まぶしい いたずらな祈り
不失者
特別出演:やくしまるえつこ
ニュー・アルバム「まぶしい いたずらな祈り」レコ発東阪名ツアーの最終日は、灰野さんが昨年石橋英子嬢との対バンでソロで、AKRON/FAMILYのサポートで不失者で出演経験のある渋谷WWW。何回も来ているが天井が高く音響のいいホールだ。オールスタンディングの筈がアリーナ・フロアにブロックが並べてあり座っての観戦だった。客席が段になっていて観やすい会場なのでたまにはステージ全体を見渡せる後列から観ようかと思っていたが、やはりいつものように最前列右手の灰野さんの正面に座り込む。灰野さんのライヴで毎度見かけるお馴染みの顔が多い。偶然にも隣の青年はTwitterで相互フォローしている方だった。後ろの客席の状況が分からなかったが、かなりいい動員だった模様。
客電が暗転し、ドラムの山口元輝氏がトライバルなビートを叩き出す。ゲストのやくしまるえつこ嬢が登場し中央の椅子に座る。小型のライトセーバーを手に詩を朗読。ライトセーバーがPCのコントローラーになっていて手の動きに合わせて電子音が変調する。相対性理論は3~4年前に何度か観たことがあるが、最近はやくしまる嬢のソロ、しかも後楽園ホールのイベントの開会宣言やFREEDOMMUNE 0<ZERO>でのビデオ出演といった一風変わったパフォーマンスばかり。この日も15分の短いステージだった。彼女は前日にニュー・シングル「ヤミヤミ・ロンリープラネット」をリリース。「ヤミヤミ」はNHK「みんなのうた」用に書き下ろした童謡風の曲。「ロンリープラネット」は5パートからなる16分の大作。公開されたばかりの「ヤミヤミ」のPVは、立ちこめる霧の中、やくしまる嬢が描いた女の子や幽霊たちが妖しくもキュートに動く幻想的なモノ。監督はツイン・ドラム+映像の変則トリオd.v.dを率いる若手映像作家の山口崇司氏。来月ペンギンカフェの対バンで久々に相対性理論を観るのが楽しみだ。
セットチェンジの後ステージが暗くなり、不失者の演奏がスタート。灰野さんのアンプはハイワット4発。名古屋同様にサブ・ギターが用意してある。名古屋公演ではRyosuke Kiyasu氏のドラムと亀川千代氏のベースの演奏が10分間続いた後にやっと灰野さんがギターで入ってきたが、今回はすぐに歌い始める。しかも「運命よ かかってこい!」というハイ・テンションな絶叫ヴォーカル。そのままギターを持ち不失者のテーマ(?)に突入、激しいアクションで弾きまくる凄まじいステージング。名古屋の方には申し訳ないが、気合いの入り方が格段に違う気がする。TOKUZOでは三位一体となった団子状の爆音が耳を圧したが、会場の音響システムの違いもあり、相当な音量にも関わらず各楽器&ヴォーカルが分離良くクリアなサウンドでダイレクトに伝わる。特にドラムとベースの重たく激しいサウンドが地面を揺さぶり、座っているブロック椅子がビリビリ震えるのを感じる。映画「ドキュメント灰野敬二」で不失者の演奏が勢いに任せた即興ではなく灰野さんの綿密な指示のもと徹底的に訓練され構成された演奏であることが明らかになった。映画を観た人ならお分かりのように、フレーズやテクニックの問題ではなく「一音一音を大切にする」という灰野さんの信念をとことん理解し、独創性に溢れる抽象的な図形譜面をどう解釈するかという精神的な鍛錬である。
前半はかなりハードな演奏が続き、このトリオ特有のヘヴィネスを持った「暗号」に突入。所々で灰野さんが大きく両手を上げて指示を出す。一瞬ドラム・ソロのようなパートがあり、Kiyasu氏の強力なドラミングが雷鳴のように鳴り響き感動で涙が出てきた。引き裂かれ泣き叫ぶギターのフレーズが断続的に奏でられ緊張感溢れるナンバー「とぎすまされるとは」、再びヘヴィな「おまえ」。最後は今までになくシンプルなコード進行のスピード・チューン「なしくずし」で10:00PM丁度に終了。アンコールの拍手が続くが無情にも客電が点きジ・エンド。余りに濃厚な2時間の演奏に観客も充分納得した様子。この日の不失者は今まで以上にヘヴィ・ロック色が濃かった。
知り合いや大学のサークルの後輩と談笑しているといつの間にか客席はほぼ空になり、会場スタッフが退場を促していた。楽屋の入口で下山のメンバーに会い挨拶。クラムボンのメンバーもいる。灰野さんは上機嫌でゲストと記念撮影に応じている。バーで軽い打ち上げ。WWWは音出しが10:00PMまでと決まっており、15曲用意していたのに10曲しか出来なかったと灰野さん。道理でアンコールが無かった訳だ。
Kiyasu氏にドラムが凄く良かったと伝えると、演奏中は無我夢中で余り覚えていないとのこと。このトリオの初ステージはまだ"不失者"になる以前の昨年2月高円寺Club Mission'sだった。しかも当日まで亀川氏とKiyasu氏の参加は発表されなかった。Kiyasu氏によると本当に前日に灰野さんから「明日Mission'sへ来てくれ」と連絡があり、殆どぶっつけ本番での演奏だったという。灰野さんに口止めされていたのだがもう時効だと思うので披露するが(灰野さんに怒られるかも....)、その日楽屋で対バンの鳥を見たのベースの山崎氏(今回の不失者ツアーにローディーとして同行)と私を前に灰野さんから「何であの二人を呼んだと思う?」と聞かれた。首をひねっていると「秘密だよ。"長髪トリオ"をやりたかったんだよ」と灰野さん。うわぁカッコいい!と感動した。映画「ドキュメント灰野敬二」のエンディングを「髪を昔のように腰まで伸ばすのが夢。だって好きだから」と締める灰野さんの美学が実現した理想のトリオという訳だ。
10/4からFushitsushaとしてヨーロッパ・ツアー。初日はイギリスの教会で演奏する。この日のような凄いライヴを披露したら演奏の善し悪しに素直に反応する海外の観客は最高に熱狂するに違いない。そのツアーでさらに強力なトリオに成長するのは間違いない。凱旋公演が楽しみでならない。
不失者の
成長ぶりは
驚異的
灰野敬二スケジュール:
11/12(月)<研ぎすまされた『愛している』という響き> 灰野敬二ソロライヴ@南青山MANDALA
12/21(金)不失者 SDLX十周年記念ワンマンLIVE@六本木 Super Deluxe
12/24(月・祝)静寂 ラストワンマンライヴ@秋葉原 CLUB GOODMAN
その他にもいくつか興味深いイベントが予定されている。情報解禁になったらお知らせします。
映画「ドキュメント灰野敬二」も全国各地での公開が続々決定。
[9/29 13:40追記]
不失者の新アーティスト写真公開