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行政財産の目的外使用許可の審査基準設定公表を怠った行政手続法違反(手続的瑕疵)故の処分取消

2012-04-30 15:12:15 | シチズンシップ教育
 Xさんは、那覇市の土地を、目的外使用することの許可を受けた形で長年使用してきました。

 ところが、Xさんは、ある意味、行政の都合に振り回され、結局、本来の目的のために使うからとして(今回の場合は、「当管理組合が貴社に対して、地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は、本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが、今般、当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い、当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが侵入する道路として、本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」として)、目的外使用の土地から追い出されようとしましたが、目的外使用許可の審査基準設定公表を怠った行政側の手続の瑕疵があり、結局、追い出されずに済みました。(処分の取消)。

 行政手続は、厳格に運用して行かねばならないという一例と思います。

 余談ですが、中央区で区道の目的外使用をして、「月島の渡しの碑」を建てていました。それを本来の道路の目的で使用するという話があったことを思い出します。


【事件の概要】港湾施設使用不許可処分取消請求事件 那覇地方裁判所判決/平成19年(行ウ)第14号(判決日付 平成20年3月11日)

Xは、冷凍農畜産物及び冷凍食品の保管業等を目的とする株式会社

Yは、地方自治法284条2項、港湾法33条に基づき、沖縄県、那覇市及び浦添市により港湾管理者として設けられた一部時事務組合。

1)Xは、昭和27年に那覇市○○(旧本店所在地)において、冷凍倉庫業等を営んでいたところ、施設の老朽化に伴い、新たな冷凍倉庫を建築する計画をしていた。
 ところが、那覇市は、昭和31年には同所付近において道路計画を策定していたため、Xは同所において新たな施設を建設することができなかった。

2)Xは、昭和61年、新たに冷凍倉庫を建築するための土地(別件土地)を選定確保し、設計料2000万円を支出して設計を完了し、同土地への移転計画の準備を進めた。
 他方、那覇市は、区画整理事業に伴い、事業施行地区内に社屋を有していたB会社との間で、この別件土地を同社移転先とする移転交渉を行っていた。
 そこで、那覇市は、Xに対し、別件土地を譲渡するよう要請し、Xは、別件土地への移転を断念し、指導に従って別件土地を譲渡した。那覇市とXとの間ではXの移転先について具体的な候補地をあげて交渉を行ったが、結局合意に達しなかった。

3)その後、那覇市は、昭和63年、Xに対し、Xの現在の本店所在地の土地を賃貸し、Xは同所に移転した。
 同時に、Xは、昭和63年から平成18年3月31日までの間、現本店所在地に隣接する那覇市の所有する行政財産(港湾施設)である本件土地を目的外使用の許可を得て、使用してきた。使用許可を得た土地は埋め立て予定地である。しかし、本店所在地の狭小を補うために相当期間かかるため、Xは埋め立て工事が完了して道路として使用するまでは、使用を認める条件付き使用許可と解し、本件土地上に機材置き場を建設し、地下に電源チャージ用の設備を埋設し土地上にアスファルトを敷いたが、那覇市は事実上黙認してきた。


4)この間、那覇市は、沖縄県及び浦添市とともに、Yを設け、Yは、那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した。


5)Xは、平成18年2月15日ころ、管理者に対し、本件土地について、同年4月1日以降の目的外使用(継続使用)の許可申請をしたところ、管理者は、同年3月22日ころ、Xに対し、平成18年4月1日から本件土地を本来の使用目的である公共用道路として使用するので、同年3月31日までに原状回復して引き渡すよう通知した。さらに管理者は、平成18年3月27日頃書面で、Xに対し、上記申請を不許可とする処分(「18年処分」)をした。この書面には、Xの前記申請について、「不許可とする。」とするのみで、不許可とする理由についても、行政事件訴訟法46条所定の手続教示もまったく記載されていなかった。

6)Xは、那覇地方裁判所に対し、平成18年9月5日、18年処分の取消しを求める訴えを提起したところ、那覇地方裁判所は、平成19年2月27日、平成18年不許可処分についても行政手続法8条等に違反することは明らかであるとして、18年処分を取り消す旨の判決を言い渡した。そして同判決は平成19年3月14日に確定した。

7)Xは、管理者に対し、平成19年3月5日ころ、あらためて本件土地につき港湾施設の使用許可申請(本件申請)を行った。

8)管理者は、Xに対し、3月8日付けで本件申請を不許可とする処分(本件処分)を行い、同月9日、Xに対し、本件申請を不許可とする旨及び行政事件訴訟法46条所定の手続教示を記載した「A組合港湾施設使用許可申請について(通知)」と題する書面を送付し、同書面は同月12日にXに到達した。同書面中には、処分理由として、「当管理組合が貴社に対して、地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は、本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが、今般、当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い、当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが侵入する道路として、本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」と記載されていた。
 また、管理者は、同年3月8日ころ、Xに対し、同月31日までに本件土地を原状回復した上でYに返還するよう求める旨の通知を再度行い、同通知は同月12日、Xに到達した。

9)Xは、本件処分後、Yが本件土地の賃料(月額10万1709円)の受領を拒否することが明らかであるとして、平成19年4月から平成19年7月分までの賃料を供託した。

【争点】
1、行政手続法の適用があるかの判断の仕方

2、行政手続法5条の趣旨は何か。
 裁量処分である行政財産の目的外使用許可の審査基準を設定していないことが、行政法5条違反になるか。名宛人でなく第三者が原告である場合でも、原告の保護法益と言えるか。

3、手続法5条違反は処分の取消自由となる「重大な瑕疵」といえるか。

4、手続法5条違反の瑕疵があるとき、紛争の解決のためには実体的な裁量の逸脱濫用審査もすべきか。(その場合、基準に反していれば裁量の逸脱濫用になるか、合致していれば逸脱濫用はないのか)

Xの主張:手続違反:審査基準を制定・公表していない。特段の事情はなく、処分の取消事由になる。
 裁量の逸脱濫用:那覇市との合意を組合も尊重すべき。道路使用は理由にならない。重大な損害を受ける。

Yの主張:手続違反はない:設定しないことも許される。5条違反が直ちに処分の取消自由にはならない。
 裁量の逸脱はない:同意していない。代替地として提供した事実はない。道路の必要が増大した。

【Xの訴訟選択】
処分取消 訴訟

【参照法令】
  (1) 地方自治法
   ア (公有財産の範囲及び分類)
    第238条 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(略)をいう。
     一 不動産
     (中略)
    3 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
    4 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。

   イ (行政財産の管理及び処分)
    第238条の4 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
     (中略)
    7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる
     (中略)
    9 第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。

   ウ (組合の種類及び設置)
    第284条 地方公共団体の組合は,一部事務組合,広域連合,全部事務組合及び役場事務組合とする。
    2 普通地方公共団体及び特別区は,(中略)その事務の一部を共同処理するため,その協議により規約を定め,都道府県の加入するものにあつては総務大臣,その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て,一部事務組合を設けることができる。(後略)

   エ (普通地方公共団体に関する規定の準用)
    第292条 地方公共団体の組合については,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,都道府県の加入するものにあつては都道府県に関する規定,市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあつては市に関する規定,その他のものにあつては町村に関する規定を準用する。

  (2) 港湾法
   ア (定義)
    第2条 この法律で「港湾管理者」とは,第2章第1節の規定により設立された港務局又は第33条の規定による地方公共団体をいう。
     (中略)
    5 この法律で「港湾施設」とは,港湾区域及び臨港地区内における第1号から第11号までに掲げる施設並びに港湾の利用又は管理に必要な第12号から第14号までに掲げる施設をいう。
     (中略)
     四 臨港交通施設 道路,駐車場,橋梁(りよう),鉄道,軌道,運河及びヘリポ―ト
      (中略)
    十一 港湾施設用地 前各号の施設の敷地
     (後略)

   イ (業務)
    第12条 港務局は,次の業務を行う。
     (中略)
    5 港務局は,国土交通省令で定めるところにより,その管理する港湾施設の概要を公示しなければならない。

   ウ (港湾管理者としての地方公共団体の決定等)
    第33条 関係地方公共団体は,港務局を設立しない港湾について,単独で港湾管理者となり,又は港湾管理者として地方自治法第284条第2項若しくは第3項の地方公共団体を設立することができる。
     (後略)

   エ (業務)
    第34条 港湾管理者としての地方公共団体の業務に関しては,第12条(中略)の規定を準用する。

  (3) 那覇港管理組合港湾施設管理条例(以下「本件管理条例」という。)
   ア (定義)
    第2条 この条例において「港湾施設」とは,港湾法(略)第12条第5項の規定に基づき公示された施設をいう。

   イ (使用許可)
    第3条 港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
    2 管理者は,前項の規定に基づいて許可をする場合には,条件を付することができる。
    (後略)

   ウ (目的外使用)
    第16条 港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる
    2 前項の使用期間は,1年以内とする。(後略)

  (4) 那覇港管理組合港湾施設管理条例施行規則
   ア (使用許可の手続)
    第2条 条例第3条第1項の規定により港湾施設の使用の許可を受けようとする者は,許可申請書を管理者に提出しなければならない。
    (後略)

   イ (継続使用)
    第4条 港湾施設を(中略)目的外使用している者が,許可期間満了後も引き続き使用しようとする場合には,当該期間満了15日前までに許可申請書を管理者に提出しなければならない。

○行政手続法
(審査基準)
第五条  行政庁は、審査基準を定めるものとする。
2  行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
3  行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。

(理由の提示)
第八条  行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2  前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。



【本判決】
第三
(2)行政財産の目的外使用許可の性質上、基準の設定公表の必要性は高い。

(3)目的外使用許可の審査基準の性質を考慮しても、設定公表を懈怠の正当事由とならない。

(4)行政手続法5条の趣旨
  8条理由の提示の趣旨
  →5条違反は、処分の取消事由になる。

**********判決全文***********

 主   文

 1 A組合管理者が原告に対し平成19年3月8日付けでしたA組合港湾施設の使用不許可処分を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
   主文と同旨

第2 事案の概要
   原告は,行政財産(港湾施設)である別紙物件目録1の各土地(以下「本件土地」という。)について,昭和63年に目的外使用の許可を受け,以後,これを継続して使用してきたが,平成19年3月に使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ,被告の管理者(以下「管理者」という。)は,同月8日付けでこれを不許可とする処分(以下「本件処分」という。)をした。
   本件は,原告が本件処分は行政手続法5条に反し違法であるなどとしてその取消しを求める事案である。
 1 本件に関わる各種規定
  (1) 地方自治法
   ア (公有財産の範囲及び分類)
    第238条 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(略)をいう。
     一 不動産
     (中略)
    3 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
    4 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。
   イ (行政財産の管理及び処分)
    第238条の4 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
     (中略)
    7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
     (中略)
    9 第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。
   ウ (組合の種類及び設置)
    第284条 地方公共団体の組合は,一部事務組合,広域連合,全部事務組合及び役場事務組合とする。
    2 普通地方公共団体及び特別区は,(中略)その事務の一部を共同処理するため,その協議により規約を定め,都道府県の加入するものにあつては総務大臣,その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て,一部事務組合を設けることができる。(後略)
   エ (普通地方公共団体に関する規定の準用)
    第292条 地方公共団体の組合については,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,都道府県の加入するものにあつては都道府県に関する規定,市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあつては市に関する規定,その他のものにあつては町村に関する規定を準用する。
  (2) 港湾法
   ア (定義)
    第2条 この法律で「港湾管理者」とは,第2章第1節の規定により設立された港務局又は第33条の規定による地方公共団体をいう。
     (中略)
    5 この法律で「港湾施設」とは,港湾区域及び臨港地区内における第1号から第11号までに掲げる施設並びに港湾の利用又は管理に必要な第12号から第14号までに掲げる施設をいう。
     (中略)
     四 臨港交通施設 道路,駐車場,橋梁(りよう),鉄道,軌道,運河及びヘリポ―ト
      (中略)
    十一 港湾施設用地 前各号の施設の敷地
     (後略)
   イ (業務)
    第12条 港務局は,次の業務を行う。
     (中略)
    5 港務局は,国土交通省令で定めるところにより,その管理する港湾施設の概要を公示しなければならない。
   ウ (港湾管理者としての地方公共団体の決定等)
    第33条 関係地方公共団体は,港務局を設立しない港湾について,単独で港湾管理者となり,又は港湾管理者として地方自治法第284条第2項若しくは第3項の地方公共団体を設立することができる。
     (後略)
   エ (業務)
    第34条 港湾管理者としての地方公共団体の業務に関しては,第12条(中略)の規定を準用する。
  (3) 那覇港管理組合港湾施設管理条例(以下「本件管理条例」という。)
   ア (定義)
    第2条 この条例において「港湾施設」とは,港湾法(略)第12条第5項の規定に基づき公示された施設をいう。
   イ (使用許可)
    第3条 港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
    2 管理者は,前項の規定に基づいて許可をする場合には,条件を付することができる。
    (後略)
   ウ (目的外使用)
    第16条 港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。
    2 前項の使用期間は,1年以内とする。(後略)
  (4) 那覇港管理組合港湾施設管理条例施行規則
   ア (使用許可の手続)
    第2条 条例第3条第1項の規定により港湾施設の使用の許可を受けようとする者は,許可申請書を管理者に提出しなければならない。
    (後略)
   イ (継続使用)
    第4条 港湾施設を(中略)目的外使用している者が,許可期間満了後も引き続き使用しようとする場合には,当該期間満了15日前までに許可申請書を管理者に提出しなければならない。
 2 争いのない事実等(証拠を挙げていない事実は,当事者間に争いがない。)
  (1) 当事者
   ア 原告は,冷凍農畜水産物及び冷凍食品の保管業等を目的とする株式会社である。
   イ 被告は,地方自治法284条2項,港湾法33条に基づき,沖縄県,那覇市及び浦添市により港湾管理者として設けられた一部事務組合である。
  (2) 事実経過
   ア 原告は,昭和27年に那覇市α×番37号(以下「旧本店所在地」という。)において,冷凍倉庫業等を営んでいたところ,施設の老朽化に伴い,新たな冷凍倉庫を建築することを計画していた。
     ところが,那覇市が同所付近において道路計画を策定していたため,原告は同所において新たな施設を建設することができなかった。
   イ 原告は,昭和61年,新たに冷凍倉庫を建築するための土地(以下「別件土地」という。)を選定し,同土地への移転の準備を進めた。
     他方,那覇市は,同市β地区の区画整理事業に伴い,同地区内に社屋を有していたB株式会社(以下「B」という。)との間で,別件土地を同社の移転先とする移転交渉を行っていた。
     原告と那覇市は,原告の移転先についても交渉を行ったが,結局,原告は,別件土地への移転を断念した(その理由については争いがある。)。
   ウ その後,那覇市は,昭和63年,原告に対し,原告の現在の本店所在地(以下「現本店所在地」という。)の土地を賃貸し,原告は同所に移転した。
     また,原告は,昭和63年から平成18年3月31日までの間,現本店所在地に隣接する那覇市の所有する行政財産(港湾施設)である本件土地を目的外使用の許可を得て使用してきた。
     なお,本件土地の所在地は,当初別紙物件目録2のとおりであったが,その後,別紙物件目録1のとおり変更された。
   エ この間,那覇市は,沖縄県及び浦添市とともに,被告を設け,被告は,那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した(弁論の全趣旨)。
   オ 原告は,平成18年2月15日ころ,管理者に対し,本件土地について,同年4月1日以降の目的外使用(継続使用)の許可申請をしたところ,管理者は,同年3月22日ころ,原告に対し,平成18年4月1日から本件土地を本来の使用目的である公共用道路として使用するので,同年3月31日までに原状回復して引き渡すよう通知した。さらに管理者は,同月27日ころ,書面で,原告に対し,上記申請を不許可とする処分(以下「18年処分」という。)をした。この書面には,原告の前記申請について,「不許可とする。」とするのみで,不許可とする理由についても,行政事件訴訟法46条所定の手続教示もまったく記載されていなかった。
   カ(ア) 原告は,那覇地方裁判所に対し,平成18年9月5日,18年処分の取消しを求める訴えを提起した(甲5)。
    (イ) 那覇地方裁判所は,平成19年2月27日,18年処分は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するとした上で,沖縄県が加入した一部事務組合である被告にも地方自治法292条により都道府県に関する規定が準用され,18年処分についても行政手続法8条等の適用があるところ,18年処分においてはその理由がまったく提示されておらず,18年処分が行政手続法8条等に違反することは明らかであるとして,18年処分を取り消す旨の判決を言い渡した(甲6)。そして,同判決は平成19年3月14日に確定した(甲7)。
   キ 原告は,管理者に対し,平成19年3月5日ころ,本件土地につき港湾施設の使用許可申請(本件申請)を行った(甲1)。
   ク 管理者は,原告に対し,同月8日付けで本件申請を不許可とする処分(本件処分)を行った。
     そして,管理者は,同月9日,原告に対し,本件申請を不許可とする旨及び行政事件訴訟法46条所定の手続教示を記載した「A組合港湾施設使用許可申請について(通知)」と題する書面を送付し,同書面は同月12日に原告に到達したが,同書面中には,処分の理由として,「当管理組合が貴社に対して,地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は,本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが,今般,当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い,当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが進入する道路として,本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」と記載されていた(甲1)。
     また,管理者は,同年3月8日ころ,原告に対し,同月31日までに本件土地を原状回復した上で被告に返還するよう求める旨の通知を再度行い,同通知は同月12日,原告に到達した(甲2)。
   シ 原告は,本件処分後,被告が本件土地の賃料(月額10万1709円)の受領を拒否することが明らかであるとして,平成19年4月分から平成19年7月分までの賃料を供託した(甲3の1ないし4)。

 3 争点及び争点に関する当事者双方の主張
  (1) 争点1(本件処分は,行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法かなど)について
   (原告の主張)
    本件処分には行政手続法が適用されるところ,管理者は,本件処分当時,行政財産である港湾施設の使用許可又は不許可(以下「使用許可等」という。)について審査基準を設けておらず,その公表もしていなかったから,本件処分は行政手続法5条に違反する。このように,行政手続法の規定する重要な手続を履践しないで行われた行政処分は,当該申請が不適法なものであることが一見して明白であるなどの特段の事情ある場合を除き,行政手続法に違反する違法な処分として,当然に取り消されるべきである。

   (被告の主張)
    否認又は争う。
    被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について審査基準を定めていなかったことは認める。
    しかし,当該許認可等の性質に照らし,法令の定めのみによって判断することができる場合には,別に審査基準を定めることを要しないところ,行政財産の目的外使用の許可のように行政庁に広範な裁量が認められており,その判断基準が,個々の事案に応じた適切な判断ができる程度に法令により定められているときには,別に審査基準を設定することを要しない。
    すなわち,当該行政財産(本件土地)についての目的外使用が本来の使用目的を害しないか否か,換言すれば,道路として将来使用する目的を妨げることになるか否かの判断は,被告の広い裁量に委ねられており,申請者にとっても,本件土地が将来道路として使用されることが妨げられるか否かを予見することは容易である。そうすると,本件土地に係る目的外使用の許可処分の性質上,地方自治法238条の4第7項の定めがあるのみであっても,判断基準としては十分であって,別に審査基準を設定する必要はない。したがって,地方自治法238条の4第7項の基準に基づいてされた本件処分は行政手続法5条1項及び2項に反しない。
    なお,地方自治法238条の4第7項は当然,一般国民に対して公開されているものである。
    仮に,本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできない。

  (2) 争点2(本件処分は,管理者の裁量権の濫用,逸脱があることにより違法か)
   (原告の主張)
   ア 次のイないしエの各事情にかんがみると,本件処分には裁量権の逸脱,濫用があり,違法であるので,取り消されるべきである。

   イ 原告は,旧本店所在地において使用していた施設の老朽化に伴い,同所に新たに冷凍倉庫を建築することを計画していたが,那覇市が昭和31年に道路計画を策定していたため,同所における新たな施設の建設を断念した。原告は,昭和61年,新たな冷凍倉庫を建築するために別件土地を確保し,設計料等に2000万円を支出して同所における新たな冷凍倉庫の設計を完了し,建築許可を得て,同所への移転の準備を進めた。
     しかし,那覇市は,争いのない事実等(2)イのとおり,Bとの間で,別件土地を区画整理事業における同社の移転先とする交渉を行っており,原告に対し,別件土地を譲渡するよう要請した。そこで,原告は,那覇市の指導に従い,同土地を上記会社に譲渡したので,原告が出捐した上記2000万円は,すべて無駄になった。
     原告は,昭和63年,那覇市から,別件土地の代替地として,現本店所在地を提示された。これに対し,原告は,同土地が狭小であったことから難色を示したところ,那覇市は,現本店所在地に隣接する西側海面が埋立予定地であるが,埋立ては相当な期間完了せず,それまでは道路として使用できないので,埋立工事が完了するまでは本件土地の使用を認めると約束して,原告に対し,上記提示を受け入れるよう要請した。原告は,那覇市に対し,埋立完了後直ちに明渡しを求められるのは困る旨述べたが,同市は,隣接する新たな埋立地を代替地として取得すれば良いと回答したので,原告は,那覇市との間で,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件として移転する合意をし,現本店所在地に移転した。そして,原告は,上記条件が履行されることを前提として,本件土地上に機材置場及び従業員用更衣室を建築し,地下に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源設備を埋設し,本件土地上にアスファルトを敷いて本件土地を使用していた。那覇市は,このことを事実上黙認し,原告は,現在まで約18年間,本件土地を保税蔵置場として使用している。
     那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した被告の管理者は,現在も埋立予定地の埋立てはされていないにもかかわらず,本件土地の使用について不許可処分(18年処分及び本件処分)をしたが,これは原告と那覇市との上記合意に反するものである。被告は那覇市から本件土地の管理を移管されたのであるから,被告も当然この合意を遵守すべき立場にある。

   ウ また,本件土地は,西側が海岸に面した行き止まりの土地である上,道路建設予定地にすぎず,埋立工事が完了し又は着工して初めて道路としての機能を有するものである。現在は埋立工事の着工すらされていないから,道路としての機能を有するものではなく,本件土地を道路として使用する必要性はない。

   エ さらに,原告は,現在,本件土地に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源施設を埋設しているため,本件土地には,常時,保税の大型冷凍コンテナが出入りし,冷凍コンテナが不在のときは,荷役資材200ないし300台を保管し,その余のスペースがある場合は営業用の4トントラック,軽自動車等11台の自動車が頻繁に出入りしている。
     仮に,原告が,今後,本件土地を使用することができず,本件土地を原状回復した上,返還しなければならないとすると,本件土地に埋設した物,建物及び資材の撤去費用に限っても多額の費用を必要とするのみならず,本件土地を保税蔵置場として使用できなくなるため,収入が極端に減少するなど,原告の存亡にかかわる重大な損害が生じる。

   (被告の主張)
    否認又は争う。
   ア 那覇市が原告を指導して原告が確保していた移転用地をBに譲渡させ,那覇市が原告に対し代替地を提示し,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件とする合意をしたとの原告の主張は否認する。
     原告は,那覇市がBとの間で区画整理事業に伴う同社の移転先として交渉を進めていた那覇市所有の別件土地について,原告の傍系会社であるD株式会社(以下「D」という。)が同土地を借用している以上,同社から転借すればよいと誤解し,那覇市から土地の使用許可を得ることなく独自に移転準備を進めたものにすぎない。その後,原告,那覇市,D及びBとの間で話し合いを重ね,原告の移転用地については,Bの用地問題が解決した後に処理することとされた。そして,原告は,昭和63年8月,Bの用地問題が解決したので,那覇市に対し移転用地問題の解決を要請し,那覇市は,同年10月,原告に対し,現本店所在地を提供したものであり,那覇市が原告の移転用地を譲渡させた際に代替地として現本店所在地を提供したものではない。

   イ 那覇市は,原告に対し,本件土地を道路として使用する必要性が少なかったから使用許可をしたが,その後,地域に多数の会社が立地し,交通事情が変化し,本件土地の道路としての必要性が増大した。また,本件土地の本来の使用目的は道路であり,道路として使用する必要性が生じた以上,道路として使用するのは当然である。

第3 判断
 1 争点1(本件処分は,行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法かなど)について
  (1) 被告は,沖縄県が加入した一部事務組合であるから,地方自治法292条により,都道府県に関する規定が準用され,被告にも行政手続法が適用される。また,被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について,審査基準を設定していなかったことは当事者間に争いがない。

  (2) 行政手続法5条1項は,「行政庁は,審査基準を定める。」として,行政庁に対し,審査基準,すなわち,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」(行政手続法2条8号ロ)を設定することを義務づけており,同条2項は,「審査基準を定めるに当たっては,当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」としている。また,同条3項は,「行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」として,審査基準の公表を義務づけている。
    以上の行政手続法5条の各規定は,行政庁に対し,できる限り具体的な審査基準の設定とその公表を義務づけ,行政庁に上記審査基準に従った判断を行わせることにより,行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,申請者の予測可能性を保障し,また不服の申立てに便宜を与えることにより,不公正な取扱いがされることを防止する趣旨のものであると解されるから,行政庁が判断の前提となる審査基準の設定とその公表を懈怠して,許認可等をすることは許されないと解するのが相当である。
    とりわけ,行政財産は,「普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産」(地方自治法238条4項)であって,その例外となる目的外使用の許可等については,特定の者に不当な利益を与えたり,又は特定の者が不当な不利益を受けたりすることがないようにするため,行政庁の恣意を排し,不公正な取扱いがされることを防止する必要が高く,審査基準の設定とその公表の必要性は高いというべきである。
    しかるに,上記のとおり,被告は本件処分当時,行政財産(港湾施設)の使用許可等について審査基準を設定しておらず,このため,これを公表することもなかったものであるから,本件処分は行政手続法5条に反するものであり,その取消しを免れないというべきである。

  (3) 被告は,行政財産の目的外使用の許可等については,地方自治法238条の4第7項の定めだけで判断することができ,別に審査基準を設定する必要はない旨主張する。
    しかしながら,上記のとおり,行政手続法5条にいう審査基準とは,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」であって,しかも,当該審査基準は,「当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」(行政手続法5条2項)ものである。そして,地方自治法238条の4第7項は,行政財産の目的外使用について,「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」との抽象的な定めをしているにすぎないのであって,本件管理条例も,「港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。」としているにすぎない。
    したがって,行政庁である管理者は,いかなる審査基準により,港湾施設の使用許可等を決定しているのかを,行政財産の目的外使用の許可等の性質に照らして,できる限り具体的な基準を定めなければならないというべきである。もとより,行政庁が行政財産の目的外使用の許可又は不許可を決定するに当たっては,様々な要素を考慮する必要のある場合も当然想定されるのであって,その性質上,行政庁の裁量を相当程度認める抽象的な基準を設定することにならざるを得ないと考えられるが,このことは,審査基準の設定とその公表を懈怠することを何ら正当化するものではない。
    なお,弁論の全趣旨によれば,沖縄県も,行政財産の目的外使用の許可等について行政手続法5条に定める審査基準を設定していなかったことが認められ,被告が上記審査基準を設定していなかったのも,その影響を受けたためと考えられる。しかしながら,被告の調査結果(乙1)によれば,滋賀県,兵庫県,愛媛県,三重県,大阪市,仙台市及び千葉県のうち,千葉県以外の地方公共団体は,上記審査基準を設定しており,千葉県がこれを設定していないのは,「条例又は規則において判断基準が言い尽くされているので,審査基準の設定が不要であるため」というのであるから,沖縄県が上記審査基準を設定していなかったことをもって,被告がこれを設定しないことが正当化されるということはできない。
    よって,被告の上記主張は採用することができない。

  (4) また,被告は,仮に本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできないと主張する。
    しかしながら,行政手続法5条の趣旨は前記(2)のとおりであるところ,「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」(行政手続法8条)のであって,この理由の提示が同法5条の審査基準の存在を前提とするものであることは明らかである。そして,法令上,理由の提示が必要とされる場合において,理由の提示は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであるから,理由の提示を欠く場合には,処分自体の取消しを免れないと解するのが相当である(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)が,その前提となる審査基準の設定とその公表を欠いてされた処分もまた,同様の趣旨により審査基準の設定とその公表を義務付けた行政手続法5条の規定に反するものであり,処分自体の取消しを免れないというべきである。
    よって,被告の上記主張も採用することはできない。

 2 以上のとおり,原告の請求は,争点2について判断するまでもなく,理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
    那覇地方裁判所民事第2部
        裁判長裁判官  大野和明
           裁判官  田邉 実
           裁判官  小西圭一
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取消判決や無効確認判決なしでも行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求ができる例。

2012-04-30 02:25:29 | シチズンシップ教育
 行政処分には、公定力があります。
 公定力とは、「特定の機関が特定の手続によって取り消す場合を除き、いっさいのものは、一度なされた行政行為に拘束される。」ということです。

 別のいいかたをすれば、「違法な行政行為も取り消されるまでは原則として有効である。」ということです。

 行政行為は、民法上の法律行為とちがって、それ自体がまず抗告訴訟などの手続によって取り消されて、はじめて、民事裁判を起こすことが可能になり、二重の手間がかかることになるのが、一般的です。

 ところが、以下の行政訴訟では、違法な行政処分を理由として、直接国家賠償ができることを示しています。



【事件の概要】
名古屋市長は、昭和55年度以降、法人Xの所有する倉庫が一般用倉庫に該当する物と評価してその登録価格を決定し、同市港区長は、同62年度から平成13年度まで、これに基づいて、本件倉庫に対する固定資産税及び都市計画税の賦課決定を行った。

Xは、賦課決定通り税額を納付。

ところが、同区長は、平成18年に至って、本件倉庫がより評価額の低い冷凍倉庫等に該当すると評価を改めたうえ、同14年度から18年度までの登録価格を修正した旨をXに通知し、これら各年度に係る固定資産税等の減額更正を行った。

Xは、平成14年度から同17年度までの固定資産税等について、納付済み税額と更正後税額の差額として389万9000円を還付された。

地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。都市計画税の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による。



【参照法令】
地方税法410条1項固定資産税の価格決定:市町村長は、前条第四項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年三月三十一日までに決定しなければならない。

→411条課税台帳登録:市町村長は、前条第一項の規定によつて固定資産の価格等を決定した場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない。

432条1項登録価格の不服申し立て:固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後六十日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後六十日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後六十日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から六十日以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない。

→434条2項審査決定取消訴訟:行政不服審査法第十条 から第十三条 まで、第十四条第一項ただし書、第二項及び第四項並びに第二十一条の規定は、前項の審査の申出の手続について準用する。

17条の5 2項5年経過後は取り消し変更できず過納金還付もできない。: 地方税の課税標準若しくは税額を減少させる更正若しくは賦課決定又は加算金の額を減少させる加算金の決定は、前項の規定にかかわらず、法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日まですることができる。

18条の3還付請求事項5年(固定資産税台帳保存期間は10年。):地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権(以下第二十条の九において「還付金に係る債権」という。)は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する。


【訴訟選択と争点】
昭和62年~平成13年度の過納金を取り戻すにはどのような救済手続によるべきか。


【選択された訴訟】
国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求


【本判決法廷意見】
5(1)・地方税法435条1項の手続審査申出制度は、価格修正手続で国賠責任を否定する根拠にはならない。
・ 金銭納付を直接の目的とした行政処分の場合、結果的に処分を取り消した場合と同様の経済効果が得られることになっても昭和36年判例法理が及ぶ。
・ 他に国賠を否定する根拠規定はない。

宮川光治補足意見
抗告訴訟と国賠請求とは、行政救済のための別個独立の手段。国賠請求は憲法17条を淵源とする制度であるから、法律上根拠なぢに、金銭給付・徴収処分について早期安定を優先させる理由はない。

金築誠志補足意見
1地方税法434条2項の排他的な短期間の前置手続を「登録価格の修正手続」と限定理解し、国賠請求で不服申立手続をとれなかった者を救済するべき。
2(1)職務行為基準説を採ると違法性判断をことにする。
(2)国賠請求では立証責任は原告にある。


【本判決の位置づけ】
課税処分についても最判36年法理(取消判決や無効確認判決を得ていなくても行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求はできる。)が適用される積極説を、最高裁として初めてとった。

【最高(二小)判昭36.4.21】:
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。」



********判決文全文*********
 主   文

 原判決を破棄する。
 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人河内尚明ほかの上告受理申立て理由について
 以下に摘示する地方税法及び固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)の規定ないし定めは,特に断りのない限り現行のものをいう。なお,昭和62年1月1日から平成18年12月31日までの間に施行された地方税法及び評価基準の改正の経緯については,説示に影響しないことから,その記述を省略する。
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を所有し,その固定資産税等を納付してきた上告人が,昭和62年度から平成13年度までの各賦課決定の前提となる価格の決定には本件倉庫の評価を誤った違法があり,上記のような評価の誤りについて過失が認められると主張して,所定の不服申立手続を経ることなく,被上告人を相手に,国家賠償法1条1項に基づき,上記各年度に係る固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償等を求めている事案である。
 2(1) 地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。なお,都市計画税(平成19年法律第4号による改正前の702条2項によれば,その課税標準である土地又は家屋の価格は,当該土地又は家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格である。)の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による(702条の8(平成5年法律第4号による改正前は702条の7)第2項)。
 (2) 市町村長は,原則として,評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないところ(地方税法403条1項,388条1項),評価基準は,木造家屋以外の家屋の損耗の状況による減点補正率を,原則として,非木造家屋経年減点補正率基準表(評価基準別表第13)によって求めるものとしている(第2章第3節五(ただし,平成12年自治省告示第12号による改正前においては同節三))。そして,平成20年総務省告示第680号による改正前の同表の7は,工場,倉庫,発電所,変電所,停車場及び車庫用建物について用途別に区分して経年減点補正率(家屋の構造区分に従い,通常の維持管理を行うものとした場合にその年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎とする減点補正率をいう。)を定めているところ,これを適用すると,一般用の倉庫等は,冷凍倉庫用の建物や塩素その他の著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受ける建物等(以下「冷凍倉庫等」という。)よりも高く評価されることになっている。
 3 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 平成18年度に至るまで,本件倉庫は,一般用の倉庫に該当することを前提にして評価され,昭和62年度から平成13年度までのその価格並びに固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」と総称する。)の税額は,第1審判決別表2の「実際の評価額及び税額」欄記載のとおり決定された(以下,これらの決定を併せて「本件各決定」という。)。上告人は,本件各決定に従って固定資産税等を納付してきた。
 (2) 名古屋市長から固定資産税等の賦課徴収に関し権限の委任を受けていた名古屋市港区長は,平成18年5月26日付けで,上告人に対し,本件倉庫が冷凍倉庫等に該当するとして,平成14年度から同18年度までの登録価格を修正した旨を通知した上,上記各年度に係る本件倉庫の固定資産税等の減額更正をした。その後,上告人は,同14年度から同17年度までの固定資産税等につき,納付済み税額と上記更正後税額との差額として389万9000円を還付された。
 (3) 上告人は,本件訴えの提起に至るまで,本件倉庫の登録価格に関し,固定資産評価審査委員会に対する審査の申出を行ったことはない。
 4 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求を許容することは,当該固定資産に係る価格の決定又はこれを前提とする当該固定資産税等の賦課決定に無効事由がある場合は別として,実質的に,課税処分を取り消すことなく過納金の還付を請求することを認めたのと同一の効果を生じ,課税処分や登録価格の不服申立方法及び期間を制限してその早期確定を図った地方税法の趣旨を潜脱するばかりか,課税処分の公定力をも実質的に否定することになって妥当ではない。そして,評価基準別表第13の7の冷凍倉庫等に係る定めが一義的なものではないことなどに照らすと,本件各決定に無効とすべき程度の瑕疵はない。
 (2) なお,評価事務上の物理的,時間的な制約等を考慮すれば,地方税法408条所定の実地調査は,特段の事情のない限り,外観上固定資産の利用状況等を確認し,変化があった場合にこれを認識する程度のもので足りるところ,本件においてそのような特段の事情があったといえるような事実がうかがわれないことなどからすれば,本件各決定が過失に基づいてされたということもできない。

 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と定めており,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは,当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。前記のとおり,地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。
 原審は,国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額に係る損害賠償請求を許容することは課税処分の公定力を実質的に否定することになり妥当ではないともいうが,行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない(最高裁昭和35年(オ)第248号同36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁参照)。このことは,当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており,その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば,結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。
 そして,他に,違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い。
 したがって,たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。
 (2) また,記録によれば,本件倉庫の設計図に「冷蔵室(-30℃)」との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ,これらの事情に照らすと,原判決が説示するような理由だけでは,本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。

 6 以上と異なる見解の下に,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各決定に際し本件倉庫を一般用の倉庫として評価したことは名古屋市長が上告人に対する職務上の法的義務に違背した結果といえるか否か,仮に違背していたとする場合における上告人の損害額等の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治,同金築誠志の各補足意見がある。

 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
 行政救済制度としては,違法な行政行為の効力を争いその取消し等を求めるものとして行政上の不服申立手続及び抗告訴訟があり,違法な公権力の行使の結果生じた損害をてん補するものとして国家賠償法1条1項による国家賠償請求がある。両者はその目的・要件・効果を異にしており,別個独立の手段として,あいまって行政救済を完全なものとしていると理解することができる。後者は,憲法17条を淵源とする制度であって歴史的意義を有し,被害者を実効的に救済する機能のみならず制裁的機能及び将来の違法行為を抑止するという機能を有している。このように公務員の不法行為について国又は公共団体が損害賠償責任を負うという憲法上の原則及び国家賠償請求が果たすべき機能をも考えると,違法な行政処分により被った損害について国家賠償請求をするに際しては,あらかじめ当該行政処分についての取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないというべきである。この理は,金銭の徴収や給付を目的とする行政処分についても同じであって,これらについてのみ,法律関係を早期に安定させる利益を優先させなければならないという理由はない。原審は,前記のとおり,固定資産税等の賦課決定のような行政処分については,過納金相当額を損害とする国家賠償請求を許容すると,実質的に課税処分の取消訴訟と同一の効果を生じさせることとなって,課税処分等の不服申立方法・期間を制限した趣旨を潜脱することになり,課税処分の公定力をも否定することになる等として,課税処分に無効原因がない場合は,それが適法に取り消されない限り,国家賠償請求をすることは許されないとしている。しかしながら,効果を同じくするのは課税処分が金銭の徴収を目的とする行政処分であるからにすぎず,課税処分の公定力と整合させるために法律上の根拠なくそのように異なった取扱いをすることは,相当でないと思われる。

 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 1 行政処分が違法であることを理由とする取消訴訟と,違法な行政処分により損害を受けたことを理由とする国家賠償訴訟とでは,制度の趣旨・目的を異にし,公定力も処分要件の存否までは及ばないから,一般的には,取消判決を経なければ国家賠償訴訟を提起できないとか,取消訴訟の出訴期間を徒過したときはもはや国家賠償請求はできないなどと解すべき理由はない。しかし,課税処分のように,行政目的が専ら金銭の徴収に係り,その違法を理由とする取消訴訟と国家賠償訴訟の勝訴判決の効果が実質的に変わらない行政処分については,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,不服申立前置の意義が失われるおそれがあるばかりでなく,国家賠償訴訟を提起することができる間は実質的に取消訴訟を提起することができるのと同様になって,取消訴訟の出訴期間を定めた意味がなくなってしまうのではないかという問題点があることは否定できない。
 このうち不服申立前置との関係については,固定資産の価格評価は,法的な側面,経済的な側面,技術的な側面等,専門的判断を要する部分が多く,専門的・中立的機関によって審査するにふさわしい事柄であり,また,大量の同種処分が行われるものであるから,固定資産評価審査委員会の審査に強い効力を与えて,その早期確定を図ることは合理的と考えられ,国家賠償訴訟によって同委員会の審査が潜脱されてしまうのは不当であるように見える。しかし,こうした問題は,取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり,同委員会を特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はないし,固定資産課税台帳に登録された価格の修正を求める手続限りの不服申立前置であっても制度的意義を失うものではないから,不服申立てを経ない国家賠償請求を否定する十分な理由になるとはいえない。特に,賦課課税方式を採用する固定資産税等の場合,申告納税方式と異なり,納税者にとってその税額計算の基礎となる登録価格の評価が過大であるか否かは直ちには判明しない場合も多いと考えられるところ,前記のとおり,審査の申出は比較的短期間の間に行わなければならないものとされているため,上記期間の経過後は国家賠償訴訟による損害の回復も求め得ないというのでは,納税者にとっていささか酷というべきである。本件各決定のように,市町村内の他の家屋の登録価格等を参照することができるような手続(地方税法416条1項)が設けられていなかった時期に賦課されたものに関してはなおさらである。
 2 取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,取消訴訟の出訴期間を延長したのと同様の結果になるかどうかは,取消しと国家賠償との間で,認容される要件に実質的な差異があるかどうかの問題である。
 (1) まず,国家賠償においては,取消しと異なり故意過失が要求され,また,その違法性判断について当裁判所の判例(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等)はいわゆる職務行為基準説を採っているから,この点でも要件に差異があることになる。もっとも,こうした要件上の差異が,実際上どの程度の結果の違いをもたらし得るかについては,見方の分かれるところかもしれない。しかし,取消しが認められても国家賠償は認められない場合があり得るということだけは,間違いなくいい得る。
 (2) 固定資産税の課税物件は膨大な数に上り,その調査資料を長期にわたって保存しておくことが困難な場合もあるのではないかと思われるので,課税処分から長期間が経過しても国家賠償請求ができるとした場合,立証責任の問題は,より重要かもしれない。
 課税処分の取消訴訟においては,原則的に,課税要件を充足する事実を課税主体側で立証する責任があると解すべきであるから,本件固定資産税についても,一般用倉庫として経年減点補正率を適用して評価課税する以上,本件倉庫が冷凍倉庫用のものではなく,一般用のものであることについて,課税主体である被上告人側に立証責任があることになる。これに対し,国家賠償訴訟においては,違法性を積極的に根拠付ける事実については請求者側に立証責任があるから,本件倉庫が一般用のものではなく,冷凍倉庫用のものであることを請求者である上告人側が立証しなければならないと解される。上告人側が同事実を立証することは,損害額を明らかにするためにも必要である。立証責任について,課税処分一般におおむねこうした分配振りになるとすれば,課税処分から長期間が経過した後に国家賠償訴訟が提起されたとしても,課税主体側が立証上困難な立場に置かれるという事態は生じないと思われる。
 3 以上のとおり,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めたとしても,不服申立前置の意義が失われるものではなく,取消訴訟の出訴期間を定めた意義が没却されてしまうという事態にもならないものと考える。

(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
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