尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「愛国教育」の危険性、日本の憲法改正論議ーウクライナ戦争余波③

2022年04月21日 23時10分57秒 | 政治
 東京新聞4月21日1面に注目すべき、恐ろしい記事が載っている。ロシアでは生徒が授業を録音して密告し、その結果「反戦教師」の解雇が相次いでいるというのである。サハリンの学校では女性の英語教師が、さまざまな国籍の子どもたちがロシアとウクライナの平和を願って歌うビデオを見せ、「私たちが明るい未来を信じれば、世界はもっと優しくなる」と説いた。授業後に一部の生徒がビデオの意図を問い質し、会話を録音して学校に訴えて、解雇が決まったという。西部ペンザの中学校の女性英語教師は、「ウクライナは主権国家なのにロシアが体制転換させようとしている」「今のロシアは全体主義国家だ」と語った。生徒が録音して、この教師は「軍に関する虚偽の情報を拡散させた罪」に問われているという。
(強まるロシアの愛国教育)
 19日には子どもたちの愛国心を育むため、9月の新学期から各校でロシア国旗掲揚を行う方針を決めたという。このようなニュースを読むと、東京都や大阪府で国旗国歌を強制したことの意味が改めてよく判る気がする。今の日本では、さすがに「戒告」などの処分に止まって、そのまますぐに解雇までは出来ない。教育問題に関わる右派系議員たちにとって、平和教育をした教師をクビに出来るロシアは、理想国家であり目指すべき目標なんじゃないだろうか。つまり、「愛国心」を教育に取り入れようとしてきた「安倍教育路線」はロシアとそっくりなのである。このまま引き返さないと、日本がロシアになってしまう恐れを感じる。
(青少年が「Z」マークを作る)
 日本の中には、「日本の周りにはおかしな国がいろいろある」から、「日本がウクライナのようにならないよう軍備増強や「憲法改正」をしなければいけない」などという人がいる。これは「ウクライナのように攻められたら大変」という感情論をあおって、「日本をロシアのようにする」という目論みだろう。しかし、一体どこの国が日本を攻めて来るというんだろう。経済大国の島国を攻略できる海軍力を持つ国は、アメリカ以外にはないだろう。(今の中国海軍の実力では不可能と判断するが、中国人民解放軍の戦略目標は「台湾解放」なんだろうから、間接的な意味での影響はある。)

 「北朝鮮」はどうだと言われるかもしれないが、ミサイルや核兵器を持っていても日本を攻略出来るわけではない。「ミサイルがある」なら、「ミサイルを発射する」可能性があると言う人がいるが、それは「北朝鮮」の国家としての壊滅を意味する。「国家理性」が存在すれば、そんな事態は起こりえない。「国家理性」なんかあるわけない、何をするか判らない国だと言うかもしれないが、それなら金日成、金正日、金正恩と「三代」にわたって権力を維持してきた理由が説明出来ない。それにかつて湾岸戦争時にイラクのフセイン政権がイスラエルにミサイルを撃ち込んだが、もちろんイスラエルは破滅しなかった。
(憲法9条論議)
 「ウクライナを見れば憲法9条を変えるべき必要が判るだろう」と説く人もいるが、逆に「ロシアにも憲法9条があればウクライナ侵攻は起こらなかった」という人もいる。どっちも僕に言わせれば、意味不明の迷論である。政府の正統的な9条解釈とは何だろう。憲法9条を「自衛隊違憲論」で解釈していれば、やはり軍隊を持たないと攻められるという意見も出て来るかと思う。しかし、日本政府は「自衛隊も日米安保も合憲」という解釈を取ってきた。従って、日本はNATOに加盟出来なかったウクライナと違っている。国際的な同盟関係を有している。その解釈を支持するか、また今後も維持すべきかの議論はあるだろうが、政府・与党側から改憲論を言い出すのは、意味不明である。もしかして、内心では自衛隊は違憲と思っているのかな?

 確かに憲法を普通に読むと、自衛隊は憲法違反なんじゃないかと思う方が自然だと思う。従って、いつかは憲法の文面か、または現実の方を変えるべきだという考えは判る。ただし、日本政府の9条解釈は「解釈改憲」の幅を広げてきた歴史だった。それを思ったら、日本が9条を変えるならば、今後はどういう風に拡大解釈するのだろうかと諸外国から捉えられても当然だろう。どこかを変えれば、必ず拡大解釈されるに決まってる。そうじゃないというなら、ギチギチに憲法に何でも細かく書き込むしかないが、それは無理だろう。ロシアに憲法9条があったって、「自衛」のための「特別軍事作戦」なんだから、防ぎようがない。要するに憲法がどうあれ、独裁的政治家が勝手を始めたら憲法の規定のみでは防げない。

 憲法は現行の規定から、なかなか改正することは難しい。従って一度変えれば、今後何十年も日本国を規定することになる。場合によっては、22世紀まで変えられない。ウクライナ戦争はいつまで続くのか。22世紀まで続くわけじゃないだろう。日本は今後(移民を大幅に受け入れる決断をしない限り)、人口が大きく減っていく。1億人を割り込み、8千万人台になるとされている。そのようにダウンサイジングしていく日本では、産業、労働、行政、福祉、教育などを大きく変えていかなければ社会が維持出来なくなる。その改革には「痛み」を伴うだろう。その論議をするのが、今の日本にとって最優先課題である。

 憲法をどうするという問題で国内を「分断」している時間的余裕はない。僕にもいろんな考えはあるが、当面「憲法9条」も「日米安保」も実際に変更するのは難しいと判断している。だから憲法は次の世代に任せて良いというのが僕の考え。ドサクサに紛れて変えてしまおうというのは避けなければならない。それにしても、ロシアの勇気ある教師を見ると、自分だったら出来ただろうかと思ってしまう。その行動を記憶して行きたい。日本でも戦時中に似たようなことがあった。あるいは中国の文化大革命中にも、教師を「密告」した生徒たちがいた。生徒の側も一生苦しむに違いない。
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