2020年7月、当時のイギリスのジョンソン首相は、中国政府が6月30日に施行した香港国家安全維持法(国安法)が自由を侵害しているため、かつてイギリスの植民地だった香港市民のために、永住権の申請を可能にする方針を明らかにしました。対象は、BNOパスポート保持者です。
BNOパスポートは本来はイギリスへの渡航についても、6カ月のビザ(査証)なし渡航しか認められていません。保持者に自動的に就業や居住を認めるものでもなく、社会保障の対象にもなっていません。
そこをイギリス政府の新しい計画では、BNOパスポート保持者とその扶養家族は今後、イギリスに5年間滞在でき、就業・就学も可能となると演説したのです。
5年の時点で永住権の申請ができるようになり、さらにもう1年滞在することで、市民権を得る資格が与えられるという構想も打ち立てました。
首相の報道官によると、現在香港にいるBNOパスポート保持者はすぐにイギリスに渡航でき、通常の入国審査を受けるだけでよく、また、ビザ取得に当たっての年収制限もなくすとのこと。
実際にこの演説の内容は2021年1月31日から申請可能となりました。
一方で、中国政府も、1月31日からBNOパスポートを旅券と認めないと発表しました。ただし、従来から香港市民は中国大陸に入境の際はBNOパスポートを使うことはなく、必要なのは香港政府が発行した旅券や身分証など。一方、BNOパスポートが必要となるのはイギリスはじめBNO旅券が必要な国への入国時のみ。つまり、中国政府の発表にはなんの拘束力もないのでした。
ジョンソン首相、香港の300万人にイギリス市民権への道示す - BBCニュース
https://www.bbc.com/japanese/53259716
イギリス、香港市民への特別ビザ開始 30万人が申請か - BBCニュースhttps://www.bbc.com/japanese/55882848
このように中国への内政干渉ともいえる措置をイギリス政府は保持し、香港市民もそれゆえに手放せない大事なパスポートになっていったのです。
さらに持っていたオーストラリアのパスポート。香港市民の誰もが英語が流ちょうというわけではないようですが(よくそういう描写を香港映画で見かけました)、上流階級や勉強熱心な家庭の人々は英語が堪能。
英語が話せる元イギリス領、そして国土が広くて移住の受け入れに寛容な国はねらい目でした。香港返還前にはカナダとオーストラリアにパスポートを求めて、殺到したのです。そしてパスポート(つまり市民権)を取得できると、香港の様子をみては、住み慣れた香港へと戻っていく人が多いのです。
目の前の女性はとても、のんびりとした風情を醸していたのですが、彼女はかほどに生き馬の目を抜く社会を生き抜いてきた人物とは。
今や日本語も英語も堪能な息子はイギリス居住をし、身分も安定。
そして彼女は香港住まい。
なんともたくましい生き方です。中国政府の苛烈な政策に対峙するのではなく「上に政策あれば、下に対策あり」の小市民の知恵。
イギリスという国は、いろいろな人々のエッセンスで成り立っているのだと、改めて感じ入ったのでした。
2019年7月から8月にかけて訪れたイギリスは、どこを向いても興味深く、散歩の楽しい日々でした。
当時すでに、物価は日本の感覚の1.5倍から2倍で「あれ、日本って貧しくなってる?」と思った最初の国でした。
イギリスの冬は夏目漱石も苦しむほど寒く、日が短く、精神に堪えそうですが、それ以外の季節なら、歴史も不思議もあふれ、思索も充実の環境の整った国でした。
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