「本邦東西朝縁起覚書」「宇宙大密室」「北北東を警戒せよ」

「本邦東西朝縁起覚書」(小松左京 徳間書店 1984)

1973年に早川書房より刊行された本の再版。
短編集。
解説は土屋裕。
収録作は以下。

「召集令状」
「二〇一〇年八月一五日」
「新趣向」
「HE・BEA計画」
「極冠作戦」
「卑弥呼」
「本邦東西朝縁起覚書」

前にも書いたかもしれないけれど、ブログに感想を書くと、とり上げた著者に対して責任が生じたような気になって、なるべくその著者の作品を読まなくてはいけないような気持ちになる。
これはいいのか悪いのか。
小松左京さんの小説も、ブログに書かなければこんなに読むことはなかったろう。
小松さんの短編は、どれも機知に富んでいて、読みやすいのが助かる。
では、簡単に内容を紹介。

「召集令状」
フレドリック・ブラウンの「火星人ゴー・ホーム」のような、唯我論オチがつかわれている。
それが、ユーモラスではなく、苦い味わいになっているのが独特。

「二〇一〇年八月一五日」
2010年8月15日に、臨終を迎えようとしている男性の脳裏を横切った、1945年8月15日についての述懐をえがいた作品。
おそらく、作者の述懐でもあるかもしれない。

「もう、あの戦争のこと、あの終戦の日のことをとやかくあれこれいうやつもいまい。(中略)第二次大戦も、飢餓も、卑劣さも、口惜しさも、そんなことはさっさときえて行くにかぎる…」

たしかに最近は、だいぶあれこれいわなくなってきた気がする。

「新趣向」
この世界は、じつはだれかの作品なのではないかというパターンの話。
この作品では、じつはテレビなのではないかと登場人物に疑われている。

「HE・BEA計画」
格差是正のため、先進国の主要都市を核で爆破しようとする一派と、弱者切り捨てのため後進国に核ミサイルを撃ちこもうとする一派の暗闘に巻きこまれた〈ぼく〉の話。
最後に〈ぼく〉の正体が明かされてSFになる。

「極冠作戦」
温暖化で上昇した海面を、海上都市が移動する未来、月からきた〈ぼく〉は、温暖化を阻止するある作戦を披露する。
長編のスケッチのような作品。
温暖化のウンチクや、その対策としての大がかりな「極冠作戦」が楽しい。
温暖化をテーマにした作品としては、ずいぶん早いほうなのではないかと思うけれど、どうだろう。

「卑弥呼」
邪馬台国の謎を解くために、〈私〉が相棒とタイムマシンに乗って古代にいく話。
古代史ウンチク小説。
こういうウンチク小説を書かせると、小松左京は天下一品。
ラストはちゃんとタイムパラッドックスで終わる。

「本邦東西朝縁起覚書」
吉野の山奥から南朝の末裔が復活する話。
これもまたウンチク小説。
マスコミが大騒ぎをして、当初の登場人物たちはほったらかしになり、状況説明だけが続くという、いつものパターンだ。


続いて、都筑道夫の短編集――。
「宇宙大密室」(都筑道夫 早川書房 1974)
あとがきによれば、「昭和49年5月までに書いたサイエンス・フィクションと、イマジナティヴ・ストーリイのほとんどを収めた」本。
それにしても、すごいタイトル。
さて、収録作は以下。

「宇宙大密室」
「凶行前六十年」
「イメージ冷凍業」
「忘れられた夜」
「わからないaとわからないb」
「変身」
「頭の戦争」
「カジノ・コワイアル」
「一寸法師はどこへ行った」
「絵本カチカチ山後篇」
「鼻たれ天狗」
「かけざら河童」
「妖怪ひとあな」
「うま女房」

「カジノ・コワイアル」は、「ミステリ・マガジン」がイアン・フレミングの追悼特集をしたとき書いたという、講談調のパロディ。
「鼻たれ天狗」以降の4作品はシリーズ。
大天狗がさばき切れない願いごとを、弟子の鼻たれ天狗がまかされて解決するという趣向の話で、艶笑譚のおもむきが強い。
天狗が主役のシリーズというのもあまりのではないかと思い、印象に残った。

さらに、光瀬龍を一冊――。
「北北東を警戒せよ」(光瀬龍 朝日ソノラマ 1975)
カバー絵は中山正美。
これは少年小説。
最近聞かなくなったけれど、ジュブナイルという言葉がふさわしいだろうか。
ジャンル分けすれば、SFパニックものだ。

主人公は、北九州の炭鉱の町に住む小学6年生の西条守。
ある日、炭鉱で落盤事故が。
幸いに、守のお父さんはケガをしたものの無事だったが、その後も大分、宮崎、福岡、北海道など、日本各地で落盤が相次ぐ。
落盤事故についての研究会に出席することになった担任の岩沢先生が、守を気の毒に思い、東京に連れていってくれることに。

すると、岩手県の安家洞付近で、大規模な地すべりが。
調査にいく岩沢先生にお願いし、守も同行。
もちろん、洞窟には入れない。
が、岩沢先生を含む調査隊が、洞窟内を調査中消息を絶ってしまい、守は町の青年らと救助へむかうことに――。

ラストがいささか尻つぼみなのは、パニックものの常で仕方がない。
でも、話はテンポよく進むし、前半から中盤にかけての洞窟探険シーンは臨場感があって素晴らしく面白いし、それに昔の少年小説らしいいいまわしも楽しい。
地震のあと読んでいるせいか、リアリティも増しているように感じられる。

後半はいよいよ災害の規模が拡大。
千葉で多発地震が起き、富士山が噴火、60メートルに達する津波が起き、横浜から新潟にかけて地割れが走る。

賞味期限が切れていると思ったら、まだ読める。
思わぬ拾いものだった。

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