先日、作品社より山中峯太郎訳著による『名探偵ホームズ全集』第1巻が発売された。
これは、かつてポプラ社から発売されていた、いわゆる『山中版ホームズ』を平山雄一氏の註付きで復刻したもので、第1巻には原本の7冊分が収録されている。そう、あの昔懐かしいホームズなのだ…と言いたいところだが、個人的には子供の頃に『山中版ホームズ』を読んだことはなかったので、特に懐かしくはない。
しかし、ポプラ社から出た子供向けのミステリとなると、『少年探偵 江戸川乱歩全集』と『怪盗ルパン全集』の二つのシリーズは非常に愛読した。これらと並び称される『山中版ホームズ』のことは、前々から気になっていたので、今回の復刻版を買うことにしたのだ。
そもそも、私が初めて読んだミステリは、忘れもしない小学生の時。学校図書館に置いてあった『少年探偵 江戸川乱歩全集』の「透明怪人」だった。懐中電灯の光に浮かび上がる怪しい顔が描かれた表紙絵と、「透明怪人」という不思議なタイトルに惹かれて読んだのを、今でもよく覚えている。
最初は、ミステリではなくSFと思っていた気もする。つまり、透明怪人は本物の透明人間だと思って読み始めたのだ。しかし、実際に読んでみると透明怪人の正体は怪人二十面相であり、透明にもトリックがあるというもの。子供向けとは言え、この作品できっちりと論理に基づいて謎が解かれる面白さを味わったのだった。
それから、このシリーズが気に入って、図書館に並んでいた『少年探偵 江戸川乱歩全集』を次々と読んでいった。
すると、読み進むにつれて不思議に思うことがあった。シリーズ前半の巻は「ですます」調の文で書かれており少年探偵団の活躍が描かれているが、後半の巻になると「~だ。~である」調になって、殺人など残酷な犯罪が描かれるようになっていたのだ。
後になって、このシリーズの第27巻「黄金仮面」以降は、乱歩の大人向け作品を別の作家が子供向けにリライトしたものだと知って納得したわけだが、小学生当時はそんなことは知らないから、一体なぜ巻によってこんなに作風が違うのかと、首をひねったものだった。
ただ、個人的な好みとしては、シリーズ前半より後半の大人向け作品リライト版の方が特に好きだった。何というか、大人の世界を垣間見たような気分を味わっていたのだ。子供向けに直されているとは言え、基本的な筋は同じなので、「三角館の恐怖」で本格推理の面白さを、「影男」で地下の秘密の国の妖しさを、そして「恐怖の魔人王」ではめちゃくちゃに破綻した作品故の歪んだ面白さを味わったのだった。
とは言え、本来は明智小五郎の出ない作品にまで明智を登場させたために、話に無理の生じた「大暗室」や「赤い妖虫」などの珍作もあったが。
現在でもポプラ社から『少年探偵 江戸川乱歩全集』は刊行されているが、全26巻となり、第27巻以降の作品は省かれてしまっている。
おそらく、あまりに残酷な殺人が描かれているのと、現在では差別的と言われる言葉が頻出するためなのだろうが、実に残念だ。仕方がないので、私は古本屋で旧版の第27巻以降を見つけたら、保護するようにしている。今はまだ9冊しか手に入れていないが、いずれは全21冊を揃えたい。さらには、前半の巻も可能な限り手に入れたいものだ。
私が小学生の時に読んだのは、『少年探偵 江戸川乱歩全集』だけではない。南洋一郎・文による『怪盗ルパン全集』も、同様に愛読した。『少年探偵 江戸川乱歩全集』とはひと味もふた味も違う、怪盗と言いつつ正義の味方なルパンの冒険に熱中したものだ。
こちらも、現在でもポプラ社から刊行されているが、やはり私が愛読した全30巻のシリーズではなく、10冊も減って全20巻となってしまっている。ルブランの短編を元に南洋一郎が書き下ろしたらしい「ピラミッドの秘密」や、ボワロー=ナルスジャックがアルセーヌ・ルパン名義で出した第26巻~第30巻の作品などは、今では容易に読むことが出来ないのだ。実にもったいないと言わざるを得ない。
ただ、今でもポプラ社から刊行されている点で、『乱歩』『ルパン』は、まだ恵まれている。
これらに対して、『山中版ホームズ』は、昭和50年代を最後に絶版になったままだったのだ。少なくとも、私が小学生時代を過ごした昭和60年前後の学校図書館には、すでに置いていなかった。あれば、『乱歩』『ルパン』と一緒に愛読していたはずだ。
そんなわけで、今まで『山中版ホームズ』は未読だった。興味はあったが、古書価も高騰しており、おいそれと集められるものではなかった。だから、今回の復刻版刊行は非常にありがたい。挿絵がないなどの問題はあるが、それでも独特の味のある文章を読めて非常にうれしい。まだ少ししか読んでいないが、ホームズの「フッフッフー」には独特のリズム感があるし、「~ですよ」としゃべるレストレード警部は何となく可愛らしくていい。原典のホームズとはひと味もふた味も違う面白さがあると言えるだろう。今後、読み進めるのが楽しみだ。
それにしても、全3巻が毎月刊行ではなくて助かった。毎月7000円はちょっときつい。まあ、せっかく第1巻を買ったのだから、2巻・3巻も買いますよ。
これは、かつてポプラ社から発売されていた、いわゆる『山中版ホームズ』を平山雄一氏の註付きで復刻したもので、第1巻には原本の7冊分が収録されている。そう、あの昔懐かしいホームズなのだ…と言いたいところだが、個人的には子供の頃に『山中版ホームズ』を読んだことはなかったので、特に懐かしくはない。
しかし、ポプラ社から出た子供向けのミステリとなると、『少年探偵 江戸川乱歩全集』と『怪盗ルパン全集』の二つのシリーズは非常に愛読した。これらと並び称される『山中版ホームズ』のことは、前々から気になっていたので、今回の復刻版を買うことにしたのだ。
そもそも、私が初めて読んだミステリは、忘れもしない小学生の時。学校図書館に置いてあった『少年探偵 江戸川乱歩全集』の「透明怪人」だった。懐中電灯の光に浮かび上がる怪しい顔が描かれた表紙絵と、「透明怪人」という不思議なタイトルに惹かれて読んだのを、今でもよく覚えている。
最初は、ミステリではなくSFと思っていた気もする。つまり、透明怪人は本物の透明人間だと思って読み始めたのだ。しかし、実際に読んでみると透明怪人の正体は怪人二十面相であり、透明にもトリックがあるというもの。子供向けとは言え、この作品できっちりと論理に基づいて謎が解かれる面白さを味わったのだった。
それから、このシリーズが気に入って、図書館に並んでいた『少年探偵 江戸川乱歩全集』を次々と読んでいった。
すると、読み進むにつれて不思議に思うことがあった。シリーズ前半の巻は「ですます」調の文で書かれており少年探偵団の活躍が描かれているが、後半の巻になると「~だ。~である」調になって、殺人など残酷な犯罪が描かれるようになっていたのだ。
後になって、このシリーズの第27巻「黄金仮面」以降は、乱歩の大人向け作品を別の作家が子供向けにリライトしたものだと知って納得したわけだが、小学生当時はそんなことは知らないから、一体なぜ巻によってこんなに作風が違うのかと、首をひねったものだった。
ただ、個人的な好みとしては、シリーズ前半より後半の大人向け作品リライト版の方が特に好きだった。何というか、大人の世界を垣間見たような気分を味わっていたのだ。子供向けに直されているとは言え、基本的な筋は同じなので、「三角館の恐怖」で本格推理の面白さを、「影男」で地下の秘密の国の妖しさを、そして「恐怖の魔人王」ではめちゃくちゃに破綻した作品故の歪んだ面白さを味わったのだった。
とは言え、本来は明智小五郎の出ない作品にまで明智を登場させたために、話に無理の生じた「大暗室」や「赤い妖虫」などの珍作もあったが。
現在でもポプラ社から『少年探偵 江戸川乱歩全集』は刊行されているが、全26巻となり、第27巻以降の作品は省かれてしまっている。
おそらく、あまりに残酷な殺人が描かれているのと、現在では差別的と言われる言葉が頻出するためなのだろうが、実に残念だ。仕方がないので、私は古本屋で旧版の第27巻以降を見つけたら、保護するようにしている。今はまだ9冊しか手に入れていないが、いずれは全21冊を揃えたい。さらには、前半の巻も可能な限り手に入れたいものだ。
私が小学生の時に読んだのは、『少年探偵 江戸川乱歩全集』だけではない。南洋一郎・文による『怪盗ルパン全集』も、同様に愛読した。『少年探偵 江戸川乱歩全集』とはひと味もふた味も違う、怪盗と言いつつ正義の味方なルパンの冒険に熱中したものだ。
こちらも、現在でもポプラ社から刊行されているが、やはり私が愛読した全30巻のシリーズではなく、10冊も減って全20巻となってしまっている。ルブランの短編を元に南洋一郎が書き下ろしたらしい「ピラミッドの秘密」や、ボワロー=ナルスジャックがアルセーヌ・ルパン名義で出した第26巻~第30巻の作品などは、今では容易に読むことが出来ないのだ。実にもったいないと言わざるを得ない。
ただ、今でもポプラ社から刊行されている点で、『乱歩』『ルパン』は、まだ恵まれている。
これらに対して、『山中版ホームズ』は、昭和50年代を最後に絶版になったままだったのだ。少なくとも、私が小学生時代を過ごした昭和60年前後の学校図書館には、すでに置いていなかった。あれば、『乱歩』『ルパン』と一緒に愛読していたはずだ。
そんなわけで、今まで『山中版ホームズ』は未読だった。興味はあったが、古書価も高騰しており、おいそれと集められるものではなかった。だから、今回の復刻版刊行は非常にありがたい。挿絵がないなどの問題はあるが、それでも独特の味のある文章を読めて非常にうれしい。まだ少ししか読んでいないが、ホームズの「フッフッフー」には独特のリズム感があるし、「~ですよ」としゃべるレストレード警部は何となく可愛らしくていい。原典のホームズとはひと味もふた味も違う面白さがあると言えるだろう。今後、読み進めるのが楽しみだ。
それにしても、全3巻が毎月刊行ではなくて助かった。毎月7000円はちょっときつい。まあ、せっかく第1巻を買ったのだから、2巻・3巻も買いますよ。