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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『片思い世界』、心の奥深く響く感動的な名作

2025年04月12日 20時31分43秒 | 映画 (新作日本映画)

 映画『片思い世界』は素晴らしい出来映えの感動作だ。今年の日本映画は年明けから傑作が多いけど、この映画が一番心に響く力を持っていると思う。あまり映画を見ない人がゴールデンウィークに一本見るならこれ!という映画だ。(その頃まで上映してるだろう。)映画の情報はいろいろと得られるが、この映画に関してはできるだけ事前情報なしで見た方が良いと思う。この映画の脚本には「ある特別な設定」があるけれど、ここでは映画内容には深入りせずに、周辺情報を中心に書いておきたい。

 『片思い世界』は坂元裕二の脚本、土井裕泰(のぶひろ)監督で『花束みたいな恋をした』のコンビ。坂元裕二は『怪物』でカンヌ映画祭脚本賞を受賞し、今年は『ファースト・キス』も手掛けた。まさに絶好調で、見事な世界観で深く心に届く設定を創造した。それは特に難解なものではなく、見ていれば「ああそうだったのか」と気付くだろう。広瀬すず(相楽美咲)杉咲花(片石優花)清原果耶(阿澄さくら)の3人が東京のどこかで暮らしている。仕事や大学に通っているが、彼女たちはどこか「普通」じゃない。それでもお互いに助け合って生きてきたのである。日本映画史上屈指の「シスターフッド映画」じゃないかと思う。

(主演の3人)

 時々過去の時間がインサートされ、そこでは子どもたちが合唱団にいる。この「児童合唱団」が映画世界の中心にあって、「何かが起こった」ことが次第に伝わってくる。3人はそれぞれ気になる人がいて、ある日美咲(広瀬すず)はバス内で高杉典真横浜流星)を見つける。昔合唱団の伴奏をしていて、天才的なピアニストになると思われながら、その後ピアノから離れてしまった。他の二人も気になる人がいて、それがどのように展開するかが映画の鍵になっていくのである。

(横浜流星)

 この映画の魅力は「合唱の力」である。予告編で流れているオリジナル合唱曲は「声は風」(作詞 = 明井千暁、作曲=大薮良多、山王堂ゆり亜、編曲=小林真人)という曲。是非今後も歌いつがれて欲しい名曲で、これは聞いて欲しいと思う。もう一曲子どもたちが歌っているのを3人が聞く曲がある。どこかで聞いた気がするけど、何という曲なんだろう? 調べてみると「夢の世界を」(作詞=芙龍明子、作曲=橋本祥路)という曲で、よく合唱コンクールで歌われる橋本祥路の代表作だという。橋本氏は教育芸術社の専属作曲家で、「翼をください」や「あの素晴らしい愛をもう一度」を合唱曲に編曲して中学校で歌えるようにした人だという。

(主演3人と土井監督)

 ラストは合唱コンクールになるけど、これは反則技だろうと思う涙無くして見れない名場面。もうこの時点では映画の設定が全部判明しているから、ただただ涙と感動のラストになる。歌を持ってこられたら泣くよ。「子どもと歌」の合わせ技なんだから。この映画に欠陥があるとしたら、余りにも良く出来すぎていて、映画内で感動が完結しちゃうことかもしれない。アートは作品世界に同化させるものより、何か違和感を残して終わる(例えば吉田大八監督『』)方が後々まで心に残る場合がある。

 広瀬すずは今年はすでに『ゆきてかへらぬ』の長谷川泰子役があり、さらに今後『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ原作、石川慶監督)、直木賞受賞作の映画化『宝島』(真藤順丈原作、大友啓史監督)が控えている。順当ならまず主演女優賞当確だろう。多くのテレビドラマ、映画を作って来た土井監督にとっても代表作になるんじゃないかと思う。映画内に灯台が出て来るが、これは犬吠埼灯台。他にもロケされているが東京近辺で撮影されたらしい。ラストの合唱会場は埼玉県入間市の武蔵野音大だという。見終わった瞬間からもう一度見たいと思わせる映画で、僕は「夢の世界を」や「声は風」を何度も聞いている。


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