万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国による一帯一路構想擁護論の詭弁

2018年05月07日 12時47分15秒 | 国際政治
一帯一路で官民協議会…日中、第三国で共同事業
 最近、頓に一帯一路構想に対する風当たりが強くなったためか、中国は、同構想の擁護に躍起になっているようです。本日も、日経ビジネスのオンライン版で「一帯一路は中国が世界に提供する公共財だ」と題する中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院院長である李向陽氏の論考が掲載されておりました。

 中国としては、学術的な立場からの擁護論であれば、国際社会からの批判をスマート、かつ、知的な高みから躱せると考えたのでしょう。しかしながら、この一文、読めば読むほど、その詭弁ぶりに唖然とさせられます。読者を迷路に誘い込んで自らが設けた出口からしか出られないようにする書き方は、中国の御用学者に共通した特徴です。

 さて、李院長によれば、国際社会に拡がっている「中国版マーシャル・プラン」、「新植民地主義」、「新時代の朝貢システム」といった批判的見解の多くは誤解であり、一帯一路構想とは、(1)開放性(特に開発途上国が参加…)(2)インフラ整備による相互連結(3)多元的協力メカニズム(相手国によって協力目的を変える…)(4)中核理念としての「義利観」、(5)運命共同体を特徴とする発展主導型の地域経済協力メカニズムなそうです。しかしながら、(2)のインフラ整備については、軍事的目的であれ、政治的目的であれ、一先ずは実態と一致しているとしても、(1)については中国のみを起点とし、かつ、先進国を暗に排除している点で閉鎖的ですし、中国市場の閉鎖性は米中貿易戦争の経緯からも明らかです。また、(3)に関しても、相手国によって協力分野を変えるのは凡そ全ての諸国に見られる経済戦略ですので、特に新奇性はありません。(4)と(5)に至っては、実質的に、中国による政治的介入を意味することにおいて、一帯一路警戒論をむしろ裏付けているのです。

 ここで、李委員長は、中国の経済外交の変遷に話を転じています。同氏は、一帯一路構想の発端が、自国内における東・南部沿岸地域と中・西部内陸地域との開放レベルの差に基づく後者の経済成長の遅れであったと説明し、同構想は、国内問題の解決のために発案されたと述べています。いわば沿線国の利益は二の次であったわけですが、この自国中心主義を解消すべく強調されたのが、2013年に中国指導部が開催した周辺外交活動座談会において習近平国家主席によって提示された周辺外交戦略の理念、「親・誠・恵・容」です(李院長は習主席に阿り、その功績として讃えたかったのでは…)。そして、これらの理念を実現するためにこそ、“新しいプラットフォーム”の構築が必要であると説明しているのです。理念を後付けするこの逆立ちした論理展開には、たとえ“中国の、中国による、中国のための構想”であっても、その理念が沿線国に受け入れられれば歓迎されるはず、とする傲慢な意識が窺えます。

正当化理念の登場によって、一帯一路構想は中国の経済戦略と外交政策が‘有機的’に結合した“経済外交のプラットフォーム”へと転じ、この点について氏は、「経済外交とは、簡潔に言えば、経済のための外交、あるいは外交のための経済…」と述べています。言い換えますと、政治が経済に優先し、「最終的に中国の平和的台頭と(中華)民族の復興に寄与する必要がある。」としているのです。ここでも、中国の露骨なまでの自国中心主義が表明されております。同構想は、“貿易のグローバル化と投資の自由化を促進する新しい手段”とも説明していますが、このメリットも、中国の輸出市場のグローバル大での拡大と人民元圏の形成と読み替えれば、徹頭徹尾、自国優先という意味では主張は一貫しています。

 ここまで読み進めると、上述した(4)や(5)の意味もおぼろげながら輪郭を表してきます。自由貿易主義の旗手を自認する中国自身でさえ、予定調和的にウィンウィン関係となる古典的な自由貿易理論を信じてはおらず、一帯一路にあっても、沿線国との間の貿易不均衡や貿易摩擦、並びに、運命共同体を名目とした中国による政治的介入に対する反発が起きることを想定しているのでしょう。オンライン記事のタイトルにも“最も重要なのは、正しい「義利観」に則って展開すること”とする副題が添えられていますが、「義利観」とは、こうした問題を解決する鍵として準備されているのです。

ところが、李院長に依ればこの用語の学術的な定説はないというのです。それでは、誰がどのように“正しい「義利観」”を判断するのかと申しますと、それは、‘政府’であるとしています(おそらく政府=中国政府=中国共産党=習近平国家主席では…)。李院長は、一帯一路構想の外部経済効果(中国以外の諸国の利益…)の重要性を説いていますが、それが沿線国に利益を分け与えること、即ち、中国が利益の配分権を握る事であれば、これぞ、まさに配分を主たる国家機能とする共産主義的体制に他なりません。

 以上に述べたように、李院長の論考は、一帯一路構想の成否と正当性を、‘正しい「義利観」’という概念を持ち出した時点で、自らの正体を暴露してしまった感があります。詭弁に満ちた一帯一路擁護論は、結局は、国際社会や沿線諸国の懸念を払拭するどころか、むしろ、中国の飽くなき野望に対する警戒心を高めることとなるのではないでしょうか。

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