最近読んだ本いろいろ

本はたくさん読んでいるのだけれど、メモをとる時間がない。
本にも、メモをとりやすいものととりにくいものがあり、これらの本はメモをとりにくいものばかり。
また、メモをとるまでもないという本もある。

今回はそれらの本を並べてみました。

「蒸気駆動の少年」(ジョン・スラデック 河出書房新社 2008)
柳下毅一郎編。奇想コレクションの一冊。
これはメモをとりにくい本の筆頭。
スラデックはミステリ「見えないグリーン」(早川書房 1985)を面白く読んだおぼえがある。
ところが、この本はあまりにへんてこな小説が並んでいて、残念ながらついていけなかった。
自分の限界を思い知った次第。

作者は、あっというまにジャンルの臨界にまで達してしまうような思考のもち主だったらしく、すぐジャンルの約束事を茶化した作品を書いてしまう。
そこのところを面白いと思えるかどうかが勝負の分かれ目のよう。

収録作のなかでは、「教育用書籍の渡りに関する報告書」がいちばん気に入った。
ひとに読まれない本は寂しさのあまり空をとんで旅立ってしまうのだという掌編。
そのイメージには心を揺さぶられるものがある。
「お昼ごろ、かなり大きな群れがこの街の上空を通過するんですって」
なんていわれたら、なにはさておき見にいってしまうにちがいない。

「ノウサギの選択」(デニス・ハムリー 宮下嶺夫訳 評論社 1994)
これは児童書。
非常に凝った構成をしている。
まず、ノウサギが車にひかれるまでの話があり、その死体を子どもたちがみつける話があり、子どもたちがノウサギのためにつくった物語があり、ノウサギが選択をする話がある。

ストーリーは時系列でならんでいるから、わからなくなることはないけれど、児童書の限界に挑戦しているような、メタフィクショナルな構成。

しかも、ラストはオープン・エンディング。
ちょっとやりすぎなような気がしないでもない。
メタフィクションという手法は、物語とはどういうものかという問いかけのために用いるものだと思うけれど、それとラストの効果が相殺されてしまうような気がする。

子どもたちがつくった物語はとても面白い。
それが終わってもまだストーリーが続くことには驚かされた。

「 BA-BAHその他 」(橋本治 筑摩書房 2006)
短編集。
コラムの文体で人生の断片を切りとったような短篇が収録されている。
扱っている人物は老若男女と幅がひろい。
橋本さんは、世代や性別ごとの、幻滅のコレクションをしているようだ。

収録作で面白かったのは、なんといっても「組長のはまったガンダム」
息子のつきあいで観はじめた「ガンダム」に、やくざの組長がはまってしまうという話。
組長が、ガンダムの主人公アムロのことを「アムロさん」などと呼ぶのがやけにおかしい。
また、やくざ視点でみたガンダムのストーリーの要約もすこぶる興味深い。

この話は前後編で、後編のタイトルは「さらば、赤い彗星のシャア」
哀感漂う名品だ。
ガンダムの小説アンソロジーなどがあったら、ぜひ入れてほしい。

「もしもソクラテスに口説かれたら」(土屋賢二 岩波書店 2007)
「哲学塾」というシリーズの一冊。
ソクラテスの口説き文句を通して、こういうふうに口説かれたらあなたはどうするか、違和感を感じるとしたらそれはどんなところかなどを、土屋先生が学生と語りあっていく。
座談会形式なので読みやすい。
ソクラテスはひとのいうことに反駁を加えることばかりしたから、モテなかったろうなあと思った。

「ゾロアスター教」(青木健 講談社 2008)
講談社選書メチエの一冊。
ゾロアスター教の概説書。
とにかく、知らないことばかり。
いまも信者がいることすら知らなかった。
その発祥からイスラームに改宗していく過程ばかりでなく、ヨーロッパからみたゾロアスター幻想について1章もうけているのが嬉しい。

ゾロアスターと聞くと、すぐニーチェが思い浮かぶけれど、なぜニーチェがゾロアスターをもちだしたのかについては、「反哲学入門」(木田元 新潮社 2007)に面白いことが書いてあった。
ゾロアスター教は近親相姦を肯定した(それには教義と社会体制の組みあわせがあったそう)。
で、ニーチェも妹さんが好きで、それでゾロアスターをもちだしたのだ、というのが木田さんの説。
「反哲学入門」も、話しことばで書かれているので読みやすく、面白かった。


コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
やっぱり難しいですね (kazuou)
2008-05-17 08:15:14
「蒸気駆動の少年」は、僕もきつかったです。もしかしたら傑作なのかもしれないけど、傑作なのかどうかすらわからない「へんてこ」な作品ばかりでした。「教育用書籍の渡りに関する報告書」は、中ではわかりやすいし、本好きの琴線に触れる作品でしたね。

「反哲学入門」は面白かったです。かなりわかりやすく書かれてましたね。他の哲学関係の本もこれぐらいわかりやすくしてくれるといいんですけど。

「組長のはまったガンダム」がとても気になります。
 
 
 
そうなんですよね (タナカ)
2008-05-17 23:09:51
「蒸気駆動の少年」、kazuouさんでもきつかったですか。
ちょっと安心しました。
スラデックの発想自体はすごいと思うんですが。
この作者に発表の場があったというのもすごいなあと思いました。
現地の読書界のフトコロの深さを感じさせます。

「反哲学入門」は面白かったんですが、わかりやすいぶん、あっというまに内容を忘れてしまいました。
勝手な読者です。
でも、ソクラテスが猛者だったなんて話はおぼえてますね。
いずれ再読してメモをとりたい本です。

「組長のはまったガンダム」は、ちょっとでもガンダムを知っているひとなら面白く読めると思います。
橋本さんの短篇は、コラムっぽい感じがして、チャペックを思い出しました。
こちらの先入観のせいかもしれませんが。
なんだかよくわからない話があるところも似てるなあと思ったり。

ちなみに、後編の「さらば、赤い彗星のシャア」は、組長のつぎのセリフからはじまります。
「ニュータイプってなんだ?」


 
 
 
書評 (タナカ)
2008-06-15 23:22:55
山崎正和さんによる「ゾロアスター教」の書評がでたのでメモ。

http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20080615ddm015070010000c.html

みごとなまとめぶり。
そう、ゾロアスター教は終末思想や弥勒信仰を準備したらしい。

 
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