万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ワクチンパスポートで経済が縮小する?

2021年09月09日 12時52分23秒 | 国際政治

 ’ワクチン先進国’のイスラエルでの感染再拡大や既存のワクチン効果を激減させるミュー株の出現は、ワクチンパスポートが既に論理破綻していることを実証しています。しかしながら、どうしたことか、各国ともに政府のみが、こうした’不都合な事実’に見て見ぬふりをしながら導入に向けてひた走っているのが現状です。日本国内にあっても、年内を目標に接種証明書がデジタル化され、商業施設等での利用が期待されていると報じられています。同制度は、事実上のワクチンパスポートと言っても過言ではないかもしれません。日本国内での利用についてはスマホを活用する方針のようですが、現状にあって同制度を導入したとしても、逆効果となる可能性も否定はできないように思えます。

 

第一に、高齢者の利用率の伸び悩みが予測されます。ワクチン接種率は、65歳以上の年齢層にあっては8割を越えていますが、年齢に反比例してスマホを利用しない人の率が高いからです。言い換えますと、高齢者の多くは、たとえワクチンを接種していたとしてもスマホを所持していないのですから、同制度を利用することができないのです。このため、高齢者向けの事業者は、期待したほどには収益改善の効果を得られないかもしれません。否、「ブレークスルー感染」やADEのリスクがあることが知れ渡れば、高齢者の行動もより慎重になることでしょう。

 

第二に、12歳から64歳までの年代層にあっても、ワクチンパスポートの効果は限定的となりましょう。日本国内を見ますと、12歳から64歳までの世代における二回の接種済み率は平均的には20%台であり、最低が栃木県の19.9%、最高が熊本県の56.7%となります(他の地方と比較して九州各県の接種率がひときわ高いところが気にかかる…)。このことは、現状にあってワクチンパスポートを導入すれば、半数以上の人々が商業施設やイベントなどから排除されてしまうことを意味します。若者世代ほど、最新の免疫学に基づく知識がありますし(『はたらく細胞』という各種免疫細胞を擬人化した漫画も人気を博していた…)、新聞やテレビといった既存のメディアのみならず、ネット等を通して幅広く情報を収集していますので、ワクチン・リスクについては高齢者よりもよく分かっています。このため、様々な特典でワクチン接種に誘引しようとしても、劇的に接種率が上がるとは思えないのです(しかも、同パスポートは、およそ半年ごとのワクチン接種を以って更新しなければならず、それが一生涯続く…)。つまり、ワクチンパスポートの導入は、顧客数や市場規模を半減させてしまうかもしれません。緊急事態宣言下とはいえ、少なくない人々が、昨日まで利用していたお店にも入店できなくなるのですから。

 

さらに第3として、12歳以下は接種対象外ですので、子供向けのサービスや娯楽等の業種にあっては、同制度は、むしろ百害あって一利なしとなりましょう。ファミリー向けのレジャーランドや商業施設は閑古鳥となるでしょうし、子供向けのイベントの開催も断念しなければならなくなります。子供たちは、施設や飲食店を利用できないのですから遠足の場所も限定されてしまいますし、社会科見学等も見学先からも断られてしまいましょう。また、ワクチンパスポートの原則に厳密に従えば、保育園や幼稚園、並びに、小学校にも通園や通学ができなくなるのですが、仮に、こうした養育・教育施設だけは集団形態が許可されて、他の子供向けの施設やイベントでは許されないとなれば、その一貫性の欠如が批判されることともなりましょう。

 

加えて、第4に、ワクチンパスポートの取得が雇用条件ともなれば、大量の失業を招くことになります。遺伝子ワクチンの危険性は既知の通りであり、米軍にあってアメリカで報告されているように、自らの命を危険に晒すよりも離職を選ぶ、あるいは、国民の自由を護るための抗議の意思を込めて辞職する人々があってもおかしくはありません。日本国内では既に雇用保険基金も底をついており、政府は、一体、どのようにしてコロナ失業に対応するのでしょうか。民間企業にありましても、接種を拒否した社員が退職を余儀なくされることにもなれば、人手不足に拍車をかけることとなりましょう。

 

ワクチンパスポートの導入には、政府による非接種者に対する接種圧力に加えて、コロナ対策として課されている経済活動の制限に対する解除を願う経済界からの後押しもあるとされていますが、上述した諸点からしますと、必ずしも期待された程の経済効果を挙げるとは限りません。むしろ、経済活動の阻害要因となり、経済が縮小してしまうリスクも考慮すべきではないかと思うのです。


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