尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

吉野家常務の「不適切発言」問題ー「マーケティング」の間違い

2022年04月20日 23時09分04秒 | 社会(世の中の出来事)
 牛丼の吉野家の常務(すでに解任)が早稲田大学の社会人向け講座で「不適切発言」をしたという問題。こういう問題が定期的に起きる。東京五輪開会式問題の時のような、過去の言動ではない。今まさに言っちゃったんだから、凄すぎる。酒席で言っても許されないが、大学の講義というんだから、その「わきまえなさ」加減が半端じゃなく、なんでこういうことが起きるのか皆が考えてみる必要がある。ところで、僕はこの発言を聞いて、神代辰巳監督(北方謙三原作)の「棒の哀しみ」を思い出したなあ。
(発言を報じるニュース)
 東京新聞のコラム「筆洗」から。「初めて東京で生活される若い女性をターゲットに当社の商品を継続して買っていただけるような企画」−▼元の発言を赤ペンで修正しながら、例えば、こんな発言なら、騒ぎにはならなかっただろうにと考える▼牛丼チェーンの「吉野家」常務による不愉快な発言である。早稲田大学主催の社会人向け講座の中で若者を狙った市場戦略について、「地方から出てきた右も左も分からない若い女性が薬物漬けになるような企画」などと説明したという。「生娘」「シャブ漬け」など実際の発言はもっと品がないが、そのまま引用するのをこちらがためらう。」

 そうそう、「そのまま引用するのをこちらがためらう」のだが、これを書かないと。「生娘」は読めない人がいるんじゃないか。「なまむす」なんて読んでる人がいそう…。ちなみに先ほど挙げた「棒の哀しみ」は、奥田瑛二がまさに「生娘」を「シャブ漬け」にしちゃう鬼畜を演じている。映画は道徳じゃないから、キネ旬4位に入った傑作だ。この発言は「人権・ジェンダー問題の観点」から「到底、許容することができない」として吉野家は発言した常務を解任した。他にも務めていた役職の多くを解任されてしまって、この人は人生を棒に振ってしまった。それこそ「棒の哀しみ」である。
(人生を棒に振った伊東正明元常務)
 この発言には多くの重層的な差別意識が現れている。「女性差別」「地方差別」などが指摘されているが、単なる一般的な差別意識に止まらない。「生娘」なんて「処女性重視」発言はしばらく聞いてなかったし、「シャブ漬け」って違法行為でしょ。たとえで使っただけだから良いわけではない。違法行為を隠語で表現してたとえるという発想そのものが常軌を逸している。どうして、こんな発想をする人物が最高幹部でいられたのだろうか。それを考えた時に、発言の後段「男から高い飯をおごってもらえるようになれば、食べなくなる」という発言の持つ重大性をもっと深刻にとらえるべきだろう。

 「男から高い飯をおごってもらえるようになれば」という「女子大生すごろく」みたいな発想も今どきすごいなと思ったけど、自社の看板商品がお金持ちからは選んで貰えないというリアルすぎる認識なのである。つまり、吉野家の牛丼という「商品」は「中毒」にしてしまって食べさせるべきものなのである。ここまで「自社愛のない役員」がいるんだ。これでは吉野家のヘビーユーザーに失礼すぎる。いつも吉野家に行ってる人は、中毒者で治療の必要があるのだろうか。

 それ以上に深刻なのは、この常務が「マーケティング戦略の専門家」として知られていたらしいということである。そうすると、普通だったら選ばれない商品を、何とか消費者を欺して(「中毒」にして)選択させる(自分で選択したという錯覚を与える)のが、企業のマーケティングだということになる。これが日本の会社なのか。日本の資本主義なのか。いや、そんなことはないだろう。大部分の会社、いや吉野家の社員だって、自社が提供する商品は社会的に有意義な価値があると思っているだろう。もちろん価格から言って、高級フレンチや高級寿司店の味に及ぶはずがない。それでも「コスパ」的な観点を加味して判断すれば、十分意味があると思っているはずだ。

 いろいろな会社を渡り歩いて、「経営者」として評価されるという生き方そのものがおかしいのではないかと思う。そういうあり方も業界によってはあるだろう。しかし、客の「安全」に深く関わる食品、外食、自動車、交通などの産業では、自分の社でずっと働いてきて誇りを持っているような人がエラくなる方がいいと思う。それらの業界を監督する行政官庁も同じである。もうずっと同じ会社で賃金が上がっていく「終身雇用」「年功序列」は戻ってこないと判っている。でも、会社にはそういう部分もないと、あまりにもおかしくなってしまうのではないだろうか。
(吉野家)
 さて、その味の判断そのものは僕には出来ない。何しろ吉野家には一度も入ったことがないのである。家では週2,3回は肉を食べるが、外食でまで食べたくないのである。(だからすき家も松屋もケンタッキー・フライドチキンも入ったことがない。逆に言えば、他の大チェーン店には大体入っているけど。)僕は回転寿司にも一度も行ってないから、現代日本では非常にレアな存在じゃないかと思う。もう外食そのものをほとんどしないので、今後も入ることはないんじゃないかと思う。

 ただ、そういう人間として言うとすれば、北千住「駅ナカ」のファストフード競争には関心がある。駅を出れば何でもあるわけだが、東武線北千住駅の2階だけで、ドトールコーヒーてんやプロントがあって、海鮮三崎港勝牛北海道ラーメンの店まである。階を変えれば、サンマルク小諸そばもある。そこに2年ぐらい前に吉野家丸亀製麺も加わった。ヴィドフランスのイートインもあるし、食べるところはないけど、築地奈可嶋新宿さぼてんの売店ではお弁当を売っている。これだけあって、若い女性に吉野家を選んで貰えるだろうか。それを考えた時に、親子丼をメニューに復活させ藤田ニコルをコマーシャルに起用するというのは、間違った方向性だったとは思えない。たった一人のバカな発言がすべてを壊してしまったのである。(ちなみにここのドトールにはテラス席があって、晴れていれば外気の中で密にならずに飲食できるので、今の時期にはオススメ。)
コメント
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