秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

菜菜子の気ままにエッセイ(空と時空と愛しき人・)

2021年10月03日 | Weblog
2ヶ月前。
施設の面会禁止が解除された日。おばちゃんに会いに行った。
面会時間は、15分。
今回のお土産は、夏のブラウスと、下着。
『まあ、菜菜美さんよ、悪いのー、顔だけ見せてくれたら、それだけで嬉しいのにー』

おばちゃんに、持参したブラウスを早速あててみる。淡い花柄模様。
「おばちゃん、似合うよ。また、普段着に着てよ」
そう言って、高知の従姉妹にすぐに電話をかけた。
従姉妹には事前に連絡しておいた。面会時間15分。1分たりとも無駄に出来ない。

おばちゃんは、手のひらをスマホに当てて持ち、上手に話す。
『コロナが落ち着いたら、会いに行くけんねー、それまで元気にしとってよー』
従姉妹の声がスピーカー越しに流れてくる。
「うん、まっちょるわ、来ての」
そう頷きながら、おばちゃんは、目を真っ赤にしていた。
隣で私もやっぱり、涙ぐんでいた。

帰り際、おばちゃんが駐車場まで送ってくれた。
駐車場は、施設の正面だ。
『おばちゃん、施設をバックに記念写真撮ろう!前に家の前で撮った時とおんなじじゃなあ。
今日は、施設がバックじゃよ』
そう言って、カメラを向けると、おばちゃんは、
「待てよ、」と言いながら、キッチリと立ち、カメラを見て、微笑む。
やっぱり、良い表情。

『おばちゃん、また、来るね』
「また、来ての、なんちゃあ、持たんと来てのー」
『元気でおってよーまたねー』
軽く手を振り、別れた。


おばちゃんの家には、小さな縁側がある。玄関からは、出入りしない。
いつも、その縁側が、おばちゃんの動線だ。
その縁側に何気なく落ちている、季節ごとに変わるもののカケラで、四季の移ろいが判かった。

お茶の乾いた葉の数枚。小豆の虫食いのカケラ。大根の葉っぱの切れ端。
取ったままで置かれたミョーガ。干し大根のカケラ。
玉ねぎの皮。そして、作業手袋。

縁側の下は乾いた土。おばちゃんの小さな長靴。鎌は縁側の右側の木に掛けてある。
目の前には空を背景に、広がる山々の稜線。四季折々に変わる山の色。生まれたての風の匂い。
今の季節は、茅刈りに勤しんでいた。

終わりかけの百日紅の赤と白。少しだけ冷たい風と、真っ新な青空と、
何処かで鳴いていたヤマガラの高い鳴き声。池に落ちるホースの水の音。
そして弾かれる音。自然の織りなすだけの匂いと音。

固い土に鍬を入れ、何度も何度も土を起こし、ひたすらに暮らして生きた歳月。人間を生きた日々。
自分自身の命を終える場所さえ、選ぶことが出来ない現実。
産まれて生きて逝くだけのことなのに、終焉の自分の人生の神輿を下ろす場所さえ、望めない現実。

おばちゃん、
私は他人に対して、
初めて心から思いました。
『魂を 抱きしめたい』
おばちゃん、
あのね、前から言いたかったんだけどね、私の名前は、
マチコでは、ないのです。
いつも、マチコさんよ、マチコさんよーって呼ばれたけど。
それとね、
おばちゃんが、呼んでいた
「イヌヨー、イヌよー、来たかー、一緒に来たかー」って、
呼んでいた犬の名前はね、ゴンっていう名前だったんだよ。
叔母やん(ヴヴヴ)にも、会えたかな?ネエさんも、きたかえーって、迎えてくれたかな。
おばちゃん、私はもう少しだけ、想い出の番人を続けます。

おばちゃん、
おばちゃんの時間と交差出来た事に感謝します。
一瞬一瞬の時間が煌めく事が出来た事に、感謝します。
ありふれた言葉だけど、ありがとう。

       さようなら
          また いつか。


          合掌 

















































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