ついに解けた『旋風Z』『ハリケーンZ』の謎

 先日、国書刊行会より発売された「旋風Z・ハリケーンZ」を買ってきた。これは、手塚治虫オリジナル版復刻シリーズの第2期・第1回配本になる。

 昨年から刊行された第1期の三冊は色々と事情があって(ぶっちゃけた話、単純に言うと懐具合の都合で)買えなかったのだが、『旋風Z』と『ハリケーンZ』のオリジナル版復刻となれば、買い逃すわけには行かない。
 『ハリケーンZ』については、このブログでも以前に取り上げているので、詳しくはこちらこちらをご覧いただきたい。とにかく、以前から初出版を読みたいと思っていた作品だ。

 今回は「オリジナル版復刻シリーズ」と銘打っているだけあって、発売元の違う『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集』と同様に、本誌掲載分はまとめて一冊にして、付録は元の付録の体裁のままで復刻されている。全部を箱から出してみると、こんな感じだ。





 この形式だと、オリジナルに限りなく近い形で読める点はいいのだが、何冊にも別れているせいで箱からの出し入れが面倒くさい。完全にマニア向けの復刻形式と言える。そもそも、本体価格8,000円という値段からして、気軽に買えるものではない。消費税だけで新書版コミックスが一冊買えてしまうのだから。

 今まで、別冊付録で発表された回は図書館にも所蔵が無くて読めなかったが、その中で一番読みたかったのは『旋風Z』の最終回だ。単行本では最後に改心している宿敵・蛇沼博士は、『ハリケーンZ』では再び敵として登場している。と言うことは、おそらく初出版では蛇沼博士の改心は描かれていなかったのではないか。だとすれば、最終回は初出と単行本で大幅に違う内容になっているはずだ、と想像していたからだ。
 と言うわけで、真っ先に『旋風Z』最終回の「大団円の巻」を読んでみたが…単行本版とストーリー展開はほぼ同じだった。つまり、初出版では『旋風Z』で一度改心したはずの蛇沼博士が、『ハリケーンZ』でなぜかまた悪人として登場していたことになる。これはさすがにあんまりだ。この、蛇沼博士の出てくる「13の怪神像の巻」は最後のエピソードだが、特に最終回はページ数も少なくてあわただしく終わっている。いかにも打ち切り臭くて、手塚先生もやる気を無くしてしまっていたのではと勘ぐりたくなる。後年、嫌っている作品として挙げるようになった原因は、このあたりにあるのではないか。

 ところで、『旋風Z』の最終回は、前述のようにストーリー展開は単行本とほぼ同じなのだが、それ以外に大きく異なる部分がある。なぜか手塚先生と編集者が登場して、最終回をどんな筋にするかについての漫才のようなやりとりが、あちこちに挟まっているのだ。これが、著しく話のテンポを悪くしてしまっており、お遊びとしてもやりすぎの感がある。単行本版と比べると、なおさらだ。読んでいて、アニメ版『キン肉マン』のアナウンサーや中野さん・キン骨マンたちのギャグでテンポが悪くなっていたのを思い出してしまった。まさか、手塚作品から『キン肉マン』を連想する事があるとは。
 さすがにこれは単行本で直したのもうなずけるが、それよりもなぜ大事な最終回でこんなお遊びをやったのか、実に不思議だ。蛇沼博士の件を含めて、リアルタイムで連載を読んでいた読者の感想を、ぜひ聞いてみたいものだ。

 別冊付録ではもう一冊、『ハリケーンZ』で唯一付録になった回が気になっていたが、こちらは『花とあらくれ』(小学館クリエイティブ)に収録されている再録バージョンとあまり違いはなかった。唯一にして最大の違いは、初出版にはジェットが登場しているところだ。再録版ではジェットの出番が全てカットされているせいか、初出版に比べてより男臭くて暗いムードを感じる。初出では、ちゃんと「『旋風Z』の続編」として描かれていたんだなあ。もっとも、ジェットも「13の怪神像の巻」では全く出番はないけど。
 と、このように『ハリケーンZ』の初出版と再録版を比較して読める日が来ようとは、全くいい時代になったものだ。少し前までは『ハリケーンZ』自体が黒歴史扱いされていたのだから。


 オリジナル復刻版第2期・第2回配本『銀河少年―手塚治虫少年漫画作品集』は12月下旬に発売が予定されている。収録作品は「銀河少年」「ワンダーくん」「風之進がんばる」「前世紀星」「豆大統領」「おばけジャングル」。「ワンダーくん」以外は全て全集未収録で、こちらも見逃せない。12月は『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集』のユニット6も出るので、手塚関係で散財する月になりそうだ。
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藤子・F・不二雄大全集 第2期 第2回配本 感想

 ここのところ、当ブログの更新頻度が落ちている。しばらくはこんな状態が続きそうだ。それでも、せめてF全集の感想くらいは書いておきたい。



・『大長編ドラえもん』第1巻

 短編の『ドラえもん』が刊行途中だが、『大長編ドラえもん』も登場。第1巻の収録作品は「のび太の恐竜」「のび太の宇宙開拓史」「のび太の大魔境」の3編。いずれも、何度も読み返した作品なので、本編については特にあらためて書くようなことは思い浮かばない。3編とも名作。これだけで十分だろう。この中であえて一番好きな作品を選ぶならば、「のび太の宇宙開拓史」だ。
 本巻の大全集ならではの注目点は、事前にアナウンスされていた「カラーページ完全再現」なのだろうけど、カラーページは「カラーコミックス」に既にカラーで収録されているので、個人的にはあまりありがたみはない。それよりも私にとってうれしかったのは、単行本未収録の扉絵がようやく完全収録されたことだ。大長編の初出が載っている「月刊コロコロコミック」は、「のび太の恐竜」の掲載された1980年1月号~3月号の三冊は既に持っているが、残り2作品については未入手のままだった。今回、初見だった絵も多いが、いずれも大長編ならではの迫力で見応えがあった。
 大全集は他の単行本との差別化のためか、前述の要素に加えて単行本のカバー絵や登場人物紹介まで、入れられるものは可能な限り全部収録しようとしているようだ。コロコロだけでなく、学年誌に掲載されたカットも載っていたのはよかった。特に、584ページのドラとピー助のツーショットは新鮮な組み合わせで、いい感じだ。
 この調子なら、第2巻以降も未収録の扉絵やカットには期待できそうで、楽しみだ。また、大長編ドラだけでなく、第3期以降で出るであろう『モジャ公』でも単行本未収録の扉絵は相当数存在するので、こちらもぜひそれらの絵を収録して欲しい。



・『少年SF短編』第1巻

 こちらも、大長編ドラと同様に、これまでの単行本に無かったカラーページがそのまま収録されている。本巻では、特に「流血鬼」2色カラー部分は血が飛び散る場面に迫力があって、なかなかいい。ただ、白黒の描き足しコマがカラーページに混ざってしまっているのは、読んでいてちょっと気になってしまう。最初にに収録されたてんとう虫コミックスが全て白黒ページだったから、仕方がない事なのだが。おそらく、描き足しによって削除されたコマもあるだろうから、いずれ初出版もチェックしてみたい。
 巻頭口絵には、これまでに出た単行本のカバーイラストが収録されているが、そのなかで藤子不二雄ランド版『少年SF短篇』から、第4巻「おれ、夕子」の絵だけが収録されているのは注目すべきところだ。「おれ、夕子」の巻が出た頃のFFランドは、大半のカバーイラストがF先生の絵ではなく、特にこの巻だけF先生が直接手がけていたのだ。その絵を漏らすことなく収録した事は評価したい。
 大長編ドラと同様に何度も読んでいる作品群なので、本編の感想としてはあらためて書くべき言葉が見つからないのだが、歳を取ってしまった今になって身にしみるのは「未来ドロボウ」だ。「あのころの一日一日が、どんなに光り輝いていたか……」のセリフに共感できるのは、本来の読者層の「少年」よりは、「あのころの一日一日」を振り返る歳になってからだと思う。
 もちろん、他の作品も名作揃い。読み応えのある一冊だ。



・『パジャママン』

 何と言っても、表題作『パジャママン』の初単行本化、これにつきる。
 『ミラ・クル・1』の原型となった作品と言われているが、初めて全話を通して読んでみたら『ミラ・クル・1』よりもこちらのほうが面白かった。ページ数が少ない分、『パジャママン』の方が話はシンプルだが、パジャマの力を使っての悪人退治は痛快で、話のバリエーションも多彩で飽きさせられない。このような作品が今まで単行本化されていなかったことが驚きだ。
 巻末の特別資料室によるとテレビアニメの企画も進めていたようだから、そちらがポシャってしまったことや、ページ数の関係で単行本にはしにくかったのだろうか。いずれにしてももったいない話だ。アニメ化が実現して連載当時に単行本化されていたら、この作品の知名度は全然違っていただろうに。
 それにしても、対象年齢が低い作品の割には、と言うか低いからこそなのか、登場する悪人は意外とリアルに描かれているのは凄い。特に、人さらいの登場がやけに多くて、途中からは「またか」と思うようになってしまった。まあ、パジャママンがそんな恐い悪人を相手にして活躍するからこそ、ヒーローものとして面白くなるのだろうけど。
 悪人と言えば、64ページの「おれはゆうべからなにも食べてないんだ」のコマの、ピストル男の顔には爆笑した。変な顔は『ドラえもん』などでも時々見られるが、F先生でなければ描けない絶妙な変さがたまらない。今回の場合は、よだれの垂れ具合が絶妙だ。
 昭和40年代後半の幼年向け作品にはまだ埋もれている作品もある。それらの多くは来年1月発売の『モッコロくん』に収録されるはずなので、こちらも楽しみだ。「パン太くん」は、代筆の連載第2回以降は、はたして収録されるのだろうか。『Fの森の歩き方』では1月号から4月号の連載となっていたので、2回目以降もネームはF先生と言う判断のようだが。
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