2003年の全米デビューの時から追っかけている上原ひろみちゃんも来年デビュー10周年になる。ボストンを拠点にキーボードを抱えて世界中をツアーする健気な姿が描かれた「情熱大陸」がきっかけになってジャズ・ファンを超えて日本中の人気者になり、それ以来フジロックを始めとするサマフェスへの出演、ドリカム、矢野顕子、絢香、スカパラ、清水ミチコ等ジャンルを超えたアーティストとのコラボレーション、数々のCM出演、と八面六臂の活躍を繰り広げる彼女がアンソニー・ジャクソン(b)、サイモン・フィリップス(ds)とのザ・トリオ・プロジェクトとして昨年3月発売の「ヴォイス」に続く2作目のアルバム「MOVE」をリリースした。
彼女の所属するテラーク・レコードは1977年設立のアメリカの名門で録音/音質に拘る良質のレーベルだが、いかんせんジャケットのセンスが良くない。オスカー・ピーターソンやミシェル・カミロ、ジョン・ピザレリなど人気アーティストを抱える割にジャケットはイマイチのアーティスト写真に適当にロゴをあしらった感じで、正直二流の再発専門レーベルの作品かと思ってしまう程だ。ひろみちゃんも例外ではなく、デビュー作「アナザー・マインド」から5th「ビヨンド・スタンダード」までのジャケットは彼女のチャーミングさが充分活かしきれていない気がした。それが2009年の「プレイス・トゥ・ビー」からファッション雑誌風の写真とスタイリッシュなデザインに一変、たいへん魅力的は装丁になった。実はテラークは2009年に大幅な事業縮小を実施しておりプロダクション・チームも一新したという。これがデザイン面に影響を及ぼしたのかどうか判らないが、悪いことばかりではなかったようだ。
勿論装丁に関わらず内容はどの作品も卓越したテクニックと感情表現を備えたひろみちゃんのピアノと共演ミュージシャンのインタープレイの妙に溢れた秀逸なものばかりなので、どの作品を聴いてもハズレは無い。特に今回のトリオは超ベテランの二人を見事にリードする彼女の才能が漲っており、完成度の高さには唖然とするしかない。というかデビュー作以来「唖然」とさせられっぱなしのアーティストは他にはいない。
フランク・ザッパがフェイバリット・ミュージシャンだという彼女の演奏には実はプログレ好きの隠れファンも多いと聞く。発売されたばかりの「別冊カドカワ」が「プログレ特集」でジョン・ウェトン、ピーター・ハミルと並んでひろみちゃんのインタビューが掲載されているのが面白い。実際今作のタイトル・ナンバー「MOVE」や3部構成の組曲「スイート・エスカピズム」はもろジャズ・ロックである。こうしたマニアックな音楽性と、テレビ、ラジオや新聞でお茶の間の人気者という両面を持った彼女の存在は極めてユニークである。
▼PARCO 2012秋ファッションキャンペーン「...or FASHION」のキャペーンモデルに起用。
ライヴでは
もっと凄い
ひろみ節
無茶を承知で"ジャズ界のきゃりーぱみゅぱみゅ"と呼んでしまいたい。