汚れた7人

「汚れた7人」(リチャード・スターク 角川書店 1971)

訳は小菅正夫。
角川文庫の一冊。

このひとが書いたものならみんな読みたいという作家が何人かいて、そのひとりがドナルド・E・ウェストレイクだ。
代表作は、天才的かつとことん運のない犯罪者ドートマンダーを主人公とした、ドートマンダー・シリーズだろうか。
その練られたプロットと、妙な味わいのキャラクター、ユーモラスな筆致にはいつも感服させられる。

ウェストレイクは、いろんな名前でいろんな作品を書いていて、その別名のひとつが、リチャード・スターク。
この名義では、悪党パーカー・シリーズが有名。
おなじ犯罪者でも、ドートマンダーとはちがい、どこまでもハードにえがかれているのが特徴だ。

どちらかというと、ハードなものよりユーモラスな作品のほうが好きなので、長いあいだ悪党パーカー・シリーズは読んだことがなかった。
ところが、先日、角川文庫から「悪党パーカー」シリーズの第7作「汚れた七人」が復刊され、なら読んでみようかと手にとってみた。

読後、
――いままで読まなくてすいませんでした
と、つくづく反省。

本書は3人称、だいたいパーカー視点。
4部構成になっている。

ストーリーは、冒頭、ひと仕事終えてアパートに潜伏していたパーカーが、わずか10分部屋をはなれたところ、女は殺され、金は奪われていたという緊迫した場面から。
しかも、パーカーは何者かにより狙撃までされる。
仲間に裏切り者がいるのか?
犯人は金があることを知っていたのか?

ひと仕事というのは、フットボール・スタジアムの売上金強奪。
警察は、強奪事件と女性殺害事件の捜査を開始。
パーカーと仲間たちは、何者かに命を狙われ、警察には追われながら、金を奪取するべく奔走する。

だいたいパーカー視点と書いたのは、第3部で視点が変わるため。
ここで犯人視点になる。
事件の全貌を俯瞰するのにうまいやりかただけれど、じつをいうと少しだけ落胆した。
というのも、犯人視点にしたために、広げた風呂敷の大きさがここではっきりとわかってしまうのだ。
もっと大きな風呂敷にちがいないと思いながら読んでいたので、このときはいささか面食らった。
でも、これは、ここまで夢中になって読んでいたという証左にもなるかも。

そして、広げられた風呂敷はとんでもない方向にたたまれていく。
無駄なものがまるでない、体脂肪率ゼロのクライムノベルだ。

というわけで、遅ればせながら、これから悪党パーカー・シリーズを読もうと心にきめた次第。


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