小曽根真トリオ featuring クリスチャン・マクブライド&ジェフ“テイン”ワッツ
私がジャズに入ったきっかけはオーネット・コールマンとアルバート・アイラーと阿部薫なので何といってもサックスが好きだが、自分の楽器を持ち運べないという宿命に縛られてたピアニストにはまた違った魅力がある。基本的にその会場に備えてある楽器を演奏するしか無い。調律師がいても完全に自分好みにチューニングすることは難しい。上原ひろみちゃんが言っていたが、ピアノにはそれぞれ個性があって、幸せなピアノ、愉快なピアノ、寂しいピアノ、病んだピアノなど弾いてみると判るそうだ。そんな楽器に優しく、時には懸命に語りかけて短いサウンドチェックの間に何とか自分の音を出せるように導いてやる。それがたいへんだがピアノ奏者の喜びだと言う。
好きなピアニストはサン・ラ、セシル・テイラー、バートン・グリーン、ミシャ・メンゲルベルク、山下洋輔、佐藤允彦、比較的若手だと藤井郷子、スガダイローなどのフリー・ジャズ系と突然変異ハイパー系(?)の上原ひろみちゃんだが、よりオーソドックスな小曽根真氏の演奏も機会があればよく聴く。22歳で全米デビューした小曽根氏はバークレー音楽院出身。ひろみちゃんの先輩である。フリーでもロックでもプログレでもない彼の魅力は論理的/知性的な演奏とジャズを幅広い人たち伝えようというエンターテイナー精神である。
デビュー当時にゲイリー・バートンと一緒に全米ツアーをする幸運に恵まれ世界的天才ピアニストとして注目を浴びたが、名声に溺れて慢心することなく自己鍛錬に務め常に音楽の深淵に果敢に挑戦、40歳を過ぎてからクラシックを学ぶために渡米するなど常に自己の内面を磨き続けてきた。ゲイリー・バートンとの共演盤がグラミー賞にノミネートされたり、厳格なクラシック演奏会にソリストとして招かれたり、日本の若手ミュージシャンを集めてビッグ・バンドを結成したり、正統派ジャズメンながら八面六臂の活躍ぶりは51歳にして日本のジャズ界を背負って立つ存在である。
昨年、東日本大震災の復興を支援するために日米実力派ミュージシャンに呼びかけてチャリティ・アルバムをリリース。そこで結成したのがクリスチャン・マクブライド(b)、ジェフ・”テイン”・ワッツ(ds)とのトリオである。いずれも百戦錬磨の実力派とのトリオはテクニック抜群、エンターテインメント性も満点。その素晴らしさはこのトリオでの最新アルバム「マイ・ウィッチズ・ブルー」に克明に刻まれている。この新生トリオの来日ツアーをライヴハウスで観られるのだから最高だ。
休日で早めの時間のスタートだったが、ブルーノートは満席。ラジオ番組「OZ MEETS JAZZ」でパーソナリティを務めた小曽根氏の人気の高さはジャズのコア・ファンに留まらない。ステージに登場した小曽根氏のMCはウィットに富んだ口調のアメリカン・スタイル。客席を話で十分温める。彼の紹介でステージに上がるマクブライドとワッツは冗談を言い合って楽しそうだ。リラックスしたムードが演奏が始まると緊張感とスリルに満ちた雰囲気に切り替わる。3人とも楽々と超絶演奏を展開する。だいたい小曽根氏のオリジナル曲だが、クラシック風のフレーズが徐々にスイングしていき白熱のアドリブに突入するプレイには背筋が正される思いがする。特にワッツのドラムが凄まじい。ニコニコしながら驚異的なスティックさばきを見せる姿はさすがにマルサリス兄弟やマイケル・ブレッカーに起用されただけある。フリー・ジャズの破壊的演奏とは異なり、正統派ジャズ理論に忠実な演奏だが、下手な”過激即興”よりもよっぽどエキサイティングなステージを堪能した。生きているのが楽しくてしょうがない少年のようにキラキラした3人の瞳が印象的だった。
▼新生トリオの動画はないので、2006年代のジェイムス・ジナス(b)、クラレンス・ペン(ds)とのトリオ演奏を。
小曽根さん
OZONEのダンス
踊ってよ
10月には小曽根氏が主宰するビッグ・バンド「No Name Horses」のツアーも予定されている。
No Name Horses “Road” ツアー
2012年10月4日(木)19:00@東京/文京シビックホール
2012年10月6日(土)16:00@三重県/三重県総合文化センター―
2012年10月7日(日)16:00@兵庫/神戸文化ホール
2012年10月8日(月)16:00@山形/酒田市民会館「希望ホール」
2012年10月9日(火)19:00@山形/川西町フレンドリープラザ
2012年10月12日(金)19:00@静岡/富士市文化会館ロゼシアター
2012年10月13日(土)18:30@神奈川/グリーンホール相模大野 大ホール