「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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比例原則:均衡の原則 重要判例 富山県パトカー事件(最高裁昭和61.2.27第一小法廷判決)

2012-10-09 23:00:00 | シチズンシップ教育
比例原則に関する判例を見ます。

関連法

*警察法

(警察の責務)
第二条  警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2  警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

(現行犯人に関する職権行使)
第六十五条  警察官は、いかなる地域においても、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百十二条に規定する現行犯人の逮捕に関しては、警察官としての職権を行うことができる。

*警察官職務執行法
第二条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2  その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3  前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4  警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

*刑事訴訟法
第二百十二条  現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
○2  左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一  犯人として追呼されているとき。
二  贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三  身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四  誰何されて逃走しようとするとき。

****最高裁ホームページ******
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52182&hanreiKbn=02

事件番号

 昭和58(オ)767



事件名

 損害賠償



裁判年月日

 昭和61年02月27日



法廷名

 最高裁判所第一小法廷



裁判種別

 判決



結果

 破棄自判



判例集等巻・号・頁

 民集 第40巻1号124頁




原審裁判所名

 名古屋高等裁判所 金沢支部



原審事件番号

 昭和57(ネ)66



原審裁判年月日

 昭和58年04月27日




判示事項

 警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被つた場合において右追跡行為が国家賠償法一条一項の適用上違法であるというための要件




裁判要旨

 警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被つた場合において、右追跡行為が国家賠償法一条一項の適用上違法であるというためには、追跡が現行犯逮捕、職務質問等の職務の目的を遂行するうえで不必要であるか、又は逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当であることを要する。




参照法条

 国家賠償法1条1項,警察法2条,警察法65条,警察官職務執行法2条1項,刑訴法212条

****判決文*****
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120546480233.pdf

 主   文

 原判決を破棄し、第一審判決中上告人の敗訴部分を取り消す。
 被上告人らの請求を棄却する。
 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人安倍正三、同山岸長嘯の上告理由第五点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 上告代理人中村三次、同林晃司、同菊池政八、同西尾澄男、同宮岸富美雄の上告理由第一点及び上告代理人安倍正三、同山岸長嘯の上告理由第四点について
 一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1(一) 富山警察署外勤課自動車警ら係巡査A、同B、同Cは、昭和五〇年五月二九日午後一〇時五〇分頃、警ら用無線自動車(パトカー富山一一号。以下「本件パトカー」という。)に乗車して富山市a町b丁目方面から同市c町d丁目e番方面に向い北進して機動警ら中、富山警察署住吉警察官派出所前の交差点付近にさしかかつた際、国道八号線(現国道四一号線)を高岡市方面から魚津市方面に向け走行中のD運転の普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)が速度違反車であることを現認したので、直ちに約三八〇メートルの間追尾してその時速が同所の指定最高速度時速四〇キロメートルを越える七八キロメートルであることを確認した。そこで、本件パトカーは、加害車両を停止させるため赤色灯を点灯しサイレンを吹鳴して同車の追跡を開始した。
 (二) 加害車両は、時速約一〇〇キロメートルに加速して逃走し、同市f番地付近で停車したので、本件パトカーも同車の前方約二〇メートルの地点に斜めに同車の進路を塞ぐように停止したが、その間に同車の車両番号を確認した。
 (三) C、B両巡査が本件パトカーから下車し、事情聴取のため加害車両に歩み寄つたところ、同車は突如ユー・ターンして高岡市方面に向け時速一〇〇キロメートルで西進し逃走を開始した。右両巡査の乗車をまつて、A巡査は直ちに本件パトカーの赤色灯をつけサイレンを吹鳴して再び追跡を開始し、同時に富山県警察本部通信司令室を介して県内各署に加害車両の車両番号、車種、車色、逃走方向等の無線手配を行つた。そして、本件パトカーは、加害車両との車間距離約二〇メートルないし五〇メートル、時速約一〇〇キロメートルで追跡を続行したが、途中ユー・ターン地点から約九五〇メートル西進した富山交通株式会社前付近で「交通機動隊が検問開始」との無線交信を傍受した。ユー・ターン地点から同市g町交差点までの国道八号線は、東西に延びる延長約二キロメートルの四車線であるところ、加害車両は、右区間は時速一〇〇キロメートルで逃走を続けたが、その間途中トラツク一台を反対車線にはみ出して追い越し、当時同区間に設置されていたh町、i町、j町の各交差点の信号機のうち、少なくとも一か所は赤信号を無視して走行した。
 (四) 加害車両は、g町交差点にさしかかるや、同所の左折車線及び直進車線には先行車が信号待ちのため停車していたのに、減速しつつ右折車線から大回りで、赤信号を無視して左折逃走し、本件パトカーも同様の方法で左折し追跡を継続した。左折後本件事故現場に至る道路は、g町交差点からほぼ南北に延びる約一・七キロメートルの通称しののめ通りという市道であつて、k町交差点までは四車線、その後は二車線で歩道を含む道路の幅員が約一二メートルであり、最高速度は時速四〇キロメートルに指定され、道路両側には商店や民家が立ち並び、また、交差する道路も多いという状況であつた。加害車両を運転するDは、g町交差点を左折後時速約九〇キロメートルに加速して逃走したが、l町交差点付近で自車後方視界に本件パトカーが入らなくなつたので、同車を振り切つたものと考えて一たん時速を七〇キロメートルに減速した。本件パトカーは、g町交差点の左折の辺りでは加害車両との距離が開いたが、左折後時速約八〇キロメートルに加速して追跡を続行したため、加害車両との車間距離を縮め、また、A巡査は、左折直後加害車両の逃走方向を無線で手配した。
 (五) ところが、Dは、右減速後しばらくして後方に本件パトカーの赤色灯を認め、追跡が続行されていることに気付き、再び時速約一〇〇キロメートルに加速して進行し、m町交差点の黄色点滅信号、k町及びn町o丁目の各交差点の赤色点滅信号を無視して進行したが、本件パトカーは、k町交差点からは道路が片道一車線になつているうえ前方のn町o丁目交差点から道路が右にカーブしていて加害車両が見えなくなつたため、赤色灯は点灯したまま、サイレンの吹鳴を中止し、減速して進行した。
 2 Dは、赤信号を無視して富山市n町p丁目q番r号地先交差点に加害車両を進入させたため、同日午後一〇時五七分頃、同交差点内において、同交差点を同市s町方面から同市t方面に向つて青信号に従い進行中のE運転の普通乗用自動車に加害車両を衝突させ、そのため、右E運転の普通乗用自動車が折から同交差点を山室方面からs町方面に向い青信号に従つて進行してきた被上告人環運転、同F及び同G同乗の普通乗用自動車に激突して、被上告人Fは顔面挫傷等の、同環は骨盤骨折等の、同Gは大腿骨骨折等の各傷害を負つた(以下「本件事故」という。)。
 3 以上の事実関係のもとにおいて、被上告人らは、上告人に対し、上告人の警察官の追跡が違法であつたとして、国家賠償法一条一項に基づき、本件事故による損害賠償を求めたものである。
 二 原審は(一) パトカー乗務の警察官としては、交通法規違反者の追跡に当たつては、追跡行為により被追跡車両が暴走するなどして交通事故をひき起こす具体的危険があり、かつ、これを予見できる場合には、追跡行為を中止するなどして交通事故を未然に防止すべき注意義務があるところ、(二) 本件においては、加害車両の運転速度及び逃走態様、道路交通状況に照らすと、本件パトカーが追跡を続行したならば、加害車両の暴走により通過する道路付近の一般人の生命、身体等に重大な損害を生ぜしめる具体的危険が存し、また、A巡査らも右危険を予見できたものというべきであり、しかも、追跡を続行しなくても交通検問その他の捜査によりこれを検挙することも十分可能であつたから、A巡査らとしては、追跡を中止するなどの措置をとつて第三者の損害の発生を防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、高速度かつ至近距離で追跡を続行するという過失を犯したものであり、(三) 右追跡行為は、第三者の生命、身体に対し危害を加える可能性が高く、他の取締方法が考えられるから、被上告人らに負わせた傷害の重大性に鑑み、被上告人らに対する関係では違法性を阻却されないと判断して、被上告人らの各請求の一部を認容した。
 三 しかしながら、およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断してなんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負うものであつて(警察法二条、六五条、警察官職務執行法二条一項)、右職責を遂行する目的のために被疑者を追跡することはもとよりなしうるところであるから、警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被つた場合において、右追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。
 以上の見地に立つて本件をみると、原審の確定した前記事実によれば、(一) Dは、速度違反行為を犯したのみならす、警察官の指示により一たん停止しながら、突如として高速度で逃走を企てたものであつて、いわゆる挙動不審者として速度違反行為のほかに他のなんらかの犯罪に関係があるものと判断しうる状況にあつたのであるから、本件パトカーに乗務する警察官は、Dを現行犯人として検挙ないし逮捕するほか挙動不審者に対する職務質問をする必要もあつたということができるところ、右警察官は逃走車両の車両番号は確認したうえ、県内各署に加害車両の車両番号、特徴、逃走方向等の無線手配を行い、追跡途中で「交通機動隊が検問開始」との無線交信を傍受したが、同車両の運転者の氏名等は確認できておらず、無線手配や検問があつても、逃走する車両に対しては究極的には追跡が必要になることを否定することができないから、当時本件パトカーが加害車両を追跡する必要があつたものというべきであり、(二) また、本件パトカーが加害車両を追跡していた道路は、その両側に商店や民家が立ち並んでいるうえ、交差する道路も多いものの、その他に格別危険な道路交通状況はなく、東山交差点からk町交差点までは四車線、その後は二車線で歩道を含めた道路の幅員が約一二メートル程度の市道であり、事故発生の時刻が午後一一時頃であつたというのであるから、逃走車両の運転の前示の態様等に照らしても、本件パトカーの乗務員において当時追跡による第三者の被害発生の蓋然性のある具体的な危険性を予測しえたものということはできず、(三) 更に、本件パトカーの前記追跡方法自体にも特に危険を伴うものはなかつたということができるから、右追跡行為が違法であるとすることはできないものというべきである。してみると、かかる状況のもとにおける本件パトカーの乗務員の追跡行為に伴う具体的危険性及び右追跡行為の必要性の有無についての判断を誤り、右追跡は違法であつたとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあり、右の違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。そして、右に説示したところによれば、前記確定事実のもとにおいては、被上告人らの請求は理由かないことに帰するから、原判決を破棄し、被上告人らの各請求の一部を認容した第一審判決中右請求認容にかかる上告人の敗訴部分を取り消したうえ、被上告人の請求を棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
   
 最高裁判所第一小法廷
        裁判長裁判官  谷口正孝
           裁判官  角田禮次郎
           裁判官  高島益郎
           裁判官  大内恒夫
コメント
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