多々言われているところと思います。学説では、深い考察がなされているのかもしれません。
ただ、初学者としてもひっかかるところであり、記載します。
詐欺の場合、引き続きの取引の第三者を保護する規定があります。
だまされている訳であり、その契約の本人は、保護されてしかるべきで、その契約は取り消すことができます(96条1項)。
その一方、第三者の取引の安全も保護されています(96条3項、下線部分)。
******民法96条******
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
*****************
ところが、錯誤の場合には、言うなれば、本人のうっかりミスで契約がなされ、そのうっかりの場合でも、本人保護ゆえ、契約は無効になります(95条)。
引き続きの取引の第三者は、ある意味、たまったものではありません。
本人のうっかりミスで、攻められるべきは、本人。詐欺と比較すれば、何倍も、本人の責任が大きいです。
なのに、第三者の取引の安全を保護する規定が設けられていないのです。
錯誤の条文は、95条はひとつであり、96条のように三項もありません。
******民法95条******
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
*****************
イメージとして、私は、保護すべき力関係は、
詐欺でだまされた人の権利の保護 ≧ 引き続きの取引の第三者の保護 > 錯誤をおかした人の権利の保護
と思います。
だから、95条にも第三者保護の条文がほしかった…
96条とのバランスからも。
この点に関し、教科書 内田貴 著『民法 I』では、
*****引用****
(d)錯誤との関係
詐欺が偽罔(ぎもう)行為による錯誤であるなら、錯誤についての95条との関係はどのように考えるべきだろうか。仮に設例(II-23)で、土地がCに転売されてからAが錯誤による無効を主張したとしよう。95条には第三者についての規定がないから、Aは常にCから土地を取り戻せるのだろうか。しかし、それでは取引の安全を害する。そこで、Bのところに登記があってCがそれを信頼したことをとらえて、94条2項を類推適用する余地もある。しかし、Aが錯誤に気づいて無効を主張する前にBからCに転売されてしまった場合、AはBが権利者であるという外観を放置し承認したとはいえないから、94条2項の類推は困難だろう。
もちろん、それはそれでいいのだとも考えられる。つまり、Aが無効の主張をすることによりBははじめから無権利であったことになるのだから、無効主張前の転得者Cが保護されなくとも仕方がないともいえるからである。
しかし、仮にAB間の取引が詐欺で取り消されたとすると、善意(無過失)のCは保護される。そして、錯誤と詐欺を比べると、自分で勝手に勘違いした場合を想定している錯誤よりも他人に騙された詐欺の方が本人保護の要請が強いはずなのに、96条3項によって、逆に、表意者の保護が薄く(第三者の保護が厚く)なってしまう。これはアンバランスであろう。そこで、錯誤の場合にも、96条3項を類推して第三者保護を図るべきである。
このことは、同一の事案が錯誤と詐欺の双方に該当することが少なくないという事情からも支持されよう(詐欺が成立する場合でも、相手方を刺激しない錯誤が主張されることが少なくないといわれる。)
***********
結局、95条に錯誤の場合の第三者保護規定をおいていないことの理由が解決されませんでした。
96条3項類推を使うんだよ(厳密に言えば、無効主張前の第三者の場合)と、すんなりと済ませればよいのだけど、ひっかかってしまいました。