牛肉のことを語らせると、ここまで熱い人物が他にいるだろうか。
しかも畜産業者でなく、町場のステーキ屋の主人である。
コースはホクホクのじゃがいもから始まる。33年、このスタイル。
まったくの空腹よりも、少しでんぷんと脂肪を補っておく方が、より肉の味を分かるということか。
サザエのブルギニオン
タルタルステーキ
近江牛のカワラという部分(リブロースの上)。
玉葱、ピクルス、玉子黄身、白身
タンのタタキ
貴重になってしまった但馬牛のタン
タン元、タン先はカットし、贅沢に真ん中だけしか使わない。
ホホ肉のワイン煮
国産レモンのピールと一緒に食べると、とたんに軽やかに。
「本物の牛肉は小豆色をしている」これが山中さんの象徴的な主張。
たしかに。これは3年育てられた特選近江牛。
よく見るのはもっと細かい霜降りが入り、もっと紅からピンク色だ。
見事なサシ!という肉が世の中にはなんぼもある。
その多くは業界で「A-欠」と呼ばれる。ある時期、餌の中からわざとビタミンAを欠乏させることで、赤身にサシが入りやすくなる。畜産協会までが奨励している。
サシの入った上等の肉はちょっとあればいい、もたれるから・・・と思っていた。いい肉=脂っぽい。当分牛肉の顔は見たくなる。
それこそが実はA-欠肉の特徴なのだ。
だからといってその辺の店で「すいません!A欠肉でないのを下さい!」と言っても、「・・・は?」と言われるのがオチ。念のため。
コンソメスープ
こういうクラシックな仕事をきちんとする人も少なくなった。
ブイヨンにブイヨンを掛け合わせるような仕事。徹底的に脂を抜き、
アクを取り去る。ゼラチン質が溶けだし、とろみのある濃厚なうま味。
特選近江牛サーロインステーキ
高温の鉄板でニンニクを炒め、味付けは塩胡椒、醤油をひとたらし。
ブランデーで油を飛ばす。
たしかに軽い。
油っこくなくて、肉自体のうま味を感じる。変に柔らかすぎない。
適度なジューがあり、噛むたびに肉の香りが口から鼻へと抜ける。
もたれない。明日もまた食べたくなる。これこそが本来の牛肉。
野菜サラダ 自家製ドレッシング
ビーフカツ
ステーキと同じサーロインをビーフカツに。
衣一枚隔てることで香ばしさが増し、ステーキとは別の味わい。
デミグラスソースは全然油を感じさせない。サクッとしてジューシー!
これをカツサンドにして、ウイスキーでやってみたい。
名代のハンバーグステーキ
近江牛100% 刺身で食べられる肩ロース肉をミンチに。
ドーナツ状にしてオーブンへ。途中で真ん中の穴に卵を割り入れる。
ハンバーグの堤防が決壊し、黄身がデミグラスソースと混じり合う。
奥さん、ここ、ここが見どころデス!
デミグラスは時間をかければいいというものではなく、
結局は肉の量なんや、と店主。
バカうま!ああ、ご飯が欲しい!
ガーリックライス
けっこうな量のニンニクが炒められ、断ち落し肉が贅沢に入った
焼き飯。これも美味っ!
香の物
赤だしも結構
デザートは甘王のタルト &コーヒー
山中さんが1個々々イチゴを並べて手作りにする。
各地にざっと200ものブランド牛があるが、多くは高く売るための方便に過ぎず、「A-欠」「去勢牛」「交雑牛」あいまみれて言うたもん勝ちかい!の世界。消費者はA-欠のおかげで目の見えない牛、関節炎で立てない牛、尿毒症になる牛、脂肪肝で内臓廃棄が多いことも知っておかなければいけないだろう。
我々もふぬけた性善説に乗っ取って、「A-5が最高!」「一等買い!」「希少部位!」「熟成肉!」と、片棒担ぎ踊らされる一方ではいけない。
昔の牛肉はやはり美味かったという。合理化、拝金主義、消費者の方を見ていない農政・・・肉はおろか食の現状たるや震撼とするばかり。
きちんとしたルーツを持ち、手間ヒマかけて肥育され、人為的ではなく牛自身の能力で入ったサシの牛肉を食べたいもんだ。そうするには今やそれなりに財布に痛手は被るだろうけど。ほんとにたまには・・・。
「サシ神話」を崩壊させて、もう一度体にいい牛肉を取り返さなければならない時代に来ているかもしれない。
ステーキ くいしんぼー山中 京都市西京区御陵溝浦町