『映画ドラえもん のび太の 宇宙小戦争 2021』感想

 昨日、『映画ドラえもん のび太の 宇宙小戦争 2021』が公開された。
 タイトルに「2021」と付いていることからもわかるように、本来ならば昨年のこの時期に公開されているはずだった。一年の延期となったのは、ファンの立場からすると厳しい措置ではあったが、ようやく無事に公開日を迎えることができて、まずはめでたい。もし、オミクロンのせいで再延期となったらどうしようと思っていた。

 例年通りであれば、名古屋でファンが集まっての映画鑑賞会となるところだったが、まだまだコロナの流行が収まっていないため、今回も一人での鑑賞となった。ここに、感想を書いておく。
 いつも通りに、ここから先は映画の内容に触れてネタを割っている箇所があるため、未見の方はご注意いただきたい。



 さて、今回の映画がよかったか悪かったかと聞かれれば、「かなりよかった」と答えたい。
 公開前に漏れ聞こえてくる情報からは、かなりストーリーをアレンジしているであろう事が推測できて、事実その通りだったのだが、アレンジはしていても芯は外しておらず、一本の映画として納得できる作りになっていた。
 今回の映画のアレンジについて考えると、「未来の国からはるばると」でセワシが「たとえば、きみが大阪へ行くとする。いろんなのり物や道すじがある。だけど、どれを選んでも、方角さえ正しければ大阪へつけるんだ。」と言っていたのを連想する。
 まさに「いろんな道すじ」のうち、今回はオリジナルとは少し異なる物が選ばれたと言っていいだろう。

 導入からして原作とは異なっていて、最初から出木杉が映画制作に加わっており、さらにドラえもんまで手を貸すという展開になる。
 この「映画をみんなで作る」描写は、ラストシーンの出木杉の「どうやって撮ったの?」にもつながってくるわけだが、バギーにみんなが乗っての撮影シーンを入れるなど、小さくなった事によるワクワク感・楽しさをより表現していた。こんなに楽しいなら、自分も小さくなってみたいと観客に思わせることには成功していたと思う。

 本筋に入ってからも、原作とは異なる展開が目白押しだ。
 中でも、いちばん大きな相違点は「しずかを助ける時にパピが連れて行かれない」ところだろう。これによって、ドラえもんたちがピリカ星に行く目的として、スモールライトの奪還がクローズアップされることになった。
 結果として、この改変により、パピというキャラクターをより掘り下げて描くことができたのではないか。原作と旧映画では、後半は捕まっていてあまりセリフもなかったパピだが、ドラえもんたちと同行するようにしたために、のび太やスネ夫とのやりとりをはじめとして、より人間的な面が描かれていた。

 そして、今作のオリジナルキャラクターであるピイナの存在についても触れておきたい。
 パピの姉で大統領補佐官という役回りのキャラクターだったが、パピがピリカ星に戻る動機付けだった。普段は大統領として大人びた言動をするパピが、素に戻ることができる相手であり、やはりパピの人間性を掘り下げて描くために作られたキャラと言っていいだろう。
 これまで、リメイクのわさドラ映画では何人かの映画オリジナルキャラクターが登場していたが、今回のピイナは好感を持てた。ピイナの存在のみによって話が変わってしまうのなら気になっただろうが、そもそも原作からかなり改変されているので、それほど気にならないと言うこともあったのだろう。

 終盤では、スモールライトを奪還するための潜入に石ころ帽子を使う展開があったが、これでのび太のみが捕縛から逃れて単独行動を取ることになった。やはり、タイトルに「のび太の」と付いているからには、のび太の見せ場もあった方がいいという判断だったのかもしれない。
 石ころ帽子は原作にない、付け足された道具であったが、逆にチータローションは原作に登場するにもかかわらず、今回の映画では存在をカットされてしまった。チータローションのファンは大ショックだろう。カットしたことで、自由同盟のアジトへの道のりはテンポがよくなった感はあるが。
 最後にギルモア将軍を市民たちが追い詰めるという展開は、原作とも旧映画とも共通する点であり、大統領だけでなく民衆がたちあがっての平和の獲得という物語の着地点はしっかりしていた。違う道すじでもちゃんとゴールにたどり着けたというわけだ。
 パピの演説が法廷でのものから、ギルモアの戴冠式に変えられていたが、全星にテレビ中継されたことで民衆が立ち上がるきっかけとなっていたのは、なかなか上手い改変だった。

 今回の映画、もちろん原作や旧映画へのリスペクトはあるのだと思うが、特に旧映画に対しては過剰には意識しておらず、あくまで今作は今作として割り切って作られている感じだったのも、好感を持てたところだ。
 たとえば、旧作では自由同盟のアジトで挿入歌として「少年期」が流れるシーンが非常に印象的であったが、今作でも挿入歌が流れるシーンはあったものの別の場面であり、それにふさわしい演出がなされていたと思う。これはこれで、なかなか印象的なシーンとなった。
 その一方で、原作や旧映画で特に人気の高いと思われる、しずかの牛乳風呂についてはカットせずちゃんと描いているあたり、スタッフのこだわりを感じた。
 全体として、原作の精神を生かしつつ、それを再構築してあらたな「宇宙小戦争」が作られていたと思う。

 今回のゲスト声優についても触れておこう。
 パピ、ドラコルルやゲンブさん、ロコロコあたりは全く問題なく、なかなかのはまり役だった。普段から声優をメインに活動している人たちだから、当然と言えば当然か。
 ギルモア将軍役の香川照之やピイナ役の松岡茉優の演技も、なかなかよかった。ミルクボーイの二人については、さすがにちょっと苦しいところもあったように思う。ただ、聴くに堪えないほどではなかったのは救いか。

 エンディング主題歌の「Universe」は、テレビアニメ版のエンディングとしてもう一年以上も使われているのですっかりおなじみの曲だが、ようやく本来の姿で聴くことができたなという感じだ。映像面で言えばエンディング映像のほとんどは本編の抜粋なのだが、曲の最後に映画のタイトルがドンドンドンと出るところはなかなかいい感じだった。
 挿入歌の「ココロありがとう」も、なかなかいい曲。すでにCDは出ていたが、あえて聴かずに映画本編で初めて聴くようにした。どうでもいいが、心を「ココロ」とカタカナにすると、なんだか喪黒福造チックではある。

 来年の映画は…なんなんだろう。飛行船が出ているから「のび太の創世日記」ではないかという指摘も目にしたが、さすがにあれだけでは決めつけられないように思う。二年続けてリメイク物とも考えにくいし、何か全くのオリジナル企画であるような気がしてならない。
 ともかく、今作は一年間余計に待っただけの甲斐はあった。もしかしたら、原作に忠実なリメイクを望んでいた人には不評かもしれないが。私にとっては面白い、いい作品だった。
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