短編を読む その10

「みょうが斎の武術」
「侍はこわい」(司馬遼太郎 光文社 2005)

幕末の大阪。犬猫を師とする剣術の流派をたてた、けったいな浪人の恋と活躍をえがく。大阪弁の会話が愉しい。

「床兵衛稲荷」
(同上)

好色の道に生きる気儘人(きままじん)、猿霞堂庄兵衛(えんかどうしょうべえ)が天誅組とのいくさのどさくさにまぎれ、先年夫を亡くした大和高取藩の国家老の妻お婦以(ふい)と情を通じようと奮闘する。

「不信」
「予期せぬ結末 1」(ジョン・コリア 扶桑社 2013)

妻とその愛人による夫殺し。だが夫は生きており、思いがけない結末を迎える。語り口がユーモラス。

「豚吉とヒョロ子」
「夢野久作全集 1」(夢野久作 1992)

これは中編。むやみに太った豚吉と、たいそうヒョロ長いヒョロ子の夫婦が、並みの体形になろうと旅にでる。ナンセンスな珍道中。豚吉が意気地がないのが愉快。

「あのジョークを憶えているか、ハリー」(ジェイムズ・マクルーア)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

下町担当の警官が奇妙な殺人事件にでくわす。女性の部長刑事を筆頭に登場人がみな際立っており、シリーズ化できそうだ。

「パアテル・セルギウス」(レオ・トルストイ)
「諸国物語」

中編。武官のステパンはある令嬢と結婚の約束をしたが、その令嬢が陛下のお手付きだったことを知り僧院に入る。セルギウスという名前になり、山にこもり、世間からはなれて暮らすように。セルギウスには他から抜きんでたいという高慢さがあり、自身もそのこころに振りまわされる。映画「太陽は夜も輝く」の原作とのことだが、映画は未見。

「完全犯罪」
「予期せぬ結末 1」(ジョン・コリア 扶桑社 2013)

会員制のクラブで語られる、夫が妻に贈ったチョコレートによる完全犯罪の物語。ミステリのパロディ。絵本「こねこのチョコレート」を思い出した。

「階下(した)で待ってて!」
「アイリッシュ短編集 1」(ウィリアム・アイリッシュ 東京創元社 1986)

仕事帰りに、婚約者のアパートに荷物を届けにいった〈ぼく〉。階下で待っていたものの婚約者は降りてこない。部屋を訪ねてみると、そこは空き家になっていた。サスペンス小説。アイリッシュは冒頭の状況づくりが達者だ。

「どこかで聞いた名前」(マイクル・ギルバート)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

銀行強盗と警察の攻防をえがいた作品。前半は銀行の襲撃。後半はひと月ほど後、強盗たちが銀行の重役宅に押し入り、再度銀行からの強奪をこころみるという展開に。が、その計画は警察が察知していた。オチが秀逸。

「無月物語」
「無月物語」(久夫十蘭 社会思想社 1986)

院政期を舞台に、無法者の夫を、その妻と娘が殺すいきさつが書かれる。文体が緊密で、読むとくたびれる。スタンダールの「チェンチ一族」が種本だと解説で都築道夫が指摘している。


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