藤子・F・不二雄大全集 別巻『Fの森の歩き方』感想

 先週金曜日に藤子・F・不二雄大全集の別巻として『Fの森の歩き方 藤子・F・不二雄まんがワールド探検公式ガイド』が発売された。
 この別巻、おそらくは『フィギュア王』の藤子・F・不二雄特集で触れられていた「1期と2期の間のお楽しみ企画」なのだろう。かなり細かいネタまで取りあげられているので、まだ全てに目を通したとは言えないが、一通り読んでの感想を書いておく。


 一冊の本としては、マニアックな部分とそうでない部分とのバランスがよく取れていて、読み物としても面白く、またF作品の入門書としても充実した内容になっていると感じた。
 たとえば、『ドラえもん』の紹介ページ。もはや説明の要がないほどの超有名作品だが、それでもキャラクター図鑑や第1話・最終話紹介などの基本的な事項をしっかりと押さえつつ、「注目ポイント」や「学年繰り上がり式編集」の楽しみ方など、ややマニアックな部分まで踏み込んでおり、「公式ガイド」らしく全集をより楽しめる内容となっている。
 他の作品についても同様で、第1期で刊行された作品については、思わず全集の該当巻を引っ張り出して読み返したくなるし、第2期以降に予定されている作品の紹介を見ると、刊行が待ち遠しくなってしまう。
 それぞれの作品について注目点を挙げていくときりがないが、『ジャングル黒べえ』のキャラクター図鑑でガックが紹介されたことは特筆しておきたい。ちゃんと、アニメ版ではレギュラーキャラだったことも書いてある点もよろしい。これで、アニメ版を観たくなる人が増えてソフト化されればいいのだが。

 「第3の森」以降、後半になってくるとややマニアックなネタが増えてくるが、いずれもファンのツボを突いたコマ選びで作品が紹介されており、未読の作品は読みたくなること請け合いだ。
 マニアックなネタの中では、個人的には巻頭の「原画は語る」が一番興味深かった。「ライター芝居」の初出から描き足しまでの間に、あのような事があったとは、驚きだ。また、『オバQ』サンデー版最終回のエピソードもいい。この、原画を紹介して作品を読み解くというコンセプトは、数年前に出た『手塚治虫 原画の秘密』と同じものだ。今回の「原画は語る」を読んで、藤子版『原画の秘密』もぜひ出版して欲しくなった。全集の終わった後にでも別巻の続刊として出してくれないものだろうか。


 さて、藤子作品のガイドブック的な本は今回が初めてではなく、コロタン文庫『藤子不二雄まんが全百科』、ビッグコロタン『藤子不二雄まんがヒーロー全員集合』(2冊)、FFランドスペシャルの『FFランドひみつ500大探検』(2冊)などが刊行されている。特に、『FFランドひみつ500大探検』は全集企画から派生した本なので、今回の『Fの森の歩き方』に近い性質のものと言える。
 これらの過去のガイドブックと今回の『Fの森の歩き方』は、読んでいて決定的にノリが違うと感じた。今回は、スタッフが非常に楽しんで作っているのが伝わってくるのだ。昔のガイドブックは編集者の視点で作られた本、今回の『Fの森』はファン視点で作られた本だと思う。実際、奥付の「構成・執筆」「編集協力」には、藤子ファンサークルでお馴染みの方々の名前がたくさん見受けられる。重度のファンが集結して作った本だという点でも、意義は大きい。

 ともかく、『Fの森の歩き方』はボリュームがたっぷりで、じっくり読み始めると時間がいくらあっても足りない。おそらく、まだ読み落としているネタもたくさんあるだろう。全集第2期の刊行が始まるまでの一ヶ月弱をかけて読みこんでおきたい。


 最後に、褒めすぎるのもどうかと思うので、一つだけ苦言を呈しておこう。巻頭の折り込みカラー口絵で、これまでに出た単行本の表紙がたくさん紹介されているが、FFランド後期の代筆表紙は載せないで欲しかった。あの絵も単独で見たら何とか我慢できるのだが、F先生直筆のカバー絵と一緒に並べられると、どうしても見劣りする。『みきおとミキオ』や『T・Pぼん』などは特にひどい。素晴らしいガイドブックなだけに、これだけは残念だ。
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藤子・F・不二雄大全集 第1期 第12回配本 感想

 今回は、第1期の最終配本の感想。これにて第1期全33巻が完結した。
 別巻『Fの森の歩き方』は今週金曜日発売予定。ブログの更新をさぼっていたら、別巻の発売間近になっていた。特に忙しかったというわけでもなく、今月は何となくブログの更新が滞ってしまった。



・『ドラえもん』第8巻

 今回は、1968年度生まれ編。第1巻は3年度分まとめての収録だったから、全集第1期で10年分が収録されたことになる。

 前巻から本の後半分はシンエイ版アニメ放映によるドラえもんブームの中で描かれた作品が収録されている。この時期の話を発表順に読むと絵柄の変遷が読み解けて面白い。本巻収録の「小学六年生」掲載分になると、後期F作品の特徴である「服の肩のシワ」があったりなかったりで、定着までには少し時間がかかったのだと分かる。
 と言っても、もちろん単行本化時に描き足されたコマは一律にシワ付きになので、そこは注意する必要がある。てんコミ32巻に収録された「野比家が無重力」や「しずちゃんさようなら」などは、描き足しまでに少し時間がかかったせいで、初出そのままのコマと描き足しコマの絵の変化が顕著で、見分けやすい。
 また、ラスト前に収録された「のび太が消えちゃう?」は、のび太の両親の出逢いのエピソード追加など、かなり描き足し&描き変えの多い話だ。てんコミ末期の43巻収録なので、どこが描き足しなのかを見分けるのはさらに容易だろう。
 『ドラえもん』の短編連載が続いていたとしたら、パパとママのエピソードは「のび太が消えちゃう?」とは別のエピソードで語られていたのかもしれない。そうではなく、既存の作品への描き足しという形になったのは、もう『ドラえもん』の新作短編を書くことは出来ないかも知れないので、ここで描いておきたいと言うF先生の意志があったからではないだろうか。

 あと、「痛みはね返りミラー」扉絵でのび太の持っている道具が原稿段階と発表時で異なっている点について特別資料室で触れられているが、今回カバーイラストにも使用された原稿版の道具は、どう見てもチクタクボンワッペンだ。調べてみたら、「痛みはね返りミラー」と「チクタクボンワッペン」は発表時期が一ヶ月しか違わない。
 「痛みはね返りミラー」の方が発表が早いので、扉絵を入稿した時点では「チクタクボンワッペン」を描くつもりだったのが、何らかの事情で「痛みはねかえりミラー」に変更となり、「チクタクボンワッペン」は翌月にあらためて描かれたと言うことなのだろう。原稿版の絵は「チクタクボンワッペン」の扉絵として見ても違和感がない。
 それにしても、こんなに細かいところまでこだわって紹介しているのは素晴らしい。出来ればその調子で、「オーバーオーバー」の描き変え前も紹介して欲しかったところだが、『ジャングル黒べえ』が復活したとは言え、人種問題については下手に触れたくないのだろう。



・『パーマン』第8巻

 前回の感想で触れたが、この巻は全悪連絡みの話に傑作が多い。理事長の凄まじい歌唱力を描いた「全悪連盟歌」(ジャイアンとぜひ対決して欲しい)、めずらしく格好つけたナレーションが妙に印象的な「全日本悪者連盟の選挙」、名ゼリフ「じゃあ、ラリルレロ順」が笑える「パーマン警報器」などなど、笑える話が揃っている。
 旧作の全ギャド連が新作の全悪連に変わってから、明らかにコミカルな面が強調されるようになったが、これは新作の作風にマッチしていて成功だったと思う。それだけに、シンエイ版のテレビアニメに全悪連が出なかったのは、もったいない。ドン石川の声は平成劇場版の内海賢二氏がはまり役だったので、テレビアニメでも内海さんの声で喋るドン石川と子分たちを観たかった。

 本巻では、「タイムマシン」が珍作として見逃せない。これも全悪連&魔土災炎絡みの話だが、ここで登場したタイムマシンは形も機能も明らかに『ドラえもん』の「タイムベルト」そのまんま。魔土博士、透明薬は無理でもタイムマシンは発明できるのか。どっちにしても凄い人物だ。そんなタイムマシンを、金庫室に侵入するためだけに使うあたりがみみっちくて泣ける。
 この話は藤子不二雄ランドでは、セリフの「22年前」と「22年後」を間違えるミスがあって長年気になっていたのだが、今回はようやくちゃんと訂正されてすっきりした。



・『エスパー魔美』第5巻

 こちらも最終巻。あらためて『エスパー魔美』後期の話を読むと、魔美が悪人退治に堂々と超能力を使って「あたしはエスパー、でも他言無用」で済ませてしまう話が多くなっている。最初のうちはなるべく力がばれないようにとしていたし、以前には黒沢のような奴もいただけに「それでいいのか」と、ちょっと引っかかってしまう。

 そのせいか、本巻では「マミを贈ります」「思い出を運ぶハト」「ドキドキ土器」「占いとミステリー」など、悪人退治をしないエピソードの方が、より印象深くて好きだ。あとは、ある意味『エスパー魔美』最大の問題作と言える「リアリズム殺人事件」を忘れるわけにはいかない。アニメ版の改変には本放送当時から賛否両論だったことが当時のアニメ誌でわかるが、これを原作通りに作っていたら鬼気迫る凄い作品になったのではないだろうか。その点ではアニメ版は残念な出来だった。
 また、長期連載にはありがちな事だが、絵のタッチも1巻と比べるとずいぶん変わった。一番変化が激しいのは高畑くんだろう。本巻では、顔が正面から描かれている時に鼻が丸くなっている事があり、何だか別人を見ているみたいで気になった。

 ともあれ、全5巻で全集版『エスパー魔美』は完結。カラーを全て再現した初の「完全版」の意義は大いにあったと思う。5巻に限って言えば、カラーがないのでちょっと物足りないが。そして、『エスパー魔美』最後の掲載は1983年5号だから、直接的な作品終了の原因は新作『パーマン』の連載開始だったのだろうか。その『パーマン』と同時に全集版が完結したことには、奇妙な因縁を感じた。
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