6月はフランス、カナダ、スイスと海外ツアーに明け暮れた灰野さんの1ヵ月半ぶりの東京公演はアメリカのAKRON/FAMILYというバンドのオープニング・アクト。何と「不失者」としての出演だ。これは溜りに溜まった欲求不満を発散しに行くしかないと、チケット代は高かったが即予約した。予約した1ヶ月前の時点で整理番号100番。AKRON/FAMILYというのはそこそこ人気のあるバンドらしい。
いつも通り最前列を確保。周りはAKRONのファンばかりで、「前座が出るらしいよ」「なんて読むんだろう。”ならずもの”かな」なんて可笑しな会話が聞こえてくる。客層は20~30代中心でヒッピー/グランジ風の長髪に髭という人が目立つ。明らかに不失者目当てではない雰囲気。
そんなアゲンストな空気の中、メンバーがステージへ。ベースは工藤冬里さんではなくナスノミツル氏だ。ドラムは高橋幾郎氏。この編成のトリオは初顔合わせだと思う。不失者と静寂を混ぜたような布陣だが、「elle king」のインタビューでこの二つのバンドに違いはない、と灰野さんが語っていたので、これもまた不失者なのであろう。2段積みのマーシャルを2基、爆音でギターが叫びを上げる。ナスノ氏のプレイは静寂に比べてブツブツとアタックの効いたアブストラクトな演奏。幾郎氏はドラムのダイナミズムを普通のロックではなく独特のスネアの連打で創り上げる。灰野さんの歌は3・11以降明らかになった「いらないもの」への呪詛とその時代を生きる我々の魂への慈愛に溢れていて心に突き刺さる。サポートとはいえ90分に亘るステージはとても充実していた。後で訊いたら、70分のところを「まあいいや」と伸ばしてしまったとのこと。途中灰野さんがステッキを振り上げ指示を出す、かつての不失者のような場面があったり、フルートを吹いたりして飽きさせない。AKRON目当ての観客には少し刺激が強く長すぎたかもしれないが、温かい拍手と声援に包まれた。
AKRON/FAMILYについては殆ど予備知識はなかったのだが、ニューヨークのブルックリン出身の3人組で、一応g,b,dsなのだがそれ以外の楽器もこなし、3人ともヴォーカルを取る。アニマル・コレクティヴのようなフリー・フォーク・バンドと考えれば良いだろう。手拍子やシンガロングなど観客を巻き込んで展開されるステージは陽気な解放感に満ちていて初めて聴く私も楽しめた。曲調は覚えやすいパワー・ポップ。しかし次々に逸脱していくごった煮風が新世代バンドに相応しい。途中でgとbがガムテープを手に客席へ乱入しカオス状態に陥ったところへ、ステージに灰野さんが登場、ギターを掻き鳴らす。AKRONのライヴでは共演者や観客が一緒に演奏することがたびたびあるらしい。灰野さんを交えての狂乱の演奏は30分に亘った。
7月12日O-nestでの追加公演では観客になべかまを持ってこさせて一緒に演奏してしまおうという企画があるらしい。満員のWWWで展開された解放的なライヴはとても面白かった。
灰野さん
一月待った
甲斐がある
灰野さんは次は7月14日(木)東高円寺二万電圧で壊れかけのテープレコーダーズ企画に参加する。
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