A Challenge To Fate

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【Disc Review】ケヴィン・モービー Kevin Morby『オー・マイ・ゴッド Oh My God』〜天国巡りの夢から醒めたら自分が神になっていた〜

2019年06月07日 01時38分17秒 | ロッケンロール万歳!


何処か冴えない顔の小太り青年が上半身裸でベッドに横たわる内ジャケに大きくOMGのロゴ。OMG=OH MY GOD/オーマイガッ!=なんてこったい!やっちまった!マジか!ヤバい!といった激しい感情の揺れを表現する英語の表現である。それにしても青年の安穏とした表情は何だろう。感動・驚き・喜び・怒り・失望など感情の波とは真逆の悟り顔は、神に祈るよりも神に倣うことを決心したかのように見える。OH MY GODとは自らを神と称するキチガイと紙一重の精神状態に置かれた男の述懐にも聴こえなくない。

彼の名はケヴィン・モービー。アメリカ・テキサス生まれの31歳のシンガーソングライターである。これまで『ハーレム・リヴァー』(2013)、『スティル・ライフ』(14)、『シンギング・ソウ』(16)、『シティ・ミュージック』(17)の4枚のソロ・アルバムをリリース、派手なヒットは無いものの、ピッチフォークをはじめとするネット音楽メディアから高い評価を受け、才能豊かな若手作曲家として着々と足元を固めて来た。ケヴィンの5作目のアルバムが『オー・マイ・ゴッド』である。初の2枚組LPとなった本作は、タイトル通り宗教的な崇光さに満ちた静謐な作品になっている。これまでのアルバムではオルガンやサックスを取り入れつつも基本はギター/ベース/ドラムのバンド編成だったが、本作ではオルガンやピアノだけの伴奏に、ゴスペル風の女性コーラスをフィーチャーした荘厳なナンバーが多い。幼い日に教会の聖歌隊で歌った賛美歌や、薄日の射すステンドグラスの影を数えた記憶が、ベッドの中の微睡みの夢に現れたのであろうか。目を覚ました瞬間に自らが神であることを悟り「オーマイガッ」と声をあげたのかもしれない。
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ラグタイムピアノのノスタルジックな響きに「Oh My God(オー・マイ・ゴッド)」と喘ぎながら、2曲目にしてアルバムからの第1弾MV「No Halo(後光は無い)」。アンビエントなピアノとせわしないハンドクラップ、ムーディなサックスに乗せて歌うモービーの気怠い声は「子供の頃 どこも どうやっても 誰も 何もかも 火から出来ているものは無かった 何度呪文を唱えても 後光など無かった」と繰り返す。鬱なのではなくケヴィンにとっては平常運転である。

Kevin Morby - No Halo


「Nothing Sacred / All Things Wild(神聖なものは無い すべてがワイルド)」。エコーのかかった歌がボンゴとオルガンに導かれ「若いときはすべてを知っていた すべてが神聖で ワイルドなものは無かった」と歌う。すると神に捧ぐ女性聖歌隊が相乗りする。ケヴィンの夢は若い頃の自分と成長した自分の間の葛藤に起因することが明らかになる。セクシーなサックスの甘いムードが忘却の中へ滲んで行く。

Kevin Morby - Nothing Sacred / All Things Wild (Official Video)


つづいて「OMG Rock n Roll(OMG ロッケンロー)」。ケヴィンらしいもっさりしたロッケンナンバー。「神よ僕を家へ連れてってくれ もし若すぎるときに死んだら もし狼がきたら」。子供でいるのが嫌になり、弾丸ビートと足踏みオルガンで武装するが、突然昇天してコスミックワールドへワープする。ここから夢はあらぬ方向へ発展する。

Kevin Morby - OMG Rock n Roll


のんびりしたバラード「Seven Devils(七人の悪魔)」の捩じれまくったキレキレギターで天国の扉を突き破り、「Hail Mary(あられのマリー)」となって下衆な地上に落下する。「Piss River(小便河)」で「オーマイガッ」と歌うケヴィンを攻めるハープの音にトリップしつつ「Savannah(サバンナ)」の噎せ返る熱波に負けずオルガンとコーラスが信心を歌い上げる。

遠くで聴こえる暴風雨「Storm (Beneath the Weather)」を挟んで現実の享楽の世界へ「Congratulations(祝福)」の歌。アルバムのハイライトと言えるテンションの高い曲だが偏執狂のギターのあとケヴィンは倦怠へと陥る。「I Want To Be Clean (清潔になりたい)」「Sing a Glad Song (喜びの歌を歌おう)」「Ballad of Faye (フェイのバラード)」とケヴィンらしい軽妙なロックナンバーがつづくが、ラストナンバー「O Behold (おお、見よ)」はピアノとオルガンの伴奏で切々と歌い上げるバラード。「空に開いた穴を見よ 青い鳥のベイビーは死んだらどこへ行くのか 空には鎖は無いから 天の向こうまで飛んで行く」と歌ったところで夢から目覚めたケヴィンの顔が内ジャケの写真である。

Kevin Morby - Congratulations (Live on KEXP)


物心ついた時から神に祈り、神に願い、神に背き、神を罵って生きて来た。ケヴィンが歌うのは自らの成長と周りの世界の変化と、それでも変わらないものがある奇跡。OMGと口にする度に神の不在を強く感じる大人の心の何処かに子供時代にBehold(見る)していたGODの残り香が燻っているに違いない。

天国の
門を叩いて
叩き割る

Kevin Morby - Records In My Life (2019 interview)


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