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「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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詐欺取引の場合より取引安全を保護すべき錯誤取引の第三者の保護規定が民法95条にないのは、なぜ?

2012-04-23 23:32:26 | シチズンシップ教育

 多々言われているところと思います。学説では、深い考察がなされているのかもしれません。

 ただ、初学者としてもひっかかるところであり、記載します。

 詐欺の場合、引き続きの取引の第三者を保護する規定があります。
 だまされている訳であり、その契約の本人は、保護されてしかるべきで、その契約は取り消すことができます(96条1項)。
 その一方、第三者の取引の安全も保護されています(96条3項、下線部分)。


******民法96条******
(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

*****************

 ところが、錯誤の場合には、言うなれば、本人のうっかりミスで契約がなされ、そのうっかりの場合でも、本人保護ゆえ、契約は無効になります(95条)。
 引き続きの取引の第三者は、ある意味、たまったものではありません。
 本人のうっかりミスで、攻められるべきは、本人。詐欺と比較すれば、何倍も、本人の責任が大きいです。
 なのに、第三者の取引の安全を保護する規定が設けられていないのです。
 錯誤の条文は、95条はひとつであり、96条のように三項もありません。


******民法95条******
(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

*****************

 イメージとして、私は、保護すべき力関係は、

 詐欺でだまされた人の権利の保護 ≧ 引き続きの取引の第三者の保護 > 錯誤をおかした人の権利の保護

 と思います。

 だから、95条にも第三者保護の条文がほしかった…
 96条とのバランスからも。


 この点に関し、教科書 内田貴 著『民法 I』では、

*****引用****

(d)錯誤との関係

 詐欺が偽罔(ぎもう)行為による錯誤であるなら、錯誤についての95条との関係はどのように考えるべきだろうか。仮に設例(II-23)で、土地がCに転売されてからAが錯誤による無効を主張したとしよう。95条には第三者についての規定がないから、Aは常にCから土地を取り戻せるのだろうか。しかし、それでは取引の安全を害する。そこで、Bのところに登記があってCがそれを信頼したことをとらえて、94条2項を類推適用する余地もある。しかし、Aが錯誤に気づいて無効を主張する前にBからCに転売されてしまった場合、AはBが権利者であるという外観を放置し承認したとはいえないから、94条2項の類推は困難だろう。
 もちろん、それはそれでいいのだとも考えられる。つまり、Aが無効の主張をすることによりBははじめから無権利であったことになるのだから、無効主張前の転得者Cが保護されなくとも仕方がないともいえるからである。
 
 しかし、仮にAB間の取引が詐欺で取り消されたとすると、善意(無過失)のCは保護される。そして、錯誤と詐欺を比べると、自分で勝手に勘違いした場合を想定している錯誤よりも他人に騙された詐欺の方が本人保護の要請が強いはずなのに、96条3項によって、逆に、表意者の保護が薄く(第三者の保護が厚く)なってしまう。これはアンバランスであろう。そこで、錯誤の場合にも、96条3項を類推して第三者保護を図るべきである。
 このことは、同一の事案が錯誤と詐欺の双方に該当することが少なくないという事情からも支持されよう(詐欺が成立する場合でも、相手方を刺激しない錯誤が主張されることが少なくないといわれる。)

***********

 結局、95条に錯誤の場合の第三者保護規定をおいていないことの理由が解決されませんでした。

 96条3項類推を使うんだよ(厳密に言えば、無効主張前の第三者の場合)と、すんなりと済ませればよいのだけど、ひっかかってしまいました。
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人に不注意に、不動産権利証、印鑑登録証明書、実印を渡したり、内容未確認の署名押印は絶対やめて!

2012-04-23 10:15:37 | シチズンシップ教育
 Xさんは、以下の経過のもと、自分の不動産だったものを、「自分のものだ。」とYさんに主張しましたが、最高裁(H18.2.23第一小法廷判決)は、その主張を認めませんでした。

 不動産は、ひとつしかなく、両立しえないXさんの権利と、Yさんの取引の安全とどちらかを立てるしかありません。(Aとの関係ではなく、無過失のYさんとの関係が問題になっています。)


 実際にそのようなことがあるのかと思われるかと思いますが、不動産取り引きは、なかなか分かりにくく、ついひとに頼ってしまいます。

 でも、不注意にしていると、大切な財産を失ってしまいます。


 どうか、みなさん、気をつけてください!



**********事件の概要********************


H8.1月 X(原告・控訴人・上告人)は、「本件不動産」買い受け、所有権移転登記
    (A紹介)

 本件不動産を、すべてAに依頼して第三者に賃貸
 (賃借人との交渉、契約書作成、敷金の授受。本件不動産管理の業者委託のため諸経費の名目240万円Aに交付)


H11.9月~H12.1月
 1)本件不動産の登記済証(不動産権利証) Aに預ける(上記240万円返還手続きのため必要と言われ)

 2)印鑑登録証明書4通  Aに交付(別件土地の所有権移転登記手続き、隣接地との合筆登記手続きに必要と言われ)

 3)本件不動産 4300万円 売買契約書署名押印(Aに売り渡す旨の契約書、売却の意思ないが、その内容及び使途を確認なく、Aから言われるままに署名押印)


H12.2.1 
 4)実印をAに渡す(別件土地 登記手続きに必要と言われ)
  Aがその場で、本件不動産の登記申請書に押印するのを漫然と見ていた。
 →この登記申請書、1)登記済証、2)印鑑登録証明書を用いて、同日、本件不動産につき、XからAへの同年1月31日売買を原因とする所有権移転登録手続き「本件登記」をした。


H12.3.23 Aは、Y(被告・被控訴人・被上告人)との間で本件不動産の売買契約締結
売買を原因とするY名義への所有権移転登記がなされた。
     (Yは、本件登記等からAが本件不動産の所有者であると無過失で信じていた。)


H15. Xが、本件不動産の所有権に基づきこの所有権移転登記の抹消登記手続をYに求める裁判提起。


****************************

 


 最高裁が、Xさんの主張を認めなかった理由。

******最高裁ホームページより********
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120744690649.pdf

    主     文

       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。

            理     由

 上告代理人河野浩,同千野博之の上告受理申立て理由1について

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,平成7年3月にその所有する土地を大分県土地開発公社の仲介
により日本道路公団に売却した際,同公社の職員である甲と知り合った。

 (2) 上告人は,平成8年1月11日ころ,甲の紹介により,Dから,第1審判
決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下,これらを併せて「本
件不動産」という。)を代金7300万円で買い受け,同月25日,Dから上告人
に対する所有権移転登記がされた。

 (3) 上告人は,甲に対し,本件不動産を第三者に賃貸するよう取り計らってほ
しいと依頼し,平成8年2月,言われるままに,業者に本件不動産の管理を委託す
るための諸経費の名目で240万円を甲に交付した。上告人は,甲の紹介により,
同年7月以降,本件不動産を第三者に賃貸したが,その際の賃借人との交渉,賃貸
借契約書の作成及び敷金等の授受は,すべて甲を介して行われた。

 (4) 上告人は,平成11年9月21日,甲から,上記240万円を返還する手
続をするので本件不動産の登記済証を預からせてほしいと言われ,これを甲に預け
た。
 また,上告人は,以前に購入し上告人への所有権移転登記がされないままになっ
ていた大分市大字a字b)c番dの土地(以下「c番dの土地」という。)につい
ても,甲に対し,所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していた
が,甲から,c番dの土地の登記手続に必要であると言われ,平成11年11月3
0日及び平成12年1月28日の2回にわたり,上告人の印鑑登録証明書各2通(
合計4通)を甲に交付した。
 なお,上告人が甲に本件不動産を代金4300万円で売り渡す旨の平成11年1
1月7日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が存在するが,これ
は,時期は明らかでないが,上告人が,その内容及び使途を確認することなく,本
件不動産を売却する意思がないのに甲から言われるままに署名押印して作成したも
のである。

 (5) 上告人は,平成12年2月1日,甲からc番dの土地の登記手続に必要で
あると言われて実印を渡し,甲がその場で所持していた本件不動産の登記申請書に
押印するのを漫然と見ていた。甲は,上告人から預かっていた本件不動産の登記済
証及び印鑑登録証明書並びに上記登記申請書を用いて,同日,本件不動産につき,
上告人から甲に対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続をした
(以下,この登記を「本件登記」という。)。

 (6) 甲は,平成12年3月23日,被上告人との間で,本件不動産を代金35
00万円で売り渡す旨の契約を締結し,これに基づき,同年4月5日,甲から被上
告人に対する所有権移転登記がされた。被上告人は,本件登記等から甲が本件不動
産の所有者であると信じ,かつ,そのように信ずることについて過失がなかった。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件不動産の所有権に基づき,甲から
被上告人に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案であり,原審は,民
法110条の類推適用により,被上告人が本件不動産の所有権を取得したと判断し
て,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 3 前記確定事実によれば,上告人は,甲に対し,本件不動産の賃貸に係る事務
及びc番dの土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが,そ
のために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もない
のに甲に預けて数か月間にわたってこれを放置し,甲からc番dの土地の登記手続
に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通を甲に交付し,本件不動産を
売却する意思がないのに甲の言うままに本件売買契約書に署名押印するなど,甲に
よって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかか
わらず,これを顧みることなく,さらに,本件登記がされた平成12年2月1日に
は,甲の言うままに実印を渡し,甲が上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請
書に押捺したのに,その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫
然とこれを見ていたというのである。【要旨】そうすると,甲が本件不動産の登記
済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件
登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為に
よるものであり,甲によって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについて
の上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知り
ながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである
。そして,
前記確定事実によれば,被上告人は,甲が所有者であるとの外観を信じ,また,そ
のように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項
,110条の類推適用により,上告人は,甲が本件不動産の所有権を取得していな
いことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。上
告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において正当であり,論旨
は理由がない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫
裁判官 泉 徳治 裁判官 才口千晴)
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