往き帰りのバスで隣座席に座ったのは、Nさんである。80歳前である。
声も優しく、顔もにこにこして穏やかな人柄が態度に出ている。
いわゆる「善い人」と言われる部類である。他人の悪口なども言わない。
「あくの強い人」の真反対に属する人である。
彼女の話題は、自分の苦しい生い立ちと、亡くなった夫の思い出話である。
「そうですか。大変でしたね。素晴らしいご主人ですね。」と相槌を打ちながら聞いているが、
上の空である。何度も”お父さん””お父さん”と夫の話が出るが、
会ったこともないので男性であることだけ分かる。
生きて魅力のある男性の噂話なら、本気で聞くが、亡くなった他人の旦那では面白くない。
阿川佐和子氏の著書「聞く力」を読んでも、聞く力はいっこうに付いていない。
疲れた一日であった。
大久野島は、夾竹桃が沢山植えられている。今を盛りと咲いている。