あるいは妄想ね」
「バトル空間で有効な言葉とは思えないね」
「バトルのリアリズムと兵隊の主観との乖離が、惨劇を準備したり拡大させたりもする」
「集めた金がどこかで地雷に化けるかもしれいない」
「集められた切ないお金が、どこかでドカンドカンとバクハツしているかもしれない」

「しかし、兵隊さんたちは密かにイノセントであると自ら信じていたいわけか」
「正統性や正当性。あるいは普遍的平和や豊かさといったものへの貢献ね」
「しかし正義や善意は惑星を一周すると悪夢を生産している可能性もある」
「リンク先の帰結は思惑の埒外にある」
「飢餓、エイズ、絶対的貧困、環境破壊。偽計や偽装、賄賂、脅迫、収奪、拷問、暗殺、テロ、ホロコースト、戦争、エスニッククレンジング」
「見通せないリンケージが張り巡らされた世界」
「自分のゲームがどこにつながっているか見渡せない」
「まったく」
「一昔の世界観からすれば、SF的現実が広がっている」
「生と死の取引をめぐって、電子マネーが惑星全体を光速で回転している」
「相場の駆け引き、ダンピングや吊り上げの工作合戦」
「ゲームのせめぎあいが逼迫すれば、競合は滅びたほうがいいともなる」
「感情的にはね」
「けど殲滅したら商売相手もマーケットも滅びるから、滅びない程度に生存は確保されなければならない」
「自らの優位性を保持したまま絶対的な平和が訪れれば素晴らしい」
「その過程ではある程度の犠牲も止むを得ない」
「首切りも首吊りもある」
「現実的には生死を賭したテロの応酬が展開することになる」
「マーケットをめぐるプチなテロリズムの応酬」
「たぶん」
「そのつもりがなくてもね」
「ただ兵隊さんは攻撃精神だけでは士気は揚がらない」
「当然、希望の原理もある」
「融和や平和実現への幻想も機能する」
「幸せになりたいと誰もが思っていると誰もが思っている」
「少なくとも仲間に向かっては幸あれと言っておきたい」
「仲間の範囲が大問題だけどね」
「しかし差異の階梯は一様ではない」
「複雑系」
「いきなり最適解を求めるのは不可能」
「もつれた利害の糸は解き難い、停戦合意は不可能。和平は永遠に訪れない」
「やはり足許を見る以外ない?」
「見えなくても見るしかないね」
「結局、希望することも絶望することも許されない?」
「絶望はいいんじゃないか。でも絶望できないでしょ」
「うん。プチでローカルで退屈な局地戦でとりあえず最善を尽くすことしかない?」
「ただ、時代のフロントラインはあるかも」
「何だろ?」
コメント

2007 believing & unbelieving 17

2007-11-29 |  conversation
「かつて動かない場所は存在していた」
「何?」
「よりどころ、存在のヘソの緒のようなもの、信じるに足る何か、自明の風景やシンボリズムとか、あるいは立ちはだかる偉大な敵とか」
「それが存在していた?」
「ついでに言えば、遥かな見知らぬ世界もあった」
「こっち側と向こう側がワンセットであったわけね」
「そう」
「コインの裏表かもしれない」
「それでこの世もあの世もすっきりマッピングできた」
「同じ世界像をみんなが共有しているとみんなが信じることなく信じていた」
「そう。いい悪いかは別にしてね」
「さしあたり肯定的にみたら?」
「たとえば疎外という概念が成立するには、そういうものがないとはじまらない」
「前提が共有されるというね」
「揺るぎない世界観があれば、そこからのズレや歪みは即時的に認知される」
「誰にもわかるというか、察しつく」
「今流に言い換えるとドメインですか」
「アンチェンジブルなね。本来ありえないにしろ、アンチェンジブルなものがあると自明視されていた時代があったということは言える」
「アンチェンジブルでインビジブルなものね」
「誰もが信じているだろうと誰もが意識下深くで信じていた」
「すべての営みの起点のようなものかな」
「unchangeable domain。略して、UD」
「母なるハイパー・ドメイン」
「ほんとかね」
「それも振り返ってみると、という話だね」
「渦中じゃほとんど意識されない」
「巨大なリスクに直面しないと認識されない」
「ただ振り返ると失くしたものがみえてくることもある」
「それが小さくはノスタルジア・ブームになるのかな」
「馬鹿げているけど、バカにできる?」
「バカにはしない」
「気休めのサプリメントとも言える」
「能天気とも言える」
「逝きし時代のおもかげ」
「自分たちで葬ってきたものでもある」
「実感としては、知らなかった、気づかなかった、そんなつもりはなかった」
「そんなところかな」
「気がつけば足元から世界像が切り崩されていた」
「記憶の資源として活かせる?」
「古い世代の唖然、茫然、悔恨、哀惜が、どこまで現実的なアクションに結びつくのかな」

「世界をフレーミングできるUDがあって、日々の生活はその上に乗っかるわけね」
「けれど、それは信じるという意思的なものじゃない」
「揺るぎない環境世界という前意識的な信頼かな」
「しかし単独ではキープできない」
「歴史的共同的な蓄積を背景に、それと意識することなく社会が前提にして回る何かね」
「一種のオペレーティング・システムでもある」
「UDがOSを保証していた」
「でもかつてのUDはすべて消える方向で動いてきたわけか」
「正確には何かに代替されてきた?」
「正確にはUDの劇的な変化があった」
「どういうこと?」
「定点的なUDは解体されて、一斉に地面が液状化し始めた」
「よくわからない」
「すべてを霧散させる大嵐の時代が始まった」
「液状化、流動化、脱コード化の嵐?」
「理由もあったでしょ」
「UDはそれ故の生存の安定もあったけど、同時に桎梏でもあったからね」
「新規の文脈から、桎梏という否定面が攻撃対象になった」
「既存のUDが邪魔になるシステムが駆動し始めた」
「時代的必然でもあったわけね」
「それがどう帰結したか」
「UDは瓦解して、ニンゲンは人間じゃなくなった」
「人間以前に?」
「それがポストモダン」
「人間という概念は歴史的産物でやがて消えると予言されてもいた」
「UDは底が抜けたということかな」
「生活の実感としてはアトマイゼーション」
「簡単に言ったら?」
「環境世界を統覚する文脈が多様化して、ランダムに並存し出した」
「唯一と信じられていたUDが分解して、OSの乱立状況が生まれたわけか」
「つまり、OSの規格がアナーキー化した」
「でも無政府主義的世界にもハイパー・ドメインはあるでしょ」
「ないと社会は動かないからね」
「どこがちがうのかな?」
「チェンジブル!」
「そういうことか」
「いつでもどこでも文脈次第で自在にチェンジブルであることが、システム的矜持になった」
「いまの言葉に直せば、要するに統合失調症ね」
「かつての正常と異常が入れ替わったわけか」
「それで?」
「changeable domain。略して、CD」
「変幻するドメイン」
「恣意的でご都合主義的にもチェンジブル」
「しかもビジブル?」
「建前としてはそう言明される」
「オペレーションもガバナンスも明示されて、自己発見的に次のステージに移行し続ける」
「変態する昆虫の変態じゃないけど、メタモルフォーシスが常態化した」
「OSには自己更新プログラムがセットされている」
「問題なのは交換キーを何がどんな動機で何のために押し続けているか」
「でもそれだけじゃ説明できないでしょ?」
「犯人を捜してもしょうがないけど」
「そう。本当のヘソの緒はどこにあるのか」
「決済システムと物神崇拝」
「マーケット?」
「それ以上は遡行できないか」
「うん」
「審級的には神々の位相にあるかもよ」
「あの世がなければね」
「実際にないのだからね」
「それがスーパーフラットか」
「ウルトラフラットで安定した平面もない」
「つまり、CDは四次元的領域でうごめいている」
「わけがわからん」
「いまここにある神」
「幻想としての現実であり、現実としての幻想でもある」
「時代の推進力はいつもそこに宿るわけでしょ」
「いまも変わらない」
「単に否定的でも、単に肯定的でもナンセンスになる」
「しかし現象については語ることができる」
「どこまで迫れるかは別にしてね」
「でもCDの託宣は曖昧さを残さない」
「ただ、決済する」
「要するに神としてのCDは、すべての構成要素にマーケットプライスを刻印する」
「たとえば個人的記憶や世代的記憶も汎市場的CPUによって、速やかにデータに置換される」
「それがどんな意味をもつのか」
「資源化される」
「マーケットの?」
「そう。商業ベース以外も含めてマーケットのドメインは巨大だから」
「そこでUDはどうなったのかな」
「UDは極めてローカルな、あるいは極私的でプチな形態でしかない存在できない」
「それじゃUDとは言えない」
「その資格はなくなる」

「一方で、自己資源発見的に増殖しながらマーケットは世界を呑み込み続けている」
「使えるか使えないか、黙っててもエージェント群がまとめてマーケット換算してくれる」
「そしてマーケットも変幻する」
「不変なのは自己増殖というシステムの属性だけ」
「自分から商売を畳むということはありそうもない」
「商売を畳む時はこの惑星が滅ぶ時」
「個人のCPUじゃ追い付けない」
「たとえばそういう言い方自体が、システムにとって生産的な言い方にもなる」
「システム帰属的かつシステム適応的」
「あらゆる言説がシステムのエージェントとして生きる世界!」
「生かされる」
「誰もがイノセントではありえない」
「デタッチメントもアタッチメントのバリエーションになる」
「異論も反論も正論も、オブジェクションもアグリーメントも等しくシステム翼賛的」
「それこそデモクラティックの理想じゃない?」
「異論反論正論なんでもござれ」
「ただしシステムの存続そのものを疑っちゃいけない」
「主体はシステムと共犯的にしか生きられないということね」
「共犯的というより、主と奴という関係にある」

「しかもシステムは定点になりえない」
「変幻するものに上にわが家は建てられない」
「もう定点をもつことへの幻想は捨てろということか」
「人間の歴史の終焉」
「ジャン、ジャン」
「定点をもつことは決断の問題じゃないからね」
「そうでもないでしょ」
「どうかな」
「根をもつことは主体の意思的なものに依存しない?」
「それは定点の定義によるね」
「根っ子、定点、ボトム、底板、ホーム、帰る場所、母なる大地」
「曖昧な言葉だけど、」

「意識的努力によって叶ったと思えたときに、それがそれでなくなるような何か」
「前意識的なものだから、意識にとっては不在?」
「でもない」
「そうかな」
「それについて語るとき、それはもはやそれではないものになっている」
「意識化されたとき変質するということでしょ」
「定義からすれば?」
「うん」
「少なくともそれはありえないという気分だけは自明になりつつある」
「それがあると断言することに伴う違和感について、誰もが敏感になっているかもね」
「うそ臭さ」
「何が残るのかな」
「評価対象としては、機能的有効性だけが残る」
「システムのメンテナンスと発展にとっていかに貢献的か否か」
「維持点検、生産性の上昇をめぐっては、きっちり数値化される」
「各モジュールの部門別機能別性能評価も出せる」

「システムの正統性および正当性の源泉が、決済システムにあるの?」
「言ってしまえば、そうかもしれない」
「結局、個人単独では定点をもちえない?」
「そもそも共同的なものだから単独じゃ支えられない」
「ただ定点をもつと生き難さが強烈に昂進する」
「いまやね」
「よほど鈍感でないかぎり」
「どんどん無限分割される力学が働いている」
「アトマイゼーションの無限亢進」
「その嵐の中にいるニンゲンと世界」
「アトム化されて、その一つ一つが査定され、機能的な有効性を宣告される」
「そして現実に機能的適材適所的にレイアウトされていく」
「キミはあっち、アンタはそっち。ここじゃなくて向こうの端っこね、とか」
「あるいは廃棄処分される」
「願わくは少しでも有利なポジションに立ちたい」
「有利なポジションに立つことが喫緊の大目標になりうるね」
「ポジションの優位性は、附属する権益量の大小で分類される」
「あらゆるポジションには、適応課題も明示的に張り付いている」
「ひっくるめて言えば、全体最適化の運動だけしかない」
「最適化の目標も日々更新される」
「しかも最適化の最終のゴールが何かは誰もわからない」
「何のためにというね」
「何のためだろう」
「世界の究極の平和?」
「ありえないでしょ」
「愛の実現でもない」
「究極の快適ライフ」
「誰と誰のためか?」
「すでにハイレベルで実現している連中もいる」
「そのためには戦争も手段として排除しない」
「ということもある」
「継続し拡大する必要もある」
「直接の被害が自分に及ばない範囲でという限定はまだある」
「最大の資源で究極のプライスゾーンだからね」
「その意味では、大いに恣意性がマーケットには加担している」
「コストは甚大だ」
「債務を担う対象も決められている」
「ただしゴールは見えない」
「決して共有はされない」
「ゴールも要らない」
「そのあたりから仕切り直そうか」
「うん」
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2007 believing & unbelieving 16

2007-11-20 |  conversation
「届いている?」
「うん」
「状況は?」
「いろんなものが侵入してくる」
「どこも同じかな」
「ものすごい勢いでね」
「あちこちで混線してるけど、ただ全体は回っている」
「吹きさらしとも言える」
「素通りしている」
「誰もが例外なくお互いさまだけどね」
「現実は速やかに希釈される」
「へえ、そんなこともあるんだって」
「たぶん」
「はい、次どうぞ」
「ありふれた風景になっている」
「感情や思考が一ヵ所で持続しない」
「もはや定点が存在しない」
「感情も思考もダウンサイズして、速やかに移動を繰り返さないと流動性に堪えられない」
「環境適応か」
「環境もワープしつづけている」
「次の展開が行列を作って待っている」
「じゃあ先を急ぐんでバイバイというね」
「おっと時間だ」
「ちょっと待てよとも言えない」
「こっちはこっちで忙しい」
「お互いがお互いに先んじてバイバイする光景」
「お互い素通りするだけ」
「でも行き着く未来はどこにもない」
「ほんとはね」
「いまのここ以外に」
「でもいまここは存在しない」
「そんな感じかな」
「結局、カスだけが残る?」
「カスカスのリアリティ」
「残りかすも素早くクリーンアップされる」
「そして次の展開が始まっている」
「カスだとしても、カスじゃないものがなければカスはカスではなくなる」
「カスカスでぜんぶが目糞鼻糞」
「ただ、カスだと言えるだけの世代的な体験の残照はあるのかも」
「まあね」
「カスカスだから次のカードを引き続ける」
「世代的なニーズもあるわけか」
「カスゆえの能天気さや朗らかさもある」
「消費ゲームのノリとシンクロしている」
「そうかな」
「疲れ切っているとか」
「総じて明るさが支配するハッピーハッピーの世界もある」
「消費機械、労働機械としての適応が駆動している」
「いまや進化のダイナモがそこにあるのかもね」
「思考や感情はフル回転で回っている」
「テーマは限定付きだ」
「向かう方角も先験的に決まっている」
「無理やりというのでもない」
「自発的というわけでもない」
「中心はどこにもない」
「不在の中心をめぐる忖度が持続している」
「じつは忖度対象の実体はどこにもない」
「数値、データ、ランキング、動向、トレンド」
「それらを見積もる評価エージェント群もいる」
「エージェント群の巨大な雲はあるけど、どれもが断片にすぎない」
「その巨大な雲そのものが、幻想上の忖度対象にちがいない」
「信じられないけど、現実はそれで動いている」
「ひとつひとつは陳腐なガジェットにすぎない」
「高級なスーツで武装したカスだらけ」
「このバカばかしさは何だろうか」
「突っつけば底なしの曖昧さがあるだけ」
「曖昧さが未決の現在を駆り立てる」
「未決という動力装置」
「そこに有象無象のプロダクツが侵入してくる」
「ソフトもハードも、佃煮にできるようなアイテム群の数」
「一種の穴埋めシステムだ」
「穴を掘って埋めるという作業が無限循環する」
「新規プロダクトの生産は、新規の穴掘りとイコールだ」
「シジフォス神話の最新バージョン」
「プロダクツもプロダクツの不在も絶えず消費されフィードバックされて循環する」
「日夜、新たなアウトプットへの衝迫がこの世全体を覆っている」
「そして個々の精励の集積が支えている巨大なシステムの運動がある」
「それだけはリアルなのかな」
「その外に出られない、つまりどこにも行けない?」
「そうね」
「遠くへ行きたいという人類の夢を何かが代替している」
「エージェントが埋め尽くした世界に、虚ろな住人だけがいる」
「個は消えたか、そもそも最初から存在しなかった」
「とも言えるかな」
「類としての不易のアイデンティティ」
「人生いろいろのように見えて、どこにも分岐しない」
「例外はなさそうだな」
「どう生きるかが、次に何を消費するかとイコールにもなっている」
「手塩にかけたプロダクツはない」
「古典的な言い方だね」
「レイバーからの疎外」
「今でもそういう位相は生きられている」
「決定的にちがうのは特定の階層だけがそうではない点ね」
「猫も杓子も、総員がプレーヤー」
「貢献対象はゲームの存続そのものになっている」
「ゲームセットは死以外ない」
「ゲームを観照する暇も場所もない」
「異界は消えたし」
「いまや錦を飾るべき田舎もどこにもないし」
「褒めてくれる爺チャン婆チャンはもういないし」
「よくがんばったねえというね」
「いまや田舎の爺さん婆さんも同じゲームに参加している」
「盆と暮れの大移動は形だけのアリバイか」
「まさに習慣の法則」
「爺さんも婆さんは田舎から出たいと思っているのかな」
「死ぬまで若さを求めながら」
「若さを強制されながら」
「あるいはヘルパーさんのお世話になっている」
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2007 believing&unbelieving15

2007-06-17 |  conversation

「なぜ感情があるかは答えられない」
「永遠のナゾ?」
「原理的にそれ以上の問いは無効になる」
「思考の限界点に突き当たるわけね」
「逆にいえば、そこがすべての起点でもある」
「行き止まり地点が同時にスタート地点か」
「我感情す、故に我あり」
「言い換えると、第一次的世界経験の位相」
「そしてこの問いは、すべての由来や起源に対する問いに置換できる」
「執拗に問えばそうなる」
「世界の存在そのものへの問いに?」
「そう」
「意味の問題も浮上する」
「手に負えない設問だ」
「そこまで行くね」
「とことん追跡しまくれば、必然のように何かが分泌される?」
「うん」
「最終解は彼岸にある、というパターン」
「無理やりでも、それがないと困る」
「救われない」
「此岸に答えはない。しかし彼岸にはある」
「ここから先は信心ということになるのかな」
「答えなき耐え難さが前提にある」
「答えを想定しなければ、あまりにも救われない現実があった」
「いまもね」
「感情がそうした径路をたどるという機制がある」
「そして彼岸が表象化される」
「それが超越項か」
「本質的には究極のジンテーゼ」
「だけどホントを言えば、そこから先はすべてオトギ話でしょ」
「オトギ話でしか答えられない」
「サイエンスも?」
「オトギ話ではないかのような一種の説明体系ね」
「いつか突き崩される危うさが同伴している」
「それも信心の対象になりうるわけか」
「オトギ話はまぎれもなく人為だけど、それ以上のものとして存在しはじめる境界がある」
「何だろう」
「人知れず出来上がったとか、太古からの言い伝えだとか、神意による啓示だとか」
「そういう神秘性が重なるわけか」
「絶対の真理や法則というものもある」
「ひっくるめれば萌えの発生ね」
「つまり、フィクションとしての人為性が脱色されると位相が変化する」
「人為であることは変らないけどね」
「上手く相転位できれば推進力が俄然増大する」
「それが権威を構成するわけか」
「魔術的な感染作用が起こる」
「人為の恣意性の脱色も人為だけれど、そのプロセスは見通せないようなやり方で脱色される」
「特定の誰かや勢力による仕掛けであることは自明だけど、その自明性は伏せられる」
「なぜか」
「権威の超越性を担保するためにね」
「やはり、そこには恣意性云々とは別に、フィクションへのニーズが厳然とあるわけでしょ」
「オトギ話、つまり神話の生成には必然がある」
「生存の意味全体にかかわる問題」
「それなしでは世界が回らないという類的ニーズですか」
「どうしようもないバカバカしさも同伴するけどね」
「でもそれは言わないお約束になっている」
「暴けばペナルティが下る」
「暴かれないための防衛体制もある」
「権威と権力による縛りは超ストロング」
「そうあることが望まれる」
「結局、簡単に代替案は出せないわけね」
「オトギ話には人類史的な知恵が結集しているから簡単には覆されない」
「ただ、いろんなバリエーションがあるでしょ」
「歴史的文化的な物語資源に従って?」
「うん。環境とのトータルな関係に条件づけられたように浮上する」
「そして浮上したものが現実のシステムの設計原理になる」
「生活世界のグランドデザインの方向が決まる」
「世界観や人生観」
「来歴と未来、善きこと、悪しきこと、当為、人の道、この世とあの世との関係」
「現世来世のすべてを照らす光」
「形式はいろいろだけどね」
「たとえば唯一絶対の意思的な超越項という形式もある」
「天孫神話もある」
「浄土や地獄もある」
「見えざるブラフマンとか」
「太陽、大地、海、山、川、一木一草」
「八百万の神々もクオリファイされる」
「何に対してかな?」
「堪え難き現実に対する説明原理としてね」
「説明のし方はさまざまだけど、普遍的堪え難さという前提がある」
「問いの絶対性と解答の絶対性、そこから絶対的な救済原理も装備される」
「つまり、究極の答えを求めて探索すれば、臨界点で必ず何かが起爆する」
「それを問わざるをえないニンゲンの性ね」
「そしてある時、どこかに聖性を帯びた領域が分泌される。そう?」
「あるいは何かに聖性を付与せずにはおられないニンゲンの普遍的なあり方がみえる」
「そして起爆エネルギーが世界の駆動原理を析出する」
「それがオトギ話になる」
「さらに構成原理となって社会システムをつくり上げていく」
「そう考えることで了解できる現実があるね」
「善し悪しは別だけど」
「フィクションのリアリティは圧倒的」
「なぜでしょ」
「やはり圧倒的な現実と直結したものだからでしょ」
「現実の圧倒的な苛酷さが、圧倒的なリアリティに満ちたオトギ話をアウトプットする」
「しかし現実を動かすには、究極の問いにいったんピリオドを打つ必要もある」
「やるべきことは沢山ある」
「うん。いつまでもみんなで哲学や宗教の教室にいるわけにはいかない」
「外に出て日々の精励に赴かなくてはならない」
「たとえば絶対でオールマイティのザ・ロードが表象化されると同時に、それ以上の設問は一切キャンセルできるということか」
「そこから先を自力で思考する負担は免除できる」
「神のみぞ知る」
「それで一息つける?」
「時に応じてオトギ話、つまり神意を参照すればいい」
「一件落着」
「知らぬが仏」
「機能的には世界の解釈装置ということになる?」
「ニンゲンの思惟の限界をこえて作動する世界の解釈装置かつ駆動原理」
「という信憑、ということね」
「後知恵的にいえばね」
「そう。だけど、どんな時代もオトギ話のリアリティから自由になれないところが本質的」
「解釈しないでは一歩も踏み出せない」
「必須のデバイスね」
「言い換えると、究極の問いを委託する一種のエージェントが創出される」
「自力で手に負えないからアウトソースするわけね」
「畏れおおきエージェント」
「それがニンゲンという種の特有の作法らしい」
「エージェント創出によるアウトソーシングは太古から脈々と継続している」
「ただ、委託先は単なる業者ではなくて、委託される同時に世界構成の主体になる」
「発注元であるニンゲンは、その主体によって客体化されるわけね」
「吹けば飛ぶような客体」
「ホントは客体化されるのではなく、自ら客体化するわけだけど」
「精神のありえない超絶のアクロバットが起こる」
「倒錯的だ」
「しかもどこにもありえないかもしれない超越項に向かって」
「そうしないと身がもたない」
「まさに魔術的な相転位が自作自演的に起こるわけだ」
「だからオトギ話に作者はいないことになっている」
「自作自演がバレたら成り立たない」
「このからくりは普遍的」
「プロセスは多様に分岐するけど、図式としてはシンプルだね」
「しかも究極のエージェント創出の機序には、沢山の応用編がある」
「幅広のグラデーションを描くように広がるエージェント群」
「つまり、その世俗的応用もあるわけか」
「そう。このプログラムはいろんなカタチで日常的に応用されてもいる」
「思考の回路として?」
「絶対的な超越性をもたない対象であってもね」
「まちがいない」
「委託先としての必要な属性、つまり微弱であっても権威を帯びるものならそれなりに成立する」
「利害集団、党派、理念、ピンからキリまでのカリスマ、民族、歴史、御国全体など、応用範囲はいろいろある」
「絶対的なエージェントならざる、相対的なエージェントはごまんとある」
「単純に社会的な階梯の上方に向かう、無意識の尊崇や拝跪という形式も一般的だ」
「盲目的なお上志向といったものもある」
「エージェントとしての資格審査や属性チェックはザルだけどね」
「エージェントのエージェントのエージェントのエージェントという無限連結もある」
「階梯を下るほど威光は希釈されるけど、そういう機能としては似ている」
「われ知らずエージェントの役割を担っていたりする」
「エージェント同士の関係は輻輳しながら複雑に絡み合う」
「システム全体がそれで回っていると言ってもいい」
「ある種のまなざしには、下々のエージェント志向がお手軽な利用資源に映る」
「疑似エージェントにとってね」
「そして、この構図全体から生臭いコミュニケーションも開発される」
「現実にはマネーを媒介してね」
「お宝争奪戦」
「お宝争奪戦は下流に向かってどんどん突き進んでいるようにみえる」
「日々刻々」
「活用資源はいろいろだけどね」
「地域ごとの環境特性によってアフォードされるものは分岐する」
「たとえば、ジャパネスクな謙虚さや奥ゆかしさは、疑似エージェントからは大変なごちそうになりうるでしょ」
「よく言えば謙虚さや奥ゆかしさね」
「主体委譲的な存在形式の危うさ」
「地域特性からいえば、委譲先は大仰な超越項でなくてもいいというのがポイント」
「そう。だから八百万の神々がいたわけだ」
「世間という実体の曖昧な参照対象も厳然と機能してきた」
「現実がそれほど苛酷ではなかったのかもしれない」
「相対的にね」
「平和や協調を享受できる環境にあったということかな」
「絶対的エージェントを召喚させるほどの圧倒的なニーズがなかった」
「複数分散型のエージェント体制」
「そう。脱中心型、分権タイプともいえる」
「たとえば山川草木、花鳥風月ごとに、プチな超越項への入口がふんだんに用意されていた」
「コンビニエンス・ストア的に遍在していた」
「無限分割された変種のエージェント体制だ」
「そのぶん、個々のエージェントは強度が足りないともいえる」
「そして現世における生き方の作法伝授は、世間サマが担当した」
「なるほど」
「功罪いろいろ言われるけれどね」
「要するに、エージェント機能のバラエティ化があったわけだ」
「それで上手く回った社会があった」
「親しい自然の移ろいとともにあるエージェント群。それらに包摂された世間に包摂された集団に包摂された家族に包摂されて生きる個人」
「幾重にも包摂された存在の形式が、絶対神を召喚するような究極の問いを遠ざけていたともいえる」
「独特の居心地のよさのようなものがあったのかもしれない」
「国破れても山河は悠久」
「バーバリアンが攻めてくることもなかった」
「劇的な社会環境の変化も少なかった」
「四季の移ろいも想定内に収まった」
「死ねばホトケサマにもなれたし」
「そうした相対的に安楽な装置が、自分が生まれた風景と一体化していた」
「帰るべき場所が厳然とあったわけね」
「懐かしい場所だ」
「そうした資源がシラミ潰しに消されてきたのが現在ですか」
「風景や社会の激変とともにね」
「もともとジャパンのエージェント群は、絶対的な強度をもたない脆弱さや曖昧さを特徴にしていた」
「絶対の審判を下す絶対者ではなかった」
「だけど脆弱だったから、環境の激変という大嵐によってエージェント群はどこかに吹き飛ばされてしまった」
「風景が消えると同時に中味も消えた」
「いまやぺんぺん草も生えていないのが現在?」
「ある意味ではそう」
「誰かのせいでなくて、自分たちでそうしてきたのだけどね」
「ただ実感としては、いつの間にかそうなっていた」
「そして超多忙で過酷な日常と、主体委譲的な傾向性だけが残った」
「身についた精励の美徳もある」
「そして、自称エージェント群が我こそ委託先一番を名乗り合って光景が広がっている」
「絶対神はもともと不在だから召喚できない」
「だから裁定するエージェントが不在ということになっている」
「擬似的な有象無象が入り乱れている」
「実質的には、疑似エージェントたちの収奪対象としてのジャパンの民ということだけは明確にある」
「収奪の勢いは物凄いものがある」
「結局、絵に描いたようなバカという構図?」
「その帰結から見ればね」
「主観的には善人そのもので、客観的にはバカそのもの?」
「それだけじゃない」
「比喩的にいえば、ジャパンの冠たる生産力や競争力はオトギ話としても機能している」
「社会のしくみ全体に対する信心」
「国力ですか」
「それとは関係なく、収奪の構造は堅固に築かれつつある」
「それなりに享受できるブツや時空も用意されている」
「少なくとも飢え死にする心配はない」
「だけど、新たなエージェント創出は自力では無理」
「疑似エージェントたちの属性や資格を問うにはコストもかかる」
「問うだけでは変化も生れないし」
「バカかもしれないけど、進んで悪は為していないし」
「主体を委譲した立場からいえば、すべての責任は委譲先にあるし」
「ただし、委譲先は次々にリレーされてどこにも主体が結ばれない」
「主語のない国ですか」
「ネイションの主体性も太平洋の向こうの国家に委託されている」
「つまり、意志決定の主体も責任の主体も不在」
「ジャパンの伝統は今もダイナミックに息づいているわけか」
「おまけに堂々たる自称無宗教」
「海の向う側の国がエージェント機能を果たしている」
「オー・マイ・ガッド」
「しかしそこそこ上手く回っている?」
「少なくとも非難されるいわれはない」
「いいけど、現在のしくみから帰結するものにもちゃんと目を向けよう」
「どんな帰結だろう」
「それがわからない」
「素人にも玄人にも手に負えない問題が山積している」
「確かに」
「機会費用ということもある」
「目を向ける対象も方角も方法も五里霧中」
「そもそもそうする動機をどこから調達してくればいいのか」
「システムはあまりにも巨大で複雑だ」
「ニンゲンはあまりにも卑小で無力だ」
「全体は見通せない」
「めざすゴールもみえないから、ミッションもみえない」
「すべてはインポッシブル」
「それが同時に疑似エージェントたちの恣意的な振舞いを許している」
「思うつぼでズブズブ」
「我がもの顔で跋扈している時代だね」
「言いたい放題、やりたい放題」
「知らぬが仏の構造が利用され尽くされている」
「悪い循環が加速している」
「ただ肯定的な自己像だけはどこかに堅持したい」
「少なくとも悪人ではない自分は担保される、と妄想していたい」
「感情で対応できない問題が山積みされていくのに、感情だけが点火する」
「手っ取り早い方法として、依存できるエージェントを探す」
「すると疑似的エージェント群がてぐすね引いて待ち構えている」
「甘い言葉だけはふんだんにある」
「そして美しい自己像が他者を経由して妄想される」
「ビューティフル・ランドのビューティフル・ピープル」
「誰も信じていない」
「だけど選択肢もない」
「付いて行けば大丈夫かも」
「そう思いたい」
「だったら良かったけどね」
「むしろ期待とは正反対の方向にシステムは舵を切っているようにみえる」
「居心地の悪さが広がっている」
「一方で、疑似的エージェント群は一段上の高みにいることは確か」
「知恵もスキルもアイデアも独占できる立場にある」
「暴力装置を独占しながら、余裕で俯瞰できる」
「ただ、狙いはお宝争奪戦における勝利だけだけどね」
「ゲームは単純化されている」
「駆け引きの巧みさだけ希求される」
「お宝の中味を問う以前に、上も下も全体が単純化されたゲームに巻き込まれているわけだ」
「空虚さが社会を包んでいる」
「ネイション全体が浮遊しているように思える」
「そしてその帰結は誰も読めない」
「いい方向に向かっているとは口が裂けても言えない」
「たとえば、60年以上前、向う三軒両隣こぞってバンザイ三唱して、若者たちを地獄へ送り出した歴史があった」
「粒よりの極悪人たちに領導されたわけじゃなかった」
「一つの時代の善き心と日々の精励の結実が地獄を用意した」
「同朋、異朋合わせて一千万人以上の生命で購われた歴史ね」
「このからくりは今も持続しているようにみえる」
コメント

2007 believing&unbelieving14

2007-06-05 |  conversation
「感情の国といえば、どの国も同じでしょ」
「当然ね」
「同じといえば同じ」
「感情はただ訪れる?」
「感情を意思することはできない」
「つまり、感情を感情することはできない」
「怒り、愛情、憎悪、不安、気分」
「恣意性から一番遠いわけだ」
「自由にならないものね」
「こんなワタシをどうしてくれるの」
「無罪性が意識されるわけか」
「そこに逃げ込もうという機制も働く」
「ニンゲンはそれらの訪れにいつも晒されている受動的存在ですか」
「受苦的?」
「それも含めて世界体験を色づけるものでしょ」
「というよりそのものでしょ」
「天変地異の訪れとも類比できる」
「我知らず」
「あずかり知らぬ天の配剤」
「だから、ホントをいえば、訪れた感情の善悪、正邪を、当のニンゲンに帰責することはできないことになる」
「天変地異による災厄を、被災者個人に帰責することができないと同じ?」
「理屈からいえばまさしく」
「日本の中世の宗教者は、そのことに気づいていたわけか」
「縁起」
「機縁とか?」
「まったきイノセントである、となるのかな」
「だから、悪党だろうが何だろうが、あまねく浄土へ赴くと言い切った」
「一人の存在だけを取り上げればそうかもしれないけど、迷惑やとばっちりを受ける他のニンゲンは堪らない」
「現実にはかなり無理があるけど、極限的に思考すれば必ずそうなるということでしょ」
「生身のニンゲンはそんな思考には耐えられない」
「どうしてくれるのよ、という帰責する対象を指弾することになるね」
「感情の訪れが完全に人為から切断されたものであるかどうかという疑義もある」
「コントロールされたものである側面も少なからずある」
「本人が気づかない形でね」
「ただ、感情をこめて歌うともいうこともある」
「感情の出し入れやコントロールができる?」
「ふりはできる」
「ビジネス上の必要とか、説得の手段にも使える」
「感情操作は今も昔も日常茶飯でしょ」
「ここを押せばこんな感情がアウトプットされる、という知恵は集積している」
「どんな個人にも組織にもね」
「現象としての感情はコード化されて、いろんな社会的振る舞いを解釈したり、新たに組織したりする装置として日々使われている」
「あらゆるポリティクスやアドバタイジングがそれを資源にしている」
「操作可能性は疑えないね」
「たとえば、あらゆる表現活動は、そうした資源を存分に活用するわけでしょ」
「まさに」
「縦横無尽に活用しながら、相手の財布の紐を緩めさせたりできる」
「騙されたと知りながら、愉しめるかどうか」
「そうね」
「パブロフのワンちゃん的に反応するのか、それともメタなレベルに立って愉しむか」
「愉しむには、一定の距離化が必要だ」
「ただ、距離化のためには別の蓄積が前提になる」
「そこに一国の文化や伝統の懐の深さ浅さがあるわけか」
「大袈裟にいえばね」
「たとえば、若い頃に悪さをしてさんざん痛い目にもあってきたニンゲンは、聖人君子的に純粋培養されたニンゲンより、そうしたポテンシャルが高いだろうということはある」
「シンプルにいえばね」
「だけど、いちがいに感情の国だから悪いとはいえないでしょ」
「いいも悪いもないけどね」
「ただ、子供っぽいとはいえる」
「感情体験そのものは、ウソ体験もホント体験もない」
「ウソもホントもなく、ただ端的な事実として血流が沸騰したり凍ったりする」
「そこにイノセント性が読み込めるわけか」
「民族の血全体が沸騰することもある」
「単独では味わえない稀有な陶酔のステージに駆け上ることもある」
「その快感に身を捧げるニンゲンが出てきても不思議じゃない」
「ただ、感情には持続性がない」
「持続性がなくて忘れやすい」
「だから懲りないという傾向が強いね」
「持続させるには人為的な操作や按配が要る」
「逆に、忘れやすいけど、すぐに起爆させることもできる」
「だから、シンボル操作が機能しやすいということがあるね」
「権力奪取や大衆操作の最重要ツールの一つでもある」
「一丸となってというのは得意中の得意だ」
「やむごとなき象徴はいまもその結節点として機能できるのかな」
「ご本人はそれを望んでいないようにみえるね」
「そろそろ降りたいということも仄見える」
「ただ、人為に従うだけでもないでしょ」
「そもそも歴史や文化や経済といったもろもろ社会的な資源配置によって、思考や感情の規模や質が決まるということになっている」
「歴史的人為的に配分された環境要因に従属しているようにみえるね」
「成育環境。生存環境」
「環境世界ね」
「だから、ホントは主体があるとはいえないことにもなっている」
「いえないけど、あるというフィクションで近代的な社会は動いてきたわけだ」
「近代的自我ですか」
「主体的に考え、選択し、行動する近代的自我」
「それでも、感情が彼岸からやってくるものであることは変わらない」
「そう。ただし、近代的な社会を回すには、このフィクションを維持する必要がある」
「結果、個人に帰責することは不可避」
「イノセントであるにしても、当然ながら、侵犯行為にはペナルティが下る」
「帰責するシステムが法ですか」
「それにしても、この国の感情表出は単純すぎないか」
「第一印象的には大人しい民族」
「礼儀正しく他者への配慮が行き届いた国」
「ホスピタリティの国」
「外人さんのそうした言い方はわかるけど、彼らは確実に子供だと思っているでしょ」
「ホンネではね」
「かつて占領軍のトップが平均年齢は13歳と判定したことがあった」
「変わっていないかな」
「国をあげて小学校の教室のような雰囲気があるね」
「パチンコ玉のように、床が傾いたら一斉に同じ方角に転がっていく」
「70年前も今も変わっていないかも」
「その傾向に添って、あらゆる組織の行動原理が組み立てられている」
「理論的表出より、感情的表出が全面に出てくる」
「喜怒哀楽を露骨かつ巧妙に表出できるニンゲンにリーダーシップに附与されたりする」
「とくに大手メディアの看板たちね」
「感情マイスター」
「なるほど」
「確実にニーズがあって、そのニーズの裏には感情のエネルギーを溜め込んでいる大衆的鬱屈がある」
「自力ではそれを処理できないから、期待するわけね」
「そう。エネルギーの放出回路が与えられると、そのあとは一気呵成」
「カイカン!」
「民族的な快感メカニズムが確立しているわけだ」
「まさに主体は存在しないことになるね」
「そう考えると理解できる現象は少なからずある」
「主体は、おのれならざる何か。たとえば、外圧だったりする」
「ガバナンスにとっては最大の資源になる」
「一元化できる装置が厳然と存在しているわけだ」
「じゃあ、そうじゃないあり方とは?」
「感情への対応で分岐する」
「感情をどうもてなすか」
「天変地異に対する配慮ね」
「たとえば、当事者かつ観察者であるようなあり方も想定できる」
「イメージはできる」
「自覚的な経験の積み上げがないとそれは無理だ」
「民族的な快感メカニズムとは別の、試行錯誤の積み上げね」
「コストもかかるけどね」
「コストを払って古代的社会を脱した国もあるわけだ」
「たとえばどんな流儀になるのかな」
「たとえば、感情のやりとりをしながら、同時に全体をモニターできるとか」
「ふたつのゲームの同時進行か」
「でも、そのふたつは非対称でしょ」
「同じ地平に乗っかっているわけじゃない」
「順番としては、感情のゲームが最初にある」
「それが原事実という言い方になるのかな」
「当り前の話だけど、感情が自分と世界との接触面での第一次のスパークであることは確か」
「世界体験そのもの」
「豊かさ貧しさ、善きこと悪しきことのみなもとね」
「生活世界という言い方もあるね」
「つねに初原的な世界生成がそこにあるわけか」
「感情は裏切れない」
「裏切る裏切らない以前の問題ね」
「実存という言い方もある」
「世界はいつも感性的に色づけられている」
「無色透明ということはありえない」
「世界は感情相関的に出現するわけだ」
「喜怒哀楽、不安、気分、情状性」
「即時的に」
「感情に色づけられて新しい風景が次々と開示される」
「ある意味で、我々は赤ん坊と同じかも」
「生れてからの経験の累積が別の相関をつくるけどね」
「ただ、そのつど更新された世界が出現するという意味では同じかな」
「悟性、理性とったものの出番はその次になる」
「本質的には感情が何に由来するかはわからない」
「まさに第一原理」
「それ以上遡行不可能」
「ニンゲンに搭載された世界開示機能ですか」
「ある意味で創世機能でもある」
「そのセンサーが示すものは、端的な事実として出現する」
「事後的に詮索はできるけれどね」
「つまり、認識が及ぶ突き当たりになる」
「感情が?」
「由来を訊ねることはできない」
「世界の究極のナゾですか」
「そう。なぜ感情があるかは答えられない」
「推論は自由だけど」
「あと知恵でひと通りの説明はできても、なぜそれが訪れるかはいえない」
「そこから先の設問は、かつては神々に委ねられるわけね」
「神サマの御計らい」
「世界全体を包摂かするような超越的なものが、必然のように想定されるわけか」
「ニンゲンに答えられないものを一括して担当する畏れの対象」
「超越項という言い方もある」
「それを忖度することがニンゲンの仕事になるわけか」
「忖度、邪推、独断、妄想、でっちあげ。いろいろね」
「そういう専門職もいた」
「そうした知恵の累積から、基本的な世界構成のフレームがでっち上げられた」
「それはニンゲンが求めたからでしょ」
「そう。だから、でっち上げであっても、必要なでっち上げだった」
「でっち上げの事実にはみんな気づいてきたわけでしょ」
「最初に気づいたのは、必要からでっち上げたものが逆にニンゲンの可能性を奪う原因になっちゃったから」
コメント

2007 believing&unbelieving 13

2007-04-25 |  conversation
「一種の無常観?」
「行く川の流れは絶えずして」
「もののあわれ的な世界観の自己適用」
「いつの時代にもある月並みな作法だね」
「本当はそれ自体規範的なものじゃない」
「審美的なものかな」
「ルサンチマンや不遇感の単なるリアクションということもある」
「俗塵の息苦しさが最後に引き抜くジョーカー」
「ジャパネスクな観照的態度とも自讃されている」
「大和心」
「独特の洗練された表現形式もある」
「それは究極的にはボトムがないということへの気づきかもしれない」
「気づきがあっても、世界が変化するわけではない」
「変化はしないけど意味性が変わる」
「意味が変わるとして、問題はどんな行為がそこに接続されるかだね」
「気づきがどう世界の色合いを変えるのか」
「現実の振舞いはさまざまに分岐する」
「コンビニエントな諦念として機能することもあるね」
「世俗的なコードや道徳の乗り越えツールにも使える」
「ご都合主義的に、逸脱や犯罪を正当化できるかもしれない」
「いきなり超越項へジャンプするという可能性もある」
「究極のパンツね」
「しかし、そこから利他的である必然性はない」
「利己的になる必然性もない」
「現世否定でも現世肯定でもある必然性もない」
「融通無碍」
「結果的にいろいろなものと結託できるということか」
「たとえば、ゼニがすべてという公然たるパフォーマンスもある」
「偽善が幅をきかせるようにみえる世界では、むしろ潔いとされることもある」
「しかしアウトプットが何に帰結するかは一義的には決められない」
「能動的ニヒリズムの実践という矜持もあったりする」
「一回こっきりの人生」
「死んだらお仕舞いよ」
「一場の夢」
「ただ旨いものはたらふく食っておこう」
「カラスの勝手でしょ」
「月並みだね」
「月並みだけど、ビジネス上の推進力として機能することもある」
「一方には隠遁生活といったものもある」
「しかし、ギンギラギンの現世の重力は強力だ」
「ギンギラギンでさりげなく」
「おいしい生活は一杯ある」
「くだらないものもふんだんにある」
「ほしいものがほしい、とか」
「結局はあちこちめぐりめぐって現世に着地するというのが定番かな」
「無常観はそこには行使されない」
「そこまで徹底して行使されることは奇跡的なことかもしれない」
「そして現実一本で事態は推移していく」
「その外は存在しないかのように振る舞うことが、ゲームへの参加資格になっている」
「お約束だね」
「もののあわれや無常観への対抗としての文明ゲームともいえる」
「神亡き後の対処戦略か」
「神サマがいても同時並行可能だ」
「でも亡くなったという近代の診断は確定している」
「クリーンアップされたノッペラボウの現世をいかに生きるか」
「そのためにさらにシステムは増強されてきた」
「外部抹消を前提に、すべてはマーケットへと収れんしていく?」
「総がかりの大伽藍の建築が進行している」
「バベルの塔ですか」
「理屈からいえば、マーケットを否認すれば何も残らないことになっている」
「結局、無常は腹の足しにならない」
「まさに」
「外はない」
「それ以外想定しようにも想定できない」
「近代化という名の壮大なプロジェクトね」
「だけど外部は必ず浮上する」
「ロジカルに浮上する」
「ただ、リアルワールドそのものが宗教ともいえる」
「ニンゲンは本来宗教的存在でしょ」
「それは消せないね」
「というより本質的には宗教というものが手当てされてきた」
「何に?」
「ニンゲンの営みが分泌するもののあわれ的なものに」
「世界が分泌するのではなくて?」
「順番からいえばニンゲンの営みが先にある」
「自然界に宗教があったわけじゃない」
「後にも先にもね」
「いわば脳ミソの内燃機関でもある?」
「みずからそうであらぬところのものへの志向」
「世界表象のゼロ記号的なメカニズム」
「内属する空とか無とかね」
「それが宗教と呼ばれるものの根っ子にあるわけか」
「振り払おうにも振り払えない」
「それを何かで埋めようとする営為が、否が応でも神々を分泌する」
「自然の圧倒的な脅威もあった」
「豊かな恵みも与えてくれた」
「内なる煩悩もある」
「内なる自然」
「つまり内なる外部ね」
「それが導く悲惨や不幸も腐るほどあった」
「そこから味わえるエロスも一杯あった」
「まさに苦は楽のタネ、楽は苦のタネ」
「なるほど」
「その全体を説明するのに現世のロジックだけでは追いつかないからあの世が想定された」
「それでスッキリするわけか」
「ただ、サイドエフェクトとしての不幸や惨劇はあまりにも過剰だった」
「そこからの自由を志向したとき、もう一度ゼロ記号への帰還が目指されたりしたわけか」
「ごく例外的にいえばね」
「プリミティブな時代はちがったでしょ」
「人馬一体的に人と自然と神々による包摂が、自己完結的にコスモスを作っていた」
「しかし、ある時点からあるエリアでは神格のビルドアップが目指された」
「人類的なプロジェクトXへの発進」
「どんな部族も例外なく宗教プロジェクトを推進してきた」
「歴史多発的にね」
「コンセプトのちがうプロジェクト同士の激突も起きた」
「ビルドアップを目指せば、そこから甚大な破綻や代償も顕在化する」
「こりごりだということも起きた」
「だから別様の対処法も模索された」
「さしあたり文明化プロジェクトということになるのかな」
「現世一本で勝負するということか」
「現世利益的なもので腹が膨れれば、宗教プロジェクトは出番がない」
「だけど膨れることはありえないから屋上屋が重ねられることになる」
「ゼロに駆動されながら、ゼロを埋めようという究極のマッチポンプか」
「実際にはすべてそれに尽きるかもしれない」
「正しくはプロジェクト・ゼロ」
「それがニンゲンの歴史か」
「単純にいえば人類の壮大なパンツをめぐる歴史ね」
「自己完結できないように出来ているからパンツは要る」
「ゼロの現前に対するニンゲンの応答が、宗教という形式で表現されたわけか」
「同時に機能的にはそれが文明化という形式をとったということかな」
「ゼロへの気づきがニンゲンの思考を発動したともいえるね」
「インド人のゼロ発見が数学発展を起爆させたようにね」
「ゼロ記号がなければニンゲンは思考できない」
「虚数的にニンゲンの生のリビドーは発動されるわけか」
「しかし、いまや宗教は胡散臭さの代表にされてもいる」
「この国ではね」
「リアル・ワールドの動かし難さがあるとしても、それは一つのプロジェクトだという了解があるかないか」
「その了解があるかないかが決定的だ」
「一つの試行ね」
「だけどイノチがかかっている」
「ただし試行でしかない」
「にもかかわらずイノチがかかっている」
「無限に循環するけど、どっちが本当ということもないね」
「そこに分岐点があるわけだ」
「彼我の認識のちがいがね」
「面倒だけど相反するものの両義的認知があるかどうか」
「そうした構造は子供じゃわからない」
「子供はどっちか決め手ほしい」
「我慢できないし、機微がわからないから思考が洗練されない」
「もののあわれをモチーフにした表現は腐るほどあるけどね」
「わびさび」
「枯山水」
「いろはにほへと」
「独自の表現形式を洗練させてきたけれども、現実の振舞いとは無関連化しているということか」
「だから子供だらけのように見える」
「そう思う」
「どういうこと」
「この国は子供の王国にみえる」
「子供には失礼かもしれない」
「恥もなくビューティフルランドとのたまう阿呆がトップにいる」
「薄々気づいている子もいる」
「この国の表現の伝統に照らしたら、最初に落とされるレベルだね」
「ただ、メディアの前はチャイルドシートだらけでしょ」
「そのレベルにピッタリとはまる」
「いやメディア世界がそうなっているだけで、画角の外には一人前の大人たちもいる」
「万人に向かって自分のツラを晒す恥ずかしさを知っている人もいるということか」
「マーケティングは狙いやすい子供だけしか相手にしない」
「メディア的には感情の表出が優先されている」
「作為的な井戸端空間があちこちに出来上がっている」
「煽りと感情の表出合戦がパブリックな空間全域を埋め尽くしているようにみえる」
「ちょっと奥さん聞いたぁ的な話法やキャラが耳目を集める」
「大袈裟に驚いてみせなければいけない」
「ボソボソゆっくり話すヤツは使えない」
「使えるけど突っ込んでやる必要がある」
「カマトト・ゲームね」
「あらぁ」
「ちょっと、ちょっと」
「いけないんだぁ」
「あっぱれ」
「なりきりゲームか」
「サルの軍団的なギャラリー演出もある」
「いいとも!」
「それはそれでバカバカしくて楽しい」
「バカバカしいのはいいけどさ」
「最高の議決機関でも同じ現象が起こっている」
「まったく同じ」
「場のノリがすべてに優先される」
「国全体が井戸端的なカマトト空間になっているのか」
「それを承知でやっております」
「たとえばビジネスといえば格好よさげだけど、本質的にはカマトト・ゲームのバージョンでしょ」
「たとえば?」
「誤解を招いたことをお詫びします」
「誤解じゃねえだろ」
「はい、本当は誤解じゃありません」
「誤解じゃなくて、ワタシが阿呆で悪党で、みなさんは正解で、ですのでお詫び申し上げます」
「それが正しい言い方だ」
「成熟を迂回するための代替物もあふれている」
「どんな形で?」
「めくらまし的な快楽装置群の巨大な連合がある」
「それ自体は問題ないでしょ」
「ない。その一つ一つにはね」
「ジェットコースター的歓楽マシンや感情垂れ流し兼吸収装置はたくさんある」
「それらが単独では純然たるエンタの仕掛けだとしても、群としては別の作用を始める」
「結果として、子供でありつづけるためのワンダーランドが全域を覆うということかな」
「眩惑に満ちためくらまし空間ね」
「メディアではその場の思いつき的な社会正義もまぶされる」
「ワタクシが時代の理性の代表ですというキャラがギャラをどかんと貰う」
「わたしが良識を代表しております」
「その実態はひどいものだけど、舞台裏にはカメラは入らない」
「誰もが知っているけど、誰もが知らないことになっている」
「建て前としての公正中立正義その他もろもの金看板がある一方、そこには十九世紀的労働収奪によって下支えする下部構造もちゃっかり機能している」
「貴族と奴隷の古代的世界とも言える」
「もっとひどいかもしれない」
「そして、じつはビューティフルランドは誰一人として信じてはいない」
「誰もが信じるかもしれないと誰もが信じたふりをすることで、結果的にアンタッチャブルなシンボルのまま使われてしまう」
「人を眩惑できる属性は何一つ備えていないけどね」
「にもかかわらずこの社会に内属して生きるしかないけど、あるともないとも言葉では明示できないけど外部は存在している」
「現にいまここにあるものだ」
「だけどそれが真実の世界だとも言えない」
「うん。ホントのホントということは成り立たないけどさ」
「ただ、そのことに無自覚で無防備でノー天気である貧しさには気づいたほうがいい」
「なぜでしょう」
「なぜだろうね」
「成熟したほうがいいから?」
「成熟とは何かな」
「一ついえるのは、徹底的に個人がアトマイズされているということかな」
「されっぱなし」
「そしてそれを現実のすべてだと思い込ませて利用する輩がいるということだね」
「命令に従いやすい子供のままの状態に置いておいたほうが都合のいい連中がいる」
「確実にいる」
「そこは互換的だけどね」
「固定された関係ではなくて入れ替わり自由でもある」
「ただ、全体としてそのように作動しているシステムのメカニズムがある」
「そう。システムのパーツにされるバカバカしさがあるとして、そしてそういう位相を生きざるをえないのがリアル・ワールドの限界だとしても、別の位相では自由への希求がある」
「その希求が台無しにされているということか」
「そのことに気づかないのが子供ということだね」
「文化的伝統というはっきりした理由もないわけではない」
「そうした希求の受け皿はシステム内には用意されていない」
「補完的にはふんだんにある」
「形骸化した宗教空間や儀式ももろもろある」
「懐の深いシステムでないことは確かだ」

「感情の国か?」
「メディア的には感情の表出のほうが旨みがある」
「悪しき井戸端空間の拡大生産」
「煽れば煽るだけ黒字は増える」
「短期的にはね」
「長期的にはこの国の自滅に通じるかもしれない」
「ストッパーがないということかな」
「ストッパーやそれを制御可能にするものがない」
「感情以外の伝統的な人間関係のリソースがその機能を果たすあり方もある」
「どの国?」
「知らないけど、オトナがたくさんいる国」
「理屈優先ということ?」
「いや、感情にまかせちゃロクなことはないという認知がある」
「過去にさんざん痛い目に遭ってきて、こりごりだという歴史があるわけだ」
「無数の歴史的な惨劇の経験が骨身に沁みている」
「歴史があるだけじゃだめで、それがみんなに記憶されているということね」
「記憶されるための対話空間やメカニズムが社会に組み込まれている」
「だったらいいな」
「それがナショナルな共有財産として自覚されているというわけか」
「オトナたちの思考にはそれが刻印されている、ということだったらいいね」
「冷静に論理を立てながら、いい加減にしなさいといえるオトナがたくさんいる国ね」
「そう。当然、感情がないということじゃない。感情が劣ったものだというのでもない」
「むしろ、感情は伸びやかなものになるかもしれない」
「感情をゲームとして遊ぶ余裕も生まれる」
「そうした土俵が共有されればね」
「感情の表出競争だけが展開するような場所では、反対に感情は腐食していくでしょ」
「ただ、この国では別種のストッパーやコントローラーが働く」
「何でしょ」
「対抗的な集団感情」
「ある感情を抑えるために対置されるもう一つの感情というパターンね」
「にんげんだもの」
「同じにんげんだろ」
「キサマ、それでもにんげんか」
「ニッポンジンかぁという言い方もある」
「それに類するものはふんだんにある」
「いろいろと代入可能だ」
「場の空気によってにんげんの中味も自在に変化する」
「立場によっても自在に解釈変更が可能だ」
「いざとなれば国のために死ぬのがヤマト魂と言い出しかねない」
「悪いけどみんなのためにここは死んでくれという言い方は今もある」
「それがビューティフルという言葉の最終的な指示内容かもしれない」
「ことだまね」
「一丸となって」
「最後には敵も味方もなくなって、同一性が確認されればそれで安心というね」
「それがある種の究極の中和装置、融和装置として働く」
「この国ではそうした装置の活用法に長けた人間がタイジンと称されてきた」
「感情の誘導芸ね」
「腹芸師、裏芸師、寝技師」
「比較的コストが低くて済む手法かもしれない」
「言質が明示されるわけじゃないから、比較的責任も伴わない」
「つまり、以心伝心でお望みどおりの自発性が調達されるわけね」
「わかってるだろ、な、うん、いやぁ、じゃあ、という空気感染が起こる」
「それがこの国のオトナ世界の作法の一つでもあった」
「それでもだめなら、それでもオマエはニッポンジンか」
「恥を知れ、とか」
「罪を知れとはいわない」
「論理を積み上げるにはコストが掛かるし」
「あうんの呼吸的根回しの知恵はふんだんにある」
「それが一概に悪いともいえない面もある」
「ただ、少なくとも感情は忘れやすい」
「都合よく忘れることができる」
「忘れたということも忘れる」
「ナショナルな風土病だな」
「つまり、リセット機能が装備されている国ということか」
「一夜にして別に国になれる国でもある」
「そのことが、ポストモダンの最前線を疾走する国といわれている理由の一つでもあるかもしれない」
「スーパーフラットで、デジタル空間との相性は抜群ではある」
「感情はすっきりしたい方向に動きやすいね」
「すっきりしたい方向はサルでもわかる」
「かゆみと同じ」
「かゆいのはしかたがない」
「実感の論理ね」
「ワタシの実感をどうしてくれるのよ」
「知るか、とはいえない空間が出来上がる」
「誰かがかいてあげないといけない」
「かゆいワタシをどうしてくれるの」
「冷たく突き放すという作法には人気がない」
「情の国か」
「情の人というのは右でも左でも最大級の褒め言葉だ」
「情にもいろいろあるけどさ」
「結局、一度かくだけでいいんだから」
「誰かがかいてくれるだけで十分というところが面白い」
「それはオマエの実感だろ、という言い方もあるけどね」
「オマエのかゆいのはよぉくわかる。わかりすぎるほどわかる」
「だろ」
「うん。オレもかゆい」
「オマエっていいやつだな」
「かゆみを知らないヤツとはつきあえないな」
「そうだ、そうだ」
「どこがかいゆいんだ?」
「ここか、あそこか」
「いいねえ」
「でも、一晩たったらぜんぶ忘れてる」
「おまえ誰だっけ」
「感情補強的に理屈がこねくりまわされることも多い」
「議論の場ではそうしたことが永遠に反復される」
「だから資源が蓄積されない」
「オトナの知恵がね」
「つまり、成熟できない」
「やっぱり子供の国か」
「感情には論理よりも感染力があるのは確か」
「カタルシスもある」
「スッキリするという果実には抗えない」
「むき出しの感情には負ける」
「負けたらおしまいでしょ」
「感情がいったん励起すると、こちらの感情も励起される」
「しかたなくね」
「確かに揺さぶるものがある」
「共鳴装置的に波立ちが引き起こされる」
「場合によってはそれが増幅されて、国家レベルの感情のレゾナンスが起こる」
「ナショナルなお祭りか」
「一体感とか、壮大な共生感が生まれることもあるかもしれない」
「それで恍惚状態のまま全員が死んでしまえば万事めでたしめでたし」
「それは昔の話でしょ」
「どうかな」
「臨時ニュースを申し上げます」
「なに?」
「ニイタカヤマノボレ」
「マジ?」
「聞いてないよ、なんてこともゼロじゃない」
「限りなくゼロに近いけどね」
「それが何かわからないけど、後戻りできない地点に立たされているということはありうるね」
「この国のプランナーはいるわけか」
「日々活動していることは確か」
「それが海の外にいる連中である可能性もある」


コメント

2007 believing&unbelieving 12

2007-04-16 |  conversation
「どうでもいいということはなくて、逆にそれがシステム稼動の前提をつくっている」
「乗り遅れたくはない」
「一人だけちがうのは心許ない」
「同一性を仮構することで、そこにセルフ・ナビゲートするわけね」
「統合原理としては大事だ」
「まさに部族意識」
「槍も弓矢もペニスサックもトーテムもないけど、それに代わるデバイスは全員が装備している」
「電波と光がつなぐポストモダン的部族社会」
「例外なく誰もが同じ欲望や感情を抱くだろうという前提でシステムが回転している」
「生産システムはそれを想定するところから立ち上がる」
「市場的コミュニケーションはそれをアテにしている」
「同一性といっても曖昧だけどね」
「曖昧だからフレキシブルに応用できる」
「根拠なく、コレだよ!という言い方を流通させることもできる」
「主体の中味が空洞化していればなおさら強度が増す」
「同一性というヴィジョンに乗っかって異同が強調される」
「物神的プロダクツ群がそこに重なって、トライブ全体を誘導するという神話的空間が成立しているわけか」
「しかしシステムの更新スピードは迅速だから、置いてきぼりにされる恐怖も小さくない」
「そうした帰属不安が日々の精励に拍車をかける」
「付いて行くだけで息も絶え絶えだ」
「一方では出し抜きたいという野心もある」
「希望の原理ね」
「かくしてエネルギー総体は一元的な回路へと整流される」
「一元化されているかのようにね」
「かのように」
「かのように消費への発情が喚起される」
「周囲には眩惑の大伽藍が聳える」
「総体としての運行は、まずまず順調に推移するかのように安堵されている面もある」
「しかし遠点から眺めれば、欲望や感情は設計され規格化されている」
「ただし設計の主体はいない?」
「特定できる設計主体のオリジンはない。メンバー全員が運用主体でありシステム因子になっている」
「当然それは市場と連結されている」
「商標登録された物神群へと欲望が導かれる」
「職業的にみれば、誘導される存在が誘導する役割も担っている」
「股裂き状態だな」
「どっちに重心がかかるかは、局面次第で変化する」
「スイッチを切り換えて、複数の人格を使い分けなくてはならない」
「だから、生き方としては解離的であることを強いられる」
「それが一般的な適応課題になっているわけだ」
「スイッチの切り換えが利かないときに症状化が起こる」
「昔から考えればそれが正常だったかもしれない」
「昔がどうあろうと適応しなくては生きられない」
「個体の推進力となっているのが嫉妬や羨望」
「嫉妬?」
「消費上のプチな差異が生存のプライドとインセンティブを成している」
「その落差を誇大に演出することが消費誘導の常套手段になっている」
「差異の認知がジェラシーを分泌する」
「生活の必要を超えるジェラシーのダイナミズムね」
「それが自動運動している」
「彼岸には幸いなるものが宿るかのようにして市場が君臨している」
「ただ日常の振舞いとしてはプチな差異が大問題になる」
「プチだけど実存上の生き死にがかかっていたりするわけか」
「ある意味で、六十年前のギブ・ミー・チョコレートの延長だ」
「内なる欠乏と豊穣なる外部」
「そこに位置のエネルギーが生まれて、トライブ全体を方向づけてきた」
「かつて光輝くモデルは遥か海の向こうにあった」
「舶来の物神たちが次々と降臨した」
「そうした舶来のモノやスタイルが生の新たな価値として次々現われることで、集合的なエネルギーを誘導したわけか」
「未来へ駆動する貧困や欠如の意識、劣位の感情」
「充足へ向かうことそのものが幸せ感と結びついていた」
「そうした基本回路はいまも同じだ」
「南蛮渡来モノにイチコロという心性は変っていない」
「民族的な活力の源泉でもある」
「そう仕組まれたのかな」
「本当に魅力的なものにみえた」
「ある種の自然性と結びついてもいた」
「文明化作用?」
「それが自動化していたので、ガバナンス上の戦略は単純だった」
「そこを目指せば確実に暮らしはよくなるという実感があった」
「大枠では感情的な安全は保たれていた」
「いわば秩序の大船に乗っていたわけだ」
「少なくとも感情を素朴に発露できる場所は確保されていた」
「ある時代まではね」
「例えば、故郷は辛うじて故郷としてあった」
「仲間もいたし、向こう三軒両隣もあったし、県人会というものさえあった」
「しかし後知恵でいえば、そうした圏域を破壊するように事態は進んだ」
「一方では、システムの負荷をマージナルな領域に集中させる営みもあった」
「ただ、巨大な生産と消費のメカニズムは十全に機能していた」
「海の向こうからは、邪神的な対抗イデオロギーもやってきたけどね」
「上空飛行的に屈折した自意識をぶちまけるゲームも展開した」
「海の向こうの対抗的世界の脅威があったし、逆にそれを憧れる一派もいた」
「結果として、ライトとレフトの対抗は内部的洗練に貢献した?」
「それが内部的な手当てを動機づけもした」
「どっちが得か」
「ニンゲンの生が享受できる幸せ感の相対的な総量比較という問題なのかな」
「決着はついたでしょ」
「しかし、内部的な問題がそれで免除されるわけではない」
「ただ、ライトもレフトも据え膳には多くありつきたいし、自分よりありつく奴には腹が立つ」
「そこは共通していた」
「タダじゃないけどね」
「そのためには大いなる苦痛も甘受して働くべし」
「そこも共通していた」
「ほかに何もないだろ」
「あるとも言い返せない」
「結局そこに収れんしたわけか」
「実力勝負で行こうということになったわけね」
「だったら文句ないでしょうという言い方には一定の説得力があった」
「ところがそれだけじゃなかった」
「初期値の格差や実力以外の要素も少なからず絡んでいた」
「しかし、同じゲームを同じ条件でプレイしていることになっている」
「ピッチの上空を見上げれば、消費への発情を促す極彩色の風景が聳えている」
「ゲットすべき果実がゲームのエロスを吊り支えているわけだ」
「社会全体を覆う市場の記号的プレゼンテーションがそれを担っている」
「文明化作用が生み出した万国共通のファンタジーがある」
「もういい加減食傷しているということもあるけど」
「でも身体的には自動的に覚醒が促される」
「オートマチックな官能的リアクションがある」
「しかし同時に、個人が個別に風景を描き出す能力は失われていく」
「個体を無力化するメカニズムね」
「脳ミソの機能も含めて、システム全体が代替してくれている」
「主体に成り代わって」
「そこに強力な誘引が働く構図があるわけね」
「同時にビジネスへの発情もある」
「独立した個体としては無力だが、パーツ的にはスキルフルで有能さが上昇している」
「ただビジネスは二次的なもので、あくまでもコンシューマーとしての階層を登りつめたいということが先にある」
「自意識的にはね」
「自意識としては独立していても、社会的にはパーツとして振る舞う以外ない」
「市場のプレゼンテーションは圧倒的だ」
「生活的には据え膳の中からチョイスするしかない」
「結局、誰もが同じ風景、同じ幻想を見ていて、誰もが眩惑されるということ?」
「誰もがそう感じるだろうと誰もが思っている」
「そして主体はますますバーチャル化していく」
「エネルギーはデジタル変換されて、フィジカル的には虚構化の度合いが増していく」
「デジタル情報は絶えずフィードバックされて、さらに身体をデジタルに分割していく」
「そして主体はジャマなものになる?」
「アイドリング状態で、最終的には市場とつながるその場の空気が思考や感情の方角を決める」
「主体の委譲」
「それが文明化作用が究極に求めるものなのかな」
「委譲先は曖昧だけどね」
「この国の特殊性もある」
「何かな」
「場の空気を読むことは共通していても、最後まで主体が浮上しない」
「誰かが決めるのを待っているということ?」
「ひたすら待ちつづける」
「謙虚で奥ゆかしくて、ある意味で自己滅却の悟りの境地だ」
「自分だけならいいけど、他者にもそれを要求する」
「主体を行使するニンゲンがいれば、そいつは間違ったヤツにみえる」
「場の空気が濁るような気がするのかもしれない」
「場の汚れに関しては敏感さが増している」
「ナショナルな分別の公準か」
「しかし分別全開のつもりが、実態としては主体の壊死が進行している」
「壊死しても何かが代入される」
「デジタル空間には思考や感情のモデルが氾濫している」
「自意識としては死んでいない」
「死んでいるけど死んでいない」
「死んでいないけど死んでいる」
「ある時点まではナショナルな達成目標が燦然と輝いていたから、それはそれで機能したわけだ」
「しかし、その有効期限はずっと以前に尽きた」
「図式的にみれば、信頼に足る不動の集合的価値の結節点が想定できていた時代はあったよね」
「実存的な揺りかごか」
「そう。オラが村、お天道様、ご先祖様、故郷の四季、トトロが棲んでいる鎮守の森のような結節点が信じられていた時代までは一枚岩的な安定感はあった」
「明らかに今とはちがう」
「自分は俗塵にまみれていても、この世あの世を含めた善きもののシンボルが一緒になってうごめく魑魅魍魎の世界」
「見事にクリーンアップされてしまった」
「その意味で、かつては人の生活は二重底になっていたたわけだ」
「そうだと思う。一方の世界が最悪最低でも、片方において救いを求めることができる何かがあると信じることなく信じられていた」
「実際は無理でも、そういう幻想が生きられていたということか」
「でも終わったわけね」
「スーパーフラット化した」
「そうしたものの残照を引きずる世代も退場しつつある」
「ある時代までは何もかもがうまく運んでいた、ようにみえた」
「うまく行かない場合には、戻る場所が想定されることなく想定されていた」
「単純にいえば、実存の基盤は揺るぎないかのような社会が続いていた」
「近代化の大嵐の中でも、避難場所はあったわけだ」
「紆余曲折があるとしてもね」
「磐石だったから、いろいろ勝手なことも言えたし、勝手な振舞いもあった」
「しかし、無意識的に信じられていた磐石なものが、実は磐石じゃなかったことに皆が気づかざるをえない時代が訪れてしまった」
「精励のはてのアウトプットが想定外のものだった」
「それだけじゃなくて、いつのまにかスーパーフラットなシステムの自動化した流れに抗えない地点に立ってしまった」
「システムに貢献する以外に何もできないという地点?」
「いわばテロも損壊を与えることも不可能」
「代替案が出せなければね」
「出せないでしょ」
「思惑とは無関連に、すべての営みはシステムへの貢献へと連結されていく」
「そのことの意味を審議する暇もなく、時代の進行は加速していた」
「いつの間にかまったく別の世界を生きていたわけか」
「愕然とする余裕もなく課題が次々と与えられていて、息も絶え絶えの状態というのが現状」
「個人の信念のありようはいかようにもあり得るけど、ただ最後の決済のプログラムは一元化されている」
「決済プログラムは内面にも転写されている」
「査定は厳格で酷薄だけど、うまくやれば果実が手に入る」
「要は能力や努力の勝負」
「勝てば官軍。負けるのはしかたがない」
「それが結果として、この時代の一般意思を形成している」
「自分もステークホルダーの一員という形で時代全体に串刺しにされている」
「自分のオリジナルな欲望や感情が見当たらない」
「探そうとすればね」
「探す以前に豪華絢爛たる据え膳が並んでいる」
「自分で探してもタカが知れているし」
「決然と働く以外にない」
「乗り遅れたらおおごとだ」
「そういうオチですか」
「それ以外の物語が朽ち果てているように見える」
「ノスタルジーブームは?」
「気持ちは分かるけど、はっきり言えばデタラメ」
「自分たちが捨てたり、破壊してきたものでしかない。しかもその営為は現在も続いている」
「スクリーンを観て涙する当のニンゲンが、現在もつづく破壊の当事者だったりする」
「それより何より、映像に描かれた世界が本当に幸せな世界だったかも疑わしい」
「でも気持ちはわかるということもある」
「結果としては、溜まったモヤモヤを放出してスッキリするだけで終わる」
「それは娯楽のもつ大事な意味だけどね」
「別に文句はない」
「あるでしょ」
「余興的なプチな物語はいくらあってもかまわないけど、最後には物語は一元化されて唯一のリアルがつくられていく」
「そこをめがけてあらゆる営為が動員され、一人残らず完璧に組織化されていけば問題ない」
「幸せの回路があたかもそこにだけあるかのように?」
「そうではないと言い張れる強力なベースはどこを捜しても見つからない」
「異端として生き抜くためには覚悟と力量がいる」
「それだけでは足りないでしょ」
「異端という概念が成り立つかどうかも疑わしい」
「新たな戦線を作ろうにも手持ちの資源もロジスティクスもない」
「自分だけはちがうという物語も全体の一部として随伴している」
「それがバッファーとして機能しつつ、結果的にシステムの回転ロスをカバーする」
「システムの歯車でありながら、その自覚を持たないで済むということか」
「じつはそこにも市場の食指はちゃっかりと伸びている」
「アンチでありながら、最終的にはシステムの守備範囲を広げることに貢献していく」
「新しい言葉の用法、新しいコミュニケーションの作法は、随時回収され加工されてシステムの機能拡大のためにリサイクルされる」
「生産性に犠牲を強いない方向で、サステナブルである道も模索されている」
「ロハス?」
「システム強化の典型の一つ」
「メディアも騒いでくれる」
「ある意味、カルチャー一般がシステムの補完物としても機能することは疑えない」
「いわば幻想の解放区、文化的特区というわけか」
「幻想だからダメというわけでもない」
「自立した存在をめざしていただければそれはそれでいい」
「もちろん。しかし、多くはシステム運用にとって使える資源として加工されプールされる」
「そうでなければ焼却処分される」
「自家発電のための素材群も歴史的に蓄積され、増強されていく」
「あれもあるこれもあるという実力誇示か」
「それだけじゃないけどね」
「承認つきの巨大なテキストの貯水池から欲望や感情が学習される」
「自家発電のしくみは今も昔も同じだ」
「ただ、いまや外部は想定されない」
「かつてあったかもしれない外部は消えて、トトロの森も観光名所化して、逃げ込み寺も生臭坊主だけになって、参照対象はアーカイブスとしてすべてフォルダーに入っている」
「代替物の一層の充実も図られる」
「欲望や思考や感情はそこから個体に転写される」
「しかも一回だけではなくて、転写は持続的に行われる」
「転写オプションは多彩に見えて、じつは同じコードに従っている」
「転写マシンとしての悲哀や息苦しさが世の中を覆っているね」
「でもないかもよ」
「嬉々として転写に励んでいる層も少なくない」
「学習の喜びはどんな環境にもあり得る」
「市場社会的な遺伝と進化のメカニズムが働いているわけだ」
「異種勾配を繰り返しながら、全体の恒常性は保全強化される」
「それがいい方向に向かえばいい」
「いい方向の中味が見えればいいけど、それは不明だ」
「あるいは総体として沈没する運命にある」
「だから、めでたしめでたしとは誰も思っていない」
「もちろん」
「ただ、大沈没するにしても何時かはわからない。少なくとも数年先ではない」
「食い逃げするヤツも出てくる?」
「規模はわからないけど、それは不可避」
「個体の寿命が尽きるまでという時間限定のゲームとしてすべてを考えれば、後は野となれ山となれという発想が出てきてもおかしくはない」
コメント

2006 believing&unbelieving その11

2007-02-19 |  conversation
「両者は補完的で相互強化的な関係にある」
「ずばり言えば共犯関係ね」
「立場の互換性もある」
「ただ、パブリック部門にとって正当性の確保は必須だ」
「建て前ね」
「しかし指弾を受けやすい立場ではある」
「その場合、無記名的な個人の集まりが連帯責任を問われる」
「社会的な露出が少ないほどそうなる」
「だから、一個人としてやり過ごしやすいということもあるね」
「しかも頻繁な異動があるから受け手と正対した関係も生まれにくい」
「逆に、形式的な正当性の確立という鬼門を過ぎればフリーハンドということもある」
「結果がどうであれ、アナタがたは投票行動で認めたでしょうという形ね」
「極めつきは、正当性が手に入れば戦場にも動員できる」
「でも悪いことだけじゃないでしょ」
「うん。いいことも少なからずある」
「ただ、褒めればつけ上がってちょろまかす」
「顔見知りの範囲なら村八分的に対処できるけど、統計数字を相手にする世界では大いなる恣意が紛れ込む」
「だから建て前を振りかざす作法が優先される」
「後で実体が露見してみんな口を開けてあんぐりということも多いな」
「ひとまず一定の社会的承認と手続きが完了できればいい」
「クビ切りの論理と構造的と似ている」
「それは市場的論理の貫徹として、いつでも調達できる」
「見えざる神の手ではなく、我田引水的に使える丸見えのマジックハンドだ」
「合理性や効率性。組織の存続という建て前が効く」
「それに対抗できない」
「仕方ないかとか」
「でも自由市場の原則を有り難がればそうなる」
「いや、それが貫徹されないから血栓ができて、外科手術的に切り捨てられるわけでしょ」
「うん。真っ先に切られるべきはマネージャ集団ということはあまり起こらない」
「一人か二人のトップが責任と取るという作法も様式化している」
「いまのところ、自由市場の論理はご都合主義的ツールとしてしか機能していないということか」
「しかし、体感としての自由度はどの時代より大きいかもしれない」
「それはただの勘違いでしょ」
「でもタブーは激減したようにみえる」
「古いタブーはね」
「人びとは各種のタブーとセットになった社会システムに守られていた」
「昔の人からいわせれば、やり放題ということになるかも」
「でもそうじゃない」
「そこから解放されると同時に、自分で考えるコストを払う必要が生まれた」
「でもそれには無理があるから何か参照できるものを求める」
「当然といえば当然でしょ」
「結果的に参照して従ったものが自分のクビを絞める可能性もある」
「考える訓練やネタが足りないということか」
「突発的に自立した個人にはなれないでしょ」
「だから自由の大きさが、誘導可能性の肥大とも結びついている」
「露骨な収奪や強制はないけど、隠微で巧妙な収奪や強制はある」
「しかし食うことだけなら、人民大衆はあまねく解放された」
「段ボール暮らしのオジサンも餓死することはない」
「食えるかどうかより、今日のディナーは和風か中華か欧米かエスニックかが悩ましい」
「どうせ食うなら旨いものが食いたい。ぜんぶ食いたい」
「食わずに死ねるか」
「リッチでセレブな醍醐味も堪能したい」
「いったん流れに乗ったらそうなるね」
「目の前には博覧会的に何でも並んでいるし」
「据え膳が日常を埋め尽くしている」
「地球規模でリンクした巨大な生産力がそれを支えている」
「それ以外想定できない?」
「食欲にまつわる幻想の規模を包括するような構造が出来上がっている」
「システム的にも、欲望的にも、それは動かしようがない」
「手料理も自然食も健康メニューもサプリも市場が賄ってくれる」
「例えば、ニワトリやブタを自宅の庭で絞め殺して食ったらつかまるね」
「少なくとも近所は歩けなくなる」
「絞め殺せる人間もいないでしょ」
「いるけど職種としてシステムに専属している」
「例外的に自給自足的に生きる方法はあるけど、珍種としてメディアの餌食にされる」
「そうやって最後には市場のどこかに回収される?」
「市場のコミュニケーションから大きく逸脱すれば、社会的に放逐される可能性もある」
「どうかな」
「少なくとも市場が提供する快楽をこえるものを私的に開発するのは難しい」
「例外はないかもしれない」
「市場内部では新基軸やらニッチの開発競争が加速している」
「現代のフロンティア開拓は市場が独占している」
「単独で開拓しても瞬時に市場が回収する」
「食糧調達をシステムが代替しているうちに、食欲の問題こえてシステムが自動運動を開始したということか」
「うん。食欲がシステムのものかニンゲンのものかわからなくなっている」
「運用しているのはニンゲンだけどね」
「いまやあらゆるニンゲンはシステムという大木の小枝にぶら下がっている」
「基本的に生産力のリミットは想定されていない」
「自動運動のストッパーは最初から外れている」
「そしてシステムのオートマティスムが最強のリアリティをつくっている」
「マーケティングやR&Dや生産流通の巨大マシンを搭載した市場システムが、個人の食欲のあり方を指定していく」
「惑星全体を覆うマネーゲームとリンクしながらね」
「競争は熾烈で、市場の食指は無限級数的に世界の重箱の隅まで伸びていく」
「ボケと突っ込みのようなものかも」
「何?」
「世界のありとあらゆる場所に首を突っ込んでくる」
「まさに。そして市場内の突っ込み競争が、一方で生活世界のボケを生んでいる」
「ボケと言われてもね」
「ボケればボケるほど思うツボだ」
「ただボケてなくても、アンチ市場でさえ、すべて市場的査定に乗せられる?」
「それは明らか」
「一方で市場の担い手としてはボケは許されない」
「覚醒しまくりでしょ」
「ただ、システム適合的にはという条件付きでね」
「ということは市場には外部がない?」
「あるけど、それも市場に未来的に先取りされる」
「どう転んでも個人は包括される?」
「未知の領域も、既知性の一時的な留保にすぎないという形」
「市場というものはそういうものでしょ」
「純然たる外部が消えた世界ということ?」
「実質的にフロンティアは消滅して、イノセントな自然も生活領域もすでに神話」
「すべては内部化したということか」
「神様は死んだ?」
「文字通り」
「市場の自意識は神だから、内部では実質的に神は死んでいる」
「今のところ、市場にとってメタなるものが不在ということね」
「神様って何」
「異界や未知や想定できないものも含めすべてを仕切る不可知の存在かな」
「不可知なのに信じられる?」
「そこに信仰というアクロバットがあるわけでしょ」
「市場もその一つ?」
「うん。機能的にはまさしくそうなっている」
「市場のどこが?」
「そんなモノや見方も欲しかったんだよね、という形ですべてを呑み込んでいくブラックホール的な機能」
「インプットもアウトプットも個人では逆立ちしても陵駕できない」
「しかも生活は全域的に内部に組み込まれている」
「そんなに大層なものか。別に陵駕する必要もないでしょ」
「でもわれわれは生活的には商品やサービスを享受して生活している」
「リンクのプラブをすべて抜けばいい」
「抜けないでしょ。抜きたいという欲望自体がシステムの派生物でもある」
「外部ってない?」
「かつてはあったかもしれない」
「どんなふうに?」
「未知なるものとか、畏れ多きものとか、逆立ちしても届かないアンタッチャブルな領域が」
「そんなものが想定され共有されていた時代があったかも」
「宗教的なもののなわばりね」
「しかしこの国一般では過去の話になっている。ただ、世界標準から言えば別だろうけど」
「そうした領域が実際にあろうがなかろうが、あると信じることで社会が回っていた時代はあったと思う」
「日常的にはお天道様とか、ご先祖といった物言いもあった」
「そうした領域すべてが世俗的なものに代替されたということ?」
「いや。それは今も変わらないでしょ」
「無知蒙昧として片付けられないかもね」
「言い換えると、不可知な全体に対する畏れのようなものか」
「例えば、あの世という言い方がある」
「そうね。あの世はこの世と対比的に用いられるけど、この言葉はニンゲンの思考が必然的に要請するものでしょ」
「実体としてあるなしにかかわらずね」
「ニンゲンの思惟は世界をまるごと覆えないから、全域を見通す全知の思惟や精神を仮想する。図式的に言えば、ニンゲンはそこをめがけて思惟を鍛えたり、競い合うということがある」
「別に鍛えなくてもいいけど、いったん議論になればオレがそこに一番近いぞという言い方はしたくなる」
「それが正当性とか威光を支えるものになるわけか」
「しかし、本当は誰もそれを見たことはない」
「数学でいえば、ゼロ記号のようなものね」
「そう。それがあるから思考が展開できる」
「理知的に追跡不可能なブラックボックスを想定しないと、思考は未来へ向かえない」
「よくわからないな」
「視界の透明性を広げたいということはあるでしょ」
「少なくとも自分が無知や蒙昧に止まることことは潔しとしない」
「そうした透明性の極限値はどうしても想定されるでしょ」
「それが神なるもの?」
「うん。単に幻想だと片付けることはできない」
「それがいまの時代にどんなカタチで精神を駆動させているのかということかが問題か」
「古い宗教的図式から離脱することが脱呪術化?つまり、近代化ということか」
「そうね。なくなったわけじゃなくて、あたかも関係なく社会が回るようになった」
「内部だけで?」
「そう。自家発電的にニンゲンの営みが回転するかのようになった」
「じゃあ、社会はすべて人工的なものになるわけ?」
「人為ということね」
「その自覚は曖昧だけどさ」
「そうすると、どこにも逃げ込めない?」
「この国ではそんな感じでしょ」
「理知的なものが全域を覆うかのように回っている」
「言い換えると、すべてが計算可能性にブレイクダウンされる」
「無意識が許されない?」
「ボケッとしたいこともあるけどね」
「だけど突っ込まれるでしょ」
「突っ込まれなきゃ自分で突っ込むかもしれない」
「強迫的な突っ込みの時代か?」
「ボケがボケのまま生きられない」
「ボケっとするとか、脱力することが大きな不安と結びついていて、それが自動化している」
「市場にとってはどうでもいいことだけど、一人だけ乗り遅れたくないという感覚かな」
コメント

2006 believing&unbelieving その10

2007-02-13 |  conversation
「煽りが効を奏して、操作対象として自分を差し出すということかな」
「図式としてはね」
「それが巨大な利潤創出の営みと直結している」
「市場には個人が自力では調達できない快楽群が日々供される」
「万事オーケーでなくとも、システムは上々の形で回っている」
「Shall we dance?」
「楽しさや面白さは疑えないね」
「受容パターンが類型的で、リアクションが送り手の視界におさまることも大事だ」
「ただ主観的には自由に振る舞っていることなっている」
「主観的にはね」
「ある程度秩序立った行動が望まれるし、バラけたら思わぬ副作用も生じる」
「計算外で想定外の事案に対しては、いろんな装置が駆動する」
「例えば?」
「内部へ向けては直接間接の賞罰システム。外部へ向けては排除装置や懐柔装置、最後には暴力装置もちらつく」
「日常的には資源配分の最適化へ向けた調整やら権力配分とその行使がある」
「一言で分別装置ね」
「ほとんどはルーティーンワークで対処できる」
「煽りはその機能的な一面ということになる」
「丸ごと操作する必要はないし」
「構造改革でもビューティフルランドでも、あるいは牛肉や納豆でも、一定の層の反応が獲得できればいい」
「そう。ある程度のボリュームゾーンが確保できればいい」
「領域を特定すれば、コントロール手順も簡略化できる」
「資源の投下先を限定して、投資効率の最大化をめざす」
「演出や仕込みも複雑化している」
「情報からノイズを除去して、殺菌して、無臭化、無害化する技術もある」
「しかも舞台裏の作動について受け手は無自覚であることが望ましい」
「パブロフの犬か」
「ただ嬉しがってもらえばいい」
「それも承知の上で享受している面もある」
「突っ込みの場所やそのエージェントも用意されている」
「ベタに感情をぶちまける対象もそのつど開発される」
「ラディカルな反省的思考を誘発しない配慮も利いている」
「それが利かないものもある」
「何かな?」
「システムの稼動を脅かすトラブルサムなもの」
「つまり、システムの構造改変への要求と結びついて、結果、減益を強いられるものか」
「様式としては事故やクレーム、組織的な異議申し立て、告発、そしてテロもある」
「しかし、この国では総じてコップの中の嵐くらいで収まる」
「システム側の利害を共同するセクター同士の連携も太くなっている」
「それが強力な自己防衛や延命装置として機能しているといことか」
「明らかにそれがグローバルにリンクしている」
「しかも悪意は見出せない?」
「悪意のあるなしは問題じゃない」
「そう思う」
「単純に稼ぎは少しでも多いほうがいいし、多くなければならない」
「減収減益となれば大事件だ」
「もちろん。ゲームの目的は勝つことにある」
「ひとたびゲームが回り始めれば、ゲーム以外の領域は無関連化する」
「システムの円滑な運用と拡大へ向けた精励だけが問われる」
「その作法が一種のオートマチスムとして末端の兵隊まで浸透している」
「ゲーム内では外部情報は見ない、言わない、触れない。この三つがゲーム内作法の原則になる」
「映像だったら、画角の外は存在しない」
「本来、コミュニケーションってそういうものかもしれない」
「コンテキスト限定だということはわかる。けれど、コンテキストはたくさんあるはずだよね」
「一つの文脈を解読したり評価したりするには、対照できる別の文脈がないと無理だ」
「貢献対象がいる。つまり、何のためのゲームかということ」
「そう。準拠するゲームがないともう一つのゲームを楽しむことはできない」
「本当はニンゲンはいろいろな文脈を生きられたはずだけどね」
「うん。しかし、一つのシステム文脈が寡占的に全体から細部まで覆い尽くしている」
「背景には、海を越えたステークホルダー同士の連携の拡大強化もある」
「グローバル標準は厳格に守られなければならない」
「しかし、それはありえないでしょ」
「文脈の寡占?」
「そう」
「ありえないけど、まさにそうなっている」
「無理やり理屈をつければ、ゲーム内に無数のミニゲームが用意される畸形タイプのゲームになってる」
「かもしれない」
「どんなミニゲームだろ?」
「歴史的に蓄積された厖大な物語があって、それらが素材としてリサイクルされるゲーム」
「例えば?」
「すべてロマネスクに関わるかもしれない。冒険、恋愛、革命、戦争、自然、家族、共同体、国家、私小説、悪漢、立身出世、シャングリラをめざす孤独な旅もある。動機づけの装置として機能する物語なら何でもいいことになっている」
「自家中毒的に内部だけで回転しているというわけか」
「過去の文化的意匠を機会主義的に引っ張り出してきて、自家発電的に食い潰しているという図式」
「結局、何一つ生み出せない構造になっているわけだ」
「そう。文脈は一つに決まっていて動かないから、どんな活動も鏡の前で笑ったりしかめツラしたりしているだけのことになっている」
「一言でいえば、既知の再演ね」
「そうだけど、それが手を変え品を変えながら無限に続いていく」
「一方では、正当性を調達する営みも同時並行する」
「それもミニゲームの一つだけど、必須の物語でもある」
「出来損ないにせよ、ビューティフルランドはそのためのキャッチ案として提示された」
「出来損ないだから曖昧に多義的に使えるという効果もある」
「操作メカニズムの機能的な必要には添っているね」
「そこには明らかに操作対象に対する侮蔑的な読みもあるでしょ」
「これでも喰らえという形かな」
「感情操作はフォーマット化も可能だ」
「そうだけど、歴史的には自明で必須のメカニズムとして機能してきた」
「それは変わっていない」
「一応の評価者としての観客は存在する」
「侮蔑対象であったとしても、その視線は無視するわけにはいかない」
「自分たちのために働いてもらわないといけないからね」
「システムの自意識は観衆の視線を受けて生まれる。その視線への応答としての正当性の僭称がある」
「信頼や権威の醸成の意味で、システムにとって正当性の確立は必須課題になっている」
「しかし、受け手のスタンスが権威の質を決める。そういう面もあるね」
コメント

2006 believing&unbelieving その9

2006-12-10 |  conversation
「個人をつかまえて泥を吐けといったやり方はほとんど意味がない?」
「いろいろ個人的な野心があるとしても、それは枝葉でしょ」
「担がれる神輿は、悪党だろうが善人だろうがどうでもいい」
「ホントは誰も問題にしていないかもね」
「そのくらいの現実感覚はみんなもってる」
「個人は条件や前提次第で、悪党にも善人にもなる」
「むしろいい人だったりとか?」
「時にはね」
「ただ、出来上がったシステムは自己保全とか拡張の方向に自動的に動く。そこを忘れると問題がどんどん部分化する」
「一方には、全体的としては疑念やら不信感があるでしょ、どこかに悪い奴がいるはずだという」
「停滞感とか閉塞感の?」
「うん」
「旨い汁を吸っている悪代官がいるとわかりやすい」
「わくわくする」
「元を叩けば何とかなるというね」
「その元をみんな探しているような気がする」
「必ず悪玉がいるはずだという刷り込みね」
「ヤマトの伝統かもしれない」
「何?」
「水戸黄門様が好きでしょ。これは過去形なのかな」
「悪事を懲らしめるヒーローが好きで、そのためには物語の展開上、悪人は文字どおり必要悪になる」
「そうすると、情動も発動しやすい」
「あの野郎とか」
「感情が焦点を結ぶと思考が整理される」
「生理的に、判断が宙吊りの状態には耐えられないからね」
「そして実際に、小さな悪党はいろいろと見つかる」
「一方では正義の代弁者という座席も用意される」
「筋書き通りに誰かがそこに居座って、陣営のせめぎあい方式で物語が展開し始める」
「役者が揃って見世物が面白ければ、少なくとも退屈は埋まる」
「そして、アンタはどっち側に肩入れするのという構図ね」
「思考停止?」
「逆に、そこにこそヤマト民族の駆動原理のヒミツがあるのかもしれない」
「モビライゼーション?」
「まさに。どの時代にも活用されてきた単純化ソフト」
「事態が複雑だと、ここまでしか受容できないという限界がある」
「複雑すぎると何が起きているかわからない」
「それだけじゃなくて、ぐったりするでしょ。脳ミソがフリーズする」
「問題を考える上では、全体の構図は単純化されるほどいい」
「一方には、単純化のプロフェッショナルが大勢控えている」
「メジャーのメディアは、人材もスキルもノウハウも資源は腐るほど抱えている」
「腕利き、手練がいて、それはそれで見事な芸を披露してみせる」
「結果、利潤も上がる」
「しかし利得の配分は一部のセレブやセレブもどきたちだけで、下請けはボロボロに叩かれる」
「誰もが知っている筋書きだ」
「でも、それは入口にすぎない」
「ホントはね」
「しかし事態はどんどん進行して、既成事実が積み上げられていく」
「出来上がった構図は修正もされにくい」
「最後にはドラマのカタルシスだけが残る?」
「あるいは無力感だけが残るか、忘れ去られる」
「ただ、そうしたネタは次々にみつかるから」
「いわゆる仕込みもある」
「リークネタとかね」
「現場周辺では了解済みのはずのネタを、あたかも新発見したかのごとく?」
「そう。カマトトぶって告発するというやり方ね」
「高等学校の履修単位不足問題?」
「その類。便利屋の大手媒体群がそれを取り上げ、同じくカマトト的に大々的に販促キャンペーンを展開する」
「これまたカマトト軍団のコメント芸人が大真面目で義憤をぶちまける」
「一方で、事件当事者たちはひたすら恐縮する以外ないという展開か」
「自殺した人も出たね」
「狙いどおりでしょ」
「仕込みの目的は何だろう」
「陣営に有利な方向に、法律改変や立法環境を整備したいという意図かな」
「今のところ権益拡大という動機は一番わかりやすいね」
「ウラにはおよそソロバンでは追いつかない複雑なコスト計算のプロや、知的軍団を形成するコンサルティングファームの類が大勢控えている」
「何が自分や他人のホントの幸せかはわからないにしても、必要条件についてはある程度合意があるということね」
「お金?」
「それをコアに、環境整備に努めるべき仕事はたくさんある」
「それだけで手持ちの時間が終わっても?」
「究極的には、誰もそれを否定できるホントのホントは語れないでしょ」
「しかし、それがめぐりめぐって何に帰結するか」
「ある意味、それは自然なメカニズムでしょ」
「うん。きわめて自然な利潤追求の努力ともいえる」
「正義や倫理やモラルを要求できないということか」
「それも相対的なものかもしれない」
「現実にはそれらは付帯事項で、利用可能なツールの一種になっている」
「看板で勝負してもダメか?」
「実利的なものが動かなければ、子供のケンカでしょ」
「逆にいえば、子供のケンカは野蛮だけど純粋かもしれない」
「すれっからしのオトナにすればお笑いネタ」
「一方では、それは使える道具である限りにおいてはゆるがせにはしない」
「そうね」
「ただ、ベタベタに理想や倫理やモラルを叫ぶ連中は見透かされている」
「情に訴えるようなことはできるけど、食い扶持を確保してその最大化を目指す行為は止められないね」
「情も一つの社会的政治的ツールとして機能することを、ちゃんと織り込み済みの連中が一部にはいるということか」
「一杯いるでしょ」
「詐欺師といわれる連中は一種の心理学のプロだね」
「ヘタな学者よりよほど実効的な論理を使っているのはまちがいない」
「結局、問題の複雑さから何が帰結するのか」
「何が帰結して、何が損なわれ、誰と誰が喜ぶのか」
「それがわからない、ということが本当のリスクかもね」
「リスクが誰と誰に向うのかということもある」
「全体の解明を期待されるセクターや個人は、ほとんどがステークホルダーの一員という事情もある」
「芋づる式にぜんぶつながっているとか?」
「ただ、思惑どおりに進むかもしれないけど、誰もがすべてを見通しているわけじゃないでしょ」
「短期的なソロバンの集合が、ゆくゆくどんな結末を迎えるかわからない?」
「ただ、その負債はいつも下々が支払うことになっている、ということはほぼ確実だね」
「そこで何がポイントになるかな」
「踊らされないために?」
「うん。あるいは踊ることでどんな効果が生まれているのか」



コメント

2006 believing&unbelieving その8

2006-12-07 |  conversation
「ご本人には明確なビジョンはないかもしれない」
「あるとしても、すべて外装の話でしょ」
「憲法、軍事、教育、治安、エトセトラ」
「パンツの履き替えか」
「世のため人のためという前置きはある」
「ビューティフルランドというタテマエ、看板ね」
「周囲の利害関係者たちの思惑が交錯して、いいからオマエやれという形で前に押し出されたとか」
「あくまでもパペット?」
「うん。個人的な志向はいろいろ詮索できるけど、メカニズムとして機能する部分から見ないと間違うかも」
「いろんな計算のたまたまその真ん中に立っていたということか」
「これは使えるということでね」
「見栄えがいいとか、汚れが目立たないとか、血筋がよろしいとか?」
「露骨にいえば、ソロバンを弾いてプラスという連中が大勢いるということでしょ」
「権益?」
「たぶん。軍事、教育、治安、情報にからむあれやこれや」
「具体的には?」
「どうでしょ。各業界についての知恵が要るかも」
「それで、むしろ全体を束ねる道具が欲しいということか」
「マネジメントする側が?」
「そうね。使えるシンボルが不在という状況に対する焦りがあって、その構築を急いでいる」
「自由競争、優勝劣敗、弱肉強食、自然淘汰もいいけど、アナーキーな世界ではコントロールが効かなくなる」
「そこで、汎用性のある大義とか理念とか屁理屈が必要ということか?」
「それがあればガバナンスがずっと効率アップするでしょ」
「それにしても浮きに浮いたシンボルだね」
「歴史の反省も理想もへったくれもないわけだ」
「使えるものなら何でもいい」
「一方では不安や危機感を煽りながらね」
「いろんなフックがある」
「そのためにあらぬ雰囲気や言説が量産される」
「太平洋の向こうの親分と同じ手法を踏襲しているわけだ」
「モノマネは得意だから」





コメント

2006 believing&unbelieving その7

2006-11-21 |  conversation
「形式やルールが決まらないとゲームは展開できない。エリアも確保する必要がある」
「社会の一角に?」
「サッカーでいえばピッチね」
「そう。ここからここまでの範囲という境界線がないと始まらない」
「公的な承認がそれにかぶさる。言い換えると、フィクションへの合意」
「一種の特区として、ゲーム空間が出来上がるわけだ」
「当然、境界内部では独自の文法に従うことになる」
「エリア限定の法やルールね」
「少なくともそのルールに従う限り、プレイヤーは非難されることはない」
「公認ゲームとして、正当性が保証されるわけか」
「逆にいうと、ゲームはゲーム自身では正当性を担保できない」
「そこがポイントかな」
「正々堂々フェアプレーの精神で戦うことを誓います」
「あくまでもそれが原則になっている」
「ただ一方では、ゲームにはルールがあるけど、それですべてカバーできるわけではない」
「どういうことかな?」
「ファールボールが隣の家のガラス窓を破ったときの対処法はルールブックには載ってない」
「その種のアクシデントは排除できないね」
「責任をどうとるか?」
「ルール違反については、ペナルティや罰金や出場停止もある」
「野球場だったら、ファールボールは観客の責任で回避することになっている」
「その場合には、いったんゲームを中断して、関係者が謝って弁償するということでしょ。ただし、野球やってる最中に人を殺したらまったく別の話になる」
「そしたら外からお巡りさんがやってくる」
「別のゲームが呼び出されるわけだ」
「そう。ゲームから外れた問題については、もっと大きな社会の紛争解決ゲームが出動する」
「いろんな境界を横断して広がる大きなゲームの一つね」
「モラルや倫理をめぐる非難の大合唱が外から起こる」
「つまり、小さなゲームは境界線の向こうと地続きになっているわけだ」
「でもプレイ中はそうしたことをほとんど意識しない」
「うん。地続きであることが大前提だけど、そのことは意識下に組み込まれている」
「それが公認の意味か」
「いわば社会という親ガメの上に、小さな子ガメが乗って遊んでるという図式ね」
「ベースには親子同士の無意識的な紐帯がある」
「ゲームがある程度歴史を重ねて伝統になれば、公認という意識さえ消える」
「逆に、それを意識すれば集中が削がれてプレイが鈍るしね」
「選手はゲームに没入することが求められるし、ファンも主催する側もそれを望む」
「そしてプレイヤーはゲームの能力だけが問われる」
「当り前の話だけど、ピッチ上では歌が上手いとか金儲けが上手いとか、外国語が話せるとかは問題にされない」
「もっといえば、選手の人格も倫理観も思想的傾向も埒外におかれる」
「サッカー以外のことはピッチが乗っかる社会が面倒をみる」
「本当かな?」
「そういうタテマエが大事ということね」
「だから、選手や監督はゲームの内容や成績だけに責任を負う」
「それがゲームの境界設定という問題か」
「じゃあ、ゲームには何が期待されているのかな」
「境界線の外の世界に娯楽や夢やもろもろのメリットを提供ということでしょ」
「幸福に貢献するということ?」
「ゲーム空間を包む社会に対してね」
「親ガメの幸せに尽くす孝行息子の子ガメか」
「その関係があるからこのゲームは素晴らしい、ダメだ、といった言説が生産される」
「貢献すべき対象が明確にあるわけね」
「批評の対象はプレイヤーやチーム全体の能力に限定される」
「太い紐帯を前提にね」
「だからゴールの感動は増幅される」
「少なくとも既定のルールを逸脱しないかぎり、ゲームの存続は揺るがない」
「社会の中にきちんとポジショニングされるというわけだ」
「そしてプレイの責任はあくまでも境界線の内側に留まる」
「そうか」
「一方で、ゲームによって帰結した想定外のトラブルについては親ガメの責任をもって処理する」
「一言でいえば、扶養義務と責任ね」

「じゃあ、問題があるとすれば何が問題になるの?」
「親子の絆が希薄になったり、切れたりする場合」
「そうすると地続きじゃなくなる?」
「そう。公認を外れて浮遊する」
「根を失うわけだ」
「解離化するといってもいい」
「あるいは親ガメが弱体化するとか、死ぬとか」
「後見人である親ガメが死ねば、ゲームはその存在理由、つまり貢献対象を失う」
「それから親ガメが保証していた社会的な装置も機能しなくなる」
「装置は評価だったり、倫理だったり、福祉厚生だったり、制裁だったり、いろいろあるわけだ」
「単純にいえば縛りね」
「心元ないけど、それが消えるぶん自由裁量でゲームを展開できるということもある」
「だから可愛い子ガメは、恐ろしい鬼っ子に変貌する?」
「子ガメは自立するか、あるいは自死を選ぶか?」
「いずれにせよ宙吊り状態になって、大きな欠落を抱え込むことになるわけだ」
「それは一番恐いことかもしれない」
「アナーキズム?」
「逆に、架空の親をでっちあげることになるのかな」
「ゲームの神サマに降臨してもらう?」
「どうしても存在理由を説明してくれるものが求められるからね」
「イワシの頭もナントカから?」
「それは真理だな」
「うん。イワシだろうが、サンマだろうが、メダカだろうが、自分の根拠をはっきりさせてくれるものなら何でもお神輿の候補になる。随時交換可能的にね」
「それから境界線が拡張されて子ゲームが親より巨大化する場合もある」
「グローバル展開すれば、国産の神輿じゃ小さすぎるな」
「世界標準という新興カルト?」
「否定面だけじゃなく、それを思考せざるをえないでしょ」
「話は変わるけど、イワシの頭的な格言が生まれる世間の懐の深さのようなものは消えた感じがする」
「残念ながらね」
「親より大きくなった子ガメは、親では面倒見きれないから」
「ゲームが妖怪的に変質して、全体にとってがん細胞化する可能性もあるな」
「ボールを蹴っていると思っていたら、それがバクダンだったとか?」
「さらには親が一枚岩でなくなって、無数の親ガメが乱立する状況もあるかもしれない」
「単一の紛争解決ゲームが呼び出せない状況ね」
「ゲームとゲームの境界が消えて、相互に侵害しあうケースも考えられる」
「サッカーをやりながら、同じピッチ上でラグビーもやっている」
「選手にとって何が自分の本当のゲームか判らなくなる」
「ゲーム盤もその前景も後景も壊れた状態ね」
「それが現状だと言いたい?」
「断言できないけど、当たらずとも遠からずというところかな」

「最後はどこまでいくのかな」
「その黙示録的イメージが核戦争ゲーム。境界線の内も外も一切が破壊されて、貢献対象もプレイヤーもすべて消滅する」
「究極のゲームオーバーだ」
「昔風の単純なゲームはもはや成立しない?」
「かくれんぼや缶ケリや鬼ごっこじゃダメか」
「ダメじゃないだろうけど、それも完全に市場ゲームと一体化しているでしょ」
「子供の世界もそうなっているな」
「アンタッチャブルな領域が消えて、それも大人たちのゲームの構成要素の一つにされてしまっている」
「アンタッチャブル?」
「世間や大人の世界とは別の異界ね」
「一種の聖域。かつては子供の世界はその一つだったでしょ」
「七歳までは神サマの領域にいるとかね」
「空間的にもそういうものが消えた」
「世代限定でいえば、ドラえもんの漫画に出てくる原っぱとか土管とか?」
「今じゃ、それを市場が代替するという構図ね」
「なるほどね、じつはそういう意見も欲しかったのですよ、とか?」
「まさに」
「そうした論理ですべてが市場へと資源化されていく」
「礼儀正しく分別もふんだんにあるし、理路整然としている」
「子供の世界も完全に資源として扱われるから、大人と同じ息苦しさを抱えているね」
「代弁すれば、放っといてくれと言いたいんじゃないかな」
「昔だって、子供が喧嘩をはじめたらオトナが間に入ったでしょ。やめろって」
「いじめとか?」
「だけど、今では大人たちは自分たちのゲームに骨がらみになっているから、異世界をもてなす言葉や感覚、作法を失っている」
「子供が納得できる言葉も吐けないし威厳もないということか」
「同じ土俵に立ってるから、見透かされているということもある」
「オトナ同士も二十四時間ゲームで戦っているから、その余裕も暇がない」
「だから市場が肩代わりする」
「ある意味でシラケるね」
「だから、それらしく一生懸命洗練を目指すわけでしょ。市場の側も」
「ゾッとしないね」
「完璧に洗練すれば、機能的には等価かもよ」
「例えばバーチャルに再現した原っぱが?」
「そう」
「かもね」
「やはり、磐石とも意識しなかった磐石なボトムが消えたということでしょ」
「ローカルには昔そのままの平和や牧歌的光景も一部あるかもしれないけど、全体としてはゲームの渦巻きの中で生きざるをえなくなってる」
「良くも悪くも、根無し草でね」
「ここからここまでという、かつての素朴なゲームの常識は通用しない?」
「缶ケリはもう無形文化財でしょ」
「だから古い世代においては認知的な混乱が生じている」
「もう無条件に昔を全面肯定して、涙を流して懐かしがるとかね」
「そんなに懐かしがるほど昔が良かったのかどうかはかなり疑わしい」
「でも、ある意味じゃ無理もないでしょ」
「そう思う」
「昔なら、子供が窓ガラスを割っても、気をつけろよの一言で大目にみてくれるオジサンやオバサンが沢山いたような気がする」
「そういう原始的な遊びの時空が社会の懐にいろいろと埋まっていたのかな」
「今じゃ街全体が折り目正しく清潔に整備されてしまった」
「都市計画プランナーの脳ミソの配線どおりのデザインが街を覆っている」
「一点のスキもないからお化けも住めない」
「今じゃ坊主や神主さえ不寛容になっているでしょ。境内キャッチボール禁止とか」
「お前の慈悲の心はどこに行っちまったってか?」
「迷惑なのはその通りでしょうけど」
「やはり、ゲームの数が多すぎるということかな」
「数もそうだけど、複雑すぎてゲームが見切れない」
「見切り、ね」
「だから、たかがゲームとも思えないし、されどナントカとも思えない」
「何?」
「アップアップの酸欠状態で、大人も子供も有史以来の豊かな社会に暮らしている」

「子供にとっては深刻だね。でもないのかな」
「深刻でしょ、目指すモデルがいない状況だから」
「でも子供の問題じゃないね」
「そう思う。子ゲームが乗っかる親ゲームの問題でしょ」
「貢献対象がぐらついている」
「結論からいえば、大人になってもいいかな、と思えないということかな」
「ゲームの存在理由をゲーム自身には立証できないからね」
「子供ゲームが成り立つには外部にいる大人の承認や評価が要る」
「承認や評価が成立するには、承認や評価する側が尊敬されていないといけない」
「立派な外部があってはじめて内側で安心して遊べる」
「安心して悪さもできるというね」
「二重構造になっていないと苦しいということか」
「かつては貢献対象が明確だったから、ゲームが暴走しても矯正への道が開いていた」
「少なくとも、ゲームの内と外で良識とかマトモさというものが共有されていたわけだ」
「例外はあったろうけど」
「例外はあったでしょ。それもとんでもない例外もね」
「それでもタカをくくることができたのは、ゲームが境界線を隔てて外部と地続きだと信じられていたからだね」
「だけど、そうじゃなくなってきた」
「ゲーム内のマトモな選択のつもりが、とんでもない帰結を生むこともあるというね」
「乱暴にいえば、マトモさは環境で決まるでしょ。社会とか時代とかの」
「マトモさを身につけることが大人になることだった」
「でもそのスタンダードが曖昧化したり、消えたりしつつある」
「にもかかわらず、それでも生きて行けるように出来ている」
「成熟しなくても?」
「むしろしないほうがいい局面が増えているかも」
「クソ真面目に目の前のゲームに適応すれば逆に淘汰の可能性も高くなるとか?」
「なぜでしょう?」
「適応環境が揺れ動いているからね」
「ゲームの数も半端じゃない」
「ルールも複雑化しているし、どんどん変わる」
「経験が経験として蓄積されない」
「ルールとルールの共約も難しいし」
「サッカーがいつ間にかバスケットに変わっていたということも起こる」
「でもゲームに適応しなければ淘汰される」
「適応と非適応の間を縫うように生きられるのかな」
「そんな芸当がね」
「主体的に関わろうとすればムリでしょ」
「肉体にも精神にもそんなポテンシャルはない」
「主体性を貫こうにも、それで真っ直ぐ進める均一な環境もないしね」
「むしろ主体とか自発性というのは邪魔になる」
「デジタルな切り替えスイッチが必要だ」
「ある時は娼婦、ある時は淑女?」
「個人的な生き方や趣味としてならそれでオーケーだけど」
「ただ切り替えの局面はそれを超えている」
「白か黒とか、赤か青とかの択一でなくて、分厚い色見本が用意されている」
「ペラペラそれをめくって適正な色を選んでいる暇もない」
「そうね」
「ジイさんバアさんの世代くらいまでは、汎時代的にいつもこれさえ押さえておけば大丈夫というものがあったかもしれない」
「そういう大人になるための標準モデルのようなものね」
「楽といえば楽だったのかな」
「だけどそんなものは手に入れようにもどこにも存在しない」
「そのぶん、子供は手さぐり状態でしょ」
「悪いことも度を越えたりする」
「むしろ重罰化で抑えつければいいと思ってる」
「何も考えていないでしょ」
「救いようがない」
「文字どおりの虐待だね、それは」
「自分を棚に上げた幼稚な大人ほど世を憂えたポーズで吠えまくる」
「もし若者が逸脱するとすれば、それは原因ではなくて結果だね」
「それはまちがいない」

「ただ、敬意を払いたくなるようなお年寄りの佇まいというか、そんなものがほんのひと昔まではあったような気がする」
「時代でしょうか」
「記憶はわずかに残留している」
「半減期の極端に短い放射能のようなものだ」
「資源は尽きつつある」
「ご老人はワールドワイドでものを考えなかったでしょ。少なくとも大半の人たちはね」
「その必要がなかった」
「考えたとしても、山向こうはぜんぶ同じだった。東京もパリもインドも中国も、一言でいえば外国だった」
「いつの時代だろ?」
「それほど昔じゃないよ」
「生活圏は感覚的に手が届く範囲にあった。そこで善とか悪とか思考すればよかった」
「その上で自分のゲームに専念するというね」
「それ以外の領域については、ご先祖様たちが面倒みてくれた」
「一応完備された世界観があったわけだ」
「あの世もこの世もね」
「生活圏から飛び出した人間もちゃんと価値的ものを共有していた」
「都会かぶれということばもあった」
「すれっからしになって帰ってきたとかね」
「ベースが機能していたということか」
「それだけ、おらが村、おらが土地の存在は大きかった」
「反抗するにもやりがいがあったかもね」
「実際には村も土地もしきたりや掟がうるさくて、息苦しかったのも確かでしょ」
「耐え難い偏狭さとか頑なさもあった」
「しかし懐かしくて堪らないというこの絶対矛盾的自己同一」
「そうだけど、オレもオマエも同じだよなといった意識が生を支えていた」
「温かさというか、いまの言葉でいえば癒し的なものが、いわずもがなの形で生きられてもいたのかもね」
「意識することなくというところがミソかな」
「良くも悪くもそうした結節になるような場も消えた」
「何の?」
「究極的にはいとやんごとなき存在へと通じる親和性の場」
「それじゃ、一部の復古的な動きは徒労に終わるのかな」
「ムダでしょ。どうあがいても」
「戦争に負けて、至高性との結びつきはいったん切断されたわけだよね」
「もともと無意識的な営みに、無理矢理看板を押し付けようとするものだから」
「かつてそれが機能して時代もあった」
「それはね、生殺与奪のパワーポリティクスが庶民一人一人に向かって機能していたからでしょ」
「日常的にノド元に刃物突きつけられていた?」
「ある意味でね」
「うん。実感としてはそのくらい恐ろしい力が存在していた」
「一方では、父性的な温情主義というものもあったでしょ」
「大人の余裕をみせつつ、叱咤しながら、下々を善き生へ導くというね」
「悪を懲らしめ、生を糺し、善を有らしめる」
「本人が望まなくてもというところがポイントだ」
「余計なお世話どころか、本人に成り代わって人生をリードする」
「全人格的な介入ね」
「いざとなればそこまでやった」
「自分で考えなくてもいいし、むしろ自分で考えることは阻害要因になる」
「何の?」
「結論としては、ナショナルな運営においてかな。あるいは特定の陣営を利するためにとか」
「言い換えると、一人立ちされると都合が悪いということがあった」
「自我に目覚めると矯正マシンや制裁マシンを作動させる」
「いざカマクラとなれば、必ず呼び出せる究極の価値も鎮座していた」
「この印籠が目に入らぬか!」
「それをアテにすることができた」
「あるいはトップが先んじて畏れ入るフリをすることで全体が回っていたのかな」
「昭和前期までは、お巡りさんが腰にサーベルをぶらさげていたらしい」
「威光がお飾りじゃなく作用していたわけだ」
「それとは別に熱狂を支える国威発揚の賜物も幻想できた」
「世界に冠たるナントカ?」
「うん。集団的な大目標があったわけね」
「だから虫けらのように戦場に送り出すことができたのか」
「おらが村全員集まって、バンザイ三唱で地獄に送り出すというね」
「おぞましい光景だけど、それが当り前だった」
「威光とか権威とかに対する信頼や畏怖のようなものがあったのかな」
「そう。自分には及びもつかない、偉い人たちが担う偉いことどもというかね」
「価値の序列が厳然としてあって、上位の人間の構想力がどんなに稚拙で愚かでも、プランが立てられたら問答無用ということにもなった」
「ナショナルな単位同士の競争やせめぎあいが熾烈だったということでもあるでしょ、背景に」
「インターナショナルな国盗りゲームね」
「だから全体の動向云々が最優先されて、個人の問題はノイズとして捨象できた」
「意志決定、政策決定ではそれが大事だ」
「ある意味でそうした思考が上から下まで共有されていたわけね」
「うん。上も下も、前後左右、すべての位相を串刺しにできる思考が幅を利かせていた」
「ネイションごとの、国民を束ねる全員集合プログラムね」
「ただ、わがネイションには一種独特のスタイルがあった」
「序列の下にいるほど、文字どおり使い捨ての兵隊としてしか存在できない」
「将棋盤のコマね」
「でも将棋には完敗した」
「こてんぱんに負けて、いったんゲームは御破算になった」
「ゲーム盤も粉砕されて、浮き草のような歩だけ残った」
「王将はピンで留められて壁飾りになった」
「そして食うことだけが目の前の課題になった」
「ところが人知れず、そうじゃない亡霊たちも生き残っていたというわけか」
「イエスタデイ・ワンス・モアの連中もいたというね」
「極めて個人的な郷愁に根ざしている可能性がある」
「ジイサンやオヤジの世代の取りこぼしをボクがもう一度取り返してみせるとか?」
「卑近な言い方すれば、不当な扱いを受けているボクたちの実存をくつがえしたいということもあるかもしれない」
「見返してやりたい?」
「厳密にはそれはわからないけどね」
「ただ嫌な世の中だねえという気分の責任を、無理やり誰かに押し付けることで言説をクリアにするという滅茶苦茶なやり方があることは確かだ」
「それが正しいか間違っているかは問題じゃなくて、言説のクリアさだけが問題にされるというね」
「そう勘ぐりたくなる輩が実権を握ってしまうという不思議さね」
「不思議でもなんでもないよ」
「一種のシンボリズムで動いているから?」
「構造調整プログラムには、とりあえずお神輿が必要ということでしょ」



コメント

2006 believing&unbelieving その6

2006-11-01 |  conversation
「新型パンツをはいて一発逆転スッキリしてぇなあ」
「そのココロは?」
「不幸とも断定できないような微温的な生活とサヨナラしたいということでしょうか」
「あるいは今のパンツのはき心地の気持ち悪さね」
「それが一番危ないかもしれない」
「じゃあ、危なくない新しいパンツをつくる?」
「それはムリでしょ」
「なぜ?」
「今はいているパンツも曖昧な上に、別のパンツは志向できないでしょ」
「しかもその余裕はない」
「余裕があっても資源がない」
「仮に資源があっても審議するため方法論というかモデルもない」
「だったら、現状は現状のまま進むしかない?」
「何らかの強烈な体験の共有があるとフックになるかもしれない」
「それが新型パンツの開発のきっかけということか」
「天変地異とか大恐慌とか戦争?」
「コストは厖大だ」
「でもそれはすでにあるはずでしょ」
「うん。いくつも強烈なのがあった」
「あったけど共有されてこなかった」
「あるにはあったけど、なかったことにされてきた?」
「どうでしょう」
「可能性としては、そこから永続性のある立派なパンツをこしらえるチャンスはあったかも」
「だったら、今ここでオタオタする必要なかった」
「理想をいえば、それがボトムになる可能性はあったかもしれない」
「でもそれはない」
「確かにね」
「お祭り的イベントが呼び水になるのかな」
「一種の感染作用ね」
「例えば、パグリックな汚染感覚というか、巷で起こる犯罪や事件をシンボルにして、漠然とした不安や危機意識が蓋然的に焦点を結ぶということはあるでしょ」
「一種のノリね」
「自分たちとは異質な印付きが見つかるというね」
「それが良識とかマトモさとかの着古したパンツを確認する機能を担っていたりする」
「ワタシはちゃんと中古品だけど立派にパンツをはいております」
「アンタもはいてる?よかった、よかった、やれやれ、とか」
「身なりの確認ね」
「そういう神経症的な過敏さはいつもスタンバイしている」
「ただそれは自己慰安的に現状を追認するだけだね」
「同時に、それがメディアの最重要資源の一つになっている」
「カモが現われると一斉にカメラとマイクを担いでカモ狩りがはじまる」
「ナショナルフェスタ?」
「統制的な性格からみれば、本来の祭りとはいえないでしょ」
「しかしいまや年中行事的にシステムに組み込まれている」
「当事者にすれば、その威圧は圧倒的で物凄いものだろうね」
「容疑者と看做された段階でギルティが確定される」
「実質的にはその段階で刑執行がなされるわけだ」
「そのつもりがないところが凄まじいね」
「報道は中立的ポジションが確約されている、ということになっている。つまり、誰もがそう信じているだろうという不特定多数の迷信がアテにされている」
「自分で確信しているわけじゃないのね」
「しかしそうしたイベントは瞬時に消費されて、たちまち祭りの後のしらけた日常が続く」
「一言でいえばネタね」
「メディアの過剰生産とニーズが相互増進的に盛り上がる」
「ただ自然発生的なお祭りではない」
「明らかに操作的なしくみが出来上がっている」
「誰が得しているのかな?」
「決算書を覗けば一目瞭然でしょ」
「だからこうした盛り上がりは期待されているという面もあるね」
「犯罪や災厄を待ち望む機制が確かに働いている」
「笑いや涙だけじゃなくて、社会的な義憤や怒りも手当てされる」
「全体を損傷しない程度にね」
「しかし特定の仕掛け人がいるというロジックでは全体が見えないね」
「社会全体のメンタルな調整機能が働いている」
「供犠や儀礼を通じた集団のガス抜き」
「しかし古代的なセレモニーとちがって、生け贄のヤギを捧げるべき崇高な存在はいない」
「いるかもよ」
「何?」
「どこかに見えない中心はあるような気がする。よくわからないけど」
「いないでしょ」
「結局、現状では新しいパンツは上からでないと不可能ということか」
「うん。新規導入の動きはマネジメントする側からしか出てこない」
「こしらえ物でもそれがいったん動き出すと一気呵成ということにもなる」
「なぜかな?」
「人それぞれという現実があるとして、理屈からいえば軋轢や齟齬や衝突は必ず増えるでしょ。すると調停するものが必要になってくる」
「うん」
「そのときに、共有された調停の資源があればいいけど、なければお仕着せのパンツが上から降りてくる」
「とりあえずそれを利用できるから、差し当たりの調停には使えるということになったりする」
「本当をいえば、それを拒む理由や根拠も希薄だしね」
「違和感があっても、それが玉突き衝突的に連鎖して社会全体を覆ってしまうことは、可能性としては想像できる」
「既成事実の積み重ねね」
「それを跳ね返す背景がこちら側にないわけだ」
「なにしろニーズは確実にある」
「パンツの潜在需要は小さくない」
「一方では、マネジメントの正統性を確保して強化したいということがある」
「ピカピカの最新式デカパンね」
「システムの生理として自然な成り行きかもね」
「だけど、まったく架空のものをでっちあげるわけにはいかない」
「全くのオリジナルはありえないでしょ」
「それなりの威光と実質が必要だ」
「しかも面倒な手続きをスキップできて、手っ取り早く使えるものをリサイクルする」
「馴染み深いアレやコレですか」
「しかも、平時はあんまりパンツを意識しないから、マネジされる側は無防備でもある」
「結局、下々はそのアイデアを出すチャンスも能力も閉ざされているということかな」
「バラバラの個人が勝手に動いているということでしょ」
「それよりも生活の大半はお互いに競合する現場に晒されているからね」
「だから管理する側が代替的にそういうものを提供して差し上げるという図式になる」
「個人的な資源があっても、それをカタチとして抽出するにはかなりのエネルギーが要る」
「新型パンツの開発は独力では難しい。少なくとも、それを鍛え上げる場とかネットワークが必要でしょ」
「広く流通するという見通しも立ちにくい」
「結局、個人でも集団でもいいけど、パンツいかがですかぁ、という呼びかける市場が成立していないということが大きいね」
「しがたって旧式のパンツだけとりあえずはいている?」
「早くとっかえたいのだけど」
「正直いえばパンツどころじゃない」
「ただ一方で、余裕が全然なくて、漠然とした不安とか居心地の悪さがあるとしても、一応、食いっぱぐれはないわけでしょ」
「餓死することはないし、そこそこ面白楽しく過ごせる環境はある」
「差し迫った大きな危機もない」
「露骨な弾圧や腕を捩じ上げるような権力の横暴もない」
「しかも自分はマジメに暮らしている」
「声を張り上げる必要はないけど、文句をいわれる筋合いはない」
「にもかかわらず、なぜか漠然と否定的要素が侵入してくるということですか」
「居心地は決して良くない」
「結局、どういうことになのかな?」
「何か正当性が脅かされるというかね」
「自分の生活の?」
「そう。拠って立つ場所がぐらついている感じ」
「文句をいうヤツがいるの?」
「どうでしょ。いるのかな」
「誰が?」
「誰がというわけじゃなくて、ゲームそのものの正当性が見えないということでしょ」
「つまり、自信とか誇りとか、信頼が希薄ということ?」
「そういう感じかな」
「ゲームの広がりが見えないということがあるね。つまり、仕事や生活の全体性について見通しがきかなくなっている」
「人やモノの入れ替わりは激しい」
「確かにね。いろんな意味で関係とか感慨を結ぶ前に状況が入れ替わるから、すべてが宙吊りのまま日常が進行する」
「ある意味で、茫然自失の状態だ」
「個人の学習や経験が成立するために必要な、時間的余裕が与えられていないということね」
「例えば、萌した情動の宛て先が不在なら、それは内向する以外にない」
「するとどうなるのかな?」
「昔なら病気になるでしょ」
「今でも病気でしょ」
「ただ皆で病気になれば正常値も変化する」
「昔の話だけど、異常も日々続けば正常になる、というキャッチコピーがあったね」
「冗談やレトリックがマジになったわけだ」
「けど、場面転換の加速度は亢進しているよな」
「社会の複雑さの度合いも物凄いことになっている」
「うん。自分のしていることが何とつながっているかわからない」
「それは確かにいえる」
「例えば?」
「昨日ファミレスで食べた魚フライが、実はアフリカの湖で獲れた淡水魚とは気づかないでしょ」
「そうなの?」
「地理的な問題ではなくて、食材一つとっても、どんなルートやしくみでここにやってきて、利害関係者がどんな連中で、それらがどうリンクしているのか全く見えない」
「それでもあの魚フライは安くて旨いし、ファミレスではそれなりに楽しい時間を過ごすことができる」
「客へのもてなしもスマートだし、また来店してもいいかなと思う」
「原産地とか流通経路とか、グローバル資本がどうたらこうたらとか考える義務はない」
「もちろん。楽しい時間は貴重だよね」
「だけど、それで完結できないように出来上がっているでしょ」
「ふと振り返れば?」
「うん。ファミレスだけじゃなくて、衣食住すべてが地球規模でリンクしている」
「かつて理想とされた世界市民?」
「いつの間にかそうなっちゃっている」
「ある意味で恐ろしい状況でしょ」
「何が?」
「自分が間接的にしろ、誰かにとって収奪的に存在しているかもしれないということかな」
「それはわからないでしょ」
「全然わからない」
「わからないけど想像を強いられる」
「寝覚めがよくないね」
「もっともではあるけど、それはゲームの範囲をどこまで設定するかにもよるな」
「どういうこと?」

(続)
コメント

2006 believing&unbelieving その5

2006-10-25 |  conversation
「ノスタルジー的に求められるものは、結局は社会全体が切り崩してきたものでしょ」
「自覚的だったかどうかは別にして、それらの否定の上に今があるよね」
「精一杯頑張ったその結果に直面して、愕然としているというね」
「結果ノーグッド」
「そこには自業自得的な歴史の積み重ねがあるわけでしょ」
「みんな海山や田舎より、アーバンライフの洗練を目指した」
「渋々か、それとも嬉々としてか」
「その両方あったかもしれない。だけど未来への期待は漠然とでも想定されていた」
「だから思い入れたっぷりに昔を懐かしむ光景というのは滑稽かもね」
「懐かしがっても何も変わらない。しかし、一時のガス抜きには使える」
「少なくともその残照を享受する喜びは捨てがたい」
「ただ現状は手つかずのままだ」
「そこで出てきたのが、美しいというキーワードですか」
「滑稽さに見合った言葉だね」
「そこにどんな意図があるのかな?」
「ノスタルジー的ニーズをくすぐることで結集を図る」
「何のために?」
「美しい国づくりでしょ」
「裏には、いまの社会はなんかヘンという感覚がある」
「ただ誰もそのヘンさをきれいに整理して説明できないから、受け皿として情緒的なツールが開発される」
「抑うつ感やら義憤やらもあるけど、焦点化できる明確な敵がみえないということかな」
「そこで社会的なゴミを一掃することでスッキリしたいということでしょ」
「国民的なゴミ掃除だ」
「だから条件として一応ゴミを特定しておく必要もある」
「敵?」
「うん。どこかに本当にダメで害虫のようなヤツがいて、そういう存在は矯正したり排除する必要がある。そうだそうだという感覚が雰囲気的に醸成されていく」
「同時に正当性とか正常性も保証される」
「心理的なチューニングが行われるということね」
「一方では法文に古典的な文句を書き込んで強制力をもたせようというバカも出てくる」
「古式ゆかしきご託宣だ」
「本人の言動をみればお里が知れるというヤツばかりでしょ」
「託宣だけならいいけど、私情や権益と結びついてナントカの刃物的に乱用される可能性もある」
「誰もが認める本当の害虫がみつかればいいけどね」
「めぐりめぐってそれが本人の足許を切り崩す可能性だってある」
「どこかにヘンなヤツがいるだろうと思っていたら、自分にお鉢が回ってきてびっくりっていうね」
「そうした見通しについてはほとんど無意識でしょ」
「そう思う。愚かだと思うけど、現実は少なからずそれで動いていく」
「社会そのものの自傷行為か」
「極論的にいえば、全体主義的的リストカット、あるいはナショナルな集団自殺」
「それはすでに歴史的に実験済みだよな」
「しかし広い意味では、誰もそういう誘惑から完全には逃げられないのかもしれない」
「その背景には劇的な環境の変化があるでしょ」
「日々の回転速度はすざまじい」
「熾烈な生存競争とそこで淘汰される恐怖。下りようとしても逃げ込める場所がない」
「それは世界サイズに拡大している」
「一言でいえばオプションのなさね」
「そういうものが回帰幻想の大量発生と結びついているじゃないか」
「怪奇現象ね」
「ないものネダリだけど理由はちゃんとあるわけだ」
「薄々わかってもいる」
「一方の日常は適応課題にあふれていて、もう一杯一杯」
「露骨に蹴落としてでもということはないけど、他人のことを考える余裕はない」
「むしろマジメな善人ばかりでしょ」
「そうした息苦しさが、現在の一応の平和や快適さを基底で支えてもいる」
「どんな平和だろ?」
「まあまあでボチボチということですか」
「システムが無難に回転する限り、ボチボチはキープできて安心ということはある」
「主観的には欲をかかず今の平穏を維持できればいいというね」
「あくせく働かずに左ウチワで暮らせたらもっといい」
「いいね」
「しかし苦役のような仕事は少なからずある」
「全体としてみれば切迫感が覆っているでしょ」
「知的技術的な上昇圧力にはすごいものがある」
「日々アップデートを強いられている」
「達成地点はすぐに乗り越えられて次々に新たな課題が浮上する」
「その動機が自分から発するものならいいけどさ、主体的な動機をもちようがない状況がある」
「アップデートの要請はいつも外からくるわけだ」
「主体の意志決定に先行してやってくる」
「オート待ちズム?」
「笑えない」
「外からというより、むしろ外そのものが内面化されている」
「動機が?」
「うん。自分であって自分でないというか。外部が身体的に組み込まれているというか」
「マシン化され自動化しているということ?」
「ある意味ではそう」
「そうするとどうしても鈍るよね」
「何が?」
「適応課題以外のものへの感度が」
「例えば?」
「異質な感受性や価値観、生活、環境、あるいは可能性としての自分のオプションとか」
「でもさ、昔の人間より知的だし情報ももっているでしょ。考える能力も幅もあり、センスもいい。集団を組織するノウハウもあったりする。ちがう?」
「確かに」
「昔のノリと今のノリを比べると、ずっとソフィストケイトされているとは思う」
「単純にそこだけ比較すればね」
「ただ、昔のほうが主体的だったとはいえないけど、今より充溢してたでしょ」
「喜びも苦しみもね。例えば、スキヤキを腹いっぱい食いたいとか皆思っていたらしい」
「同じスキヤキでも、昔のほうが格段に旨かったかもね」
「いまは分裂してるというか、拡散してるというか、全体に体温がヌルいとはいえるでしょ」
「人格システムとしての統合度がちがう?」
「課題を与えられればそれがプラスに働くけど、何かコアがない」
「そうね。主体としての思考や感受性は常にアイドリング状態にある」
「浮遊感か」
「確かに学習能力も高くてそのためのツールもふんだんにあるけど、簡単に言っちゃえば生き方の決済が外部化している」
「クラッチはいつも外から入る感じ?」
「それは不幸なことでしょ」
「一概にそうともいえない」
「なぜ?」
「全体の最適化の面から考えると自己選択よりマシな場合もあったりする」
「主体を委譲することが逆に心地いいとか?」
「苦役的側面もあるけど、一方でそれが出力する快適な暮らしというものは捨てがたい。トレードオフ的な関係だけど、快適面でたくさんお釣がくる」
「というか、まさにそうする以外の選択がないということでしょ」
「スキヤキが夢にまで出ることはない、という幸せかあるいは不幸か」
「もう一つは、そもそも回復すべき主体があるのか、それとも最初からそんなものはなかったのかどうか。わからないでしょ」
「かもね」
「しかもオプションとして何かが簡単に見つかるとも思えない」
「ボトムが消えたことが大きいのかも」
「やはり新しいパンツが必要ですか?」

(続)
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