万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

莫言氏の受賞―ノーベル賞が失ったもの

2012年11月26日 15時44分18秒 | 国際政治
莫言氏へのノーベル賞、「大失敗」と独女性作家(読売新聞) - goo ニュース
 今年ほど、ノーベル文学賞が、スキャンダルまみれになった年はなかったかもしれません。中国の賄賂文化が、遂にノーベル賞まで汚染してしまったのですから。

 一説によると、中国側は、中国人の受賞をさすがに直接には要求しなかったものの、スウェーデン政府に対して1000億円もの投資を申し出たとも、選考委員が買収されていたともされております。理系の分野ですと、受賞者の実績がガラス張りで検証されますので、不正な受賞は難しいのですが、文系の文学賞や平和賞では、選考委員のさじ加減で特定の人物を選ぶことは比較的容易です。この文系の選考手続きのルーズさに目を付けたのが、籠絡に長けた中国、ということのようです。こうして選ばれた莫言氏は、中国政府の検閲に協力的とされ、中国政府にとっては、受賞者として願ってもない人物です。ノーベル賞の権威をかざして、莫言氏に検閲の正当性を中国国民に宣伝してもらえれば、賄賂の経費も安いものであったかもしれません。同時に、国際社会においては、中国の文化的地位が向上することになるのですから、莫言氏のノーベル賞は、中国にとっては一石二鳥であったのです。

 劉暁波氏が、2010年にノーベル平和賞を受賞した時、ノルウェー政府は、中国の恫喝や経済制裁に耐え、全世界に向けて、劉氏の功績を守り抜きました。この不屈の姿勢に心を動かされた人々も、数多くいたはずです。しかしながら、今回の受賞は前回の真逆となり、ノーベル賞に対する失望は、全世界に広がっています。お金では買えないもの、それこそが、ノーベル賞であったはずなのですから…。結局、莫言氏の受賞によってノーベル賞が失ったものの方が、遥かに大きかったのではないかと思うのです。

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2 コメント

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Unknown (ねむ太)
2012-11-27 08:05:40
お早うございます。ノーベル賞も平和賞は東西冷戦終結以降、首を傾げるような選考が増えています。
今回の文学賞で村上春樹氏の受賞がなかった事には、ひとまず胸を撫で下ろしています。
村上春樹氏が受賞していれば反原発運動は、今以上の盛り上がりを見せ、総選挙でも将来の見込みが不透明なままで脱原発を公約に掲げた党の大躍進が見られ、原油・天然ガスの価格の高騰に拍車がかかりデフレ促進を促し経済を破壊する可能性もあったからです。
進歩的文化人や知識人が欧州連合、通貨統合を無条件に礼賛し世間知らずの箱入りお嬢様はスゥエーデンやイギリスの福祉政策を大絶賛。
「揺り籠から墓場まで」のスローガンは一見、人にやさしく社会的に優れたシステムに見えますが、その費用を捻出するために増税は余儀なくされ公共事業や研究開発の予算縮小でデフレは拡大し雇用は失われ地方は外国資本に買い占められ国民が安心して暮らせなくなる。
現実を見て実情に即した対策を取らずに理想を追い求めると国は失われ他国の植民地になりかねません。
それこそ中国の思うつぼです。
反原発運動に拍車がかかれば・・関西電力は高浜原発が稼働できない為、電気料金の値上げ申請に踏み切りました。標準家庭で約600円程度、年間に直せば7200円程度・・再生可能エネルギー買取り分と合わせると年間1万円程度の値上がりになります。
大江健三郎・村上春樹・坂本龍一氏など料金の値上げが生活に及ぼす影響などは全く気にしない無責任ぶり、
大江健三郎氏もノーベル文学賞を受賞している為に、沖縄の集団自決は軍の命令であったか否かの裁判の結果も歪められ玉虫色の決着になりました。
世界的な賞は権威も与えますが、権威が現実を歪める危険性もあります。
ノーベル賞は、平和賞や文学賞のように抽象的概念が入り込みやすい分野は見直すべきでしょう。
一つの教訓として考察して見れば、安易に通貨統合をすれば格差は拡大を続け国別で経済を立て直すことは難しくなる事が明らかになりました。
EUはドイツとフランスには、有利に働いていますがギリシア・イタリア・スペイン・ポルトガルなどの国々は破綻寸前・・各国が通貨発行権を持っていない以上財政だけでは国家経済を立て直すことは難しく、結局のところ弱い国々に引きずられ全体が沈み、いつ分裂してもおかしくない状況下でバブル崩壊を目前に資産を海外に逃がそうと考える中国の富裕層と利害の一致を見たのでしょう。
日本は真面目に中国から撤退し東南アジア、東欧諸国への展開を実行に移し中国と向き合い横暴を阻止する方策を講じなければなりませんが、進歩的文化人と福祉こそが正義と思い込んでマクロ経済を理解できないお花畑の連中が多い状態では・・・横面を張り倒してでも現実を直視させなければ中国の横暴はますますひどくなり、平和は遠のくばかりです。
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2012-11-27 09:48:57
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 村上春樹氏は、ここ数十年来、ベストセラー作家として内外で多くの読者を得てきたのですが(『ノルウェーの森』でデヴュー?)、どうも、”造られた作家”のような気がしてならないのです(私自身は、新聞紙上で紹介されていたある一文の抜粋に違和感を感じて、それ以来、倦厭して避けている・・・)。ノーベル文学賞の受賞も、誰かが引いた路線の上に準備されているのかもしれません。莫言氏の受賞ではなく、村上氏が受賞したとしても、人類にとりましては、あまり良い影響はなかったことでしょう。特に、日本国にとりましては、反原発運動の旗振り役をされては、悪影響に悩まされることになりました。村上春樹氏、大江健三郎氏、坂本龍一氏など、進歩的な知識人に共通する特徴は、大衆にアピールする姿勢を見せながら、本心、”自分さえよければ、どうでもよい”という、社会的虚栄心とエゴイズムとの奇妙な混在ではないかと思います(作品を読んでもいないのに、態度から分析しているのですが・・・)。積極的な社会運動や政治的主張も、自己顕示のステージにすぎませんので、他者の迷惑を顧みず、脳内の自己イメージを優先させるあまりに、現実から離れてゆくのでしょう。ねむ太さまのおっしゃるとおり、平和賞と文学賞は、見直すべきと思います。
 通貨統合を行いますと、一旦、深刻な財政問題などに陥りますと、”行くも地獄、帰るも地獄”という状況に至ってしまいます(ユーロ離脱のコストも高い・・・)。全く解決手段がないわけではありませんが、一連のユーロ危機からは、通貨統合の弱点も見えてきました。通貨統合の結果、欧州経済が、その弱点を突かれて中国資本に席捲されるとなっては、何のために壮大なプロジェクトを実施したのか、分からなくなります。理想を追うばかりでは、傷がさらに深まることは、日本国の日銀のデフレ放任や反・脱原発政策と同じではないかと思うのです。
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