『UTOPIA 最後の世界大戦』復刻版発売!

 待ちに待っていた小学館クリエイティブの『UTOPIA 最後の世界大戦』復刻版が、ようやく発売された。





 箱付きで、中には『UTOPIA 最後の世界大戦』本体及び「UTOPIA読本」、ロボットのペーパークラフトが収められている。
 箱では著者名は「藤子・F・不二雄 藤子不二雄A」と連名表記になっているが、本体では原本通り「足塚不二雄」のままだ。著者名だけではなく、今回の復刻は初版本を元に作られており、カバーがついていることと奥付の検印が印刷になっていることを除けば、ほぼ初版本原本通りだ…と思う。私は、初版本の中身を見たことはないので、「思う」としか言いようがないのだが、初版の原本に限りなく忠実に復刻されているはずだ。
 今までは、『UTOPIA 最後の世界大戦』と言えば、ガラスケースの中に展示されているのを眺めた事しか無かった。私にとっては別世界の存在だったわけで、復刻版とは言え限りなく原本に近い本を手にとって読むことが出来るというのは、まさに夢のようだ。以前の『新寳島』に続き、貴重な復刻を実現してくれた小学館クリエイティブにはただただ感謝してもしきれない。

 今回の復刻は「原本に忠実」なので、最後の一コマと、カップリングで収録されている漫画「覆面団」までもきちんと復刻されている。これらは、いずれも藤子先生の手によらないものなので、これまでの復刻ではカットされていた。特に、最後の一コマは本編の内容を無視していきなり主人公の父(らしき人物。明らかに藤子先生とは絵柄が違うので、本当に主人公の父なのか今ひとつ判断が出来ない)が「科学!!科学…科学 それも必要だ… しかし大自然の理想郷もなくてはね」とか言い出す、明らかに「蛇足」としか思えない内容で、F先生が怒りのあまりこのコマに×印をつけてしまうほどだったと言う。
 その経緯を考えると、おそらくF先生のご存命中には今回のような復刻は不可能だっただろう。今回は、よく藤子プロが許可を出してくれたものだ。
 そして、今まで謎の存在だったカップリング作品「覆面団」だが、当時の漫画としてはこんなものなのだろうと言うしかない。明らかに手塚タッチを意識した絵だが、漫画としての出来は昭和20年代の手塚作品とは比べるべくもない。当時の描き下ろし単行本漫画の中でどの程度の水準なのかはわからないが、当時を知るためのある意味いいサンプルになっていると思う。
 それにしても「覆面団」の作者は、扉絵にも奥付にも作者名を載せてもらえず、現在まで著者不明のままなのだから可哀想だ。自作が『UTOPIA 最後の世界大戦』のオマケ扱いになった事について、作者の思いはどんなものだったのだろうか。

 と、ここまで『UTOPIA 最後の世界大戦』本編については全然語っていない。実のところ、本編は藤子不二雄ランド版で既に読んでいるので、今さら語りにくいと言うのが正直なところだ。強いて言えば、2色刷りになってより原本に近い雰囲気で読めたのはよかった。とは言え、この2色刷りも藤子先生の関与しないところで勝手に着色されたそうなので、コメントしづらい部分ではあるが。


 『UTOPIA 最後の世界大戦』は、藤子・F・不二雄大全集の第3期でも2色刷りで収録されることが決まっているので、とにかく藤子先生の描いた本編だけが読めればいいと言う人は、そちらを待った方が賢明だろう。逆に言えば、今回の復刻版にしかない要素は「初版本の雰囲気」「最後の一コマ」「覆面団」と言うわけで、これらの要素に3,990円を出せるかどうかが問題だ。個人的には、「覆面団」を読んでみたかったし、原本の雰囲気も伝わってきたので、十分満足だ。欲を言えば、綺麗すぎる点に違和感があるが、これは仕方がないところだろう。ともかく、この復刻版に関わった方々には感謝したい。

 と、書いてから思いだしたが、そう言えばロボットのペーパークラフトも初版限定で復刻版にしか付いていないものだった。しかし、これは正直言ってどうでいい。どうせ紙のオマケならポストカードにでもしてくれた方がよかった。ペーパークラフトだと、いつか切り目からバラバラにしてしまいそうで怖い。復刻版の特設ページを見ると、担当者はノリノリだったようだが、やる気が空回りしてしまったのではないだろうか。ペーパークラフトを眺めて、そんなことを思ってしまった。
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ジェッターマルス #27(最終話)「明日に向って 羽ばたけ!」感想

 東映チャンネルで放送していた『ジェッターマルス』が、とうとう最終回を迎えた。
 当ブログでは第1話と11・12話しか感想を書けなかったが、最終回についてはシリーズ全体の総括も含めて、感想を書いておきたい。



・ジェッターマルス 第27話「明日に向って 羽ばたけ!」
(脚本/雪室俊一、演出/山吉康夫、作画監督/森 利夫)

 最終回のストーリーにどの程度手塚先生が関わっていたかはわからないが、逆らう者は即ガス室送りと言うロプラス共和国の恐怖政治は、手塚カラーがよく出たえげつなさだったと思う。マルスを頼ってきた少年少女たちにしても、ガス室送りの一言で片付けられて、その後は登場しないあたり、さらっと描かれているだけに怖い。
 その、ロプラスの独裁者がロボットという設定は、『鉄腕アトム』(第1作)の最終回「地球最大の冒険の巻」の影響があるのかも知れない。本作の、大統領が心も人間並みだったために、体内に仕込まれた核兵器の爆発を恐れると言う展開は、シリーズ初期から「ロボットに心は必要か」をテーマにしてきたこの作品らしくて、最終回の敵としてはふさわしかった。
 この「心を持ったロボット」については、ずっと後に『ASTRO BOY 鉄腕アトム』で、やはりシリーズ全体のテーマとして描かれており、その源流が『ジェッターマルス』にあったのかもしれないと考えると、なかなか興味深い。

 また、最終回を含めたシリーズ終盤を盛り上げた立て役者として、「さすらいのロボット」ことアディオスの存在を無視するわけにはいかない。第23話「さすらいのロボット」で初登場して、その後は第26話「帰って来た アディオス」、そして最終回と続けて登場した。脚本は全て雪室俊一氏が担当しており、アディオスは雪室氏が育てたキャラクターと言える。
 もっと放映が続いていれば、シリーズの節目節目に登場して、その度においしいところをさらっていったかも知れない。シリアスもズッコケ演技もこなせるキャラだっただけに、全27話と作品が短命に終わってしまったのはもったいなかった。


 シリーズ全体としては、前述の「ロボットの心」についての問題が、第8話における山之上博士の失踪で半ばうやむやになってしまった点は少々残念だったが、その反面、山之上博士失踪後の方が話がバラエティ豊かになったのも確かなので、土前半と後半、どちらがいいとは一概には言えない。
 原作漫画の存在しないアニメオリジナル作品でありながら、前述のロプラスの設定など、シリーズを通して手塚作品らしい容赦ない設定や展開が随所に盛り込まれており、手塚作品として十分に楽しめた。特に印象に残った話を挙げると、第13話「ロボット転校生 ハニー」、第19話「マルスの初恋」、第21話「鉄腕ロボット ジョー」、第26話「帰って来た アディオス」あたりになる。特に、第26話は息子を失った郷老人(演ずるは、『鉄腕アトム』の天馬博士!)が、マルスを息子そっくりに改造しようとする、逆「アトム誕生」とも言うべきエピソードであり、最終回の1話前だからこそ出来た話だと言えるだろう。
 あえて、気になった点を挙げるとすれば、メルチ主役のエピソードが少なかったことだ。赤ん坊ロボットだから話を作りにくかったのかも知れないが、ほとんどおじゃまな弟としてしか描かれていなかったのは残念だった。


 それにしても、『鉄腕アトム』第2作が、『ジェッターマルス』のたった3年後に始まっているのは、あらためて思うと意外な事だ。もし、『ジェッターマルス』が大ヒットして3クール目以降も続いていたら、その後のアニメ版『鉄腕アトム』の歴史も変わっていただろう。その点でも、『ジェッターマルス』は手塚アニメを語るには避けて通れない、隠れた重要作品だったと思う。今回、観ることが出来て本当によかった。
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白黒版『鉄腕アトム』を観た

 先日、白黒版『鉄腕アトム』のDVD-BOX 1を購入した。
 よりによって『ジェッターマルス』を観ている途中に買わなくてもと思われるかもしれないが、実のところ『ジェッターマルス』を観ているうちに、元祖アニメ版『鉄腕アトム』も観たくなり、ちょうどボーナス時期で多少懐が暖かかったので、ついつい買ってしまったという訳だ。


 一口にDVD-BOXと言っても、93話も収録されているからどれから観たものか迷うのだが、最初は第1話を差しおいて、第34話「ミドロが沼の巻」を観た。やはり、藤子ファンとしてこの話は外せない。
 実際に観てみると、話には聞いていたが、カットごとにアトムの顔がコロコロ変わって笑える。この時代、すでにスタジオ・ゼロのメンバーの画風は確立されているから、絵に特徴が出ていて誰がどこを描いたか結構わかりやすい。たとえば、冒頭に出てきたギャングはもろに安孫子絵だったので、藤子アニメを観ているかのように錯覚してしまった。いや、藤子アニメだってここまでちゃんとした安孫子タッチは再現できていないだろう。
 DVD-BOXの中でも「ミドロが沼の巻」は特別扱いされていて、副音声で藤子不二雄A・つのだじろう・鈴木伸一各先生の解説が付いて、さらにこの三人による座談会まで収録されている。藤子ファン兼手塚ファンの私にとっては非常に豪華な内容だ。

 その後は、「黒い宇宙線の巻」「人間牧場の巻」「13の怪神像の巻」「細菌部隊の巻」などを観た。手塚ファンの方はサブタイトルでおわかりかと思うが、これらは『鉄腕アトム』以外の手塚作品を原作として使ったエピソードだ。『ゲゲゲの鬼太郎』の第2作などでも鬼太郎以外の水木短編を原作としてアニメ化していたが、これは白黒版アトムがすでに通った道だったのだ。
 このDVD-BOXは白黒版『鉄腕アトム』の前半2年分を収録しているわけだが、最初の1年ですでに原作がほとんど尽きてしまって、総集編(「アトム・サヨナラ・1963年の巻」)を挟んだり、一度アニメ化した話をリメイクしたり(「ケープ・タウンの子守唄の巻」など)、アニメオリジナルエピソードを制作したり、前述のように他の手塚作品を原案に使ったりと、とにかくありとあらゆる手を使って話を作っている様子がうかがえて、実に興味深い。
 原作付きの話も「赤い猫の巻」「マッドマシンの巻」「三人の魔術師の巻」「アルプスの決斗の巻」など何本か観たが、30分枠に収めようと結構大胆な改変が行われていて驚いた。原作付きはこれから本格的に観ていくところだが、前後編ものが1編しかない(「エジプト陰謀団の巻」&「クレオパトラの首飾りの巻」)のだから、残りのエピソードも改変を覚悟して観た方がいいんだろうなあ。

 と、今日までに白黒『アトム』を観た大ざっぱな感想としては、30分のテレビシリーズアニメ第1作という事で、どうしても技術の稚拙さや動画枚数の足り無さは否めない。しかし、制約の多い中で出来るだけの物を作ろうとするスタッフの熱気は伝わってきた。原作の面白さとは別の意味で面白い(=興味深い、と言った方がいいか)作品だと思う。


 それにしても、このDVD-BOXは非常に作りが丁寧だ。従来不明だったOP・EDのバージョン違いが可能な限りフォローされているし、先の「ミドロが沼の巻」のように、フィルムが紛失している作品も、海外版の映像+国内版音声の組み合わせで復元されている。また、付属の解説書は48ページ×3冊の大ボリュームで非常に読み応えがある。
 全てのアニメがこのようにソフト化されれば理想なのだが、現実はそんなに甘くない。制作年代を考えると、この白黒版『アトム』をはじめとする虫プロ制作の一連の手塚アニメは、非常に幸福な形でソフト化された希有な例と言えるだろう。それだけに、DVDとしては格安の値段で買えるのはありがたい。
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