万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

二重国籍は人種差別ではなく危機管理の問題では?

2016年09月17日 11時21分36秒 | 国際政治
「二重国籍、他にも」=神津連合会長
 報道によりますと、これまでオバマ大統領に対して出生地を理由に大統領の資格がないと批判してきた共和党のトランプ候補が、この発言の撤回を表明したそうです。本選を目前にした柔軟化路線への転換とする解釈もあるそうですが、この一件は、アメリカの大統領職には、憲法上、国籍要件が存在することを示しております(アメリカ合衆国憲法第2条1節5項)。

 日本国では、民進党の代表に選出された村田蓮舫議員が台湾との二重国籍であることが問題視され、目下、世論の批判を浴びております。二重国籍批判に対して、しばしば、人種差別であるとする反批判も聞かれます。しかしながら、政治家が二重国籍ともなりますと、もう一方の国籍国の対人主権が及ぶわけですから、外国の利益を図る可能性が高く、政治的リスクは否定できません。このため、多民族国家であるアメリカでさえ資格制限があり、大統領といった公職に国籍要件や出自要件を付している国は少なくないのです。資格制限とは、いわば、安全保障のみならず、内政干渉を予防し、民主主義を守るための危機管理措置であるとも言えます。トランプ候補の発言撤回も、オバマ大統領が公式の出生証明書を提示し、自らの資格を証明したことが大きく影響しており、憲法上の資格制限そのものを否定しているわけではないのです。アーノルド・シュワルツネッガー氏もオーストリア生まれが問題視されましたし、EU離脱派のリーダー格であったイギリスのボリス・ジョンソン氏も、アメリカとの二重国籍が指摘され、イギリスへの忠誠を示すためにアメリカ国籍を離脱すると述べたそうです。これらのケースには、人種差別的要素は全く見られません。

 如何なる国であれ、外国や外国人に支配されたり(内政干渉、植民地化、属国化のリスク…)、”国民の代表”のはずの政治家が私的な事情から外国の利益のために働くこと(権力の私物化による売国リスク…)に賛成する国民は殆どいないはずです。国籍や出自に関わる情報が隠されていたならば、なおさらのことでしょう。二重国籍問題については、人種差別問題ではなく、純粋に危機管理の問題として扱うべきではないかと思うのです。

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