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五種類の「幽霊電車」

2018-05-20 10:54:25 | 水木しげる
 先週の『ゲゲゲの鬼太郎』は、「幽霊電車」のエピソードが放送された。

 「幽霊電車」と言えば、『鬼太郎』がアニメ化されるたびに放映されている超定番のエピソード。今回の鬼太郎は第6作なので、すでに「幽霊電車」は5回もアニメ化されていることになる(第2作は第1作の続編なので、「幽霊電車」は制作されず)。
 そこで、今回は全シリーズの「幽霊電車」を観返して、感想を書いてみることにした。これによって、各シリーズの特徴などが分かるかもしれない。



・第1作 第7話「ゆうれい電車」(脚本/鈴樹三千夫、演出/村山鎭雄、作画監督/羽根章悦)

 記念すべき初アニメ化。はじめてなので、特にアレンジはなく原作通り…かと思いきや、いきなりAパート丸々をアニメオリジナルの「妖怪ショー」の描写にあてるという大胆な構成。その妖怪ショーで妖怪がバカにされた後に、Bパートのゆうれい電車で仕返しをするという流れだ。
 第4作の後期エンディング「イヤンなっちゃう節」の歌詞に「遊園地でバイトする妖怪に愛をちょうだい」という下りがあるが、まさにそのような内容が第1作で既に描かれているのだから、ある意味ではすごい先見性だと言えるだろう。
 そんなわけで、原作パートはBパートのみであるため、肝心のゆうれい電車についてはテンポ良く話が進む。特筆すべきは、「骨壺」の駅員で、原作では正体不明の不気味な老婆(?)だが、ここでは砂かけ婆がその役を務めているのだ。ただし、砂かけ婆のキャラデザインは、おなじみの物とは大きく異なるが。
 オチは、原作通りに鬼太郎と同じコブを作って終わり。この回は、最後まで目玉親父が登場しないのも特徴の一つと言えよう。



・第3作 第6話「地獄行! 幽霊電車!!」(脚本/星山博之、演出/石田昌久、作画監督/柳瀬譲二)

 鬼太郎に懲らしめられた「先輩」の回想からスタートする点が特徴的だが、この構成が「回想から始めると、結局助かるのが分かってしまう」と水木しげる先生にダメ出しされたのは、一部では有名。
 今度はAパートから幽霊電車が走り始めており、じっくりとその怖さが描かれている。オチも基本的には原作と同じコブを作って終わりだが、二人が目的地の奥多摩霊園駅にいつの間にかたどり着いている点が、原作と異なる。
 この回も、目玉親父はラストに少し登場するのみ。話の構成的に、途中ではなかなか登場させにくいのだろう。



・第4作 第53話「霊園行・幽霊電車!」(脚本/大橋志吉、演出/宇田鋼之介、作画監督/直井正博)

 かなり原作に忠実に作られた「幽霊電車」の三作目。スタンダードな原作通りの「幽霊電車」としては、今のところ最終作となっている。
 演出は、同じく「人間懲らしめ」系のエピソードである第35話「鬼太郎の地獄流し」も担当した宇田鋼之介氏。暗い画面作りで、じっくりと妖怪の「怖さ」を描くことに成功している。第64話からデジタル制作に移行した本作だが、本話はその移行直前に作られたため、当時のデジタル制作作品に特有の、独特な発色がなかったのは良かった。もしそうなっていたら、雰囲気がぶちこわしになっていたかもしれない。
 個人的には、一番出来のいい「幽霊電車」だと思う。



・第5作 第9話「ゆうれい電車 あの世行き」(脚本/長谷川圭一、演出/角銅博之、作画監督/薮本陽輔)

 はじめて、オチに変えてきたエピソード。しかも、原作には登場しているねずみ男の出番がないなど、かなりひねりを加えている。
 妖怪をバカにする二人組のうち、初めてその一人が生きた人間ではなくなっているというショッキングな結末であったため、よく知っている「幽霊電車」とは異なるオチに初回放送時には観ていてかなり驚いた。
 この回より、「妖怪をバカにする人間をこらしめる」と言う原作のテーマが、本筋から離れてきたように思う。幽霊電車による恐怖は添え物になってきた感があるとは、言い過ぎだろうか。
 なお、この回のみ「骨壺」の読みが「ほねつぼ」ではなく「こつつぼ」になっていた。その意図は不明。



・第6作 第7話「第七話 幽霊電車」(脚本/吉野弘幸、演出/地岡公俊、作画監督/浅沼昭弘)

 そして現行シリーズだが、今回は第5作の展開にさらにひねりを加えたと言える。何と、幽霊電車に乗る二人が二人とも、生きた人間ではないのだ。
 ここまで来ると、本来の原作のテーマよりは、いかに原作読者や過去作の視聴者を引っかけるかが主眼に置かれているように感じてしまう。それでも、「因果応報」をテーマとしていることで、ギリギリ「幽霊電車」らしさは残しているか。
 「自分が幽霊だと気がつかない幽霊」とは意外な結末であるが、この「社長」が何人もの社員を死に追いやっているあたり、今までで一番罪深い幽霊電車の乗客であったと言えるだろう。ここまでやってしまうと、もし次のシリーズがあった場合、はたしてどんな「幽霊電車」になるのか、実に気になる。



 以上、全5作の感想を簡単に書いてみた。
 なお、「幽霊電車」関連のエピソードとしては、ここで取り上げた以外に、第4作の時期に公開された3D映画「鬼太郎の幽霊電車」(ストーリーはオリジナル)や、『墓場鬼太郎』の第7話「人狼と幽霊列車」などがある。これらも、「幽霊電車」を追っていく上では押さえておきたいエピソードだ。

 今回は、「幽霊電車」を取り上げたが、『ゲゲゲの鬼太郎』で「定番」のエピソードは「幽霊電車」だけではない。
 他にも、たとえば「妖怪大裁判」や「牛鬼」など、アニメ化の度に登場しているエピソードは数多い。それらが、はたして第6作ではどのような形で描かれるのか、今後の『ゲゲゲの鬼太郎』にも、大いに注目していきたい。