3月2日、名古屋のミッドランドスクエアシネマで藤子不二雄ファンが集まって、例年通りドラえもん映画鑑賞会を行った。
今年の映画、「のび太の地球交響楽」についても、感想を書いておきたい。なお、例によって内容におもいっきり触れるので、未見の方はとくにご注意を。
今回の映画だが、監督が今井一暁氏と言うことで身構えていた。なにしろ、今井氏の監督した「のび太の宝島」「のび太の新恐竜」の2作が、ことごとく私には合わなかったからだ。
しかし、ネガティブな予想に反して、今回の映画はかなり楽しめた。作品傾向はまるで異なるが、過去の作品で言えば「のび太のひみつ道具博物館」と同じくらいには楽しめたと言っていい。
今井監督の過去2作は脚本が川村元気氏によるものだったが、今回は今井監督の脚本原案を元に内海照子氏が脚本を書いている(他に「脚本協力」として佐藤大氏もクレジット)。と、なると今井監督の過去2作が私に合わなかったのは、川村脚本によるところが大だったのではないか。
今回の映画は「音楽」をテーマにしており、作中で何度も音楽=ファーレの演奏シーンが流れる点が、ドラえもん映画としては異色だ。
ファーレの演奏にかなり尺を割いているので、その分ストーリー自体はシンプルだ。要するに、謎の宇宙生命体・ノイズが地球を襲うので、ファーレで撃退すると言うだけなのだから。音楽で敵を撃退するという点では、ちょっと「マクロス」シリーズを想起させられた。
今回の物語の鍵となるひみつ道具は、「あらかじめ日記」と「時空間チェンジャー」の二つ。後者は、原作短編にある「時空間とりかえ機」に機能が似てはいるが、微妙に異なるアニメオリジナル道具だ。このうち、「あらかじめ日記」が話の発端になるらしいことは予告編でも明かされていたが、予告を観た限りでは、地球から音楽が一切合切消え去ってしまうのかと思っていた。実際の映画では、ごく一時的に音楽が演奏できなくなるだけだったので、「これがどう危機につながるのだろう?」と思ってしまったが、そこでノイズが「一瞬でもファーレの消えた星には襲いかかる」という性質にされていたのは、伏線の張り方としてはなかなか巧みだった。
伏線と言えば、クライマックスにおける「時空間チェンジャー」の使い方も、はっきり言って無茶ではあるがなかなか面白かった。「あらかじめ日記」の「みんなでおふろに入った」と絡めての展開だったので、二つの道具を重ねて使うことで無茶さを何とか消そうという狙いだったのだろう。
ひみつ道具は前述の二つ以外にもたくさん出てきたが、「音楽イモ」や「ネムケスイトール」「かべがみハウス」など、特に説明もなく使われていた道具が複数あって、制作者の「ドラえもんのこの道具ならもうみんな知っているよね」というメッセージが聞こえるかのようだった。実際、音楽イモなんて出たのも一瞬で、油断していると見落としそうではあった。
今回のゲストキャラを演じるキャスト陣は、普段は声優をやっていない人が多く配役されていたのでどうなるか不安だったのだが、特に演技に問題はなかったと思う。歌姫ミーナ(声:芳根京子)に、マエストロヴァントー(声:吉川晃司)やワークナー(声:石丸幹二)の演技も悪くなかった。しかし、歌姫ミーナは大々的に宣伝されていた割には出番は多くなかったな。
驚いたのはミッカ(声:平野莉亜菜)の演技で、キャラの年齢相応と言えばそうなのだが、なかなかよかった。うそ泣きの場面などの演技も巧みだったし、ファーレを奏でる歌声もきれいだった。
声優と言えば、今井監督は悠木碧さんが好きなんだなとあらためて思った。「のび太の宝島」のクイズ、「のび太の新恐竜」のたまご探検隊に続いて、今回も起用するとは。前2作が動物系の役だったのに対して、今回は音楽の先生役でようやく普通の人間女性だ。ただし、犬(らしき生物)のパロパロも演じていたが。
そして、作品で重要な位置を占める「音楽」についても触れておこう。
ノイズを撃退するために演奏する曲が、チャペックの作った「地球交響楽(シンフォニー)」と言うことで、タイトルをきれいに回収していたのには唸らされた。しかも、時空間チェンジャーが作動した後のクライマックスでは、「夢をかなえてドラえもん」の冒頭のメロディーまで織り込まれていたのには感動させられた。個人的に、こういった音楽の演出には弱いのだ。「夢をかなえてドラえもん」は、最近のテレビアニメではキャラクターソング・バージョンが時々流れる程度だが、映画を観に来た子供たちが「あっ、この曲は」と思ったのなら、この歌を好きな者としては嬉しい。
前作の「のび太と空の理想郷」では、話に突っ込みどころがいくつかあると挙げたが、今回はそういうところがほとんどなかったので、素直に音楽やストーリーを楽しむことができた。あえて言うなら、ミーナがやけに物わかりがよかったくらいか。
「のび太の努力と成長」についても、無理のない範囲で描かれていたと思う。ファーレの殿堂完全復活のために足りない一音が「のび太の『の』の音」と言うことで、「ありのままでもいいんだ」となる展開は、前作「空の理想郷」から引き継いでいる要素なのかもしれない。
前作からの要素と言えば、しずかの演奏する楽器の一つとして「マリンバ」が出てきたのは、ちょっと嬉しかった。マリンバ、いいキャラだったな。
とにかく、音楽シーンが楽しくて、115分という長い上映時間もさほど気にはならなかった。
ただ、来年行われるであろうテレビ放映に際しては、相当な部分がカットされるのだろうが。その意味でも、映画館で観た方がいい作品だと思う。音響のいい劇場なら、なおさらだ。
今年の映画、「のび太の地球交響楽」についても、感想を書いておきたい。なお、例によって内容におもいっきり触れるので、未見の方はとくにご注意を。
今回の映画だが、監督が今井一暁氏と言うことで身構えていた。なにしろ、今井氏の監督した「のび太の宝島」「のび太の新恐竜」の2作が、ことごとく私には合わなかったからだ。
しかし、ネガティブな予想に反して、今回の映画はかなり楽しめた。作品傾向はまるで異なるが、過去の作品で言えば「のび太のひみつ道具博物館」と同じくらいには楽しめたと言っていい。
今井監督の過去2作は脚本が川村元気氏によるものだったが、今回は今井監督の脚本原案を元に内海照子氏が脚本を書いている(他に「脚本協力」として佐藤大氏もクレジット)。と、なると今井監督の過去2作が私に合わなかったのは、川村脚本によるところが大だったのではないか。
今回の映画は「音楽」をテーマにしており、作中で何度も音楽=ファーレの演奏シーンが流れる点が、ドラえもん映画としては異色だ。
ファーレの演奏にかなり尺を割いているので、その分ストーリー自体はシンプルだ。要するに、謎の宇宙生命体・ノイズが地球を襲うので、ファーレで撃退すると言うだけなのだから。音楽で敵を撃退するという点では、ちょっと「マクロス」シリーズを想起させられた。
今回の物語の鍵となるひみつ道具は、「あらかじめ日記」と「時空間チェンジャー」の二つ。後者は、原作短編にある「時空間とりかえ機」に機能が似てはいるが、微妙に異なるアニメオリジナル道具だ。このうち、「あらかじめ日記」が話の発端になるらしいことは予告編でも明かされていたが、予告を観た限りでは、地球から音楽が一切合切消え去ってしまうのかと思っていた。実際の映画では、ごく一時的に音楽が演奏できなくなるだけだったので、「これがどう危機につながるのだろう?」と思ってしまったが、そこでノイズが「一瞬でもファーレの消えた星には襲いかかる」という性質にされていたのは、伏線の張り方としてはなかなか巧みだった。
伏線と言えば、クライマックスにおける「時空間チェンジャー」の使い方も、はっきり言って無茶ではあるがなかなか面白かった。「あらかじめ日記」の「みんなでおふろに入った」と絡めての展開だったので、二つの道具を重ねて使うことで無茶さを何とか消そうという狙いだったのだろう。
ひみつ道具は前述の二つ以外にもたくさん出てきたが、「音楽イモ」や「ネムケスイトール」「かべがみハウス」など、特に説明もなく使われていた道具が複数あって、制作者の「ドラえもんのこの道具ならもうみんな知っているよね」というメッセージが聞こえるかのようだった。実際、音楽イモなんて出たのも一瞬で、油断していると見落としそうではあった。
今回のゲストキャラを演じるキャスト陣は、普段は声優をやっていない人が多く配役されていたのでどうなるか不安だったのだが、特に演技に問題はなかったと思う。歌姫ミーナ(声:芳根京子)に、マエストロヴァントー(声:吉川晃司)やワークナー(声:石丸幹二)の演技も悪くなかった。しかし、歌姫ミーナは大々的に宣伝されていた割には出番は多くなかったな。
驚いたのはミッカ(声:平野莉亜菜)の演技で、キャラの年齢相応と言えばそうなのだが、なかなかよかった。うそ泣きの場面などの演技も巧みだったし、ファーレを奏でる歌声もきれいだった。
声優と言えば、今井監督は悠木碧さんが好きなんだなとあらためて思った。「のび太の宝島」のクイズ、「のび太の新恐竜」のたまご探検隊に続いて、今回も起用するとは。前2作が動物系の役だったのに対して、今回は音楽の先生役でようやく普通の人間女性だ。ただし、犬(らしき生物)のパロパロも演じていたが。
そして、作品で重要な位置を占める「音楽」についても触れておこう。
ノイズを撃退するために演奏する曲が、チャペックの作った「地球交響楽(シンフォニー)」と言うことで、タイトルをきれいに回収していたのには唸らされた。しかも、時空間チェンジャーが作動した後のクライマックスでは、「夢をかなえてドラえもん」の冒頭のメロディーまで織り込まれていたのには感動させられた。個人的に、こういった音楽の演出には弱いのだ。「夢をかなえてドラえもん」は、最近のテレビアニメではキャラクターソング・バージョンが時々流れる程度だが、映画を観に来た子供たちが「あっ、この曲は」と思ったのなら、この歌を好きな者としては嬉しい。
前作の「のび太と空の理想郷」では、話に突っ込みどころがいくつかあると挙げたが、今回はそういうところがほとんどなかったので、素直に音楽やストーリーを楽しむことができた。あえて言うなら、ミーナがやけに物わかりがよかったくらいか。
「のび太の努力と成長」についても、無理のない範囲で描かれていたと思う。ファーレの殿堂完全復活のために足りない一音が「のび太の『の』の音」と言うことで、「ありのままでもいいんだ」となる展開は、前作「空の理想郷」から引き継いでいる要素なのかもしれない。
前作からの要素と言えば、しずかの演奏する楽器の一つとして「マリンバ」が出てきたのは、ちょっと嬉しかった。マリンバ、いいキャラだったな。
とにかく、音楽シーンが楽しくて、115分という長い上映時間もさほど気にはならなかった。
ただ、来年行われるであろうテレビ放映に際しては、相当な部分がカットされるのだろうが。その意味でも、映画館で観た方がいい作品だと思う。音響のいい劇場なら、なおさらだ。