万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

戦時期の日系人収容所と現在のシリア難民-参考とすべき対応とは?

2015年11月19日 15時37分31秒 | アメリカ
日系人収容の過ち繰り返すな=米知事がシリア難民歓迎
 先日、アメリカのオバマ大統領は、人道的な措置として1万人のシリア難民を受け入れる方針を表明しました。ところが、アメリカ合衆国を構成する50州の内、31州もの知事が、既に難民受け入れに反対していると報じられております。

 シリア難民の受け入れをめぐる議論では、第二次世界大戦時の日系人収容所のケースが引き合いに出されているそうです。賛否両論から根拠とされており、受け入れ賛成派のインズリー州知事が、”歴史の過ちを繰り返してはならない”と主張する一方で、反対派のバウアーズ市長は、”『イスラム国』の脅威は、ちょうど当時の敵のように現実的で深刻のようだ”と述べ、脅威に直面した以上、安全確保のためは必要な措置である、とする見解を示しています。もっとも、当時の日系人は、既にアメリカに居住し、米国籍を有するアメリカ人であったわけですから、両者とも、シリア難民のケースとは事情が異なることには留意していないようです。しかしながら、仮に、戦時期の日系人の状況からシリア難民問題にも参考となる点があるとすれば、それは、出身国である日本国の日系人に対する対応ではなかったと思うのです。日米開戦を前にして、アメリカに渡った日系人は、日本国とアメリカとの板挟みに苦悶し、東条英機首相に日本人として取るべき態度を問う手紙を送っています。この手紙に対して、東条首相は、アメリカ国民としてアメリカに尽くすよう諭す返答の手紙を返しています。結局、戦時期にあって、日系人は収容所での生活を余儀なくされましたが、アメリカ軍の一員として勇敢に戦った日系人部隊こそあれ、テロ事件を起こしたり、アメリカ人を襲撃した日系人はほとんどおりませんでした。戦後、日米関係が比較的すんなりと回復された理由も、当時の日本側の判断と日系人の生き方にあったのかもしれません。

 翻って、移民問題に起因するテロ事件の発生や社会的な摩擦の原因が、アイデンティティーを出身国に置いたまま、出身集団に忠誠を誓う移民の側にもあることを考慮しますと、移民や難民問題の解決には、権利面のみならず、義務面の強化も必要なように思われます。今日の国際法は、移民や難民の権利保護に重点が置かれていますが、テロ対策の一環として、国際レベルにおいて移民や難民のあるべき行動規範を議論し、策定するのも一つの案なのではないでしょうか。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。



にほんブログ村
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする