万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

利便性と家畜化の‘抱き合わせ販売’-体内埋め込みチップ問題

2019年02月26日 13時13分32秒 | 社会
手の甲に極小チップ、埋めたい? 鍵や電子決済「便利」
終に、日本国内でも手の甲への極小マイクロチップの埋め込みが実用化されるようになりました。現状では、スマホやカードを携帯しなくとも手をかざせばドアが自動的に開く程度のことしかできませんか、将来的には電子決済などにも用途が広がる見込みなそうです。チップの人体埋め込みは、人々の生活や活動の利便性を高めているようにも見えますが、利便性と引き換えに失うものも多いように思えます。

 体内チップについては、個人の利便性の向上が強調され、街を歩けばオフィスや店舗の入り口が開き、お財布やスマホがなくともお買い物もできます(もちろん、チップ上の信用格付けで問題がなければ…)。もしかしますと、同システムが普及すれば、購入した商品は、即座にドローン等によって自宅に配送され、帰宅する頃には既に部屋まで届いているかもしれません。チップに音声機能が内蔵されていれば、自らの手の甲に語りかけて他の誰かと通話したり、外出先でも自宅の家電を操作することもできましょう。体内チップは、便利で快適な生活を人類にもたらす先端技術の一つと見なされているのです。

しかしながら、体内チップは、人類に恩恵のみを与えるわけではありません。人体へのチップの埋め込みは、‘埋め込む側’に視点を移しますと、利便性の向上とは異なる別の側面が見えてきます。それは、個人やメンバーの認証を確実にすることで、社会や組織の安全性を高めるという利点です。実際に、スウェーデンなどの‘チップ先進国’において同システムの導入を検討しているのは企業であり、不審者の侵入を阻止する防犯や労務管理への利用が検討されているそうです。つまり、社員以外は社屋に立ち入ることはできなくなりますし、一般の社員資格では入室できないCEO専用会議室や技術開発フロアといった特別の場所や密室を設けることもできるのです。また、チップは、仕事をさぼっていたり、職場を勝手に離れている社員を感知することでしょう。かくして組織内部における情報の機密性が保持され、外部への漏洩が防止されるのですが、体内チップで管理される側となる労働組合は、同システムの導入に不快感を露わにしているそうです。

そして、牧畜では、管理のために、全ての家畜の体に焼印を押されてきました。現在では、もしかしますと、位置情報等を得るために焼印を押す代わりにマイクロチップを埋め込んでいるかもしれません。こうした家畜管理の手法を思い起こしますと、人に対してチップを埋め込む行為には、人々を不快、あるいは、不安にさせる何かがあります。中国のファウエイ製品にバックドア等のスパイ・スパムが組み込まれているとされるように、チップにも利用者には秘密にされている何らかの‘情報漏洩’の仕組みが組み込まれているかもしれません。氏名、年齢、性別、誕生日、国籍、出生地といった個人情報から、個々の所在場所、日々の行動や発言、身体情報、健康状態に至るまで、全てが情報として収集されてしまうリスクがあるのです。さらに恐ろしい危険性があるとすれば、外部からの操作によってチップが埋め込まれた人の心身を操ったり、あるいは損傷を与えるかもしれず、最悪の場合には殺害してしまうかもしれません。体内チップとは、使い方次第ではSF小説に描かれるような邪悪な者の支配の道具となりかねないのです。

体内埋蔵型のマイクロチップの怖さは、利便性の向上と家畜化のリスクとが同時進行するという、今日の人類が抱えている深刻な問題を象徴しているように思えます。スマホの普及も人々の利便性を劇的に高める一方で、中国に見られるように、国民監視システムとして機能してもいます(自由主義国でも民間IT大手による同様のリスクが懸念されている…)。前者を評価するあまりに後者の危険性に見て見ぬふりをしますと、何時の間にか人類は家畜化されてしまうかもしれません。こうした悪しき‘抱き合わせ販売’については、人類はより賢く知恵を働かせ、後者への至る道を開かぬよう両者を切り離し、人類の福利向上や道徳性を基準としたテクノロジーの取捨選択ができるよう方向付けるべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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