万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国民の行動監視システムとしてのワクチンパスポート-その2

2021年09月08日 12時45分45秒 | 国際政治

 ワクチンパスポートがもたらす人体に対するリスクは否定のしようもないのですが、同制度が人類滅亡の危機さえ孕むかくも危険な制度でありながら、各国政府は、不可解なことに同制度の導入を急いでいます。この不可解さこそ、’陰謀論’に信憑性を与える理由でもあります。そして、その理由を探ってみますと、導入を切望する側のメリットとデメリットの判断基準が、一般の人々とは違っているとしか考えようがないのです。

 

それでは、一般の人々と導入を要求する人々との間には、どのようなリスク判断の基準に違いがあるのでしょうか。おそらく、同制度の導入を推進している人々にとりましてのリスクとは、人類一般の健康に対するものではなく、自らの権力保持を可能とする体制に対するものなのかもしれません(体制の維持・強化…)。これらの人々が最も恐れているのは、自らが全世界に築いてきた体制が一般の人々からの抵抗や反対によって綻びる、あるいは、崩壊することなのでしょう。これこそが最大のリスクですので、メリットとデメリットの判断基準も、体制に対する‘有害性’に定められているのかもしれません。

 

そして、体制の維持・強化の側面からワクチンパスポートを見ますと、同制度程、その目的に叶うものもないように思えてきます。何故ならば、’最大のリスク’が永続的な体制の維持であるならば、他の人々を自らの完全なる監視下に置くことこそ、体制維持を永続化する最も安全な方法であるからです。ワクチンパスポートは、ワクチンの接種者も非接種の両者の行動を把握することができるのですから。

 

ワクチンパスポートは、非接種者の人権を侵害し、不自由にすると批判されていますが、同制度は、接種者をも監視の網に絡めとります。公共交通機関の利用から店舗での購入やサービスの提供、さらには、あらゆるイベントの参加に際してワクチンパスポートの提示を要するようになりますので、デジタル・データとしてその保持者の行動履歴が全て把握されてしまうからです。もちろん、スマートフォン以上に肌身離さず携帯する必要があります。そして、〇年〇月〇日〇時〇分〇秒、ワクチン接種ナンバー、あるいは、マイナンバーカード○○○○○○の人がどこで何をしていたのか、すべて記録されてしまうのです。

 

一方、非接種者につきましては、その日常生活を維持するためには、否が応でもネット通販に頼らざるを得なくなります。食料品や日常の必需品さえ、外出して店舗で購入することができなくなるからです。この方法ですとオンライン決済が主となりますので、現金を使用する機会も激減することになりましょう。個人の消費情報のみならず、金融情報も筒抜けになるのです。また、勤務形態も主にテレワークとなりますので、ネットの通信記録を介して仕事内容や取引関係まで把握されてしまう恐れもあります。何れにしましても、半ば自宅に閉じ込められてしまった非接種者もまた、その行動につきましては、接種者と同様にデータとして記録されてしまうのです。

 

ワクチンパスポートは、全ての人々に対して著しいプライバシーの侵害を伴うのですが、隠し立てすることがない人は、自らの個人情報が他者に把握されても別段に不都合はないと思うかもしれません。しかしながら、国民の政治的な自由や権利に目を向けますと、同制度は、大きな制約となりかねないリスクがあります。先ずもって国民の政治に参加する権利に関しては、政治家は、地元の後援会の人々のみならず不特定多数の人々と接しますので、非接種者は選挙に立候補さえ不可となるかもしれませんし、ワクチン接種が政治職や公務員職就任の条件ともないかねません。選挙権についても、非接種者の投票所への入場が拒否されれば郵便投票ということになり、先のアメリカ大統領選挙で大混乱が巻き起きたように、不正選挙問題が持ち上がることとなりましょう。

 

加えて、たとえ合法的であっても、政府に対して抗議活動やデモを行ったり、政治的な集会を開くことも難しくなります。そもそも非接種者は参加することができませんし、接種者にあっても、ワクチンパスポートを提示した時点で、瞬時にリストアップされてしまうからです。ITやAIといった先端的なテクノロジーを共産党一党独裁体制堅持のために駆使している中国を見れば、デジタル技術こそ、国民監視体制の構築、あるいは、体制の維持・強化に最も貢献する技術であることは自ずと理解されます。そして、この脅威は、ワクチンパスポートの導入を以って自由主義国の国民にも迫っていると言えましょう。

 

幸いにして、日本国の場合には、経団連の提唱した制度ではワクチン一辺倒ではなく、非感染証明を併用するそうですが(もっとも、フランスのように48時間以内という制限が付されれば、文字通りの‘ワクチンパスポート’となってしまう…)、それでも、同制度は、上述したように、接種者であれ、非接種者であれ、国民の基本的な自由に制約を課すと共に権利をも制限することでしょう。国民の多くは、ワクチンパスポートの導入によって、コロナ以前の自由を取り戻せるものと信じておりますが、現実には逆となる可能性の方が高いのではないかと思うのです。


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