MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

眠れぬ眼痛の美女

2013-06-20 10:29:22 | 健康・病気

6月のメディカル・ミステリーです。
今回は眼科疾患です。

6月11日付 Washington Post 電子版

Fox News reporter struggled with painful eye condition for more than a year Fox News(アメリカのニュース専門放送局)のレポーターは一年以上にわたって、目の痛みに苦しんだ

Painfuleyecondition
最高裁判所のレポーター Shannon Bream さんは一年以上にわたって目の痛みに苦しんだ

By Sandra G. Boodman,
 繰り返す痛みを経験してきた Shannon Bream さんはどこに行くにも~たとえシャワーの時であっても~目薬を手元に置いておくことにしていた。
 目薬にはほぼ持続的に続く痛みを和らげる効果はほとんどなかったが、潤いを与える目薬は何もないよりましだった。彼女はジムでトレーニングする間もその容器を手にし、財布、車、机の中にも予備のものを入れていた。夜は、目覚まし時計を2、3時間毎に鳴るようセットし、目薬を使えるようにした。そうしなかったら、“誰かが私の目を突き刺しているかのような”痛みで目が覚めてしまうのを意味することが彼女にはわかっていたのだと言う。
 「日中は大丈夫だったので仕事ができましたが、毎晩はまさに悪夢だったのです」と Bream さんは言う。彼女は Fox News で Supreme Court(最高裁判所)の取材を担当している。
 彼女は悪化する苦痛を大げさに言っているに過ぎないという医師の指摘は、助けを求めて毎晩のように探していたインターネットの掲示板上に書き込まれた暗い先行きと相まって、彼女を絶望に陥れた。
 「こんな状態であと40年も生きられないと思いました」彼女の18ヶ月に及ぶ試練の間そう考えていたことを思い起こす。しかし、正しい診断と満足のいく解決をもたらしてくれることになる医師の元に Bream さんを導いてくれたのは皮肉にもその同じ掲示板だったのである。
 2010年2月のある真夜中、当時39才の Bream さんは左目の痛みで突然目が覚めたが、「それは焼けつくような痛みだったので、私はベッドに座っていなければならないほどでした」と言う。彼女はよろめきながらバスルームに行き、薬品戸棚を必死になってひっかき回し、その痛みが和らぐことを期待して種々の目薬をつかみ取った。彼女の目からひどく涙が出ていた。その痛みも流涙も治まったのは約3時間後のことだった。
 それより10年前のこと、ソフト・コンタクトレンズを装着していた Bream さんは、うっかりブラシで左目の表面を擦って角膜に傷をつけてしまうというできごとがあった。角膜は目の非常に敏感な保護層である。「あのときには、何でそうなったのかがすぐに分かりました。しかし、今回は、何をしたのかが思い出せませんでしたので、『あゝ、寝ている間に何かをしてしまったにちがいない』と考えました」
 2、3週後、同じことが再び起こったため、Bream さんはコンタクトレンズを調整してくれる検眼医の受診予約をした。
 もう少しで40才になることから、彼女の問題は、中年にさしかかる女性によく見られる疾病であるドライ・アイかもしれないと彼は告げた。彼は人工涙液を処方したが、夜間の症状は続いた。2度目の受診後、その検眼医は原因が分からないと彼女に告げ、眼科医を受診するように言った。
 Bream さんは北バージニアの評判のいい角膜専門医を受診した。彼は乾燥が最も考えられる原因であるということに同意見であり、慢性のドライ・アイに治療に用いられる処方薬 Restasis を追加した。
 当初、Restasis は痛みの緩和に有効であるように思われたが、症状はより頻回となっていった:今や両目が痛むようになり、週に数回、症状が見られるようになっていた。約6週間後、彼女は再びその眼科医を受診、彼女の角膜上に無数の小さな傷を発見した。
 彼は Bream さんに我慢するように言った:彼によると Restasis は効果が出るまで時間がかかるし、その効果は蓄積性なのだという。
 Bream さんは彼の助言を心に留めようと思い、彼が正しいことを願った:しかし、彼女の両目は多くの時間、充血し痛むようになったため、仕事ができるかどうか心配になった。数ヶ月後、3度目の受診をした。そのころには彼女は夜間 2~3時間毎に目を覚まし、両目に点眼薬を差していたが、それが唯一有効に思われることだったからである。Bream さんが目覚ましの音に気付かず寝過ごしてしまった夜には、目を覚ましたときの焼け付くような痛みに苦しんだ。
 「私は座ったままでいて、痛みが消えるのを祈りながら最善の策でそれを乗り切ろうとしていました」と彼女は思い起こす。「私は冷静でいようとしていました」
 彼女の視覚は時々障害されていたが、両目が同時に損なわれることはまれだったので仕事はなんとかこなすことができた。
 彼女によると、その眼科医は彼女の説明にも動じることはなかったという。“感情的”になっているようだと彼は彼女に告げ、彼女が大げさに言っているようだと明言した。点眼薬を使い続けなさい、と彼は助言した。
 自分が過度に騒ぎ立てていると医師に思われていたことに衝撃を受けた Bream さんは二度と受診しないことを誓った。
 翌年はほぼずっと、彼女は一日中 2、3時間ごとに点眼薬を使用した。点眼薬なしでいることに恐怖を覚えるようになっていた彼女は次の一手を考えた。夜な夜な彼女は何時間もネットワークに接続し、手がかりを求めて患者の掲示板を探した。
 レポーターになる前は企業弁護士をしていた Bream さんが言うには、彼女が新たな意見を求めようとしなかったのは、次の眼科医も彼女に同じことを言うかもしれないと考えたためである。「精神的に傷ついていたのです。それが当時の私だったのでしょう」と彼女は言う。
 患者の投稿は彼女を恐れさせた。焼け付くような痛みで緊急室に行ったがそこのスタッフには治療法がわからなかったなどと語る人たちがいた。また、気落ちするあまり自殺を考えているという人もいた。
 Bream さんにとって、その選択肢もうなづけるものとなりつつあった。

Classic symptoms 古典的症状

 「こんな状態であと40年も生きられないと思いました」そう考えていたことを彼女は思い出す。一晩ぐっすりと眠られていたころからほぼ一年が過ぎ、今や持続的な痛みで常に疲れ切った状態にあった 2011年9月のある夜、このまま続くことは考えられないと彼女は夫に涙ながらに訴えた。彼は別の医師を見つけるよう彼女を説得した。
 「私にとって自殺が全く常軌を逸したものでも理不尽なものでもなかったという事実は私の目を覚ましてくれました」と彼女は言う。彼女は、ワシントンの角膜専門医 Thomas Clinch 氏の数回の投稿による有益な言及を目にしたことを覚えており、彼に電話をかけることを決意した。
 最初の受診のとき、自身の痛みについての Bream さんの説明~特に、目を覚ました時に痛みが最悪だったという点~に強い興味を持ったことを Clinch 氏は思い起こす。彼女は Restasis を数ヶ月間使っていたが、これは最大の効果を発揮するのに十分な期間だった。このことは、ドライ・アイが彼女の主要な問題ではないことを示していた。
 「彼女の症状はきわめて古典的でした」と Clinch 氏は言い、彼女の目を検査したときに彼が観察した結果から彼女の問題が何であるか判明したと彼は確信した。
 Bream さんの角膜は小さな表面の傷で覆われており、これは map-dot-fingerprint dystrophy(地図・点・指紋状ジストロフィー、角膜上皮基底膜ジストロフィー)と呼ばれる疾病の徴候だった。これは角膜の上皮に形成される指紋のような一群の点状の病変や領域を特徴とする。本疾患は通常40才から70才に発症し、角膜の最外側の層である角膜上皮とその下層の膜(基底膜)との接着が弱まる細胞性異常を生ずる。
 その結果、動いている角膜と眼瞼とが繰り返し接触する REM 睡眠期に上皮は剥がれ落ちやすくなる。それによって下層にある神経が表面に露出し耐えがたい痛みを生ずるのである。この疾患の患者は、角膜表面に有痛性の傷が生ずる再発性角膜びらん症候群(recurrent corneal erosion syndrome)を発症しやすくなる。
 「上皮細胞を競技場に生える芝生と考えて下さい。もし競技場に芝を敷き、サッカーをするとしたら、たちまちそれに穴があくでしょう」と Clinch 氏は言う。Bream さんの場合、「彼女が角膜表面を繰り返し損傷し続けている」ため彼女の角膜は決して回復しないのである。Restatis や人工涙液は有益である一方、損傷を修復するには十分でなかったのである。
 眼科医にとって毎週お目にかかるほどありふれた状態であり、「臨床的にきわめて明らかな」病状である角膜びらんをなぜ前医の眼科医が見逃したのかはわからないと Clinch 氏は言う。「意識の的がドライ・アイにとりつかれていたのだと思います」
 最初の受診でClinch 氏にその診断をもらったとき Bream さんは大いに安堵したという。「初めて希望の兆しを感じることができました」と彼女は言う。
 しかし、彼女の病気に対する根本的治療法がないこと、もし治療で改善しなかった場合、角膜を損傷する可能性があるコンタクトレンズの装着をやめなければならないことを彼女が Clinch 氏から告げられたとき、その希望はたちまちしぼんでしまった。
 Clinch 氏は彼女に、粘度の高い非処方薬の Muro 128という軟膏(高張塩化ナトリウム液5%を配合し角膜浮腫を緩和する)を就眠時に用いるよう助言した。この軟膏は角膜の剥離しやすさを抑えるものである。さらに彼は Restasis に加えて別の点眼薬も処方した。
 数週間後、Bream さんの目は回復を見せ始め、連続8時間眠れるようになった。これは、この一年以上の間で初めてのことだった。「3億ドルの宝くじに当たったような気持ちでした」と彼女は思い出す。
 Clinch 氏はさらに tear duct plugs(涙点プラグ)を装着した。これは診療所で行われるありふれた手技であり、このプラグによって涙液の排出が減ることで目の潤いが保たれる。
 Bream さんは今 Muro 128 を備蓄しているが、彼女はそれを“無人島アイテム”と呼んでいる。時々彼女には再発があるが、彼女の病状ははるかに扱いやすくなっており、今でもコンタクトレンズを着用することができている。
 振り返って見て、なぜ新たな眼科医を見つけるのにそんなに長い間待っていたのか、そして、そんな辛い思いをしている間、なぜその病気について両親を含めほとんど誰にも話さなかったのか分からないと Bream さんは言う。
 「今なら、すぐにでも別の医師を探し始めていただろうと思います」と彼女は言う。「多くは、私があまりに疲れ切っていて、そんな心神耗弱状態の中で働いていたからだろうと思っています」

角膜ジストロフィーとは聞きなれない病名だが、
角膜の細胞異常が原因と考えらえる疾患群。
本記事に出てくる
角膜上皮基底膜ジストロフィー(map-dot-fingerprint
dystrophy)は両眼性の角膜上皮基底膜異常で
成人に多く遺伝性はないとされている。
角膜の上皮細胞層とその下にある基底膜の
接着性の低下がその病態であると考えられている。
結果引き起こされる病像は
両眼性の再発性角膜上皮びらんである。
発症は突然で、激烈な痛みを伴うことが多いため
患者の不安は大きい。
夜間・起床時に発症することが多いが、
これは睡眠中は涙液蒸発量が低下し、
相対的に涙液が低浸透圧になることで
角膜上皮浮腫が増悪するためと考えられている。
また記事中にあるように REM 睡眠期の
激しい眼球運動によって角膜の物理的刺激が増大し
発症の誘因となる場合もある。
所見はその名の通り、地図状、点状、指紋状など
様々な形状の上皮基底膜病変として認められる。
治療は対症的対策が中心となる。
感染をひき起こしやすいため
抗菌薬の点眼や眼軟膏を用いる。
治療用ソフトコンタクトレンズが用いられることもある。
疼痛には鎮痛薬で対処する。
起床時に生じやすい角膜上皮浮腫の予防には、
就寝中の低浸透圧涙液を高浸透圧化する目的で
5%塩化ナトリウム軟膏(記事中の Muro 128)を
就寝時に塗布する。
また就寝前の抗生物質眼軟膏の塗布や
起床時開瞼前の人工涙液の点眼を習慣的に行うことで
再発を予防する。
異常上皮や基底膜などの表層角膜切除に
レーザー手術が行われることもある。
本疾患の患者さんの角膜の痛みは
想像を絶するほど強い様であり、
より早期の正確な診断と的確な治療が求められる。

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