鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『薔薇密室:皆川博子・著』~豊饒の物語の海へ・・・

2012-04-15 22:57:42 | Weblog
晴れたり曇ったり・・・。


猟奇、退廃、官能、淫靡・・・その中に、沈み込むような・・・。
第一次、第二次世界大戦の最中、ドイツ・ポーランドの国境近くの薔薇の僧院で、時の流れを忘れたかのように(時間なんてあったのか)・・・外界と隔絶された空間の中に、暮らすのは、たぶん、心地よいのだろうと思う。
物語は、第一次世界大戦中に逃亡したコンラートという人物の生い立ちから始まり、戦場で瀕死の重傷を負った美しい士官を、逃亡したコンラートが、薔薇に覆われた僧院に運びいれ、そこで、薔薇の若者=オーディンとして、その命をつないでいく実験が描かれる。

オーディンは、純粋な植物(薔薇)人間として、コンラートの前に完璧な美しさで、蘇る・・・けれど、もう人間ではなくて、脳は眠ったままの痴呆状態だ。
植物人間としては、失敗作であるもと美貌の男娼・ヨリンゲルは、醜悪な薔薇人間として、しかも、感情をコンラートに伝える能力を有する。

知性のない白痴美と意志をもつ目を覆いたくなるような醜悪さ・・・。
綺麗は、穢い・・・穢いは、綺麗・・・。

物語は、一旦、遮断され、第二次世界大戦まじかのポーランドへと舞台を移す。
ポーランド人のミルカは、ドイツ軍のワルシャワ空爆を、ユダヤ人の経営する本屋の店員の少年ユーリクと過ごすことになる。
ユーリクは、、ミルカを愛するようになるけれど、ミルカは、姉の恋人ナチスドイツ親衛隊のヨアヒム・エーデルスハイム少尉に思いをよせる。
占領下のワルシャワで、姉は自殺。
美しぎる美少年・ユーリクは、逮捕。
両親は、強制収容所へ送られ、ドイツ人映像技師のホフマンとともに、ドイツへ向かうことになる。

帝国(ライヒ)のハイニと呼ばれるナチスドイツNo.2のヒムラーは、薔薇の僧院に、『美しい劣等体』と名付けた奇形の子供達を集め、保護している。
そのなかに、あのユーリクの存在があった・・・(何故ユーリクが、ここにいるのかは、ネタばれになるので、書けないけれど・・・)

過去と未来が複雑に絡まって錯綜し、物語の迷路に迷い込む。

作者の作り出す豊饒な物語の海は、混沌として、ドロリとした生暖かい湿性感と何故か心地良い気怠さが、混然一体となって、物語以外の全てを忘れさせてくれる。

物語を必要とするのは、不幸な人間だ―――ヨハンネス・アイスラー
(同著者の『伯林蝋人形館』に登場する架空の詩人という設定ということだ)

この架空の詩人・ヨハンネス・アイスラーのこの言葉?が、全ての謎を解く鍵になる。

この物語は、読む人の現実の不幸を忘れさせてくれる。
そして、架空の美青年は、この世には、存在しない。