藤子・F・不二雄大全集 第1期 第9回配本 感想

 『藤子・F・不二雄大全集』も第9回配本まで来て、とうとう全集用に用意していた本棚のスペースがなくなってしまった。
 全集は優先的に本棚に並べたいので、思い切って大幅な本棚の整理を行い、なんとか第1期33巻分は収まるスペースを確保した。しかし、その代わりに居場所を奪われた本も多い。それらの本はとりあえず収納ケースに入れて積んであるが、このままでは可哀想だ。
 結局、F全集に限らず所有する全ての本を並べるだけの本棚を持っていないのが、一番の問題だ。ドラえもんも「土地だけは作れない」と言っているが、全くその通りで困ってしまう。と言ったところで、今回の感想に入ります。



・『ドラえもん』第6巻

 本巻は、1966年度生まれの小学生が読んだ作品が収録されている。
 掲載時期は1973年4月号~1979年3月号までだが、あらためて読んでみると、この時期は『ドラえもん』の一つのピークだったと思えるほど、面白い作品が多い。この巻では、てんコミでお馴染みの「へやいっぱいのおおドラやき」「週刊のび太」「クイズは地球をめぐる」「狂音波発振機」(無事に「狂」に戻った)などが、特に好きな話だ。
 マイナーどころでは「コチョコチョ手袋」に登場した学生の顔がものすごくて、何度見ても笑える。F先生の描いた変な顔の中でもトップクラスのインパクトだと思う。この学生、顔の作りは生まれつきだとしても、なぜ口紅を塗っているのだろう。本人も笑われるような顔だと自覚があるようだし、不思議な人だ。それとも、あれはくちびるがああ言う形なのだろうか。
 低学年向けでは「雲ねんど」「キャンプ」「本物クレヨン」と、個人的にカラーコミックスでお馴染みの作品群が並んでいるのが嬉しい。相変わらずカラー作品もモノクロ収録だが、「本物クレヨン」はクレヨン画が明らかにカラーを想定した絵になので、モノクロでは絵が見づらい。カラー版は『ドラえもん カラー作品集』第5巻で読めるが、それでもちょっと残念だ。

 そして、本巻では巻末の特別資料室も見逃せない。F先生の直筆による旧作アニメ(日本テレビ動画制作、いわゆる「旧ドラ」)のお話紹介見開き2ページが再録されている。この全集で旧ドラ関連資料を本格的に取り上げたのは、これがはじめて。そして、次巻以降は旧ドラ放映終了後に小学生となった読者が対象のため、今回が旧ドラネタの登場する最後のチャンスだったのだろう。とにかく、公式に旧ドラを紹介したのは大いに注目すべき事だと思う。紹介と言ってもF先生の絵だけだが。
 次の第7巻は小学六年生の時にシンエイ動画版アニメが始まった世代の作品が収録されるので、今度はシンエイ版アニメ関連の記事が何か載るのだろうか。『ドラえもん』の未収録作品は図書館で全て読んだが、関連記事のチェックは旧ドラ以外はほとんど行っていないので、今後どのような記事が飛び出すか楽しみだ。



・『オバケのQ太郎』第5巻

 「少年サンデー」掲載集の最終巻。当然ながら連載後期の作品が収録されているが、前巻に引き続き非常に面白い。テレビアニメの商業的理由により『パーマン』に交替したのが本当にもったいなく感じる面白さだ。とは言え、『パーマン』も素晴らしい作品なので、そこのところは複雑なのだが。
 この巻では、Qちゃんと正ちゃん、そしてQちゃんとドロンパと、話によってQちゃんの相方が変わっているが、どちらと組んでも面白くなっている。Qちゃん・ドロンパのコンビでは「ごめんねユカリさん」が特にいい。二人とも結局バカをやっているところが読んでいて微笑ましい。正ちゃん、ドロンパ以外にも、ハカセやゴジラ、木佐くんのキャラも立ってきて、誰が出ても笑いが取れるようになっているところはすごい。
 また、『オバQ』としては異色の時代劇(舞台はアメリカだが)「咸臨丸とQ太郎」は、普段の日常が舞台の話とは一味違った面白さがある。夢オチなのがちょっと物足りないが、Qちゃんが大冒険の主役を努めており、後の『大長編ドラえもん』に繋がっていくような作品と言える。
 「上にドがつく小池さん」や「猛獣公園」など、当時の藤子先生ご自身の体験が盛り込まれた話も興味深い。「猛獣公園」での「ケニアに行った二人」は、絵が石ノ森氏なのがちょっと残念。これこそ、藤子先生お二人それぞれに描いて欲しかったところだ。それにしても、ケニア行きの思い出を話の中で語るくらいだから、よっぽど印象的だったのだろう。

 「少年サンデー」連載分はこれで終わりだが、それでもまだ第5巻で全12巻中の半分にもなっていない。全集第2期で刊行される予定の学年誌掲載集も楽しみだ。特に、「小学一年生」以下の低学年向け作品は藤子不二雄ランド版ではほとんど未収録で読んだ事がないので、どんな話が飛び出すか、ワクワクする。



・『パーマン』第6巻

 「小学一年生」より下の年代向けの雑誌に載ったカラー作品を、そのままカラーで収録した豪華版。400ページ近くあって1575円なのだから『エスパー魔美』はこれと比べると割高に感じてしまう。あくまで「全集」なので、1巻ごとの単価はあまり考えるべきではないのだろうけど。
 幼年向けは基本的に単純な話なので感想は書きにくいが、『パーマン』の高学年向け作品は割とハードな話が多いだけに、同じ設定を使ってほのぼのとした話を作ってしまうF先生は、すごい才能の持ち主だったのだなとあらためて思った。
 幼年向け作品の特徴として、ミツ夫がパーマン1号の姿のままで須羽家に馴染んでいるところが面白い。もちろん、「パーマンの正体は秘密」の大原則は守られているが、あんた達パーマンの正体知っているんだろうとパパやママに突っ込みたくなるくらいに1号が普通に家族の一員扱いで、さらにブービーまで付いてきているところが微笑ましい。

 この巻の収録分のうち「小学一年生」掲載分はすでに大部分が「ぴっかぴかコミックス」でも単行本化されているが、全集版とぴっかぴか版を比べるとセリフが微妙に異なる部分が意外と多い。
 一例を挙げると、「小学一年生」版第1話の「パーマンとうじょう」では、本編一コマ目のママのセリフはぴっかぴか版が「お勉強がすんでからね」、全集版が「おべんきょうがすんでからあげます」となっている。初出誌を確認していないので断言は出来ないが、おそらくぴっかぴか版は初出誌のセリフをそのまま採用しているのだろう。古めの作品になると、初出誌に掲載される時点で編集者によりセリフが変えられる事があったそうなので、その点を踏まえて全集版では作者の意図した本来のセリフに戻したのではないか。そうであれば、「作者の意図でない改変は、元に戻す」と言う全集の編集方針にも合致する。
 また、「小学一年生」版では連載第2回以降は最終ページのイラストが次回予告になっていたのだと今回初めて気が付いた。この部分は、ぴっかぴか版では該当話のイラストに差し替えられている。おそらく初出誌では「次はこんなお話しだよ」と言ったキャプションも付いていたのだろう。

 とにかく、カラフルで楽しい一冊だった。欲を言えば、「めばえ」編の原稿縮小→2ページを1ページに収録がなければもっとよかったが、仕方がないか。おそらく、これ以上ページ数を増やすと予算的に厳しいのだろう。
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