『タイムマシンBOX 1979』と『ドラえもんぴあ』

 発売から一週間が経ってしまったが、(シンエイ版)TVアニメ『ドラえもん』30周年記念企画の品は、当然ながら発売日に確保済みだ。







 『ドラえもん タイムマシンBOX 1979』は、シンエイ版『ドラえもん』最初の一年で放映されたエピソードが全話収録されたDVD-BOX。
 「全話」と言っても、レギュラー放送枠のみなので1980年のお正月特番は入っていないし、OPはノンクレジット版が各巻の冒頭に収録されているのみで、EDは全くの未収録だ。あくまで「帯番組としての『ドラえもん』」をDVD-BOXにまとめたのだろうが、それならばOPは1回ずつ各話対応のものを入れて欲しかった。それが出来なかったと言う事は、本放送版OPは『エスパー魔美』の次回予告以上に欠落があるのかもしれない。

 と、不満めいた事を書いたが、本編以外の収録状況は事前の想定の範囲内だったので、残念ではあるが「まあこんなものか」と、特に怒ったりはしていない。むしろ、以前にyahoo!で行われた「大人のためのドラえもん特集」では「原版紛失」のため未公開だった帯番組版初代OPが入っただけでも、随分がんばったなと思ってしまった。帯番組版2代目OP「ぼくドラえもん」ともども、初ソフト化になるので素直に喜びたい。
 また、付属のブックレットでは各話解説でコンテ・演出・作画監督の担当者が記載されており、アニメ『ドラえもん』のデータをまとめている者としてはありがたい。各話解説以外にもキャスト・スタッフのインタビューでは興味深い話が多く、なかなか充実した解説書になっている。「恐竜ハンター」が中村英一氏の一人原画とは知らなかった。あと、富永貞義氏は「通り抜けフープ」を勘違いしている気がするが、まあいいか。

 本編は、なにしろ309話も収録されているのでまだ全話は観ていないが、気になる話をいくつかチェックしてみた。
 まずは、前後編で制作された「ゆうれい城へひっこし」。原作中盤の野比家の城での暮らしがバッサリとカットされていたのには驚いた。これでは、傑作選の「ドラえもんコレクション」版では未収録になるわけだ。ロッテさんの声は横沢啓子(当時の表記)さんで、これは予想通り。この時期のドラでの横沢啓子・井上和彦両氏の活躍ぶりは素晴らしい。
 そして、ネタ的に外せないのが「あやうし!ライオン仮面」。帯番組版のポイントは、くらやみ団に声優が付いている事だ。ゴーゴン大公みたいな声だから、おそらくスネ夫のパパ役の加藤修(現・加藤治)氏だろう。ちなみに、1995年版「あやうし!タイガー仮面」では、のび太がくらやみ団のセリフを読みあげていた。さらに、この帯版「あやうし!ライオン仮面」はオチの演出に一工夫があり、これは必見だ。この時期に、こんな手法を使っているとは思わなかった。アニメ版「ずらしんぼ」を思い出してしまった(と書くと、どんな手法かわかってしまうかも)。

 と、初ソフト化の作品からいくつか観てみたが、原作の長さによっては帯番組の6分22秒の尺では無理があるとあらためて思わされた。原作をなぞる事は出来ても、それ以上のプラスαがなく、それどころか「ゆうれい城へひっこし」のように原作の場面が間引かれてしまう事すらある。1980年代中盤以降はリメイクが行われるようになったが、これは十分に意義があったと思う。「ゆうれい城へひっこし」のリメイク版「ミュンヒハウゼン城へようこそ」で、ゲストヒロインの名前がクリスに変わってしまったのは残念だったが。
 あと、小原さんの喉の不調のために6話(一週間分)だけ丸山裕子さんが代役をつとめた回も初ソフト化されたが、やはり声にかなりの違和感がある。「情けない男の子役」を得意とする点では共通していても、声質が違いすぎるのは問題だ。丸山さんが演じた帯版「どくさいスイッチ」と、そのリメイク版「のび太は独裁者!?」の音声をツギハギして、小原版「どくさいスイッチ」を作り出せないものだろうか。そのうち、挑戦してみよう。


 とにかく、全309話収録と、このBOXはボリュームの面では申し分ない。不満があるとすれば、やはり各話の詳細なスタッフ・キャストに触れていない点だ。声はがんばってある程度聞き分けられても、原画が誰だとかはどうしようもない。ここまでブックレットに記載してくれれば最高だったのだが。
 それでも、概ね満足できるBOXだ。帯番組版『ドラえもん』は全617話なので、今回でちょうど半分がBOX化された。残りの308話もいずれまとめて欲しい。



 DVD-BOXについて長々と書いてしまったが、11月18日には『TVアニメ30周年 ドラえもんぴあ』も発売された。
 こちらは、「みんなが選んだ心に残るお話30」の紹介がメインで、正直なところちょっと期待はずれな内容だった。スタッフ・キャストインタビューもあるが、旧メンバーの発言は『タイムマシンBOX』ブックレットと被る部分も多い。巻末に30分番組版の初代&現行OPアニメ絵コンテが掲載されており、また最初の方には特番用の設定などもチラッと載っているが、できればこういうものこそ突っ込んで取り上げて欲しかった。
 とは言え、長きに渡って行われた投票の結果である「心に残るお話30」は、それぞれ丁寧に解説されているので、読み物として悪くはない。結局、私がこの本に期待しすぎていたのだろう。

 なお、『心に残るお話30』もDVDがBOXとバラ売りで発売されたが、こちらは買っていない。収録作品のほとんどが何らかの形で観られるので購入意欲が沸かなかった。「観たい」と思ったのは1981年版「精霊よびだしうでわ」くらいか。いずれ、この巻だけは買うかも知れない。
 この『心に残るお話30』DVDで、大山・水田版でのバージョン違いも収録しているのは面白い。「のび太誕生」(「ぼくの生まれた日」のリメイク)や「のび太・ガンマンになる!」(「ガンファイターのび太」の帯番組版)など、いくつか抜けているのが気になるが。「太陽たまご」(「台風のフー子」のキャラ違い版)が入っていないのは、そこまでフォローするときりがないと判断されたからだろうか。



 個人的には、『ドラえもん』の「TVアニメ30周年」で、これだけの盛り上がりがあるとは思わなかった。20周年や25周年の時の肩すかし感が記憶に残っていたせいだろうか。ともかく『タイムマシンBOX』は30周年さまさまであり、気になっていた初ソフト化作品を中心に、じっくりと楽しんでいきたい。
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「F NOTE」無事に到着

 『藤子・F・不二雄大全集』第1期全巻予約者特典の「F NOTE」が、11月6日に届いた。
 この特典は10月末から順次発送とアナウンスされており、11月4日あたりにはすでに「届いた」との声がちらほらと聞かれていたので、まだかと心待ちにしていた。小学館直販ではなく書店申し込みで、しかも予約したのが7月と比較的遅い時期だったので遅くなるのではと危惧していたが、さほど待たされる事もなく到着して、一安心だ。


 この「F NOTE」では「初期ノート」「中期ノート」「後期ノート」および「下書きから原稿への過程」に大別されて、それぞれの時代のF先生のアイディアノートやメモ・設定画やボツ原稿などが紹介されている。一部、すでに雑誌や「藤子・F・不二雄の世界展」図録等で紹介されているものもあるが、初見のものも多い。

 「初期ノート」では「すすめロボケット」「ロケットけんちゃん」のスケッチ、「中期ノート」では「のび太の大魔境」メカデザイン、「後期ノート」では後期大長編ドラの各種設定・デザインなどが掲載されており、それらの絵を眺めているだけでも楽しいのだが、細かい字の書き込みも多数あって、それらをじっくり読んでいると、あっと言う間に時間が経ってしまう。もともと人に見せるための物ではないせいか、何と書かれているのかほとんど判読できないような書き込みもいくつかあるが、つい解読したくなってのぞき込んでしまう。
 『オバケのQ太郎』最終話「Qちゃんさようなら」や『パーマン』第1話「パーマン誕生」は、丸々1話分のコマ割りが紹介されているが、お馴染みの話のはずなのに、コマの流れが違って「あれっ」と思ってしまった。考えてみれば、後に単行本で描き足されているのだから当然だ。このコマ割りは作品として世に出る以前の物であり、余白に箇条書きされているボツネタが使われていたらどうなっていたのだろう…と考えてみるのも、また楽しい。
 それにしても、さらっとコマ割りのノートが載っていたので自然に見てしまったが、このように『オバQ』の案はF先生だと公式の出版物ではっきり示した資料は珍しいのではないか。

 「下書きから原稿への過程」では、何と言っても『ドラえもん』のボツ原稿のインパクトが強い。特に、扉絵に描かれている暑さでおかしくなった(?)ドラえもんの表情は一見の価値がある。本編のストーリーは「エスキモー・エキス」を連想させられるが、執筆年代(1976年頃)から考えて、また一味違った話になっていた事だろう。この後どんな展開になっていたのか、それこそコマ割りだけでもいいから現存していたら見せていただきたいものだ。

 あと、個人的に一番の注目点だったのは「パーマン誕生」コマ割りノートに書かれていた脳細胞破壊銃の初期名だ。なんと、「クルパーガンで本物のパーにする」と書かれている。やはり、この時期のF先生にとって「クルパー」はお気に入りの造語だったのか。「クルパーガン」の名前が本編で採用されなかったのは、実に残念だ。もし『パーマン』の重要アイテムに「クルパー」が使われていれば、メジャーな言葉になったかも知れないのに。


 「F NOTE」は藤子・F・不二雄大全集第1期全巻購入者全員への特典なので、正直なところ、ここまで気合いの入った本になるとは思わなかった。大満足の一冊だ。印刷技術もよくて、原稿やノートのシミまでかなりリアルに再現されている。パッと見て「しまった。気が付かないうちに汚してしまったのかな」と、思ったほどだ。
 こうなると、第2期以降の特典も楽しみだ。もしまだネタがあるのなら、「F NOTE」第2巻をぜひお願いしたい。
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F全集の「絵」へのこだわり

 祝日を利用して…と言うわけでもないが、藤子・F・不二雄大全集第4回配本の3冊を読み終わった。
 その中でも『ドラえもん』第3巻は、いつもながら分厚いので時間がかかった。作品は文句なしに面白いので、別に苦にはならないが。
 『ドラえもん』第3巻では、「すてきなミイちゃん」扉絵と本編5コマ目で、のび太の髪型に切れ目が入って変になっている部分は新たな発見であり、何度も読んだ話だけに不思議な感じがした。
 このような事が分かったのは、「すてきなミイちゃん」の原稿が紛失されていて掲載誌から複写したために、のび太の髪型は間違っていても初出のままで全集に掲載されたからだ。


 各巻の巻頭にも書かれているが、F全集では「原稿の所在が不明のものについては、原則として初出雑誌の誌面を複写・復刻しております」との方針で編集されている。
 これは、F全集でもっとも素直に評価できる、すばらしい方針だと思う。以前にも書いたが、てんとう虫コミックスでしばしば見られた水準以下の下手なトレス原稿が排除されたことは喜ばしい。
 てんコミでトレスで収録された話の大部分は、元はカラー原稿で、紛失されずに残っているものも多い。それがモノクロで印刷されてしまう点には問題があるが、それでも不安定でグニャグニャな線の下手くそなトレス絵よりは、F先生本来の線の方がよっぽどいい。

 また、F全集刊行にあたっては紛失原稿の複写のみならず原稿の探索も行っているようだ。藤子不二雄ランドではトレスで収録された「ドラえもんの歌」や「ツチノコさがそう」が、今回は原稿で収録されている。両方ともFFランドで描き足しがあり、トレス線と比べて余計に描き足しのコマが浮いていたが、それも今回は幾分ましになっている。
 そう言えば、FFランドでも原稿の存在しない作品がいくつか収録されていた。A先生の初期作品(『きえる快速車』『怪人二十面相』など)は雑誌からの復刻だったが、初期の刊行分は『海の王子』が雑誌復刻、『ドラえもん』がトレスと、方針が一定していなかった。
 『21エモン』の「おせっかいロボット」も線が雑で、おそらく「ドラえもんの歌」と同じ人によるトレスだろう。オナベが初登場する重要な話なのにてんコミに入っていなかったのは、原稿がなかったせいか。こちらもF全集では悪くても雑誌からの復刻で収録されるだろう。
 この手の「トレス排除」で一番楽しみなのは、『ドラえもん』第4巻収録予定の「さようなら、ドラえもん」だ。「藤子・F・不二雄の世界展」での展示原稿を見る限り、現在はトレス+描き足しコマの形でしか存在しないようなので、F全集では「夜の世界の王さまだ!」のようにトレスのコマが雑誌からの復刻になるだろう。個人的にも思い入れの強い作品なので、出来るだけきれいに復刻して欲しい。


 『21エモン』や『キテレツ大百科』など、FFランドで既に全話収録が実現している作品はいくつかあるが、「絵」の部分で改善があるのだから、F全集の刊行にはきわめて大きな意義がある。『キテレツ大百科』は全2巻が完結したが、全話収録に加えてテレビアニメ用のキャラ設定や大竹宏氏所蔵の色紙まで紹介されており、本編の「絵」からはちょっと話がずれるが、隅々までF先生の絵を網羅しようとする姿勢には、全集スタッフの本気を感じる。
 『ドラえもん』第3巻の「おかしなでんぱ」の件を残念に思う気持ちは変わらないが、絵もセリフもどちらもF先生の漫画にとっては欠かせない要素だ。そのうち、少なくとも「絵」について満足で、「全集」としてだけではなく本格的な「作品集」としても良質だと思う。
 今後も、F先生の「絵」にこだわった編集には期待したい。
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