A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

映画『サラバ静寂』に想う<静寂>とは?〜灰野敬二/ジェネシス/ECM/Coldplay/西村朗

2018年02月10日 01時12分26秒 | 映画やDVDのこと


【あらすじ】
音楽などの娯楽が禁止された世界。
若者たちは音楽を知らずに育つが、ミズトとトキオという若者はある日、ひょんなことから音楽を聴いてしまい、衝撃を受ける。
更に現在も闇ライブが行われていることを知り、そこに行くことを夢見る…。

【出演】吉村 界人 SUMIRE 若葉竜 森本のぶ / 斎藤工
仲野茂 大貫憲章(特別出演) / 灰野敬二
ASSFORT GOMESS 切腹ピストルズ

【脚本・監督】宇賀那健一


公式サイト

物音一つしない静寂を体験することは人間にとっては恐らく無理だろうが、それに近い経験はある。大学で心理学を専攻していた筆者が卒論に選んだのは音響心理学だった。音楽にしか興味がなかったので、人間が音をどのように認識するかをテーマに選んだのである。古い校舎の地下1階に心理学科の研究室があり、その一つが無響室と呼ばれる音響心理学専用の部屋だった。読んで字の如く“音が響かない”ように部屋の四方と天井と床に体育用マットのような分厚いマットが張り巡らされていた。その部屋に入ると耳に詰め物をされるような圧迫感を感じ、自分の声が口からではなく自分の体内で鳴っているように聴こえる。他人の声も耳からではなく頭の中に直接伝わる気がするのである。話し相手がいなければ独り言を言うこともなく黙々とパソコンや実験機材を弄って過ごすことになる。聴覚だけが封じ込まれるような気分、逆に四感が鋭くなるかというとその逆で、視覚も触覚も味覚も鈍くなり、思考能力も靄がかかったようにスローになる。そんな部屋で一日中籠って研究していたら、精神だけではなく身体的にも可笑しくなりそうだが、実を言えばその感覚は嫌いではなかった。経験したことのないドラッグの酩酊状態に近いかもしれない。酒もたばこも音楽も無しでストイックに研究する自分の姿を朦朧と意識しつつ自己憐憫(Mental Musterbation)に耽っていたのだろう。

『サラバ静寂』で描かれる近未来の日本のパラレルワールドを観て、無響室の埃っぽいマットの臭いが蘇った。音楽が禁止された世界。聴覚を奪われた訳ではないにしろ、自分が持つ感覚・能力が一つだけ失われた世界。目的も理由も判らず螺子工場で働く主人公の人生に、無響室での日々が永遠に続くことを想像した。2,3カ月なら耐えられるが、いつ終わるか知らないどころか、終わることすら想像できない生活は、イントロで大貫憲章氏が語るように「地獄」に違いない。しかし主人公は自分たちが地獄にいることすら気がつかないままだった。唯一の慰めである空き巣荒らしの挙げ句の果てに偶然『音楽』と出会うまでは。それがたまたま灰野敬二の爆音ギターだったことが幸いして、地獄を脱出する意志が芽生える。カセットテープに録音を繰りかえす友人は警察に殺され、主人公は形見の『サラバ静寂』と記されたカセットテープを爆音で世界中に聴かせるために「サノバノイズ」という地下倶楽部を探す旅に出る。音楽の為に父親を殺された小娘と共に。

この映画には「プロフィール」や「背景」さらに「理由」は殆ど描かれない。「音楽」が禁止された理由も、「音楽」を知ったものを殺す理由も一切語られない。唯一の理由らしき理由は「法律だから」。シリアスなようでいて「先生に言いつけてやる」と威張ったり「言うこと聞かないとはなまはげが来るぞ」と脅すような、小学生レベルの幼稚さもうかがえる。同じことがこちらの世界でも行われている。そんな幼稚な世界の掟を音楽だけで変えられるとは思わないが、何も知らないで生きるよりは、音楽を知って殺される方がましかもしれない。この映画でとりわけ印象的な<静寂>が支配する沼地のシーンに漂うアンビバレンツのフィードバックが見終った後も頭の中で鳴り響いている。

映画『サラバ静寂』予告編


響かない
石切り遊びに
音はない

<静寂>(せいじゃく)とは?
《名ノナ》物音もせず静かなこと。しんとしてものさびしいこと。 「―の境(きょう)にひたる」

●静寂


灰野敬二(vocal, guitar, flute, percussion)、ナスノミツル(bass, voice)、一楽儀光(drums, voice)によるトリオ。灰野メソッドによるブルースバンドであり、2009年に結成され2012年12月24日に活動終了した。

静寂 - イ・ラ・ナ・イ @ 世界同時多発フェスティバルFUKUSHIMA!



●静寂の嵐


イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、ジェネシスの1976年発表の通算枚目のアルバム。原題は『風と嵐(Wind & Wuthering)』であり、恐らく邦題は水墨画風のジャケットからイメージしたものと思われる。

Genesis - Eleventh Earl Of Mar highlights - Wot Video? 1977 2dvd Set



●静寂の次に美しい音楽


“The Most Beautiful Sound Next To Silence”。マンフレート・アイヒャーが設立したジャズレーベル、ECMの広告コピー(企業スローガン)。

Chick Corea & Gary Burton - Crystal Silence



●静寂の世界


イギリスのロック・バンド、コールドプレイの2002年の2ndアルバム。原題"A Rush of Blood to the Head"を直訳すると「頭に血が上る」だが、なぜか邦題は「静寂の世界」とされている。

Coldplay - Clocks (Official Video)



●静寂と光


日本の現代音楽の作曲家、西村 朗(1953年9月8日 - )が1997年に作曲した作品。イメージを重く背負った響きは意味ありげに響き,身振りを示し,内面性を示唆する。はまった人はその深みに魂を捕らえられるだろう。

Akira Nishimura- Silence and Light/西村朗 "静寂と光". piano: G.Azuma-Safarova/東 グルナラ(サファロバ)



●静寂主義

自己の意志や行為を否定し、神にすべてをゆだねて心の安静を得ようとする精神的態度。狭義には、17世紀、外面化した教会に対し、信仰の内面化を求めて生じたカトリック教会内の神秘主義的傾向をいう。スペインのモリノスによって唱えられ、ドイツ敬虔主義に影響を与えた。Quietisme キエティスム。クィエティスム。

OME Acústic - Quietisme (part VIII)
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