映画「のび太の恐竜2006」感想

 3月5日、日曜日に映画「ドラえもん のび太の恐竜2006」を、鑑賞してきた。
 体調を崩したため、残念ながら東京での舞台挨拶を観る事はできなかったが、その代わり地元の藤子ファン仲間の方々とご一緒させていただき、楽しい一日だった。

 以下、初見での映画感想を書いておく。思いっきりネタバレが入っているので、まだご覧になっていない方は、ご注意されたい。また、本作にはオリジナル版の映画「ドラえもん のび太の恐竜」(1980年公開)が存在するが、今回は1980年版との比較は行わない。旧作は、私が生まれて始めてみた映画であり、それだけでも大変思い入れが強く、公正な比較は不可能だし、原作が同じであっても今回の新作は別の作品として完成しており、わざわざ旧作と比較する必要もないと考えている。



 まず、全編を観終わっての感想は、良くも悪くも、渡辺歩監督らしい映画だと言う事だった。テレビシリーズと同じく楠葉宏三氏が総監督を務めてはいるが、本作は、紛れもなく渡辺監督の個性が全面に出た作品となっている。
 今回は、107分という長丁場だったので、体調がまだ完全でないせいもあって、途中で疲れてしまわない不安だったのだが、最初から最後まで息つく暇もないほどの見せ場の連続で、ほとんどだれる事が無く、集中して観る事ができた。観客を飽きさせないと言う点では、十分合格点を与えられる作品になっている。

 「ドラクラッシャー」と呼ばれる渡辺氏が監督・脚本を務めているため、一体どれだけ原作が改変されるのか心配だったのだが、ストーリー全体はセリフ回しも含めて、意外なくらいに原作に忠実だった。原作連載と同時進行だった旧作とは違って、今回はあらかじめ単行本として完成された原作が存在するので、単行本化で加筆された部分をどの程度取り込むかに注目していたのだが、印象的な加筆場面は、ほとんど取り入れられていなかった。わかりやすかったのは、「交通安全おまもり」が出ていた部分程度だろうか。
 どうも、見せ場の連続で話を進めていくために、漫画ならではの説明的セリフが続くような場面は、意図的にカットして話を進めたようだ。結果的に、それがテンポを良くして効果を上げていたのは確かだが、見終わってから思い返すと、一呼吸おける場面がもう少しあったら良かった、と思ってしまった。

 恐竜ハンターの基地に入ってからは、原作を基本としつつも、かなりアレンジを加えた展開となっていた。基地の形も全く異なるし、黒マスクとの攻防や基地からの脱出への展開も、ドラたち5人が自力で窮地を脱する展開となっている。しかも、その後には、原作にはなかった「1億年前ののび太の部屋への到達」までが、描かれているのだ。
 途中まで、非常に原作に忠実に進んでいただけに、クライマックスの展開には少々驚いたが、困難な旅がしっかり描かれていたので、最後まで5人+ピー助だけで旅をやり遂げるという結末でも、納得のいく流れになっていた。わざわざ、このように結末を改変したのは、「のび太の日本誕生」や「のび太の南海大冒険」など、T・Pによる事件解決がいささか安易に描かれていた事に対する、渡辺監督なりの回答だったのかも知れない。ただ、ポケットの道具を全て無くしてしまう必要はなかったと思う。ポケットの扱いについては、突き詰めると「なぜタイムふろしきを持って来ていなかったのか」という、原作でさえフォローしていない点もあるので、非常に難しいのは分かるのだが、いずれにせよタケコプターはもう使えないのだから、残りの道具があっても話に影響はないはずだ。
 しかし、道具の点を気にしなければ、のび太の部屋に当たる場所にタイムマシンの入り口を見つける場面は、旅の終着点への到着として印象深く、また新鮮な映像だった。

 そして、ラストシーン。肝心の、本当のラストがED内での原作絵そのままの利用と言うのは、ちょっとずるいと思ってしまった。のび太の「ちょっとね」で、EDに入った時点では、エピローグとして原作ラストシーンが描かれるとばかり思っていたのだが。まあ、原作ファンとしては嬉しい使い方ではあるので、評価が難しいところだ。


 ストーリーの次は、作画について触れておく。デザインが初めて公開された時点で、明らかにテレビシリーズとは異質の絵だったので、実際に動くとどうなるのか不安だったのだが、テレビとは切り離して考えると、動きの多い本作には合った、生き生きとした柔軟性のある絵柄だったと思う。
 スタジオジブリ出身の小西賢一氏が作画監督を務めたが、むしろ、昔の東京ムービー下請け時代のAプロを彷彿とさせるような場面も見受けられて、渡辺監督が小西氏を起用した理由が、わかったような気がした。ただ、テレビと比較すると、一部キャラの表情に違和感を感じた事は確かで、小西氏の絵を生かしつつ、もう少しテレビ版に近いテイストの絵柄にすれば、さらに好感度は上がったかも知れない。
 また、今回は人間以外にも、メインキャラとしてはピー助、そして白亜紀の世界では多くの恐竜が登場したが、恐竜たちの描写については、動きも含めて文句なしに高水準の作画であり、特にアクションシーンは迫力があった。

 出演声優の演技にも目を向けてみよう。
 正直言って、これまでのテレビシリーズでは、メインの5人ではジャイアンの演技に、まだ若干の不満を感じていたのだが、今回の映画ではそれが払拭された。テレビでは、無理にガキ大将っぽくしようとしている面が時たま感じられたのだが、今回はガキ大将という役割を離れて、一人の仲間として動いていたせいか、自然に聴ける演技になっていたと思う。
 また、ドラえもんのキャラクターは、原作ではかなり落ち着いており保護者的側面が強かったが、今回はオーバーアクションも多く、水田わさびの声のイメージに合わせたキャラにしていると感じた。このため、ドラえもんがはしゃぎすぎという印象もあったが、本作のテンポには合っていた。
 ゲストでは、船越英一郎・神木隆之介の出演が話題となっていたが、二人とも自然と役に馴染んでおり、芸能人起用としては「当たり」だったと思う。特に、黒マスクは船越英一郎の演技によって、原作以上に残忍さですごみのあるキャラとなっていた。ピー助については、最初にテレビの予告で聴いた時には、人間の子供の棒読みという感じで不安を覚えたのだが、本番までに役をつかむ事が出来たようだ。



 まとめてみると、本作は、原作「のび太の恐竜」の新たな映像化としては、かなり高水準の映画となっていたと思う。そもそも、原作漫画が非常に完成度の高い作品なので、よほどやる気にないスタッフが手を抜いて作りでもしない限り、面白くならないはずはないのだが、それを差し引いても、いい出来だった。

 ただ、今回も渡辺監督の「クセ」が随所に出ていた点については、やはり触れておくべきだろう。テレビで流れた予告編でも何度も流れた「あったかい目」は、一度ならばギャグとして笑えたのだが、何度も繰り返し登場したことで、邪魔に感じてしまった。また、ティラノサウルスが桃太郎印のきびだんごを食べた時の「丸すぎる目」や、ドルマンスタインのカツラ着用発覚など、シリアスな場面に過剰にギャグが入ったため、少々白けてしまった部分があった。
 前半の、のび太とピー助の交流は、観ていてほほえましく感じたし、タケコプターでの飛行シーンやアクションシーンも迫力満点で、渡辺監督の画面づくりは非常に上手いと思う。それだけに、こういったネタを仕込みたがるクセは、あまり過剰にならないようにしていただきたい。「あったかい目」は、子供には受けていたようなので、本来のお客に対しては成功だったのだろうが。

 また、今回の映画では、ドラえもんが部屋で「ドラヤキ百科」を読んでいるなど、細かい小ネタが非常にたくさん仕込まれていた。その内の一つに、「エスパー魔美」より魔美と高畑が群衆シーンに登場すると言うネタが「もっと!ドラえもん」No.5で紹介されていたが、どんな場面に登場するかが分かっていたにもかかわらず、見つける事が出来ず、残念だった。
 他にも、のび太の机に置いてあった恐竜エッグなど、随所にネタが仕込まれており、それらを意識して探す事も、楽しみの一つだった。これは、原作で既に大筋が分かっている作品だったからこそ出来た事で、全くの新作であれば、所見では筋を追うのに精一杯で、そこまで観ている余裕はあまり無いだろう。

 ED終了後には、「おまけまんが」として、のび太が崖を掘っているとドラえもんが出てきて「来年も観てね」と、2007年の新作映画上映を予告する内容の映像が流れた。「もっと!ドラえもん」に掲載されていた藤子プロ・伊藤善章社長のコメントで、

今年の作品を見逃すと、来年の映画は十分楽しめない……といった演出があるかも!?
と、あったので、特にこのおまけまんがは注目していたのだが、今回観た限りでは「来年も映画がある」と言う以上の内容はなかったと思う。もしかしたら、おまけまんがに限ったコメントではなく、映画全体のどこかに隠された仕掛けがあるのかも知れない。
 ただ、伊藤社長は、

将来的には、オリジナル・ストーリーによる「ドラえもん」映画も作りたいと思いますが、先生の作品がすばらしすぎて……(笑)。
とも言っているので、少なくとも、来年も既存の大長編原作を使ったリメイク作品となる事は、間違いないだろう。


 本作には、良いところも悪いところもあったが、全体としては見応えのある作品だった。来年の次回作は、いい部分をよりよくする方向で、さらに素晴らしいドラえもん映画を作って、これからも毎年続けていって欲しい。何だかんだ言っても、ファンにとって春の映画は年に一度の「お祭り」のようなものだから、昨年のように途切れると、寂しくなってしまう。
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